2 / 42
プロローグ
2
しおりを挟む
「奈々川首相。C区の発展はこれからのことも考えて、早急にしたほうがいいと思います」
テーブルに座っている面々はみなスーツで固い面持ちだ。
実直そうな男性の声に、
「ええ、私もそう思いますが……。ハイブラウシティ・Bの二の舞ではいけません。どこまでいっても、人間は人間なのですから……人として生きなければいけません」
「ですが……」
もう一人の男性は神経質そうな男だ。
「それでも、C区の存在は私たちにとって、重要なことになってきましたね……。仕方ありません」
奈々川首相。奈々川 晴美。夜鶴 公と結婚した身だが、とある事情で今は同居はしているが、離婚扱いになっていた。黒の高級なスーツを着こなし、そこへ黒の長髪を自由になびかせている。目元にチャーミングなホクロがあって、美しい人だ。
「スリー・C・バックアップ……あくまでも、人間の人間による人間のための人間へのサポートとして可決しましょう」
そこまで話すと奈々川首相は、ふと、時計を見た。
「あ、云話事町TVの時間です。誰かテレビ点けてください」
奈々川首相はこの部屋の隅に設置してある。64型のワイドスクリーンのTVを点けさせた。昔はA区というところだけに放送されていた番組は、今ではB区にも放送されて視聴率もうなぎ登りだった。
「今晩は! 云話事町TVッス!」
美人のアナウンサーがピンクのマイクを握っている。
背景にはここB区というところのビルディングから夕陽が映えている。
「はい。藤元 信二です」
藤元は3年前の日本全土を左右する野球の試合から信者が3人も集まったようだ。おかっぱ頭の黒い髪で、後ろの髪は少し長め。メガネを掛けていて小柄な体躯。寒いのに青いアロハシャツに白のスニーカーと短パン。神社なんかでお祓いに使う棒を持っている。20代の男で云話事町新教会の教祖である。
「明日の天気はきっと――」
「へっくしゅん!!」
「気温は――」
「へっくしゅん!!」
「――のようで――」
「へっくしゅん!! へっくしゅん!!」
「――になります。肌寒いですね」
美人のアナウンサーの話の最中に藤元のくしゃみが割って入る。
「運勢は、藤元さんどうぞ」
「はい、今日は時々、へっくしゅん!! になります。へっくしゅん!! ラッキーですね」
気のせいかな……美人のアナウンサーの眉間に皴が深く刻まっていく。
「それでは、みなさん今日もお疲れさまでした!! ……聞こえねえだろ!! このバカ!!」
美人のアナウンサーはピンクのマイクで藤元の頭を刺した。
番組が終わると、奈々川首相は元に戻り仕事を再開した。
ここは云話事マンハッタンビルの126階。窓の外には今にも泣き出しそうな鉛色の空とビルディングが聳えている。太陽が遮られて、外は薄暗い。
「さあ、次の案件は……」
奈々川首相は席で居住まいを正して、テーブルの上に置いてあるC区のデータが書いてある散乱した数十枚の紙を覗いた。
膨大なそのデータ表は2年前から変わっていない。
6年前の大規模な都市開発プロジェクトの産物。「ノウハウ」というアンドロイドの技術を刷新したC区が管理・発展しようとしていた。
テーブルに座っている面々はみなスーツで固い面持ちだ。
実直そうな男性の声に、
「ええ、私もそう思いますが……。ハイブラウシティ・Bの二の舞ではいけません。どこまでいっても、人間は人間なのですから……人として生きなければいけません」
「ですが……」
もう一人の男性は神経質そうな男だ。
「それでも、C区の存在は私たちにとって、重要なことになってきましたね……。仕方ありません」
奈々川首相。奈々川 晴美。夜鶴 公と結婚した身だが、とある事情で今は同居はしているが、離婚扱いになっていた。黒の高級なスーツを着こなし、そこへ黒の長髪を自由になびかせている。目元にチャーミングなホクロがあって、美しい人だ。
「スリー・C・バックアップ……あくまでも、人間の人間による人間のための人間へのサポートとして可決しましょう」
そこまで話すと奈々川首相は、ふと、時計を見た。
「あ、云話事町TVの時間です。誰かテレビ点けてください」
奈々川首相はこの部屋の隅に設置してある。64型のワイドスクリーンのTVを点けさせた。昔はA区というところだけに放送されていた番組は、今ではB区にも放送されて視聴率もうなぎ登りだった。
「今晩は! 云話事町TVッス!」
美人のアナウンサーがピンクのマイクを握っている。
背景にはここB区というところのビルディングから夕陽が映えている。
「はい。藤元 信二です」
藤元は3年前の日本全土を左右する野球の試合から信者が3人も集まったようだ。おかっぱ頭の黒い髪で、後ろの髪は少し長め。メガネを掛けていて小柄な体躯。寒いのに青いアロハシャツに白のスニーカーと短パン。神社なんかでお祓いに使う棒を持っている。20代の男で云話事町新教会の教祖である。
「明日の天気はきっと――」
「へっくしゅん!!」
「気温は――」
「へっくしゅん!!」
「――のようで――」
「へっくしゅん!! へっくしゅん!!」
「――になります。肌寒いですね」
美人のアナウンサーの話の最中に藤元のくしゃみが割って入る。
「運勢は、藤元さんどうぞ」
「はい、今日は時々、へっくしゅん!! になります。へっくしゅん!! ラッキーですね」
気のせいかな……美人のアナウンサーの眉間に皴が深く刻まっていく。
「それでは、みなさん今日もお疲れさまでした!! ……聞こえねえだろ!! このバカ!!」
美人のアナウンサーはピンクのマイクで藤元の頭を刺した。
番組が終わると、奈々川首相は元に戻り仕事を再開した。
ここは云話事マンハッタンビルの126階。窓の外には今にも泣き出しそうな鉛色の空とビルディングが聳えている。太陽が遮られて、外は薄暗い。
「さあ、次の案件は……」
奈々川首相は席で居住まいを正して、テーブルの上に置いてあるC区のデータが書いてある散乱した数十枚の紙を覗いた。
膨大なそのデータ表は2年前から変わっていない。
6年前の大規模な都市開発プロジェクトの産物。「ノウハウ」というアンドロイドの技術を刷新したC区が管理・発展しようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる