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第367話:森の先触れと、錬金術師の一族
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聖域が数々の新しい命の誕生を経て、より一層その輝きを増していた頃、二つの大きな変化の兆しが同時に訪れた。一つは正妻シルヴィアの、人間とは明らかに違う神秘的な妊娠の最終段階。そしてもう一つは、聖域の森の境界に現れた謎の一団の影だった。
その日の午後、ケンタ率いる警備隊が森の境界で見慣れない一団を保護した。身なりはみすぼらしいが、その装備や荷物は明らかにただの難民のものではない。リーダー格の老賢者のような男と、その孫娘らしき気の強そうな少女が、アキオの前に引き出された。
「我々は追われる身だ。かつては大陸東方の小王国で王に仕え、『錬金術』と『ゴーレム工学』を研究していたが、その力を恐れた王弟の讒言によって国を追われた」
老賢者はアキオの穏やかだが全てを見透かすような瞳に、嘘をつけないと悟ったのか、正直にその素性を明かした。
「この聖域の噂を人づてに聞いた。あらゆる者を受け入れ、新しい技術を尊ぶ奇跡の地があると。どうか、我ら一族をこの祝福された土地に受け入れてはいただけないだろうか。我らの知識と技術は、必ずやこの地のお役に立つとお約束する」
その夜、中央館では緊急の妻会議が開かれた。
「危険ですわ」凛が冷静に、しかし厳しい口調で口火を切る。「彼らを受け入れるということは、彼らを追放した国と敵対する可能性があるということです。今の聖域に、その余裕はありますか?」
「ですが凛様!」シャルロッテがそれに反論する。「錬金術にゴーレム! それがどれほどの価値を持つか! 我が公社の街道建設にも応用できるかもしれませんわ!」
妻たちの意見が対立する中、アキオは静かに結論を保留した。
その夜、アキオは答えの出ない問題に一人で頭を悩ませていた。そして癒やしを求めるように正妻であるシルヴィアの部屋を訪れる。しかし、そこに彼女の姿はなかった。嫌な予感を覚えアキオが向かったのは、森の奥。かつて森の主「アルクス・ヴィリディス」が昇華した際に得た聖なる種。その種から芽吹き、今や若木として力強く育ち始めた新しい神聖樹の根本だった。
月明かりの下、その神聖樹の若木は淡い光を放っていた。そしてその根元にシルヴィアと光妃アウロラが静かに佇んでいた。二人は手を繋ぎ、その大きなお腹はまるで神聖樹の光と共鳴するかのように、同じリズムで優しく明滅している。
「シルヴィア、アウロラ……? これは一体……」
「アキオ。時は近いようじゃの」アウロラがいつになく真剣な表情で告げた。
「時が近いとはどういうことだ?」
「シルヴィアの出産じゃ。じゃが、それはただの子を産むのとは訳が違う」
シルヴィアがアウロラの言葉を引き継ぐ。
「あなた……。この子はわたくしだけの子ではないのです。アルクス・ヴィリディスがその命をこの聖域に還した時、その種はわたくしとアウロラ様の魂を一つに結びつけました。この子は、わたくしとアウロラ様の、そして貴方の三人にとっての初めての子なのです」
「……三人の?」
「うむ」アウロラが深く頷いた。「この子は人の子であり、エルフの子であり、そして聖霊の子でもある。この新しい神聖樹の最初の果実。聖域の新しい理(ことわり)の始まりとなる特別な子じゃ」
アキオがそのあまりにも壮大な真実に言葉を失った、まさにその時。
シルヴィアが小さく呻き、その場に膝をついた。
「あなた……! 始まったようです……!」
神聖樹の若木がひときわ強い光を放ち、森全体の空気が祝福の魔力で満たされていく。
アキオは愛する妻の手を固く握りしめた。
