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第1話『職業:遊び人』。絶望の三重奏の果てに、俺はバグを見つける
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「……あ、遊び人、だと……?」
神官の声が、乾いた大聖堂の中にひどく無機質に響いた。
祭壇に設置された『選定の水晶』。そこに浮かび上がったのは、道化師が踊るような無様な紋章。
俺、ディラン・アークライトの思考が一瞬、空白に染まる。
今日は十七歳の職業選定の儀。人生のすべてが決まる日だ。
俺はこの七年間、王都で『神童』と呼ばれ続けてきた。
五歳で剣を握れば騎士団長から一本を取り、十歳で魔法理論を解明して宮廷魔導師を驚愕させた。すべては今日、この場で『勇者』や『剣聖』といった最上位職を得て、王国の未来を背負うためだった。
「……嘘だ。何かの間違いだろ……?」
「……いや、間違いではない。職業、遊び人。……次だ。誰かこの落胆した少年を外へ」
神官が、汚いものを見るような目で手を振った。
その態度に、俺の中で何かが冷たく弾けた。感情的な怒りではない。純粋な『不可解さ』への疑念だ。
「待て! まだ終わっていない!」
俺は神官の制止を振り払い、再度、魔力水晶に手を叩きつけた。
この世界の人間の魂には、三つの『職業枠(スロット)』がある。一つ目がハズレでも、二つ目がある。俺ほどの魔力適性があれば、次は必ずまともな職が出るはずだ。
だが。 運命という名のシステムは、残酷に俺をあざ笑った。
【二つ目の職業を選択しました:遊び人】 【三つ目の職業を選択しました:遊び人】
水晶に並ぶ、三つの道化師の紋章。
一瞬の静寂の後、爆発したような嘲笑が大聖堂を包んだ。
「ハハハ! 見たかよ、三つとも遊び人だってよ!」
「『万能の神童』が聞いて呆れるぜ。ただの『遊びの天才』だったわけだ!」
「王国の恥だ! さっさと失せろ!」
昨日まで俺を称えていた貴族たちが、神官たちが、口を揃えて罵声を浴びせる。 七年間の努力が、たった三文字の羅列によってゴミのように捨てられた瞬間だった。
「……ディラン。お前との婚約は破棄させてもらうわ」
「父上からも伝言だ。『二度とアークライト家の門を跨ぐな』とな」
婚約者だった少女と、実の兄までもが冷ややかな視線を向けてくる。
俺は弁解しなかった。
いや、弁解する気も起きなかった。
(……三回連続? 遊び人の出現率は一万分の一以下だ。それが三回続く確率は、一兆分の一。天文学的数字だ)
絶望よりも先に、俺の頭脳は冷徹に『異常』を検知していた。
これは不運ではない。何かがおかしい。
◇
王都を追放されたのは、それから一時間後のことだった。
夕暮れの森。
装備も持たされず、着の身着のままで放り出された俺の目の前には、腹を空かせたゴブリンの群れがいた。
「……はは、笑えるな。遊び人らしく、最期もジョークで終わりかよ」
武器はない。あるのはポケットに入っていた、護身用のナイフ一本。
俺は自嘲気味に、自分のステータス画面を空中に展開した。
見たくもない【遊び人×3】の文字を、最期に確認するために。
だが、その瞬間だった。
視界の端で、システムログが狂ったように赤く点滅した。
【警告:個体名ディラン・アークライトに、同一ジョブの三重重複(トリプル・スタック)を検知】 【世界の理(システム)外の挙動を確認――職業名を本来の『Free-Hander(万能の統率者)』へ一時復元します】
「……なんだ、これ」
遊び人の文字がノイズのように歪み、見たこともない文字列へと書き換わる。
【特権:デバッグ・モードを適用。三つのスロットによる経験値およびステータスの『加算処理』を開始します】 【レベル計算:1+1+1=3(相当)。全スキルの威力に三倍の補正を加算】
脳内に響く無機質な声。
同時に、全身の毛穴から魔力が噴き出す感覚があった。
「ギャギャッ!」
ゴブリンが飛びかかってくる。
本来なら、今の俺では目で追うのが精一杯のはずだ。
だが――遅い。止まっているかのように遅く見える。
俺は無意識に、見よう見まねで覚えた下級剣術『スラッシュ』をなぞった。
本来なら、小枝を切り落とす程度の威力しかない初歩スキル。
「――消えろッ!」
刹那。
俺のナイフから溢れ出した魔力が、三重の衝撃波となって迸った。
ズドンッ!!
