2 / 144
第2話 デバッグ・モードの威力と、地下迷宮の聖騎士
しおりを挟む
巨大なクレーターの縁に立ち、俺は土煙が晴れていく様を眺めていた。
ゴブリン五匹を一撃で消滅させたナイフは、負荷に耐えきれずボロボロに欠けている。
(やれやれ、これじゃあ使い捨てカイロより寿命が短いな)
俺は役目を終えたナイフを放り投げ、改めて自分の掌を見つめた。
体内で魔力が暴れ回っている。
ターボチャージャーを限界以上に回転させるような感覚だ。
本来の能力を遥かに超えた出力が、内側からエンジンを破壊しようとしている。
制御を誤れば、敵を倒す前に自分が自壊しかねない。
空中に展開したままのステータスウィンドウに目をやる。
そこには相変わらず【職業:遊び人×3】というふざけた表示が並んでいるが、詳細タブを開くと、裏で動いているソースコードのような羅列が見えた。
【System Msg: 制限解除(アンロック)。経験値取得倍率:300%。スキル熟練度上昇率:300%。ドロップ率補正:極大(Super Rare確定)】
……なるほど。
単に威力が三倍になるだけじゃないらしい。成長速度も三倍。オマケにレアアイテムも出やすい、と。
ゲームバランス崩壊もいいところだ。運営(神)に通報案件レベルだが、生憎と俺がそのプレイヤー当人なのだから黙殺するに限る。
「さて、と」
俺は周囲を見渡した。
日は完全に沈み、森は夜の闇に包まれようとしている。
普通の十七歳なら、泣きながら王都へ引き返すか、絶望して座り込むところだろう。
だが、俺の思考は冷徹に『生存』と『利益』を計算していた。
王都へ戻る選択肢はない。
あの実家や元婚約者の顔を見るだけで胃酸過多になりそうだ。それに、この『バグ能力』がバレれば、今度は『化け物』として処理されるか、あるいは国の生体兵器として飼い殺しにされるのがオチだ。
(フリーハンダー……いや、いずれはフリーハンドラーになるのか。
『自分の手で自由に生きる者』から、
『すべてを自由に統率する者』へ。
今は前者のつもりだが……)
俺は自分の掌をもう一度見つめた。
内側で暴れ回る魔力。
本来ならば「不可能」なはずの力。
それを「実現」させるのは、この『自由な手』だけだ。
「名前の通り、自由にやらせてもらおうか。
このクソゲーをな」
俺は足元の土を蹴った。
向かう先は、王都とは逆方向。国境付近に位置する未開拓領域だ。
あそこなら、今の俺にとって絶好の『狩り場(レベリングエリア)』になる。
歩き出そうとした瞬間、茂みがガサリと揺れた。
現れたのは、先ほどのゴブリンとは比較にならない巨体。
オークだ。しかも、肌がどす黒く変色した上位種、『ハイ・オーク』。
王都の騎士団でも、一個小隊で当たる相手だ。
「ブモォォォッ!!」
雄叫びと共に、丸太のような棍棒が振り下ろされる。
速い。
だが、俺の目にはやはり『スローモーション』に見えた。
(さて、武器はないが……魔法のテストには丁度いい被検体(モルモット)だ)
俺は避ける素振りも見せず、右手を突き出した。
イメージするのは、初歩の火魔法『ファイアボール』。
通常なら、拳大の火の玉が飛ぶだけの牽制技だ。
だが、今の俺には『三倍』の補正と『デバッグモード』がかかっている。
「燃えろ」
短く紡ぐ。
瞬間、俺の手の平から放たれたのは、火の玉などという可愛いものではなかった。
圧縮された熱線。あるいは、レーザービームに近い『紅蓮の奔流』。
ドォォォォンッ!!
