売れ残りの奴隷少女を格安で買ったら魔王だった。立派な魔王に育てるため、のんびりと平穏な旅をする

ああああ

文字の大きさ
2 / 6
一章

エル

しおりを挟む

「ここが僕の借りている宿です。二人なら少し狭いかもしれませんが、ちょっとの時間なので我慢してください」

「……」

 女の子は何も喋らない。
 無視をしているというわけではなく、頭の理解が追いついていないのだろう。
 何を話したら良いのか分からない――といった様子だ。

「大丈夫ですよ。引き取ってくれる所が見つかったら、貴女は自由になれるんですから」

「エル!」

「……はい?」

「エルの名前はエル! エルの名前は『貴女』なんかじゃない!」

 女の子――エルが初めて発した言葉は自分の名前だった。
 このような自己紹介は、人生経験豊富なイツキでも初めてである。

「エルちゃんですね、分かりました。とりあえず座ってください。何か出しますから」

「え? 座っていいの?」

「どうぞ」

「……ありがとう」

 エルは申し訳なさそうにソファーに座った。
 思ったよりも柔らかいソファーだったのか、落ち着かないように腰を動かしている。

 どうやら座ることには慣れていないようだ。

「お腹が空いているでしょうから、沢山食べてくださいね。味はともかく、毒は入っていませんので」

「――! エルはお金持ってないよ!」

「いやいや、お金は必要ないですよ。そんなことは心配しなくて大丈夫です」

 イツキが即席で出した料理は、至ってシンプルな肉料理である。
 店で買った鳥を、丸々一匹焼き上げただけに過ぎない。
 コストパフォーマンスを重視した料理だ。

「はぐっ!」

 そんな安い料理であるが、エルはお構い無しに食べる。
 口元が汚れることも気にせず、まるで犬のように食いついた。

 それほどお腹が空いていたのだろう。
 気持ちがいいほどの食べっぷりだ。

「……食事はいつぶりですか?」

「三日くらい」

「……なるほど。今日はゆっくり休んでください」

 イツキの問いに、納得出来る答えがエルから返ってきた。
 三日ともなれば、立っているだけでも精一杯なはずである。

 そんなエルの食事を、邪魔するわけにはいかない。
 イツキは、栄養を摂るのに必死なエルを見つめることしかできなかった。


******************


「お腹いっぱい。けぷ」

「それは良かったです」

 エルは、膨れ上がったお腹を擦りながらソファーに寝転ぶ。
 もうこの空気には慣れたようで、遠慮するような素振りは少なくなっていた。

「もし嫌なら答えなくても大丈夫ですが、エルちゃんは何か別の種族だったりしますか?」

「……よくわかんない。でも、エルが最後まで残ったのはそのせいかもしれない。やっぱり、人間じゃなかったら……嫌?」

 エルは、最初に出会った時にしていた不安そうな顔を、もう一度イツキに向ける。
 この様子だと、イツキの答え次第でエルに甚大な影響を与えることになるだろう。

 イツキはこれまでの旅で、種族など飾りでしかないということを理解していた。

 良い魔物もいれば、悪い人間だっている。
 大事なのは本人なのだ。

 その本心を隠すことなくエルに伝えようとした。

「そんなことはありません。エルちゃんにはエルちゃんの魅力がありますから」

「……へ?」

 エルの顔が真っ赤に染まる。
 透明感のあった肌の面影は、既になくなっていた。

 イツキは、エルを慰めるつもりで言った言葉だったが、幼いエルはそのまんまの意味で捉えてしまったらしい。

 つまり、告白じみたセリフということだ。

「食べ終わったなら、お風呂に入って寝るようにしてください。宿の設備ですから、満足するまで使っていいですよ。僕は先に寝ますから」

「あ……う、うん……」

 エルの手に宿の浴衣が手渡される。
 宿で用意されていた浴衣であり、そこまで高価な品ではないが、エルが今着ている服に比べたら何倍も上だった。

「明日はちょっとだけ早く起きますから、夜更かしはしないようにしてくださいね」

「分かった……」

 エルは、使い方の分からない設備に苦労しながら、何とか汚れた体を洗い始める。

**********

 イツキは椅子に座って眠っているため、エル用にベッドが空けられていた。
 初めてだらけの出来事に、体は予想以上に疲労していたようで、エルは倒れるように眠りにつく。

 風邪をひかないように――と、イツキがエルに布団をかけるのは数分後のことである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

処理中です...