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第一章 才媛
対面
しおりを挟む「ご苦労であった二人とも。お前たちのおかげで、安心して出向かうことができた」
「ありがとうございます!」
「身に余る光栄ですわ」
ディストピアに帰ってきたアルフスと下僕二人は、現在繁殖場へと向かっていた。
レフィカルから、随分と気になる話があったからである。
繁殖場とは名前の通り、ディストピアの内部にある家畜の繁殖場だ。
繁殖場といっても、ずっとモンスターたちが盛っているという訳ではない。
繁殖用のモンスターの力を借りているのである。
ブリードとは、過去にアルフスが創造した繁殖用のモンスターだ。
ブリードの優れているところは、一定レベル以下のモンスターであれば、誰が相手であろうと繁殖が出来るということである。
それに一度に生む量も桁外れだ。
ディストピアの飢餓を防いでいるのは、ブリードのおかげと言っても過言ではない。
つまり繁殖場は、ディストピアの中でも食料確保のための重要な機関ということだ。
そこで何やら起こったというのだから、気にしないわけにはいかない。
レフィカルの様子を見ると、そこまで緊急の用事という訳ではないようだが、アルフスとしてはできる限り早くに確認しておきたかった。
「お前たちも繁殖場へと来るのか?」
「ぜひ……と言いたいですけど、自分の階の守護がありますので」
「……私もです」
カトレアとローズブラッドは、心から残念そうに断りをいれる。
アルフスとしては、そこまでする事は無いと言いたかったのだが、そんなにホイホイ定め事を変えるわけにはいかなかった。
朝令暮改は控えたい。
二人に、自分は頼りないと勘違いされるのも癪である。
アルフスは二人を見送ることに決めた。
「そうか、残念だ。今度にでも、お前たちの所へ寄るとしよう」
「ぜ、ぜひ、いらしてください!」
「心からお待ちしておりますわ!」
二人は俯きかけだった顔を上げ、喜びに満ちた顔でアルフスと別れる。
残念そうな雰囲気は二人にはもう無く、ステップを踏むような軽い足取りで、各階へと戻っていった。
****
「レフィカル、遅くなってすまなかったな」
カトレアとローズブラッドの見送りを終えたアルフスは、少し急ぎ足でレフィカルの待つ繁殖場へと向かい、今に至る。
そこには、真っ黒なスーツに身を包み、美しい立ち姿でアルフスを待っていた悪魔、レフィカルがいた。
「全く問題ありません。むしろ想定より、ずっと早かったくらいでございます」
「そ、そうか、うむ。それで気になる事とは、一体何なのだ?」
「この赤ん坊をご覧ください」
レフィカルが差し出したのは、純白のタオルに包まれた人間の赤ん坊だった。
今は暴れることなく、ぐっすりと眠っている。
一見何の変哲もない、只の赤ん坊だ。
しかし念入りに調べてみると、ある事が分かる。
「この赤ん坊、生まれつき魔力を持っているな」
「お気づきになられましたか。さらに潜在的な能力も、十分に察知できます」
その赤ん坊は、人間にしては桁外れの魔力を生まれつきに持っていた。
さらにレフィカルの言う通り、潜在的な能力も十分に感じられる。
一言で言うと逸材であった。
「……人間か、丁度いいな」
アルフスは、一つの作戦を思いつく。
「レフィカル、私はこいつがディストピアにとって、有益な者となると考える」
「左様ですか! アルフス様にそう言わしめるとは」
「これは、この赤ん坊に気付いたお前の手柄でもある。大儀であった」
「な、なんともったいなきお言葉! 恐悦至極に存じます!」
少々大袈裟ともいえる身振りで、跪こうとするレフィカルを止めると、アルフスはある提案をした。
「私の血を、この赤ん坊に分け与えてみてはどうだろう。もしかすると適応するかもしれん」
「……なるほど、実に興味深いことです!アルフス様が生み出したブリードから生まれた――可能性は大いにあるかと思われます!」
アルフスの提案にレフィカルは、全面的に賛成の意を表した。
この提案は、レフィカルとしても興味をかきたてられるものである。
可能性としては十分に有り得る上に、もし成功した場合、かなりのパワーアップが見込めるであろう。
間違いなくディストピアに貢献できるはずだ。
「調整。少し薄めているが、効果としては充分だろう」
アルフスは人差し指に傷を作り、真っ赤な血の雫がゆっくりと滴り落ちる。
濃度を下げた血の雫は、眠っている赤ん坊の口へと運ばれ、ゴクリと飲み込まれた。
すると、赤ん坊はピクリピクリを繰り返す。
このまま死んでしまうかと思われたが、何やら様子がおかしい。
口元がかすかに微笑んでいるように見えた。
ゆっくりと目が開かれる。綺麗な金色の瞳だ。
「素晴らしい! 完全に適応しています!」
レフィカルは喜びの声をあげる。実験は成功したのだ。
しかし、まだ終わりではない。
このまま成長を待っていると、それなりに長い年月を必要としてしまう。
そこで次にアルフスが行うことは、成長させることだ。
「成功だ。では、急速成長」
赤ん坊は紫色の光に包まれると、どんどん体が成長し、一気に十四歳ほどの年齢になる。
アルフスは、この赤ん坊(もう赤ん坊ではない)の成長性を加味して、ある程度の年齢で留めておいた。
「アルフス様。必要か分かりませんが、名前はどういたしましょう」
「……そうだな。ジェニーというのはどうだ?」
「実に素晴らしいお名前だと思われます。勿体ないくらいかと」
「……う、あぅ」
現在名前を決められていると知らない少女は、何やら不安そうにキョロキョロと周りを見渡していた。
見た目は少女でも、知識は生まれたばかりの赤ん坊と同じである。
喋ることはおろか、言葉すら分かっていない状態だ。
アルフスは取り敢えず、魔法で作った服を着せると、手を取り立ち上がらせた。
「まずはファミリアーの所へ預けておこう。そこである程度の基礎を学んでもらう。その後にレフィカル、お前にも教育を手伝ってもらうから準備しておいてくれ」
「かしこまりました。私たち下僕一同で、ジェニーをディストピアに見合う者として、教育してみせましょう」
「フフフ、頼もしいな――では私はファミリアーの所へ向かうとしよう。もう自分の階の守護へ戻ってくれて構わない」
「了解致しました! 尽力させていただきます」
アルフスは、瞬間移動でファミリアーの元へジェニーを連れて向かう。
レフィカルはそれを見届けると、同じように瞬間移動で自分の守護する階へと向かった。
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