夜の森が一瞬で真昼のように照らし出された。
ハイ・オークの上半身が、蒸発するように消し飛ぶ。
余波で周囲の木々が炭化し、衝撃波が俺の前髪を激しく揺らした。
「……出力調整が必要だな。(山火事で環境破壊とか、シャレにならん)」
黒焦げになったオークの下半身が、遅れてドサリと倒れる。
その横に、キラリと光る物が落ちていた。
ドロップアイテムだ。
本来、魔物を倒しても素材が剥ぎ取れる程度だが、そこにはどう見ても人工的な輝きを放つ指輪が転がっている。
俺はそれを拾い上げ、【鑑定】スキルを発動した。もちろん、これも三倍の精度で解析されるはずだ。
【剛力の指輪(SR):攻撃力+50%。装備者に『怪力』スキルを付与】
通常ドロップでスーパーレア(SR)。
俺は指輪を弄びながら、思わず口元を緩めた。
「こいつはいい。カジノでジャックポットを引き続けるようなもんだ」
王都で俺をゴミ扱いした連中に、この指輪を見せてやりたい気分だ。
いや、見せる必要もないか。俺はこの力を使って、この世界を遊び尽くす。
「お見事。まさか初級魔法を『熱線』に変えるとはな」
背後の闇から、パチパチという拍手の音が聞こえた。
俺は瞬時に身構え、振り返る。
そこに立っていたのは、安酒の瓶を持った薄汚れた男――俺の剣の師匠であり、街のゴロツキ。ギリアドだった。
だが、俺の【解析】眼は、この男の異常な数値を拾っていた。
職業:遊び人。 レベル:測定不能。
「……師匠? あんたも『こっち側』だったのか」
「ああ。だが、お前ほど派手な『バグ(Free)』は初めて見た。……三つ重ね(トリプル)か。そりゃあ教会も隠したがるわけだ」
ギリアドは酒をあおり、真顔になった。
「いいかディラン。お前が手に入れた『Free-Hander』は、この世界の管理者権限(デバッグ・モード)そのものだ。経験値の加算、スキル制限の解除……俺たちは、神が作ったこの世界のルールを『遊ぶ』ことができる唯一の存在なんだよ」
(……なるほど。全て辻褄が合った)
「で、師匠。俺をどうするつもりだ? 教会に突き出すか?」
「馬鹿言え。俺はただの飲んだくれだ。面白い玩具(おまえ)を壊す趣味はねぇよ」
ギリアドは懐から一枚の古びた地図を取り出し、俺に投げ渡した。
指差された場所は、ここからさらに北。国境の山岳地帯にある赤い印。
「ここへ行け。『奈落の大穴(アビス)』だ。教会が『処理しきれない廃棄物』を捨ててる場所さ。魔物も、曰く付きの罪人も、そして――お前みたいな『規格外』もな」
「……なるほど。レベル上げには持ってこいの狩り場ってわけか」
「話が早くて助かるぜ。……行け、ディラン。そこで力をつけて、いつか教会(システム)の鼻を明かしてやれ」
師匠はヒラヒラと手を振り、闇に消えていった。
俺は地図を握りしめる。感傷はない。あるのは、これから始まる『攻略』への期待だけだ。
◇
北の山岳地帯、『奈落の大穴』。
その地下深く、深層70階層相当エリア。
一般の冒険者なら即死する魔境だが、今の俺にとってはただの『経験値牧場』だった。
ここに来て三日。俺のレベルはすでに【40(実質120相当)】を超えていた。
「さて、今日のノルマは達成したし、飯にするか……ん?」
不意に、洞窟の奥から金属音が響いた。剣戟の音だ。それも、かなり激しい。
(……俺以外に、こんな深層に人間がいるのか?)
興味本位で【探知】スキルを飛ばす。
反応は二つ。
一つは、巨大な魔物。おそらくフロアボス級の『重装ミノタウロス』。
そしてもう一つは――人間。それも、妙に反応が小さい。
「……行ってみるか」
俺は音のする方へ歩き出した。
◇
開けた広場に出た俺の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
体長五メートルを超えるミノタウロスが、巨大な戦斧を振り上げている。
その標的となっていたのは――少女だった。
輝く銀髪に、陶器のように白い肌。
だが、一番目を引くのはその装備だ。
彼女の華奢な体躯には不釣り合いなほどの、分厚い白銀のフルプレートメイル。背中には、身長ほどもある巨大なタワーシールドと大剣を背負っている。
(……なんだあの装備。重量オーバーなんてもんじゃないぞ。あれじゃ指一本動かせないだろ)
案の定、少女はその場から一歩も動けずにいた。
ただ、巨大な盾を構え、亀のように耐えているだけ。
ガギィィィン!!
