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第2話『歌舞伎デレヴニヤに爆乳刑事参上!?』

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マチュヤを出た3人は、撤収中のネオププ一味を発見した。
……捜査は終わったみたいだ。

「うわお、これまた賑やかにやってくれちゃってますね……あれが」
「SNSで話題の爆乳刑事ってやつかぁ? ネオププだってぇな?」
「秘密警察のネオププ上級中尉…… フン、昔からくだらん女だ」
「あれ? メビウスさんは知ってるんですっけ? 昔の恋人だとか?」
「フン、なわけないだろう」
「あれですよね、ザ・パルタイの官僚登用試験…… 『科挙』の合格同期」
「フン、配属は違うがな。ツァイトガイスト現象でずいぶんと有名になったようだ」


「にゃ、にゃ、いっつもよくわからないうちに解決されちゃって、ハラタツったらありゃしない! キンツー、急ぐわよ!」

「ネオププちゃん、もう帰っちゃうのー?」
「いつものやってー」
「ウオオオオオオオオオ」

ネオププはSNSスターなので、事件解決のたびにハッシュタグで拡散されて、フォロワーが増える。
ツァイトガイストを露出機会にして、人民の注目を浴びる。
そうすれば、じきに次の階級も見えてくるだろう。
邪魔な奴は、セクハラで告発すればいいのだし。
SNSは、偉大なシリコンバストに味方してくれる。

「人民の期待、いいんですか?」
「にゃ、仕方ないわね」

「にゃお! にゃお! シリコンバストでミラクルか・い・け・つ! 今日も昨日も明後日も! ツァイトガイストにたちむかうあなたの爆乳刑事ネオププでっすーにゃにゃにゃにゃにゃ!」

「フ、馬鹿丸出しだな」
「……気づかれないうちに、退散しますかね」
「あぁ、歌舞伎デロヴニヤ奥の、ハットグでも食って帰ろうぜ」

踵を返し、駅とは逆方向に向け歩きだした3人が、ファンサーヴィスに耽るネオププの視野に入ったような気がした。

「にゃ、どこかで見たような……」
「ネオププ殿、参りましょう」

バトルヘリは新宿Bのロータリーに待機させてある。
今夜は広尾スタンツィヤのアパートメントまで直帰しよう。
歌舞伎デロヴニヤのPM2.5にはこりごりだにゃ。

バトルヘリは新宿上空を去り、ライブハウスには簡易的なバリケードが張り巡らされ、安居酒屋の客引きもストリートに戻る。

街灯に設置された拡声器からは軍国調の浪曲が乱れ飛ぶが、その内容は「客引きには気をつけなさい!」と誇り高き革命精神とは対照的で、若者たちは安酒の飲み放題サーヴィスに身を削り、トキオグラードの夜はさらさらと更けていく。

ソーセージを串に刺し、チーズで覆い、小麦粉をつけて焼いたチーズハットグは、異国情緒溢れるスナツクとして、人民の若者の胃袋を満たす。

ポポルやダフと同世代の、そういう人民たちは、シャツをパンツにインしたりしていて、チーズハットグを手にもち、女子たちのオリエンタルな化粧とともに、じんわりと汗がにじむ繁華街を彩っている。

とりあえず路上で戯れたり、話し、話しかけられてみたりする、そんなものをユースカルチュアと呼ぶのなら、別にいいよな。
どうせ大人になれば、思い出として消化されて、懐古主義とともに消費される、レトロなポルノグラフィなんだろう、そういう、リレイションシップってさ。

「ブルブル♫」

1人あたり350日本ルーブルを電子決済するメビウスの隣で、ポポルはぼおっとけしきをみつめ、10年後、20年後の彼女彼たちを想像してみた。

--この瞬間だけきみたちを預言者にしてあげる。

ときどき、ストリートの思い出を舐めあうように、安居酒屋でリユニオンを繰り返しながら、うまくいかない仕事の愚痴や、家族、子育ての話題に酒を焦がし、大人になったじぶんたちを型にはめてみて、

「俺たち、うまくやってる」
だなんて。

どうせ、ユースカルチュアなんて、時間も場所も等価値になる、多次元宇宙=メタヴァースでは、すべて懐古主義と結び付けられてしまうものだから、そんなムードで切なさを感じる人民だなんて!

あぁ、あぁ嫌だねぇ……

チーズハットグを頬張りながら、3人は大久保スタンツィヤ=大久保Cまで歩くことにした。
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