五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第119話:愛妻の祝福、聖女の求索と運命の実

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 アヤネの懐妊が明らかになってから数日後、アキオの町の中央館は、温かく華やかな祝福の雰囲気に包まれていた。シルヴィアの発案で、アヤネの懐妊を祝うささやかながらも心のこもった祝宴が、アキオと妻たち一同によって開かれることになったのだ。

 広間には、キナやレオノーラが腕によりをかけて作ったご馳走が並び、セレスティーナが美しく生けた冬の花が彩りを添えている。主役であるアヤネは、少しゆったりとした衣服に身を包み、アキオの隣で恥ずかしそうに、しかし隠しきれないほどの幸福感に満ちた笑顔を浮かべていた。
「アヤネ、本当におめでとう。貴女の長年の夢が叶って、私も心から嬉しいわ」
 シルヴィアが、優しい祝福の言葉と共に、アヤネに安産のお守りとして編んだ薬草のサシェを手渡す。
「シルヴィア様…ありがとうございます…!」アヤネは涙ぐみながらそれを受け取った。
「アヤネ姉ちゃん、やったじゃねえか! 元気な赤ん坊産めよな!」キナが力強くアヤ네の肩を叩き、レオノーラも「アヤネ殿の母としての姿、楽しみにしております。何かあれば、いつでも頼ってください」と微笑む。セレスティーナは「お身体、大切になさってくださいね。分からないことがあれば、何でもお聞きくださいまし」と優しく声をかけた。
 そして、アウロラもまた、慈愛に満ちた瞳でアヤネを見つめていた。「アヤネ、そなたの内に宿る新しい光、まこと尊く輝いておる。この町の未来にとって、大きな大きな希望じゃ」
 妻たち総出の心からの祝福に、アヤネの胸は熱くなった。
 アキオは、そんなアヤネの肩をそっと抱き寄せ、彼女の存在の大きさを改めて感じていた。初めて出会った時、まだ幼かった彼女。戦火を逃れ、必死で生きようとしていた小さな手が、今は自分の手をしっかりと握り、新しい命をその身に宿している。それは、偶然ではない、まさに運命の導き。アキオの人生にとって、アヤネは出会うべくして出会った、かけがえのない存在なのだと、彼は魂の奥底で感じていた。そしてアヤネもまた、アキオの隣にいること、彼の子を宿すことこそが、自らの命の最も深い場所で願っていた「存在意義」なのだと、確かな実感と共に感じ入っていた。

 祝宴は、家族だけの温かい雰囲気の中で、夜遅くまで続いた。アヤネの未来への希望と、家族の愛に満ちた、忘れられない一夜となった。

 それから数日後。アウロラは、自身の新たな力と、廃墟の地の再生という壮大な計画について深く思索を巡らせていた。アキオとのキスによって「暁光の聖女」として新生し、子を成すことへのリスクは払拭されたはずだったが、彼女の魂の奥底では、まだ何か決定的な「一片」が足りないような、漠然とした感覚があった。それは、森を創り出すという神にも等しい偉業を成し遂げるためか、あるいはアキオとの間に宿すであろう特別な御子の魂を完全に受け入れるためか…。
(何かが…何かがまだ、わらわの中で満たされていない…)
 その想いに突き動かされるように、アウロラは再び生命樹の「恵みの実」に手を伸ばした。以前アキオたちと共に食したものと同じ、凝縮された生命力を秘めた実。しかし、それを食しても、彼女の内にあった漠然とした欠落感が埋まることはなく、目立った変化も起こらなかった。

 その様子を、アキオは静かに見守っていた。アウロラが何かを求め、しかし満たされずにいることを感じ取っていたのだ。
「アウロラ…何か、思い悩んでいるのか?」
 アキオが優しく声をかけると、アウロラは少し驚いたように彼を見つめ、そして正直に胸の内を打ち明けた。
「アキオ…わらわは、そなたとの間に御子を成し、あの不毛の地を緑で満たしたい。その力は得られたはずなのじゃが…まだ、何かが…パズルの最後のピースがはまらぬような、そんな感覚があるのじゃ…」
 アキオは、アウロラのその真摯な探求心と、どこか不安げな表情を見て、強い愛情と、彼女の力になりたいという想いが込み上げてくるのを感じた。彼は、生命樹の前にアウロラを導くと、自らその枝に手を伸ばし、ひときわ瑞々しく、そして温かな光を放っているように見える一つの実を、丁寧に手折った。
「アウロラ。この実は、俺が君のために選んだ。俺の全ての想いを込めて…これを、食べてみてくれないか」
 アキオが差し出したその実は、彼の手の中で、まるで彼の「生命の祝福」の力と共鳴するかのように、優しい黄金色の光を帯びているように見えた。
 アウロラは、アキオの真剣な眼差しと、彼の手の中の実から放たれる不思議な波動を感じ取り、静かに頷くと、その実を恭しく受け取り、ゆっくりと口にした。

 実を食した瞬間、アウロラの身体を、以前とはまた異なる、しかし比べ物にならないほど深く、そして根源的な「何か」が貫いた。それは、力が増すというよりも、彼女の魂そのものが、アキオの魂と、そしてこの世界の生命の源流と、完全に一つに結びつくような感覚。彼女が求めていた「足りなかった何か」――それは、アキオとの絶対的なまでの魂の同調、そして彼と共に新たな生命を「創造」するための、聖なる資格そのものだったのかもしれない。
 アウロラの全身から、白銀と黄金の光が螺旋を描きながら天へと昇り、生命樹全体がそれに呼応して、世界が祝福の歌を歌っているかのような壮大な光景が広がった。彼女は、自らの存在が完全に満たされ、アキオと共に歩む未来への、一点の曇りもない確信を得たことを悟った。

 その奇跡的な瞬間から、数日後。
 アキオの町の中心、生命樹が最も清浄な光を放つその根本には、妻たちによって清められ、美しい花々で飾られた、ささやかな祭壇のような場所が設えられていた。
 アウロラは、純白の衣に身を包み、その表情は聖女としての威厳と、そして愛する男性と結ばれる乙女としての初々しい喜びとが同居し、神々しいまでの美しさを放っている。
 アキオもまた、妻たちに見守られながら、アウロラの前に静かに進み出た。
 暁光の聖女アウロラと、生命の祝福の力を持つアキオ。二人が、新たな生命を育み、そして世界の未来を創造するために、聖なる生命樹の下で結ばれる準備が、今、静かに、そして厳かに整えられようとしていた。
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