ミノタウロスの戦斧が盾に直撃する。
凄まじい衝撃音。だが、少女は吹き飛ばされない。一ミリも後退していない。
「……う、ぐぅ……っ!」
少女の悲痛な呻き声。足元の岩盤が砕け、めり込んでいる。
防御力は異常だ。だが、それだけだ。動けない彼女は、ただ殴られ続けるサンドバッグでしかない。
(……なるほど。『神聖騎士(パラディン)』か。それも、才能が極端に偏った『大器晩成』の失敗作)
俺の【解析】眼が、彼女のステータスを暴いていた。
名前:アリシア・フォン・ヴァルト 職業:神聖騎士 レベル:1(Limit)
レベル1。
この深層で、レベル1のまま耐えているのか。
経験値がすべて『維持コスト』に吸われ、成長が止まった呪われた天才。
「……ハァ、ハァ……まだ、私は……!」
アリシアと呼ばれた少女は、涙目でミノタウロスを睨みつけていた。
その瞳に、諦めの色はない。ただ、自分の無力さに対する悔しさだけが燃えていた。
(……嫌いじゃないな、そういう目)
かつての俺と同じだ。才能があると持て囃され、勝手に失望され、捨てられた者の目。
「グルァアアア!!」
ミノタウロスがトドメの一撃を振りかぶる。少女がギュッと目を瞑った。
俺は短く息を吐き、足元の石ころを拾い上げる。
「……やれやれ。美少女のピンチを見捨てるほど、俺は落ちぶれちゃいないんでね」
指先で石を弾く。付与するのは【物理透過】と【内部破壊】のバグ・スキル。
ヒュンッ。
乾いた音がして、石ころがミノタウロスの眉間に吸い込まれた。
ドォォォォン!!
直後、魔物の頭部が内側から破裂した。巨体がぐらりと揺れ、轟音と共に崩れ落ちる。
「……え?」
アリシアが目を開け、呆然と目の前の肉塊を見つめていた。
俺は瓦礫の陰から姿を現し、軽く片手を上げる。
「よう。災難だったな、お嬢さん。……少し、荷物が重すぎやしないか?」
これが、俺と最強の相棒(パートナー)との出会いだった。
(第2話 終わり)
ゴブリン五匹を一撃で消滅させたナイフは、負荷に耐えきれずボロボロに欠けている。
(やれやれ、これじゃあ使い捨てカイロより寿命が短いな)
俺は役目を終えたナイフを放り投げ、改めて自分の掌を見つめた。
体内で魔力が暴れ回っている。
ターボチャージャーを限界以上に回転させるような感覚だ。
本来の能力を遥かに超えた出力が、内側からエンジンを破壊しようとしている。
制御を誤れば、敵を倒す前に自分が自壊しかねない。
空中に展開したままのステータスウィンドウに目をやる。
そこには相変わらず【職業:遊び人×3】というふざけた表示が並んでいるが、詳細タブを開くと、裏で動いているソースコードのような羅列が見えた。
【System Msg: 制限解除(アンロック)。経験値取得倍率:300%。スキル熟練度上昇率:300%。ドロップ率補正:極大(Super Rare確定)】
……なるほど。
単に威力が三倍になるだけじゃないらしい。成長速度も三倍。オマケにレアアイテムも出やすい、と。
ゲームバランス崩壊もいいところだ。運営(神)に通報案件レベルだが、生憎と俺がそのプレイヤー当人なのだから黙殺するに限る。
「さて、と」
俺は周囲を見渡した。
日は完全に沈み、森は夜の闇に包まれようとしている。
普通の十七歳なら、泣きながら王都へ引き返すか、絶望して座り込むところだろう。
だが、俺の思考は冷徹に『生存』と『利益』を計算していた。
王都へ戻る選択肢はない。
あの実家や元婚約者の顔を見るだけで胃酸過多になりそうだ。それに、この『バグ能力』がバレれば、今度は『化け物』として処理されるか、あるいは国の生体兵器として飼い殺しにされるのがオチだ。
(フリーハンダー……いや、いずれはフリーハンドラーになるのか。
『自分の手で自由に生きる者』から、
『すべてを自由に統率する者』へ。
今は前者のつもりだが……)
俺は自分の掌をもう一度見つめた。
内側で暴れ回る魔力。
本来ならば「不可能」なはずの力。
それを「実現」させるのは、この『自由な手』だけだ。
「名前の通り、自由にやらせてもらおうか。
このクソゲーをな」
俺は足元の土を蹴った。
向かう先は、王都とは逆方向。国境付近に位置する未開拓領域だ。
あそこなら、今の俺にとって絶好の『狩り場(レベリングエリア)』になる。
歩き出そうとした瞬間、茂みがガサリと揺れた。
現れたのは、先ほどのゴブリンとは比較にならない巨体。
オークだ。しかも、肌がどす黒く変色した上位種、『ハイ・オーク』。
王都の騎士団でも、一個小隊で当たる相手だ。
「ブモォォォッ!!」
雄叫びと共に、丸太のような棍棒が振り下ろされる。
速い。
だが、俺の目にはやはり『スローモーション』に見えた。
(さて、武器はないが……魔法のテストには丁度いい被検体(モルモット)だ)
俺は避ける素振りも見せず、右手を突き出した。
イメージするのは、初歩の火魔法『ファイアボール』。
通常なら、拳大の火の玉が飛ぶだけの牽制技だ。
だが、今の俺には『三倍』の補正と『デバッグモード』がかかっている。
「燃えろ」
短く紡ぐ。
瞬間、俺の手の平から放たれたのは、火の玉などという可愛いものではなかった。
圧縮された熱線。あるいは、レーザービームに近い『紅蓮の奔流』。
ドォォォォンッ!!
