五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
82 / 387

第82話:奥方様の深慮遠謀、芽吹く町の新たな礎

しおりを挟む
 アキオたちの町では、水車建設という大きな目標が掲げられ、村全体が活気に満ちていた。
 製紙や製鉄も軌道に乗り、日々の生活は着実に豊かになっている。
 そんな中、中央館の奥にある女性たち専用の談話室では、シルヴィア、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラによる「妻会」が再び開かれていた。
 今回の議題は前回以上にデリケートで、そしてアキオたちの未来の家族の形に関わる重要なものだった。
「皆、聞いてほしいの。シルヴィア奥方様の懐妊は私たち全員にとってこの上ない喜びですわ。そして、アキオ様が私たちそれぞれを深く愛してくださっていることも、日々の暮らしの中で痛いほど感じています」
 最初に口火を切ったのは、意外にもセレスティーナだった。
 彼女は以前の儚げな雰囲気から一歩踏み出し、王女としての聡明さとアキオの妻としての自覚を持って、真剣な眼差しで皆を見渡した。
「ですが……もし、この先、アヤネさん以外の私たち――シルヴィア様、キナさん、レオノーラ、そして私も含めて――が同じような時期に子を授かることになった場合……その間、アキオ様の夜のお相手を、私たちはどうお支えすればよいのかしら、と……」
 その言葉に、部屋の空気は一瞬にして緊張感を帯びた。
 妊娠中の体力的な負担や産後の養生を考えれば、これまでのような夜のローテーションは難しくなる可能性がある。それは妻たち全員が薄々感じていた、しかし口に出しにくかった懸念だった。
 キナが少し困ったように頭を掻く。
「うーん、確かにそうだねぇ。あたしたちがみんなお腹が大きくなったり、赤ん坊の世話で手一杯になったりしたら、だんなが寂しい思いをしちまうかもしれないねぇ……」
 レオノーラも真剣な表情で頷く。
「アキオ殿のお身体のことも考えれば……その、お力を十分に受け止められる者がいなくなるのは問題やもしれぬ」
 アヤネはまだ自分には直接関わりのない話だと分かっていながらも、姉妹のような妻たちの真剣な議論に固唾を飲んで聞き入っていた。
 シルヴィアは皆の言葉を静かに聞き、そして穏やかに、しかし確かな声で言った。
「ええ、それは非常に重要なことですわ。アキオが私たちとの愛の交わりを通して心身ともに満たされ、そしてあの素晴らしい活力を維持していることは、この町の発展にとっても欠かせないこと。私たち妻の務めは、彼に寂しい思いをさせず、常に愛情で包み込むことです」
 シルヴィアはそこで一度言葉を切り、少し声を潜めて続けた。
「もし、私たち全員が同時に妊娠するような奇跡が起きたとしても……あるいは、それぞれの体調がすぐれない時があったとしても……アキオへの愛情を伝える方法は夜の交わりだけではありませんわ。言葉を尽くして愛を語り、心を込めて肌に触れ、彼の疲れを癒やすための……そうね、別の形での献身的な奉仕だってあるはずです。大切なのは、アキオが常に私たちに愛されていると実感できること」
 シルヴィアの言葉は直接的な表現を避けながらも、妻としての深い覚悟とアキオへの揺るぎない愛情を示唆していた。
 他の妻たちもその言葉の奥にある意味をそれぞれに理解し、顔を赤らめながらも真剣な表情で頷き合う。
「それに……」とシルヴィアは続けた。「アキオが本当にどうしようもなく寂しさを感じるようなことがあれば……その時は、彼自身が私たちに新たな『助け』を求めるかもしれません。あるいは、私たちが彼のために新たな『家族』を迎えることを考える日が来るのかもしれませんわね。もちろん、それはずっと先の話で、今は私たち五人で彼を全力で支えていくことが第一ですけれど」
 その言葉はこの場の誰にとっても衝撃的だったが、シルヴィアの揺るぎない瞳とアキオへの深い愛を知る者たちにとって、それは決してあり得ない未来ではないのかもしれない、と予感させるものだった。
 その重い議題が一段落すると、話題は村の具体的な発展計画へと移った。
「アキオ様も、水車ができれば製材が楽になるとおっしゃっていましたわね」アヤネが切り出す。「学び舎を拡張するにも、村人たちの家を新しく建てるにも、質の良い板がたくさん必要になります。水車の動力を使った『製材所』を作るというのはとても良い考えだと思います」
 ドルガンから製鉄技術を学んでいるアルトから、鉄製の鋸を使えばより効率的に製材できるという話も出ていた。水車で大きな鋸を動かせれば、丸太を引く手間が格段に省ける。それに挽き屑も燃料や家畜の敷料に使える。
 さらにセレスティーナがレンガ造りの建物について触れた。
「レンガの家は丈夫で素晴らしいのですが、レンガとレンガを繋ぐ目地や床を固めるために、何か『セメント』や『モルタル』のようなものがあれば、さらに強固で気密性の高い建物ができるのではないでしょうか。私の故郷では、石灰石を焼いて粉にしたものや火山灰を混ぜた土などを使っていたと聞きます」
「石灰石……それは素晴らしい着眼点ですわ」シルヴィアが目を輝かせる。
「この辺りの岩山を探せば見つかるかもしれませんわね。石を砕いて粉にする技術と、それを焼くための特別な窯も必要になるでしょうけれど、ドルガン様ならそのあたりの知識もお持ちかもしれません」
「アキオ様にもぜひお伝えしましょう」アヤネが提案する。
「きっと新しい可能性を見出してくださるはずです」
 妻たちの秘密の会議は、夫への深い愛情の確認から、村の未来を左右する壮大な技術革新の構想へと広がっていった。彼女たちの知恵と愛情、そしてアキオを支えようという強い意志が、この「アキオの町」をさらに豊かで、そして魅力的な場所へと変えていく原動力となるのだろう。
 アキオの知らないところで、彼の愛する妻たちは着実に、そして力強く、未来への礎を築き始めていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...