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「ジェニーちゃん。これ何だと思う?」

「……? 杖……ですか?」

 カトレアが持っていた物は一つの杖だった。
 何やら自慢げにその杖をジェニーに見せつけている。
 一見何でもない杖にも見えるが、そんなことはないだろう。

「ふふーん。ただの杖じゃないんだなー」

 予想通りそう言うと、カトレアはその杖をクルクル回し始めた。
 それは、器用に手から落ちずに回転し続け、扇風機のように風を送っている。
 妙に心地よい風だ。

「これはねー、ラピスの杖なのさ!」

「え? それってマズいんじゃないですか?」

「大丈夫大丈夫。ちょっと拝借してるだけだから」

 ただの杖じゃないその杖は、どうやらラピスの物らしい。
 よく見たらかなり年季が入っている。

 もし壊してしまったら大変だ。
 カトレアはともかく、ジェニーに責任を取ることはできないだろう。

 拝借――という言葉が気になったが、ちゃんと許可を貰っていると信じたい。

「それで、その杖をどうするんですか?」

「…………何もすることないね」

 二人の間に沈黙が流れた。
 行き当たりばったりだ。
 一体何のために杖を拝借したのだろうか。それすらも分からない。

「じゃあ、ラピスのモノマネしまーす! ……フフフ、ジェニー。跪きなさい」

「似てないです。あと、ラピスさんはそんな事言いません。しかも、杖が全く関係ないじゃないですか」

 カトレアは沈黙に耐えられなかったようで、よく分からない事をやり始めた。
 似てない――どころか、完全に別人とも言えるクオリティだ。

 このようなものを見るために引き止められたとなると、少しでも期待していた数分前の自分が情けなくなってくる。

「何もする事がないなら、早く返しに行きましょう。この杖を持っていても使えませんし」

「うん、そうだね」

 ジェニーの提案にカトレアも納得したようだ。
 カトレアも飽きてしまっている。思っていたよりも面白くなかったのかもしれない。


『緊急連絡。ラピスの所持していた〈大魔導の杖〉が紛失した模様。侵入者の可能性もあるため、警戒しておくように』

「あ……」

「や、やっば……」

 カトレアとジェニーの脳内に指令が届く。
 勿論二人だけではなく、ディストピアの下僕全員に伝わっているはずだ。
 ファミリアーかレフィカルによるものだろう。
 知らず知らずの間に事が大きくなってしまったらしい。

「とりあえず行ってくるね」

「は、はい。お気を付けて……」

 杖を返しに向かった数分後に、カトレアへ雷(物理)が落ちたのは言うまでもない。

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