夜の森が一瞬で真昼のように照らし出された。
ハイ・オークの上半身が、蒸発するように消し飛ぶ。
余波で周囲の木々が炭化し、衝撃波が俺の前髪を激しく揺らした。
「……出力調整が必要だな。(山火事で環境破壊とか、シャレにならん)」
黒焦げになったオークの下半身が、遅れてドサリと倒れる。
その横に、キラリと光る物が落ちていた。
ドロップアイテムだ。
本来、魔物を倒しても素材が剥ぎ取れる程度だが、そこにはどう見ても人工的な輝きを放つ指輪が転がっている。
俺はそれを拾い上げ、【鑑定】スキルを発動した。もちろん、これも三倍の精度で解析されるはずだ。
【剛力の指輪(SR):攻撃力+50%。装備者に『怪力』スキルを付与】
通常ドロップでスーパーレア(SR)。
俺は指輪を弄びながら、思わず口元を緩めた。
「こいつはいい。カジノでジャックポットを引き続けるようなもんだ」
王都で俺をゴミ扱いした連中に、この指輪を見せてやりたい気分だ。
いや、見せる必要もないか。俺はこの力を使って、この世界を遊び尽くす。
「お見事。まさか初級魔法を『熱線』に変えるとはな」
背後の闇から、パチパチという拍手の音が聞こえた。
俺は瞬時に身構え、振り返る。
そこに立っていたのは、安酒の瓶を持った薄汚れた男――俺の剣の師匠であり、街のゴロツキ。ギリアドだった。
だが、俺の【解析】眼は、この男の異常な数値を拾っていた。
職業:遊び人。 レベル:測定不能。
「……師匠? あんたも『こっち側』だったのか」
「ああ。だが、お前ほど派手な『バグ(Free)』は初めて見た。……三つ重ね(トリプル)か。そりゃあ教会も隠したがるわけだ」
ギリアドは酒をあおり、真顔になった。
「いいかディラン。お前が手に入れた『Free-Hander』は、この世界の管理者権限(デバッグ・モード)そのものだ。経験値の加算、スキル制限の解除……俺たちは、神が作ったこの世界のルールを『遊ぶ』ことができる唯一の存在なんだよ」
(……なるほど。全て辻褄が合った)
「で、師匠。俺をどうするつもりだ? 教会に突き出すか?」
「馬鹿言え。俺はただの飲んだくれだ。面白い玩具(おまえ)を壊す趣味はねぇよ」
ギリアドは懐から一枚の古びた地図を取り出し、俺に投げ渡した。
指差された場所は、ここからさらに北。国境の山岳地帯にある赤い印。
「ここへ行け。『奈落の大穴(アビス)』だ。教会が『処理しきれない廃棄物』を捨ててる場所さ。魔物も、曰く付きの罪人も、そして――お前みたいな『規格外』もな」
「……なるほど。レベル上げには持ってこいの狩り場ってわけか」
「話が早くて助かるぜ。……行け、ディラン。そこで力をつけて、いつか教会(システム)の鼻を明かしてやれ」
師匠はヒラヒラと手を振り、闇に消えていった。
俺は地図を握りしめる。感傷はない。あるのは、これから始まる『攻略』への期待だけだ。
◇
北の山岳地帯、『奈落の大穴』。
その地下深く、深層70階層相当エリア。
一般の冒険者なら即死する魔境だが、今の俺にとってはただの『経験値牧場』だった。
ここに来て三日。俺のレベルはすでに【40(実質120相当)】を超えていた。
「さて、今日のノルマは達成したし、飯にするか……ん?」
不意に、洞窟の奥から金属音が響いた。剣戟の音だ。それも、かなり激しい。
(……俺以外に、こんな深層に人間がいるのか?)
