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ゴミ捨て
6話
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「おい、夜鶴!」
その次の日の夜勤では、島田が私の顔を見ては茶化していた。
「お前。今恋しているだろう? 俺には解るんだよ! 誰だか教えてくれー!」
島田が好奇心旺盛な顔を向ける。
自分でも何が起きたのか解らない。
「あ、そうじゃないとは思うんだがな?」
見当違いな言葉を漏らした。
「そんなはずは……絶っ対にない!! 俺には解るんだ。俺が弥生と出会った時もそうだったんだぜ!」
島田が肉を手早くシューターに入れながら話す。その目は真剣のようで、どこか面白がっていた。
「こらー! そこ無駄口たたくなー! で、誰なんだ?」
田場さんがこちらに駆けてきた。
「あ、そうじゃないと思います」
「俺も昔はそんな頭と顔を毎日していた時もあったなー。で、誰なんだ?」
田場さんは35年も生きているのだ。
「はあ……そうなんですか?」
私はどうしたのだろう。あの日から頭と顔がまるで別人のようだ。心はあの人のことを考え、あの人の鮮明な顔が離れることはない。心を占めているのは、あの時のままの彼女だ……。
連続する同じコンビニでの彼女が頭を過っている……苦しい……。
「式は何時なんだ? スリルはいいぞー」
島田の声が耳に入ると、私のまどろんだ頭にスリルというのがチクリと刺さった。途端に不安になり、島田の顔を睨んでしまった。
「本当だ。スリルはとてもいいぞ。俺のように奥さんのためにロケットランチャーを買わないか?」
田場さんは仕事の注意を忘れていた。
「スリル……。……奈々川……晴美さんと結婚……?」
「ははっ! 奈々川さんか! どこに住んでいるんだ? 教えてー!」
島田は喜んでいるようだが。私は心底震えそうな心境になっていた。
「奈々川 晴美さん? はて、どこかで聞いた時があるぞ?」
田場さんが茶化す挙動を一時停止した。
「田場さんー。俺にも教えてくれよー」
島田は珍しい豚肉をシューターへと入れた。
「奈々川 晴美。確かB区の相当な金持ちのお嬢様のようだ。前にB区のテレビで放送されていたはずで、俺も一回だけテレビで観たんだ。何かありそうだな」
「ええええ!」
田場さんの声に島田がびっくりして、肉をシューターから外れたところへと放る。肉は青色の毎日清掃されている床に落ちた。
「B区のお譲さま! 無理じゃん!」
「何でも……確かフィアンセがいるんだが、それが強制的なんでA区に逃げてきたんだそうだ。相手は凄い金持ちなんだそうだが……」
私はまどろみから機能しない頭で聞いていた。ボッーとする頭の片隅で「お譲さま」という単語がぐるぐるとまわり、目の前が暗くなってきた。
「そ……そんな……?」
私は夢うつつの意識で、蛍光灯が均等にある天井を見上げ、意識が暗い沼にでも静かに落ちていきそうな錯覚を感じていた。
それを察知した島田が不敵な笑みで私の肩を何度か軽く叩きながら、
「大丈夫さ。俺がB区のフィアンセをぶっ殺してやるよ。一週間後には結婚式さ。マシンガンを持ってな!」
私は心強い島田を見つめる。
「ああ。そうだといいが……。」
「いやー。それがな……そのフィアンセは相当な金持ちのようで毎日のようにボディガードを連れているほどなんだ。正攻法じゃ敵わんな……。よし、俺が何とかしてやるぞ。……どこにいるんだ?」
田場さんの好戦的な顔を受けた私は島田にも向かって言った。
「近所にいた……」
津田沼も遠い場所から耳を傾けていた。
「でさー、夜っちゃん。どうするの。そのお嬢様?」
