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一章
一蓮托生
しおりを挟む「エルちゃん、起きてください」
「……うーん」
エルは目を擦りながら起きる。
イツキが目覚めやすいように体を揺らしたことによって、何とか起きられたようだ。
「おはようございます、エルちゃん」
「……おはようぅ」
エルは、体を起こしてベッドに座っている状態だった。
挨拶はしているものの、目は開いていない。
気を抜けばもう一度眠りについてしまうだろう。
「エルちゃん、今日は出かけますよ」
「……? 分かった」
エルは用意された服を着る。
イツキが服屋で試行錯誤しながら買った女の子用の服だ。
イツキのセンスが試される場面だが、どうやらエルの好みではなかったらしい。
不本意そうにエルはそれを身につけた。
「どこへ行くの?」
「エルちゃんの荷物を買いに行くんです。これから旅をすることになりますからね」
「そうなの? ありがとう!」
カッとエルは目を見開く。
旅という単語にいち早く反応した。
これまでの扱いによる鬱憤が溜まっているのだろうか。
この一言で、ここまで嬉しそうな顔ができるのかと感心してしまいそうになる。
自由への憧れは、イツキもエルも同じなようだ。
「では行きますよ」
「うん!」
エルは無理矢理に手を繋いで、イツキの隣に並んでいた。
****************
「これなんてどうでしょう? エルちゃんにピッタリだと思いますが」
「……こっちの方がいいと思う」
やはりイツキは、服のセンスを持ち合わせていないらしい。
機能性を重視しすぎたせいか、エルの可愛さを消し去るようなチョイスだ。
服がかさばって、少し太っているように見えてしまう。
「あ、エルちゃん。今から少しの間、僕のことをお父さんと呼んでください」
「……え?」
「旅人さん、ですよね? ちょっとよろしいですか?」
買い物中。
何かを感じとったイツキは、エルに簡単な指示を出す。
イツキの趣味などではなく、エルの身を守るための指示だ。
そして、その直感的なものは的中しており、高身長なイツキに並ぶほどの男二人が突然話しかけてきた。
「どうしました?」
「いえ、少し気になる話がありまして、奴隷として売られている魔王がいたというお話なんですが、何かご存知ないですか?」
何かを察するイツキ。
チラリと男二人に気付かれないようにエルを見る。
エルは先程までの笑顔とは裏腹に、何か不安そうな顔をしていた。
「すみません、この国に来たばかりなのでよく分からないんです。何か協力できれば良いのですが」
「あぁ、知らないなら構いません。ちなみに聞いておきたいのですが、こちらの女の子は?」
「単なる娘です。ねぇ、エルちゃん?」
「う、うん! お父さん!」
「……なるほど。お時間取らせて申し訳ありません。それでは」
男二人は渋々納得したようにして引き返す。
エルの名演技が大きいだろう。
イツキの腰元に飛びつけるようなことは、出会ったばかりの状態ではできないと判断されたようだ。
そして、聞き逃せない情報が一つ。
「……エルちゃん。魔王だったんですね」
「……ごめんなさい」
エルは下を向く。
このまま金のために差し出されてもおかしくない。
覚悟を決めたような顔だった。
「何を謝っているのですか。僕にはそんなことは関係ありませんから」
「……へ?」
信じられないような顔だった。
捨てられてしまうかもしれないと考えていたのであろうか。
冷静に考えて、魔王を連れているとなれば他の人間から危害を加えられる可能性がある。
旅人であるイツキが、そのような存在と一緒にいるメリットは限りなくない。
エルが驚くのも不思議ではないことだ。
「ただ、この国からは早く出た方がいいかもしれませんね。今からでも大丈夫ですか?」
「エルは大丈夫だけど……」
「決まりですね。今すぐ出国しますよ」
イツキは買った荷物の会計を手早く済ませる。
警官らしき男二人に嘘をついた時点で、イツキが罪に問われても文句は言えないだろう。
一蓮托生の関係になった二人に、この国での居場所はなかった。
長くいれば長くいるほど危険になるため、今イツキたちにできることは、なるべく早くこの国から出ることしかない。
早足で――尚且つ怪しまれないように。
噂の魔王を探す者たちをかわしながら出国の手続きを始めた。
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