五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第44話:聖獣たちの来訪と、またもやらかした約束?

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 生命樹が聖地に根付いてから数日、村の中心部は目に見えて生命力に満ち溢れていた。生命樹そのものが日々僅かながら成長しているように見えるだけでなく、その周囲には見たこともない美しい花が咲き乱れ、夜には柔らかな光を放つ苔が輝き、村全体が清浄な気に包まれているのを誰もが感じていた。

 そんなある日の午後、生命樹の根本付近で、子供たちが何やら騒いでいる。アキオやシルヴィア、そして近くで若木の手入れをしていたキナが駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「こ、これは……なんと……!」
 シルヴィアが息をのむ。生命樹の柔らかな木漏れ日の下、銀色の毛並みを持ち、額に小さな宝石のような角を生やした子犬ほどの大きさの生き物が、三匹、身を寄せ合って遊んでいたのだ。その姿は神々しくも愛らしく、明らかにこの世の普通の動物ではない。
「聖獣……それも、一度にこれほどの数が現れるとは……! この土地は、本当に特別な場所になったのだな……」
 シルヴィアの驚愕の声に、アキオもゴクリと唾をのんだ。

 聖獣の子たちは、初めは人間たちを警戒していたが、獣人であるキナには何か感じるものがあったのか、恐る恐る近づいてきた。キナは、しゃがみ込んで優しく声をかける。
「おお、よしよし、怖くないぞー。お前たち、どこから来たんだい?」
 彼女の言葉に応えるように、一匹がクゥンと鳴いてキナの手に鼻先をすり寄せた。その瞬間、キナの母性が爆発したかのようだった。
「よし! あんたたちの面倒は、このキナ様がしっかり見てやるからな! 私が群れのボスだ、任せときな!」
 キナは力強く宣言し、聖獣の子たちはまるでそれを理解したかのように、彼女の周りを嬉しそうに飛び跳ね始めた。その光景は微笑ましく、村に新たな宝物が加わったことを皆に実感させた。

 アキオも、その神々しくも愛らしい聖獣の子たちの魅力には抗えず、シルヴィアや子供たちと一緒になって、そのふわふわの毛を撫でたり(モフモフしていた)、遊んでやったりしていた。聖獣たちは、アキオの「強化」の力に心地よさを感じたのか、特に彼に懐いているようだ。
 夢中で聖獣の子たちと戯れていたアキオだったが、ふと、キナの姿が目に入った。彼女は、聖獣の子たちを見守りながら、時折、自身のピンと立った狼の耳を嬉しそうにピクピクと動かしている。その生き生きとした耳の動きが、なぜかアキオの注意を強く惹きつけた。
(キナの耳…なんだか、すごく柔らかそうだな。どんな感触なんだろう…? いつも元気よく動いてるけど…)
 聖獣のモフモフ感と、生命樹の周りの少し浮世離れしたような神聖な雰囲気に当てられたのかもしれない。アキオは、ほとんど無意識のうちに、キナの背後にそっと近づき、彼女の耳に指を伸ばし……ぴょこんと動くその先端を、思わず軽くつまんでしまった。

 瞬間、キナの全身が硬直した。聖獣の子たちと遊んでいた快活な表情は消え、顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「……あ」
 アキオは、その反応を見て、血の気が引くのを感じた。
(……また、やらかした……っ!?)
 以前、キナの尻尾を掴んでしまい、獣人の求婚の風習で大騒ぎになった一件が脳裏をよぎる。

「う、うわあああぁぁぁ~~~~ん!! お、奥方様ぁぁぁ~~~!!」
 キナは、次の瞬間、大声で泣き出し、その場にいたシルヴィアに助けを求めるように(あるいは、アキオへの抗議をシルヴィアに訴えるように)泣きついた。
「だ、だんなが……だんながまた……あたしの……あたしの耳を……っ!」
 シルヴィアは深いため息をつき、アキオを半眼で睨む。周囲にいた他の獣人(もしその場にいれば、あるいは後から駆けつけて)が、慌てて説明を始めた。
「ア、アキオ様! いけません、いけませんぞ! 獣人の、特に未婚の女性の耳に気安く触れるなど……それは、尻尾に触れるのと同じくらい……いえ、もっと親密な意味を持つのでございます! 生涯を共にする誓いや、深い愛情の表現なのでございますぞ!」

 アキオは、その説明を聞いて頭が真っ白になった。ただの好奇心からだったのに、またしてもとんでもない誤解を生む行動をとってしまったのだ。
 聖獣の子たちは、何が起こったのか分からず、キョトンとした顔で泣きじゃくるキナと、固まるアキオ、頭を抱えるシルヴィアを交互に見ている。
 村に訪れた新たな祝福は、同時にアキオにとって新たな、そしてより複雑な波乱の幕開けを告げているようだった。
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