津田沼が聞いてきた。仕事中は遥か遠くにいたのに地獄耳である。
「うーん?」
私は考える。しかし、頭に浮かぶのは奈々川さんの顔ばかり。
「あ、そうだ。一昨日の工場で撃たれた奴。やっぱり死んだってね」
津田沼が下を俯き静かに言った。見えにくい表情は暗い印象を受けさせるものだった。
「ああ。いい奴だったかも知れないが……」
そう言うと、津田沼は気を落とした顔を向けてきた。
そんなことよりも、私は彼女のことで頭がいっぱいだった。
「話を戻そう。死んだんなら仕方ないぜ。関係もないしな。そのお嬢様はきっと……確か近所だっけ? 好きな奴を見つけるためにやってきたんだ。と、俺は思うぜ。フィアンセさえぶっ殺せばハッピーエンドだ」
そう言うと、島田が愛妻弁当に向かって、一礼した。
「そうだといいんだが……。まあ、これからは火曜日は俺、休むから。」
私はコンビニ弁当のレタスを口に持って来ていた。そういえば、火曜は休みにすればいいんだ。また、彼女に会ってみよう。スリルか……。私と奈々川さんがもし……。一緒になれたら、マシンガンを買うだけでは済まないな。
それに、私には金がない。
家はアパートの1Kと少なからずの貯金。このA区では珍しくもないのだ。B区には税金がなく。A区には高い税金がある。不平等税 税収制度というものがある。そういう世界だ。B区でのサラリーマン時代の貯金は大変な違約金で……無くなった。B区では一つの会社に終身雇用契約をしてから入社試験を受ける制度だ。高額な給料を稼ぎ続けなければ、即終わりな世界だ。そして、違約金が発生してしまう。仕方なく、家賃の安いA区へと移り住んだ。
税金があるのは辛く、B区の奴らには馬鹿にされ命を狙われる。
金がないと高い銃も買えない。
命にかかわるが……B区のお嬢様か……何か方法は?
「でも、もう一度会ってみればいいか」
私は方法を考えることも大事なのだが、正直……奈々川さんにまた会いたかった。
その次の日の夜勤では、島田が私の顔を見ては茶化していた。
「お前。今恋しているだろう? 俺には解るんだよ! 誰だか教えてくれー!」
島田が好奇心旺盛な顔を向ける。
自分でも何が起きたのか解らない。
「あ、そうじゃないとは思うんだがな?」
見当違いな言葉を漏らした。
「そんなはずは……絶っ対にない!! 俺には解るんだ。俺が弥生と出会った時もそうだったんだぜ!」
島田が肉を手早くシューターに入れながら話す。その目は真剣のようで、どこか面白がっていた。
「こらー! そこ無駄口たたくなー! で、誰なんだ?」
田場さんがこちらに駆けてきた。
「あ、そうじゃないと思います」
「俺も昔はそんな頭と顔を毎日していた時もあったなー。で、誰なんだ?」
田場さんは35年も生きているのだ。
「はあ……そうなんですか?」
私はどうしたのだろう。あの日から頭と顔がまるで別人のようだ。心はあの人のことを考え、あの人の鮮明な顔が離れることはない。心を占めているのは、あの時のままの彼女だ……。
連続する同じコンビニでの彼女が頭を過っている……苦しい……。
「式は何時なんだ? スリルはいいぞー」
島田の声が耳に入ると、私のまどろんだ頭にスリルというのがチクリと刺さった。途端に不安になり、島田の顔を睨んでしまった。
「本当だ。スリルはとてもいいぞ。俺のように奥さんのためにロケットランチャーを買わないか?」
田場さんは仕事の注意を忘れていた。
「スリル……。……奈々川……晴美さんと結婚……?」
「ははっ! 奈々川さんか! どこに住んでいるんだ? 教えてー!」
島田は喜んでいるようだが。私は心底震えそうな心境になっていた。
「奈々川 晴美さん? はて、どこかで聞いた時があるぞ?」
田場さんが茶化す挙動を一時停止した。
