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第197話:聖女の遊戯と、魂の渇望
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シルヴィアとの穏やかな一夜が明けても、アキオの心の奥底に沈む、名状しがたい郷愁の影は、未だに消えることはなかった。日中、町の仕事に没頭している間は忘れていられるが、ふとした瞬間に、その影は彼の表情を曇らせるのだった。
その夜、アキオは、光妃アウロラの私室を訪れた。彼女もまた、アキオの心の僅かな揺らぎを、その聖なる力で敏感に感じ取っていた一人だった。シルヴィアが、深い愛情と理解で夫を「包み込む」ことを選んだのに対し、アウロラが選んだのは、全く違う、そして驚くべき方法だった。
部屋に入ったアキオは、息をのんだ。
そこにいたのは、いつもの女神のような優美なドレス姿のアウロラではなかった。
緋色の袴に、清浄な白衣。長く結い上げた髪。その手には、どこからか用意したのか、神聖な鈴。それは、アキオの記憶の奥底にある、彼の故郷、日本の「巫女」の姿そのものだった。
「アキオ。お待ちしておりましたわ」
アウロラは、悪戯っぽく微笑むと、鈴をしゃらりと鳴らし、優雅に一礼した。
「こ、これは…アウロラ? いったい、どうしたんだ、その格好は…」
「ふふ。貴方の魂が懐かしむ、故郷の祈りの形を、わらわなりに再現してみました。これで、貴方の心が少しでも晴れるのなら、と思いまして」
アウロラは、そう言うと、鈴を鳴らしながら、神聖で、しかしどこかたどたどしくも愛らしい、見よう見まねの神楽舞を舞い始めた。聖女である彼女が、異世界の聖女の真似事をする。その健気で、あまりにも意外な「コスプレ」と「奉仕」の姿に、アキオは驚き、そして、込み上げてくる愛おしさに、思わず笑みをこぼした。
「はは…ははは! ありがとう、アウロラ。驚いたよ。ああ、本当に、綺麗だ」
アキオの心は、久しぶりに、何の憂いもなく軽くなった気がした。
その夜の二人の交わりは、いつもの神聖な儀式とは少し趣が異なり、戯れと、そして優しい笑いに満ちたものとなった。アキオの心は、アウロラの思いがけない遊戯によって、確かに癒やされ、満たされた…かに見えた。
しかし、二人の魂が最も深く交感した瞬間、アウロラは、やはり感じ取ってしまった。
アキオの魂の、その根源。そこには、自分の愛も、シルヴィアの愛も、そしてこの聖域の全ての祝福をもってしても、決して埋めることのできない、ぽっかりと空いた、深い「渇き」があった。それは、この世界に存在するものでは、決して満たされることのない、魂の渇望。
儀式が終わった後、アウロラは、アキオの胸に抱かれながら、慈愛と、そして少しだけ悲しげな瞳で、夫に問いかけた。
「アキオ…あなたの魂が、何かを、この世界にはない何かを、強く求めているようですわね」
「…気のせいだよ、アウロラ」
アキオは、そう言って優しく彼女を抱きしめ、その問いから逃れるように目を閉じた。アウロラもまた、それ以上は何も言わなかった。
夫の心の影の正体。それが、ただの疲れや寂しさではない、もっと根源的で、解決の難しい問題であることを、彼女はこの夜、はっきりと理解したのだった。
その夜、アキオは、光妃アウロラの私室を訪れた。彼女もまた、アキオの心の僅かな揺らぎを、その聖なる力で敏感に感じ取っていた一人だった。シルヴィアが、深い愛情と理解で夫を「包み込む」ことを選んだのに対し、アウロラが選んだのは、全く違う、そして驚くべき方法だった。
部屋に入ったアキオは、息をのんだ。
そこにいたのは、いつもの女神のような優美なドレス姿のアウロラではなかった。
緋色の袴に、清浄な白衣。長く結い上げた髪。その手には、どこからか用意したのか、神聖な鈴。それは、アキオの記憶の奥底にある、彼の故郷、日本の「巫女」の姿そのものだった。
「アキオ。お待ちしておりましたわ」
アウロラは、悪戯っぽく微笑むと、鈴をしゃらりと鳴らし、優雅に一礼した。
「こ、これは…アウロラ? いったい、どうしたんだ、その格好は…」
「ふふ。貴方の魂が懐かしむ、故郷の祈りの形を、わらわなりに再現してみました。これで、貴方の心が少しでも晴れるのなら、と思いまして」
アウロラは、そう言うと、鈴を鳴らしながら、神聖で、しかしどこかたどたどしくも愛らしい、見よう見まねの神楽舞を舞い始めた。聖女である彼女が、異世界の聖女の真似事をする。その健気で、あまりにも意外な「コスプレ」と「奉仕」の姿に、アキオは驚き、そして、込み上げてくる愛おしさに、思わず笑みをこぼした。
「はは…ははは! ありがとう、アウロラ。驚いたよ。ああ、本当に、綺麗だ」
アキオの心は、久しぶりに、何の憂いもなく軽くなった気がした。
その夜の二人の交わりは、いつもの神聖な儀式とは少し趣が異なり、戯れと、そして優しい笑いに満ちたものとなった。アキオの心は、アウロラの思いがけない遊戯によって、確かに癒やされ、満たされた…かに見えた。
しかし、二人の魂が最も深く交感した瞬間、アウロラは、やはり感じ取ってしまった。
アキオの魂の、その根源。そこには、自分の愛も、シルヴィアの愛も、そしてこの聖域の全ての祝福をもってしても、決して埋めることのできない、ぽっかりと空いた、深い「渇き」があった。それは、この世界に存在するものでは、決して満たされることのない、魂の渇望。
儀式が終わった後、アウロラは、アキオの胸に抱かれながら、慈愛と、そして少しだけ悲しげな瞳で、夫に問いかけた。
「アキオ…あなたの魂が、何かを、この世界にはない何かを、強く求めているようですわね」
「…気のせいだよ、アウロラ」
アキオは、そう言って優しく彼女を抱きしめ、その問いから逃れるように目を閉じた。アウロラもまた、それ以上は何も言わなかった。
夫の心の影の正体。それが、ただの疲れや寂しさではない、もっと根源的で、解決の難しい問題であることを、彼女はこの夜、はっきりと理解したのだった。
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