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第2話『歌舞伎デレヴニヤに爆乳刑事参上!?』

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爆乳刑事のご参上から退散したオートマティズモの男たちは、歌舞伎デレヴニヤに依然居残り、国営企業マチュヤに入店する。

ビーフストロガノフ丼に490日本ルーブルを電子決済すれば、

「ブルブル♫」

間の抜けたメロディが耳を刺激し、店の文化性をおとしめてゆく。

共産党バレーでは、国営のファウストフードが充実していて、牧場ソフホーズで買い上げられた国産牛肉は、そこそこ美味しい。
稲作ソフホーズのコメを食し、すくすくと成長した牛たちは、国土国家の礎を築く。

「さっきのオタクさんたちも、ビーフストロガノフ丼とか好きなんだろうなぁ」

アイドルライブ終了後、マチュヤに集って、脂汗をかきかき『ボーイズ・ライフ』精神で親交を深める男たちの顔を想像し、店内に充満する老年男たちの孤独な振る舞いと見比べながら、ポポルはトキオグラード・ナイトライフの軽薄さに想いを馳せた。

どうせ、そういう男たちの食べるサラダとかって、気休めのダイエットでしかなくて、農薬まみれでなくとも、水で洗っちゃって栄養価とかないから、しなびた葉っぱをむしやりむしやり、肉を挟んでむしやりむしやりと、漫然と消化したところで、脂汗はひかないし、孤独症なんて治りやしない。

あぁ、あぁ嫌だねぇ……

ファウストフードネットワークの完備は、人民の飢えを遠ざけるが、いっぽう食の地域性を毀損していて、生活に退屈さを生じさせるので、たとえば、ダフは料理の熟練者だ。
もちろん、トキオグラードには異国情緒を演出するたくさんの飲食店が溢れていて、社会主義の世界連帯、つまり第4次インターナショナルの成果と、書記長殿は胸を張るだろう。

そんな書記長の元部下、メビウスはザ・パルタイの官僚時代を反芻し、味気ない党員食堂と、ファウストフードのどちらがよりヒュウマニズムを実現させるのか。
フン、チキンレースの馬鹿試合だな、
「フフフッ」
うつかり声が漏れ、ポポルは怪訝そうな顔をする。

ダフは、ビーフストロガノフ丼をずいぶんとぬるいコップ水で流し込みながら、褒めちぎってみせる。
「まぁ、そこそこいけるよな。その辺の適当な人民食堂に比べりゃ、マニュアル指導も立派、立派!」
「えぇ?! これだったら、ダフさんの料理が全然美味しいですよー!」
「いやぁ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのぉ」
……悪い気はしないダフ。

「フン、食べ終わったら、とっとと退散するぞ」
「あ、はいはい。急ぎます!」
ファウストフードは、官僚時代を思い出させるからか、苛立ちを隠せないメビウスに、ポポルは気を遣った。

「同志、ありあたあしたー」
「ありあたあしたー」
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