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水漏れ
水漏れ その2
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学校帰りに少し探検に行ってみようと誘われた。
なんでも、あの家だった。
ぼくは、知っているから。あまり近寄らないようにしていた。
窓際からのギラギラとした太陽は、ぼくの机に大きな影を生み出している。
ぼくの友達でこの教室の中で、一番大きい男の子の影だった。
「なあ、ちょっと見てくるだけだよ」
「うん」
「いいだろ。そうだろ」
「うん。あまり気は乗らないけど。……いいよ」
6-2の教室の喧騒が、急に静かになった気がした。
下校時間になると横断歩道を渡り、あのゴミ屋敷まで歩いていく。大きな男の子は興奮している。なんでも、ゴミ屋敷だし。それは当然なんだ。
「ねえ、外から少し見るだけにしようよ」
「バカかお前。家の中を見るんだろ」
「えええええ」
「だって、見たいじゃん」
付近はシンと静まり返って、学校の教室から何もかもが無音だった。
まるで、ぼくだけが音の無い世界にいるみたいだ。
少しだけ悪臭が漂ってきた。
元は良い人の家だったけど、今ではゴミ屋敷だった。
住んでいた人は昔は綺麗好きだったとか、収集家だったとか、三年前から色々と言われるようになっていた。
ぼくも顔を知っている。
岩見さんは、とても良い人だった……。
そうだ。
ぼくの頭を良く撫でてくれたし。
袋一杯のお菓子をくれたこともあった。
三年前のあの皺だらけで柔らかい笑顔は今でも忘れていない。
「ここから入ってみよう」
「うん」
「もう誰もいないんだし」
「そうだね」
ポリ袋の山をどかして家の中に入る。
家の中は意外なほど綺麗だった。
片付けられていて。それでいて、生活感がある。
台所の真ん中にあるちゃぶ台の上には、湯気の立つ急須が置いてあった。
「あれ? 誰のだ?」
「すぐに帰った方がいいかも!」
「なんで?」
「だって、ここって……」
岩見さんは、どこからかの落下事故で死んだ。
それも家の中で。
最初は高い箪笥や梯子か階段から落ちたのだろうと言われていた。
けれど、異様だったんだ。
死体の損傷が激しく。
まるで、歯車に挟まって顔と身体の肉片全てがねじ曲がったかのようだった。
実際見たんじゃない。
けれど、遺体の写真が……。
写真のことはだいたいみんな知っているんだ。
なんでかというと、町中にばら撒かれていたんだ。
それで、町中が悲鳴を上げた。
お巡りさんもお医者さんも今でも事件調査や遺体のことで躍起になっている。
知らない人はごく一部はいたんだ。
写真はモノクロだったから。
怖くてか、興味がなくてか、見たがらない人がいたんだ……。
グーン……。
カンカンカンカン。
カンカンカンカン。
ウインチの巻かれる音と同時に、何かの作動音が廊下から鳴り響いた。
「うわっ! うわっ!」
「何?! 何何?」
ぼくは大きな作動音に耳を塞いだ。
友達はつっ立っているだけで、蹲るわけでもなく。青い顔をして震えていた。怖くて身体が動けなくなっているんだ。
作動音は、何かが降下する音によく似ている。
そして、ウインチは上にある何かの物体を降ろしているような音に聞こえた。
でも、少し違った。
降ろしているのは、ここだった。
そう、この部屋。
「危ない!!」
ぼくは大きな男の子を窓際まで押し出した。
途端に、機械音は激しくなり、部屋自体の降下が本格的に始まった。
見る見るうちに、染みだらけの天井が空に浮かぶ雲のような高さになってきた。
グーン……。
グーン……。
と、エレベーターのような降下音と共にぼくの視界を暗闇が覆う。
地下へ。更に地下へと部屋が降りていく。
ぼくはそこで、気を失った。
なんでも、あの家だった。
ぼくは、知っているから。あまり近寄らないようにしていた。
窓際からのギラギラとした太陽は、ぼくの机に大きな影を生み出している。
ぼくの友達でこの教室の中で、一番大きい男の子の影だった。
「なあ、ちょっと見てくるだけだよ」
「うん」
「いいだろ。そうだろ」
「うん。あまり気は乗らないけど。……いいよ」
6-2の教室の喧騒が、急に静かになった気がした。
下校時間になると横断歩道を渡り、あのゴミ屋敷まで歩いていく。大きな男の子は興奮している。なんでも、ゴミ屋敷だし。それは当然なんだ。
「ねえ、外から少し見るだけにしようよ」
「バカかお前。家の中を見るんだろ」
「えええええ」
「だって、見たいじゃん」
付近はシンと静まり返って、学校の教室から何もかもが無音だった。
まるで、ぼくだけが音の無い世界にいるみたいだ。
少しだけ悪臭が漂ってきた。
元は良い人の家だったけど、今ではゴミ屋敷だった。
住んでいた人は昔は綺麗好きだったとか、収集家だったとか、三年前から色々と言われるようになっていた。
ぼくも顔を知っている。
岩見さんは、とても良い人だった……。
そうだ。
ぼくの頭を良く撫でてくれたし。
袋一杯のお菓子をくれたこともあった。
三年前のあの皺だらけで柔らかい笑顔は今でも忘れていない。
「ここから入ってみよう」
「うん」
「もう誰もいないんだし」
「そうだね」
ポリ袋の山をどかして家の中に入る。
家の中は意外なほど綺麗だった。
片付けられていて。それでいて、生活感がある。
台所の真ん中にあるちゃぶ台の上には、湯気の立つ急須が置いてあった。
「あれ? 誰のだ?」
「すぐに帰った方がいいかも!」
「なんで?」
「だって、ここって……」
岩見さんは、どこからかの落下事故で死んだ。
それも家の中で。
最初は高い箪笥や梯子か階段から落ちたのだろうと言われていた。
けれど、異様だったんだ。
死体の損傷が激しく。
まるで、歯車に挟まって顔と身体の肉片全てがねじ曲がったかのようだった。
実際見たんじゃない。
けれど、遺体の写真が……。
写真のことはだいたいみんな知っているんだ。
なんでかというと、町中にばら撒かれていたんだ。
それで、町中が悲鳴を上げた。
お巡りさんもお医者さんも今でも事件調査や遺体のことで躍起になっている。
知らない人はごく一部はいたんだ。
写真はモノクロだったから。
怖くてか、興味がなくてか、見たがらない人がいたんだ……。
グーン……。
カンカンカンカン。
カンカンカンカン。
ウインチの巻かれる音と同時に、何かの作動音が廊下から鳴り響いた。
「うわっ! うわっ!」
「何?! 何何?」
ぼくは大きな作動音に耳を塞いだ。
友達はつっ立っているだけで、蹲るわけでもなく。青い顔をして震えていた。怖くて身体が動けなくなっているんだ。
作動音は、何かが降下する音によく似ている。
そして、ウインチは上にある何かの物体を降ろしているような音に聞こえた。
でも、少し違った。
降ろしているのは、ここだった。
そう、この部屋。
「危ない!!」
ぼくは大きな男の子を窓際まで押し出した。
途端に、機械音は激しくなり、部屋自体の降下が本格的に始まった。
見る見るうちに、染みだらけの天井が空に浮かぶ雲のような高さになってきた。
グーン……。
グーン……。
と、エレベーターのような降下音と共にぼくの視界を暗闇が覆う。
地下へ。更に地下へと部屋が降りていく。
ぼくはそこで、気を失った。
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