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第1章〔地球編〕

16.その名はユウヤ

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私は神代ひろな。今私達はWEGSウェグスの工場からユウヤが居るという場所へと移動している最中だった。

移動手段は透明の管のような通路をオートウォークで移動しているんだけど、外の景色は鋼鉄のビルと機械的な建物が入り交じった、まさに機械王都の名にふさわしい、そんな場所だった。

「なんか東京って空気悪そう……」

私の大親友の香川まゆが外の風景を見ながら呟く。

確かに様々な場所にある煙突から灰色や黒い煙が出てたり、鋼鉄の建物が熱気のせいか空気が歪んで見え、外の空気を吸ったら病気になりそうな、そんな嫌な感じを受けた。

私とまゆ、沖田仙道さんの五十メートルくらい後ろに未室希跡と、キアトの妹の未室愛亞が続いてい来る。

キアトの妹の愛亞……、あっちゃが目頭を赤くしながらキアトのそばを離れようとしない。

さっきまで泣いてたんだ。そう思った私はキアトとあっちゃの感動の初対面に、まゆと一緒に自然と微笑んだ。

「キアト~、あっちゃ~!置いてくよ~!早く~!」

まゆが手招きしながらキアトとあっちゃを呼ぶと、二人はオートウォークを歩きだした。



「ここがユウヤの居るWEGS研究所だよ」

仙道さんが鋼鉄のビルを見上げながら答えた。

緊張する。久しぶりに会う友達に……

仙道さんは無言でビルの入口へと歩きだすと、キアト達も歩きはじめた。

入口に入ると、広いロビーに受付、エレベーターが見える。

エレベーター入口に一人の私と同じくらいの少女が後ろを向いてて、その少女が振り向くと私達三人は驚愕した。

「えっ!?」「うそっ!?」「おお……!?」

「くるみ!?」

「あっ、ひろなにまゆじゃない!?」

その女の子は私達の元クラスメイトの三十人の友達の一人だった。名前は葉山くるみ。私とまゆの頭ひとつ分高い身長の黒髪のストレートの美人。

私とまゆはくるみに抱きつき再開を心から喜んだ。

「キアトも久しぶり」

「おお、元気にしてたか?」

「うん。キアト、妹さんに会えたんだね」

くるみがあっちゃを見て、キアトに微笑んだ。この口調からあっちゃと知り合いで、あっちゃがキアトの妹ってこと知ってたんだね。

「くるみ、悪いが話したい事があると思うけど、ユウヤに会わせてくれないか?」

仙道さんの口調から仙道さんとくるみが知り合いってことも解る。

くるみは真顔になり、一言返事をし、エレベーターのボタンを押し、開いた扉へと私達を招いた。

「ユウヤはこのビルの55階に居るよ」

「そんなに高い場所に居るの?」

くるみの言葉にまゆが驚く。

エレベーターの中は私、キアト、まゆ、仙道さん、あっちゃ、そしてくるみの六人。この間にくるみのことを少しだけ。

くるみも私達と同じアースストライダーで、能力は幻覚能力者なんだ。

幻覚能力は相手に幻覚を見せる。だけと言ったら言葉が悪いけど、幻覚を見せるだけで危害はない。

で、くるみはホントに美人だから男子から人気があり、三十人の友達の一人と付き合ってたこともあるんだけど、今はその人と別れユウヤと付き合ってるんだ。

くるみは真面目で頭も良く、まゆやキアトに勉強を教えてたこともある。

私はまゆが一番の親友だけど、くるみも大好きな親友でよくいろんな事を相談してた。

離ればなれになったのは中学の二年生の時で、あの時はホントに寂しくまゆと一緒に毎日、思い出す度に泣いてた。

そうこう思っていると、エレベーターは55階へと到着し、扉が開かれた。

エレベーターの先に硝子の壁が拡がり、中は何かのお偉いさんが居るような、まるで社長室みたいな個室がある。

そこに一人の少年が高価な椅子に座って、私達に気づき笑顔で立ち上がった。

キアトは焦りながら硝子の扉へと走り、扉を開け少年の前へと止まった。私とまゆも同じように彼のいる部屋へと入った。

少年はスーツでビシッと決め、さわやか過ぎる笑顔でキアトを見ている。

そう、彼が須藤勇矢。髪を整え、清潔感があり、それでいて嫌味のない私達の仲間。彼がキアトが東京へと来るキッカケを作ったキアトの一番の親友。

「久しぶりだね、キアト」

「ユウヤ、会いたかったぜ」

ユウヤとキアトはそう言いグータッチをした。そして私達は久しぶりの再開にいろんな話しをした。



「積もる話しもあるけど、キアト……」

和やかな会話にユウヤが突然、話題をかえた。

「ボクがキミにWEGSを送った理由を話さないとね」

ユウヤがキアトに本題を話しはじめた。

「バルエース、バルエースって名付たぜ」

「そうか……、じゃあそのバルエースを送った理由は、キミがWEGS未所持で逮捕されない理由ともうひとつ……」

ユウヤは間をひとつ置いて、私へと目を向けた。

その瞬間、私はユウヤが次に言うことに愕然とした。

私は知らないうちに腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。そんな私にまゆとくるみが気遣う。

「どうしたの?ひろな?」

「そ、そんな……、ホントに……?死んだんじゃなかったの?」

私は声を奮わせながら涙を流した。涙を流した理由は悲しいからとか辛いとかじゃなく……

「ユウヤ、勿体振るなよ」

キアトが真顔でユウヤに言う。

「ボク達三十人の仲間達と宇宙に行き……」

みんながユウヤに注目する。

「那賀先生に会いに行こう!」

先に知ったユウヤの思いに私は腰を抜かしちゃうほど、嬉しすぎて泣いてしまい、ユウヤの言葉にキアトとまゆは驚き過ぎて声を失った。

那賀龍神先生は私達三十人が小学一年生の時の担任の先生であり、私達の命の恩人。

今でも私達は那賀先生が大好きなんだ。
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