肉を斬る音ではない。爆発音が響き渡る。
一匹のゴブリンを倒すはずの一撃は、後ろにいた五匹もろとも、森の木々をなぎ倒して地面に巨大なクレーターを作っていた。
「……は?」
土煙の晴れた先には、塵一つ残っていない。
俺は自分の手を見つめる。手が震えていた。恐怖ではない。底なしに溢れてくる『力』への興奮で。
「遊び人……いや、『Free』だって? 教会は、この力を隠すために、あんな嘘の名前をつけたのか?」
俺はニヤリと口角を上げた。
神童と呼ばれた頃の、正解を見つけた時の顔だ。
「おいおい、冗談じゃないぞ。これじゃあ、真面目にレベル上げしてる奴が馬鹿みたいじゃないか」
森の奥から、さらなる魔物の気配がする。
だが、もう恐怖はない。
俺の手の中には、この理不尽な世界をひっくり返すための『最強のバグ』が握られているのだから。
神官の声が、乾いた大聖堂の中にひどく無機質に響いた。
祭壇に設置された『選定の水晶』。そこに浮かび上がったのは、道化師が踊るような無様な紋章。
俺、ディラン・アークライトの思考が一瞬、空白に染まる。
今日は十七歳の職業選定の儀。人生のすべてが決まる日だ。
俺はこの七年間、王都で『神童』と呼ばれ続けてきた。
五歳で剣を握れば騎士団長から一本を取り、十歳で魔法理論を解明して宮廷魔導師を驚愕させた。すべては今日、この場で『勇者』や『剣聖』といった最上位職を得て、王国の未来を背負うためだった。
「……嘘だ。何かの間違いだろ……?」
「……いや、間違いではない。職業、遊び人。……次だ。誰かこの落胆した少年を外へ」
神官が、汚いものを見るような目で手を振った。
その態度に、俺の中で何かが冷たく弾けた。感情的な怒りではない。純粋な『不可解さ』への疑念だ。
「待て! まだ終わっていない!」
俺は神官の制止を振り払い、再度、魔力水晶に手を叩きつけた。
この世界の人間の魂には、三つの『職業枠(スロット)』がある。一つ目がハズレでも、二つ目がある。俺ほどの魔力適性があれば、次は必ずまともな職が出るはずだ。
だが。 運命という名のシステムは、残酷に俺をあざ笑った。
【二つ目の職業を選択しました:遊び人】 【三つ目の職業を選択しました:遊び人】
水晶に並ぶ、三つの道化師の紋章。
一瞬の静寂の後、爆発したような嘲笑が大聖堂を包んだ。
「ハハハ! 見たかよ、三つとも遊び人だってよ!」
「『万能の神童』が聞いて呆れるぜ。ただの『遊びの天才』だったわけだ!」
「王国の恥だ! さっさと失せろ!」
昨日まで俺を称えていた貴族たちが、神官たちが、口を揃えて罵声を浴びせる。 七年間の努力が、たった三文字の羅列によってゴミのように捨てられた瞬間だった。
「……ディラン。お前との婚約は破棄させてもらうわ」
「父上からも伝言だ。『二度とアークライト家の門を跨ぐな』とな」
婚約者だった少女と、実の兄までもが冷ややかな視線を向けてくる。
俺は弁解しなかった。
いや、弁解する気も起きなかった。
(……三回連続? 遊び人の出現率は一万分の一以下だ。それが三回続く確率は、一兆分の一。天文学的数字だ)
絶望よりも先に、俺の頭脳は冷徹に『異常』を検知していた。
これは不運ではない。何かがおかしい。
◇
王都を追放されたのは、それから一時間後のことだった。
夕暮れの森。
装備も持たされず、着の身着のままで放り出された俺の目の前には、腹を空かせたゴブリンの群れがいた。
「……はは、笑えるな。遊び人らしく、最期もジョークで終わりかよ」
武器はない。あるのはポケットに入っていた、護身用のナイフ一本。
俺は自嘲気味に、自分のステータス画面を空中に展開した。
見たくもない【遊び人×3】の文字を、最期に確認するために。
だが、その瞬間だった。
視界の端で、システムログが狂ったように赤く点滅した。
【警告:個体名ディラン・アークライトに、同一ジョブの三重重複(トリプル・スタック)を検知】 【世界の理(システム)外の挙動を確認――職業名を本来の『Free-Hander(万能の統率者)』へ一時復元します】
「……なんだ、これ」
遊び人の文字がノイズのように歪み、見たこともない文字列へと書き換わる。
【特権:デバッグ・モードを適用。三つのスロットによる経験値およびステータスの『加算処理』を開始します】 【レベル計算:1+1+1=3(相当)。全スキルの威力に三倍の補正を加算】
脳内に響く無機質な声。
同時に、全身の毛穴から魔力が噴き出す感覚があった。
「ギャギャッ!」
ゴブリンが飛びかかってくる。
本来なら、今の俺では目で追うのが精一杯のはずだ。
だが――遅い。止まっているかのように遅く見える。
俺は無意識に、見よう見まねで覚えた下級剣術『スラッシュ』をなぞった。
本来なら、小枝を切り落とす程度の威力しかない初歩スキル。
「――消えろッ!」
刹那。
俺のナイフから溢れ出した魔力が、三重の衝撃波となって迸った。
ズドンッ!!
肉を斬る音ではない。爆発音が響き渡る。
一匹のゴブリンを倒すはずの一撃は、後ろにいた五匹もろとも、森の木々をなぎ倒して地面に巨大なクレーターを作っていた。
「……は?」
土煙の晴れた先には、塵一つ残っていない。
俺は自分の手を見つめる。手が震えていた。恐怖ではない。底なしに溢れてくる『力』への興奮で。
「遊び人……いや、『Free』だって? 教会は、この力を隠すために、あんな嘘の名前をつけたのか?」
俺はニヤリと口角を上げた。
神童と呼ばれた頃の、正解を見つけた時の顔だ。
「おいおい、冗談じゃないぞ。これじゃあ、真面目にレベル上げしてる奴が馬鹿みたいじゃないか」
森の奥から、さらなる魔物の気配がする。
だが、もう恐怖はない。
俺の手の中には、この理不尽な世界をひっくり返すための『最強のバグ』が握られているのだから。
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