五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第223話:湯けむりの密談、そして二人の才媛

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 ヴァルト子爵領への出発を数日後に控え、アキオの町は活気と、そしてどこか晴れやかな期待に満ちていた。魔導車の最終準備、贈答品の梱包、そして留守中の町の後事をカイやアルトに託すための引き継ぎ。多忙を極めるアキオと、彼を支える秘書官の凛、そして教師団のリーダーとして町の教育基盤を固めるクラウディアの姿を、シルヴィアは穏やかな眼差しで見守っていた。

「アキオ、凛さん、クラウディアさん。今夜は少し、骨休みをなさいませんか」
 ある日の夕刻、シルヴィアはそう提案した。「生命の湯」で、ささやかな「妻会」を開くというのだ。
「アキオも、大事な旅を前に、心身を清めておく必要がありますわ。そして、凛さんとクラウディアさんにも、この町の力の源泉である、この湯の本当の素晴らしさを知っていただきたいのです」
 その誘いには、アウロラも賛同していた。アキオは、妻の深い配慮に感謝し、凛とクラウディアもまた、その名誉な誘いを、緊張しつつも光栄に思い、受け入れた。

 その夜、貸し切りにされた「生命の湯」は、湯けむりと、月光、そして生命樹から漏れる微かな光が交じり合い、幻想的な雰囲気に包まれていた。
 先に湯船に浸かっていたのは、アキオ、シルヴィア、そしてアウロラの三人。そこへ、大きな湯浴み着で身を包んだ凛とクラウディアが、緊張した面持ちで現れた。

 特に凛は、湯船の縁で立ち尽くしていた。アキオの前で肌を晒すことへの、最後の躊躇いが彼女を縛り付ける。そんな彼女に、湯の中からアキオが、優しく手を差し伸べた。
「凛殿、大丈夫だ。ここの湯は、心の疲れも癒やしてくれる」
 その、全てを受け入れるかのような温かい眼差しと、差し出された大きな手。凛は、意を決すると、震える指先で、そっとその手を握った。そして、アキオに導かれるままに、ゆっくりと湯の中へ。彼女は、湯の中でも、その手を離さなかった。それどころか、まるで大切な拠り所を見つけたかのように、恥じらいながらもアキオの手を固く握り、その隣にずっと寄り添っていた。

 一方、クラウディアは、凛とは対照的だった。彼女は、表面上は少しも動じることなく、優雅な仕草で湯浴み着を脱ぎ、その豊満な肢体を惜しげもなく湯に沈めた。
「まあ、素晴らしいお湯ですわね、シルヴィア様。これなら、どんな疲れも吹き飛んでしまいそうですわ」
 彼女は、シルヴィアやアウロラと、普段と変わらぬ知的な会話を交わしている。だが、その内心は、全くの別だった。
(な、なんて…! アキオ様の、その…鍛え上げられたお身体は…! 王都の、着飾るだけの殿方たちとは、まるで違う…!)
 裸を見てもらい、その立派な体躯を目の当たりにして、彼女の心臓は、これまでにないほど激しく、早鐘のように打ち続けていた。 表面上は何ともない、涼しい顔を装いながらも、その身体は火照り、頭は目の前の男性のことで一杯だった。

 アキオは、そんな二人の才媛の様子を、感慨深く感じていた。
 自分の手を、子供のように、しかし必死に握りしめて離さない凛。その健気さと、ようやく自分に心を開いてくれたことへの愛おしさが、胸を満たす。
 そして、クラウディア。多くの男たちの前でも、決して臆することのなかったであろう彼女が、この場で見せる、動じない、毅然とした姿。その美しさと、芯の強さに、アキオは惚れ惚れとした。
(二人とも、本当に…素晴らしい女性だ)

 シルヴィアとアウロラは、そんなアキオと二人の間に流れる、甘く、そして複雑な空気を、満足げに見守っていた。
「ふふ、凛さんも、ようやく素直になれたようですわね」
「うむ。そして、あちらの才媛も、どうやらアキオに、すっかり心を射抜かれてしまったようじゃのう。この聖域は、ますます賑やかになるわい」
 二人の聖なる妻は、夫が新しい愛の絆を育んでいることを、心から喜び、そして祝福しているのだった。

 湯けむりの中で、五人の心は、言葉以上に深く、そして温かく結ばれていく。それは、アキオと凛にとって、そしてアキオとクラウディアにとって、それぞれの関係が、新たなステージへと進むことを決定づけた、忘れられない一夜となった。
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