「田場さんー。俺にも教えてくれよー」
島田は珍しい豚肉をシューターへと入れた。
「奈々川 晴美。確かB区の相当な金持ちのお嬢様のようだ。前にB区のテレビで放送されていたはずで、俺も一回だけテレビで観たんだ。何かありそうだな」
「ええええ!」
田場さんの声に島田がびっくりして、肉をシューターから外れたところへと放る。肉は青色の毎日清掃されている床に落ちた。
「B区のお譲さま! 無理じゃん!」
「何でも……確かフィアンセがいるんだが、それが強制的なんでA区に逃げてきたんだそうだ。相手は凄い金持ちなんだそうだが……」
私はまどろみから機能しない頭で聞いていた。ボッーとする頭の片隅で「お譲さま」という単語がぐるぐるとまわり、目の前が暗くなってきた。
「そ……そんな……?」
私は夢うつつの意識で、蛍光灯が均等にある天井を見上げ、意識が暗い沼にでも静かに落ちていきそうな錯覚を感じていた。
それを察知した島田が不敵な笑みで私の肩を何度か軽く叩きながら、
「大丈夫さ。俺がB区のフィアンセをぶっ殺してやるよ。一週間後には結婚式さ。マシンガンを持ってな!」
私は心強い島田を見つめる。
「ああ。そうだといいが……。」
「いやー。それがな……そのフィアンセは相当な金持ちのようで毎日のようにボディガードを連れているほどなんだ。正攻法じゃ敵わんな……。よし、俺が何とかしてやるぞ。……どこにいるんだ?」
田場さんの好戦的な顔を受けた私は島田にも向かって言った。
「近所にいた……」
津田沼も遠い場所から耳を傾けていた。
「でさー、夜っちゃん。どうするの。そのお嬢様?」
津田沼が聞いてきた。仕事中は遥か遠くにいたのに地獄耳である。
「うーん?」
私は考える。しかし、頭に浮かぶのは奈々川さんの顔ばかり。
「あ、そうだ。一昨日の工場で撃たれた奴。やっぱり死んだってね」
津田沼が下を俯き静かに言った。見えにくい表情は暗い印象を受けさせるものだった。
「ああ。いい奴だったかも知れないが……」
そう言うと、津田沼は気を落とした顔を向けてきた。
そんなことよりも、私は彼女のことで頭がいっぱいだった。
「話を戻そう。死んだんなら仕方ないぜ。関係もないしな。そのお嬢様はきっと……確か近所だっけ? 好きな奴を見つけるためにやってきたんだ。と、俺は思うぜ。フィアンセさえぶっ殺せばハッピーエンドだ」
そう言うと、島田が愛妻弁当に向かって、一礼した。
「そうだといいんだが……。まあ、これからは火曜日は俺、休むから。」
私はコンビニ弁当のレタスを口に持って来ていた。そういえば、火曜は休みにすればいいんだ。また、彼女に会ってみよう。スリルか……。私と奈々川さんがもし……。一緒になれたら、マシンガンを買うだけでは済まないな。
それに、私には金がない。
家はアパートの1Kと少なからずの貯金。このA区では珍しくもないのだ。B区には税金がなく。A区には高い税金がある。不平等税 税収制度というものがある。そういう世界だ。B区でのサラリーマン時代の貯金は大変な違約金で……無くなった。B区では一つの会社に終身雇用契約をしてから入社試験を受ける制度だ。高額な給料を稼ぎ続けなければ、即終わりな世界だ。そして、違約金が発生してしまう。仕方なく、家賃の安いA区へと移り住んだ。
税金があるのは辛く、B区の奴らには馬鹿にされ命を狙われる。
金がないと高い銃も買えない。
命にかかわるが……B区のお嬢様か……何か方法は?
「でも、もう一度会ってみればいいか」
私は方法を考えることも大事なのだが、正直……奈々川さんにまた会いたかった。
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