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第四章
ポーション
しおりを挟む「すごい! 疲れが全部取れました!」
「わ、私もです!」
アルフス作ポーションの効果は絶大だった。
二人の体力的には、一ヶ月間ずっと疲労回復に専念したかのように回復している。
ポーションとは思えないほどの回復効果だ。
「ひとまず安心だな。今日は森を遊覧して、そのついでに森の主を倒しに行こうと思っている。何か異論はあるか?」
「「ありません!」」
あるはずがなかった。
体力も取り戻したため、二人の返事も更に元気よくなる。
「物事が上手く進めば、恐らくピクニックは今日で終わりそうだな。滅多にない事だから、存分に楽しむといい」
「ですね!」
「はい!」
特に残念そうな反応も見せずに二人は受け答える。
残念なことに変わりはないが、帰りを渋っても仕方ないだろう。
二人としては、アルフスとここまで接することができるのは貴重なので、そう考えたら少しだけ名残惜しい。
「それじゃあどうしますか? 森の主について何か聞き込みますか?」
「……ああ、それでもいいが、正直に言うと場所はある程度分かっているのだ」
「あ、やっぱりそうですよね。私も気配は感じてました。というか、隠す気無さすぎて面白くないですね」
カトレアとアルフスは、エルフたちに聞くまでもなく、森の主の位置は分かっていたようだ。
二人の能力の中に、力を持つ相手の位置を気配で把握することができるスキルがあるのだが、活躍する機会が少ないスキルである。
このスキルが発動するような強い敵は、アルフスたちのように普段は気配を察知させないようにしている。
だが、今回の森の主は、そのような事をしていない。
単純に頭が悪いのか、それとも強すぎて隠し切れていないのか。
真偽はつかないが、警戒しておいて損は無いだろう。
「ピクニックとはいえ、場所が分かっているのに遠回りする必要はない。楽しむ事を第一に頑張ろう」
「はい!」
「分かりました!」
それから二人の準備が完了したのを確認すると、アルフスたちは空き家から出て気配がする方へと向かった。
やはり昨日に比べて、カトレアとジェニーの足取りは軽い。
カトレアはスキップまでしている。
エルフの群れの拠点を抜けると、かなり木々が生い茂っている道になった。
巨大な苔むした木々が鬱蒼と茂っている。
木立が密生して、日はあまり差し込んでこない。
森に住むモンスターとしては、これ以上無いほど適した地である。
逆に言うと、森に住まない者からしたら、戦いになった時には必然的に不利な戦いになるだろう。
地の利がないのだ。
いざとなれば森を焼き払ったり、衝撃波によって平坦な地にしてもよいのだが、自分たちの森なのであまり壊したくはない。
「ジェニーも戦ってみるか? 森の主程度なら勝てるかもしれんぞ」
「うぅ、お望みとあらば……」
アルフスの誘いに、ジェニーは少し自信なさげに答える。
あまり戦いを好まない性格のようだ。
ディストピアの中では珍しい部類である。
しかし、アルフスの命令とあらば喜んで戦うだろう。
それはジェニーに関わらず、ディストピアの下僕全員も同じだ。
戦闘向けに作られていないメイド人形でさえ、そう言われたら武器を持ち、立ち上がるはずである。
「ジェニーちゃんも戦おうよー。楽しいよー」
随分と前方にいたカトレアからも誘いが入った。
アルフスとの話はどうやら聞こえていたようだ。
「フフフ、二人で共闘するというのも悪くないかもな。勿論カトレアに力を調整してもらわないといけないが」
アルフスは共闘というものに心惹かれていた。
ディストピアの下僕たちは、全くと言っていいほど共闘に向いていない。
強いて言うならヴァイツとシュヴァルツくらいだろう。
個の力を重視して作戦を組むのもいいのだが、コンビネーションというのもアルフスは興味がある。
まだまだ試行錯誤中だ。
「そうだな、試しにカトレアとジェニーでやってみるのも面白いな。大丈夫か、ジェニー?」
「は、はい……!」
「任せてください! ジェニーちゃんは、ドラゴンたちにビックリしないように気をつけてね」
「ふぇぇ……分かりました……」
ジェニーにどんどんプレッシャーがかけられる。
不安による緊張で身を震わせていた。
「決まりだな。だがカトレア、ドラゴン召喚は止めておいてた方がいい」
「あ、分かりました。それなら丁度いいかもしれませんね」
「そ、そうですね。やっぱりそっちの方がいいですよね」
ジェニーは、安堵の胸を撫で下ろすように大きく息をつく。
どうやらドラゴンは苦手らしい。
それに、ドラゴンを隣に共闘するとなるとジェニーも大変だろう。
「ん? アレって敵ですか?」
ジェニーが安堵したのも束の間、カトレアが何かを発見する。
指差す先には――ゴブリンが一匹いた。
木の上だ。
三人とゴブリンは目が合う。
ゴブリンも流石にまずいと思ったのだろう。バッと木の上から飛び降り、即座に逃げ出す。
「臓器破壊」
アルフスが放ったのは伝説級魔法の一つだ。
文字通り対象の臓器を全て破壊する。
耐性を持っていなければ、間違いなく死は免れない。
ゴブリンなどでは絶対に耐えられないはずだ。
「逃げ出したところから、恐らく敵だろうな。群れで行動していないという事は、偵察兵の役割か」
「それなら、やっぱりこの近くに森の主がいるって事ですかね?」
「多分な。……見えてくるぞ」
ゴブリンが戻ろうとしたその先に、かなり大きな洞穴が存在していた。
森の主の気配もここからしている。
かなりの確率でここが住処のはずだ。
「間違いないですね! 乗り込みますか?」
「いや、わざわざ敵のテリトリーに入る必要はない。誘い出せばいいのだ。追尾する炎!」
アルフスの先制攻撃――もとい宣戦布告は、森の主が居ると思われる洞穴の中に向かって、真っ直ぐに飛んでいった。
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