錬金術師たちの処遇など、今はどうでもいい。ただ目の前の愛しい妻と、これから生まれ来る奇跡の子をこの手で守り抜く。アキオは父として、夫として、そして聖域の主として、その覚悟を決めた。
聖域の歴史が、そして世界の理が、今、大きく変わろうとしていた。
その日の午後、ケンタ率いる警備隊が森の境界で見慣れない一団を保護した。身なりはみすぼらしいが、その装備や荷物は明らかにただの難民のものではない。リーダー格の老賢者のような男と、その孫娘らしき気の強そうな少女が、アキオの前に引き出された。
「我々は追われる身だ。かつては大陸東方の小王国で王に仕え、『錬金術』と『ゴーレム工学』を研究していたが、その力を恐れた王弟の讒言によって国を追われた」
老賢者はアキオの穏やかだが全てを見透かすような瞳に、嘘をつけないと悟ったのか、正直にその素性を明かした。
「この聖域の噂を人づてに聞いた。あらゆる者を受け入れ、新しい技術を尊ぶ奇跡の地があると。どうか、我ら一族をこの祝福された土地に受け入れてはいただけないだろうか。我らの知識と技術は、必ずやこの地のお役に立つとお約束する」
その夜、中央館では緊急の妻会議が開かれた。
「危険ですわ」凛が冷静に、しかし厳しい口調で口火を切る。「彼らを受け入れるということは、彼らを追放した国と敵対する可能性があるということです。今の聖域に、その余裕はありますか?」
「ですが凛様!」シャルロッテがそれに反論する。「錬金術にゴーレム! それがどれほどの価値を持つか! 我が公社の街道建設にも応用できるかもしれませんわ!」
妻たちの意見が対立する中、アキオは静かに結論を保留した。
その夜、アキオは答えの出ない問題に一人で頭を悩ませていた。そして癒やしを求めるように正妻であるシルヴィアの部屋を訪れる。しかし、そこに彼女の姿はなかった。嫌な予感を覚えアキオが向かったのは、森の奥。かつて森の主「アルクス・ヴィリディス」が昇華した際に得た聖なる種。その種から芽吹き、今や若木として力強く育ち始めた新しい神聖樹の根本だった。
月明かりの下、その神聖樹の若木は淡い光を放っていた。そしてその根元にシルヴィアと光妃アウロラが静かに佇んでいた。二人は手を繋ぎ、その大きなお腹はまるで神聖樹の光と共鳴するかのように、同じリズムで優しく明滅している。
「シルヴィア、アウロラ……? これは一体……」
「アキオ。時は近いようじゃの」アウロラがいつになく真剣な表情で告げた。
「時が近いとはどういうことだ?」
「シルヴィアの出産じゃ。じゃが、それはただの子を産むのとは訳が違う」
シルヴィアがアウロラの言葉を引き継ぐ。
「あなた……。この子はわたくしだけの子ではないのです。アルクス・ヴィリディスがその命をこの聖域に還した時、その種はわたくしとアウロラ様の魂を一つに結びつけました。この子は、わたくしとアウロラ様の、そして貴方の三人にとっての初めての子なのです」
「……三人の?」
「うむ」アウロラが深く頷いた。「この子は人の子であり、エルフの子であり、そして聖霊の子でもある。この新しい神聖樹の最初の果実。聖域の新しい理(ことわり)の始まりとなる特別な子じゃ」
アキオがそのあまりにも壮大な真実に言葉を失った、まさにその時。
シルヴィアが小さく呻き、その場に膝をついた。
「あなた……! 始まったようです……!」
神聖樹の若木がひときわ強い光を放ち、森全体の空気が祝福の魔力で満たされていく。
アキオは愛する妻の手を固く握りしめた。
錬金術師たちの処遇など、今はどうでもいい。ただ目の前の愛しい妻と、これから生まれ来る奇跡の子をこの手で守り抜く。アキオは父として、夫として、そして聖域の主として、その覚悟を決めた。
聖域の歴史が、そして世界の理が、今、大きく変わろうとしていた。
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