五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
231 / 387

第231話:新たなる槌音、そして白百合の完成

しおりを挟む
 アキオの町が、数百人という新しい仲間たちと、三つの新しい命を迎えた日から、数週間が過ぎた。町は、凛の卓越した手腕と、カイとサラという新しいリーダーたちの奮闘により、驚くべき速さで落ち着きを取り戻し、以前にも増して力強い活気に満ち溢れていた。

 その活気の中心となっていたのが、ドルガン親方の鍛冶場だった。
 新たに弟子となったドワーフ三兄弟——ギムル、ボリン、フィーリ——の加入は、町の生産能力に革命をもたらした。彼らは、帝国の奴隷として強いられてきた無味乾燥な労働とは違う、「本物のものづくり」の喜びに目覚め、その有り余る情熱と才能を、親方の指導のもとで爆発させていた。
「ギムル! そのリベットの精度、まだまだ甘いわ!」
「フレイヤさんこそ、槌の返しがコンマ1秒遅い!」
 同じ工房で働くフレイヤと長兄ギムルは、互いに腕を磨き合う好敵手として、火花を散らしながらも、その瞳には確かな信頼が宿っている。

 彼らの活躍は、町の最重要プロジェクトの一つである、対エルドリア用・特別仕様魔導ワゴン『白百合(しらゆり)』の建造を、劇的に加速させた。凛が設計した複雑なサスペンションの部品や、防御結界を展開するための精密な魔力伝導管。それらは、ドルガン親方一人では数ヶ月を要したであろうものが、五人の若きドワーフたちの腕によって、わずか数週間で次々と形になっていったのだ。

 そして、運命の日。
 工房の前に、その白く優美な車体が、朝陽を浴びて輝いていた。流線形のボディは、アキオ鋼をベースにした軽量合金で作られ、窓にはめ込まれたガラスは、万一の衝撃にも耐えられるよう、特殊な強化処理が施されている。
 アキオ、凛、ドルガン親方、そして工房のドワーフたちが見守る中、凛が最後の調整を終え、静かに頷いた。
「…アキオ様。魔導ワゴン『白百合』、ただいま、全ての工程が完了いたしました」
 その声は、達成感と、そして隠しきれない興奮に震えていた。

 アキオは、その完成度の高さに息をのんだ。これはもはや、ただの乗り物ではない。町の技術、知恵、そして遠い地にいる仲間を想う心が結集した、芸術品とも呼べる存在だった。
「皆、本当に、よくやってくれた…!」
 アキオが、工房の全員を心から労った、その時だった。
「アキオ様…!」
 凛が、感極まった様子で、アキオの腕にぎゅっとしがみついた。これまでの彼女からは考えられない、素直で、そして無防備な感情のほとばしり。
「私たちの…私たちの夢が、こんなにも早く、形になるなんて…!」
 アキオは、そんな彼女の姿を愛おしく思いながら、その肩を優しく抱き寄せた。「ああ。これも、新しい仲間たちと、そして何より、凛殿の素晴らしい設計があったからだ。ありがとう」

 その日の午後、アキオは町の主要メンバーを中央館に集め、高らかに宣言した。
「魔導車『白百合』が完成した。これより、エルドリア王国へ、第一次大規模支援隊を派遣する!」
 その言葉に、皆の顔が期待に輝く。
「目的は、セレスティーナ様とレオノーラ様、そして子供たちへの、生活物資と、この町の恵みを届けること。そして、かの地の復興状況を、この目で確かめることだ」
 アキオは、派遣隊のメンバーを発表した。
「隊長は、俺が務める。機関士兼外交顧問として、凛殿。そして、護衛の要として、キナとカイ。お前たちにも同行してもらう」
 選ばれた者たちは、皆、力強く頷いた。

 聖域の白百合が、今、遠い同盟国へと希望を運ぶため、その翼を広げようとしていた。それは、アキオの町が、内政の安定期を終え、その力を本格的に外部世界へと示し始める、新たな時代の幕開けだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...