ツギハギ・リポート

主道 学

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あなたはだあれ?

06

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 それにしても息が苦しかった。
 胸が締め付けられる感じだ。
 俺は息継ぎをした。

「後ろだーー! 早く来い!!」
「後ろ! 後ろ! 早くこっちへ!!」

 俺は日台たちが何を言っているのか一瞬理解できなかった。
 ぞくり。
 として。
 後ろを振り向かずに全力で日台たちのいる岸へと泳いだ。

 水の抵抗以外にも何かがまとわりついているのか、体がざわざわして重く感じる。

 水中で冷や汗が湧き出る。

 何か糸のようなものが足に絡まってきたが、俺は岸へと手をついた。

「早く! 手遅れになるぞ!!」
「海道さん!!」

 俺は二人に引き上げられた。
 
 何かと思って、後ろを見た。
 いや、正確には足の付け根を見るが……。

 そこには、ツギハギだらけの顔をした女性が俺の足にしがみついていた。
 力を入れて、足を女性の腕から引き抜こうとしたが、物凄い力だった。まるで、大男の力で掴まれているかのようだった。なんとか日台たちと三人がかりで女性の腕を引き剥がすと、女性は川の下流へと流されていった。

「な……なんだ? あの人?」
 肩で息をしている日台は、顔面蒼白だった。
「俺の目が確かなら、ありゃ男だったぞ」
「ええ。ぼくもそう思ういます。男の人でした……。でも、確かに胸があったんです。女性の胸が……」

 俺は川の下流を眺め。
 ようやく言った。

「二人とも助かったよ。ありがとう」
 
 そういえば、どこかで……。

 あの女性の顔に見覚えが……。
 ツギハギだらけだったけれど、知っている顔に似ていた。

「田村ゆかちゃん?」
「うん? どうした?」
「あ! そうか! 海道さんの村の人だったんですね。今の人」

 俺はそうか! と、思った。田村ゆかちゃんは昔の友達だった。
 中学の時は可愛らしいおさげをしていた気がしたんだが。
 それからいくらか成長したのだろう。

 笑うとえくぼが似合う女の子だった。
 よく仲間と縄跳びで遊んだっけ。
 
 俺が村を離れる時に……確か……何て言っていたっけ?
 彼女は手を振って何かを言ったんだ。
 俺は出稼ぎに都会へとこの村を出たんだ。

 ええと……。
「もうすぐお医者さんに診てもらうの……」

 確かにそう言ったんだ。
 あの時に……サナトリウムが病院になったんだ。
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