降る雨は空の向こうに

主道 学

文字の大きさ
2 / 44
雨の日

2話

しおりを挟む
「どうしたのかしら?」
 里美の母。玉江(とうのえ) 智子は、引っ切り無しに掛かっていた電話の受信記録を見て首を傾げた。
 相手は中島 由美の家の電話番号だった。
「きっと、今日は泊まるんだよ。さあ、明日も朝一で配送センターへ行かないといけないし、もう寝よう」
 玉江 隆は妻の智子とダブルワークをしていた。
 年は30歳で智子も同じである。

 隆は朝はコンビニの配送センターへと行き、今度は肉の配送センター。何でも二つとも大手運送会社の仕事なのだそうだ。
 智子はスーパーのレジ。夜も別のスーパーでレジをしていた。大抵、夜遅く帰っては里美の寝室で、娘の寝顔を見てから就寝するのが日課だった。
 一日、14時間の厳しい労働は娘の寝顔を見れば事足りる。
「晩飯いらないよ」
 隆は薄いパジャマ姿で、キッチンでビールを開けて智子へ手を振った。
 疲れで食欲のないことは勿論。

 毎日、スーパーの賞味期限切れの商品を食しているので飽きていたのだ。
「あなた。食事をしないと……三食とらないと力が出ないって」
 智子は大き目のネグリジェを着て、キッチンの椅子に凭れ掛かり、冷蔵庫から取り出したスーパーでいつも貰うおにぎりを食す。
「俺はこれがいいんだよ」

 テレビは無い。

 単に電気代が惜しいのだ。二年前に会社をリストラになってからというもの。今まで共働きで生活費や学費から家の20年ローンなどを支払ってきた。里美がもう少し大きくなれば、今の現状を知ってしまうだろう。そうなる前に、何とか良い就職先を見つけたかった。しかし、このご時世。なかなかうまくいかず。腰の痛みに耐え忍び休日も返上して、二人は仕事に従事していた。

「あ、ビールのお摘み。おにぎりの明太子なんてどう?」
「ああ、くれ。腹が減っていなくてもつまみはほしくなるんだな」

 隆はやや肩幅が広く筋肉質の巨漢だった。 
 無精ひげが生えわたり、その垢抜けた顔はどこか精悍な顔も兼ね備えている。高校時代からラグビーをしていた。体を作り月給が50万もの大手広告会社に大学卒業後入社。けれど、とある事情で社長と大喧嘩して失業をしてしまった。智子とは大学時代にできちゃった結婚をしている。ややめんどくさいことが苦手な性格だった。
 智子はというと、やや肩幅が広く長身でメガネを掛けていた。髪はもじゃもじゃだがストレートヘア。少々近眼の才女のようだ。大学院まで行けそうと意気込んだ矢先に里美が生まれた。

「そういえば、明日の天気予報。ラジオで聞き忘れたわ。あなた知ってる?今日は雨だったから、きっと、晴れるとは思うけれど……」
「俺も聞きそびれたよ。肉の配送の時に助手席の寺田が愚痴ばっかりで、仕事の不満や給料の不満ばかり延々と話していたからな」
 智子は冷蔵庫からもう一つのおにぎりを取り出した。
「そういえば、寺田さん。子供が三人になったんだってね。家は一人っ子でよかったわ。生活するのにも可愛い笑顔を独り占めできるのも。やっぱり、一人の方が……」
 智子はそう言うとしんみりした顔をした。
 隆はビールの入ったコップを傾けている。
「うーん。可愛さってやつは一人でも三人でもあるんじゃないかな?俺は確かに一人っ子のほうもいいけど……里美には弟がいてもいいと思った時もある。はしゃいでいる声ってやっぱり多い方がいいだろ?」
「うーん。そうかも知れないわね」
 智子はいきなり真顔になった。


 智子は結婚してから二年前までは専業主婦であった。
 今ではその時の経験……といっても、買い物だが。それを微力ながら仕事に活かしている面があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...