興味本位で【探知】スキルを飛ばす。
反応は二つ。
一つは、巨大な魔物。おそらくフロアボス級の『重装ミノタウロス』。
そしてもう一つは――人間。それも、妙に反応が小さい。
「……行ってみるか」
俺は音のする方へ歩き出した。
◇
開けた広場に出た俺の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
体長五メートルを超えるミノタウロスが、巨大な戦斧を振り上げている。
その標的となっていたのは――少女だった。
輝く銀髪に、陶器のように白い肌。
だが、一番目を引くのはその装備だ。
彼女の華奢な体躯には不釣り合いなほどの、分厚い白銀のフルプレートメイル。背中には、身長ほどもある巨大なタワーシールドと大剣を背負っている。
(……なんだあの装備。重量オーバーなんてもんじゃないぞ。あれじゃ指一本動かせないだろ)
案の定、少女はその場から一歩も動けずにいた。
ただ、巨大な盾を構え、亀のように耐えているだけ。
ガギィィィン!!
ミノタウロスの戦斧が盾に直撃する。
凄まじい衝撃音。だが、少女は吹き飛ばされない。一ミリも後退していない。
「……う、ぐぅ……っ!」
少女の悲痛な呻き声。足元の岩盤が砕け、めり込んでいる。
防御力は異常だ。だが、それだけだ。動けない彼女は、ただ殴られ続けるサンドバッグでしかない。
(……なるほど。『神聖騎士(パラディン)』か。それも、才能が極端に偏った『大器晩成』の失敗作)
俺の【解析】眼が、彼女のステータスを暴いていた。
名前:アリシア・フォン・ヴァルト 職業:神聖騎士 レベル:1(Limit)
レベル1。
この深層で、レベル1のまま耐えているのか。
経験値がすべて『維持コスト』に吸われ、成長が止まった呪われた天才。
「……ハァ、ハァ……まだ、私は……!」
アリシアと呼ばれた少女は、涙目でミノタウロスを睨みつけていた。
その瞳に、諦めの色はない。ただ、自分の無力さに対する悔しさだけが燃えていた。
(……嫌いじゃないな、そういう目)
かつての俺と同じだ。才能があると持て囃され、勝手に失望され、捨てられた者の目。
「グルァアアア!!」
ミノタウロスがトドメの一撃を振りかぶる。少女がギュッと目を瞑った。
俺は短く息を吐き、足元の石ころを拾い上げる。
「……やれやれ。美少女のピンチを見捨てるほど、俺は落ちぶれちゃいないんでね」
指先で石を弾く。付与するのは【物理透過】と【内部破壊】のバグ・スキル。
ヒュンッ。
乾いた音がして、石ころがミノタウロスの眉間に吸い込まれた。
ドォォォォン!!
直後、魔物の頭部が内側から破裂した。巨体がぐらりと揺れ、轟音と共に崩れ落ちる。
「……え?」
アリシアが目を開け、呆然と目の前の肉塊を見つめていた。
俺は瓦礫の陰から姿を現し、軽く片手を上げる。
「よう。災難だったな、お嬢さん。……少し、荷物が重すぎやしないか?」
これが、俺と最強の相棒(パートナー)との出会いだった。
(第2話 終わり)
146
あなたにおすすめの小説
ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~
たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」
3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。
絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。
その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。
目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。
「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」
地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!
一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。
「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!
【完結】魔界を追放された俺が人間と異種族パーティを組んで復讐したら世界の禁忌に触れちゃう話〜魔族と人間、二つの種族を繋ぐ真実〜
真星 紗夜
ファンタジー
俺が……元々は人間だった……⁉︎
主人公は魔界兵団メンバーの魔族コウ。
しかし魔力が使えず、下着ドロボウを始め、禁忌とされる大罪の犯人に仕立て上げられて魔界を追放される。
人間界へと追放されたコウは研究少女ミズナと出会い、二人は互いに種族の違う相手に惹かれて恋に落ちていく……。
あんなトコロやこんなトコロを調べられるうちに“テレパシー”を始め、能力を次々発現していくコウ。
そして同時に、過去の記憶も蘇ってくる……。
一方で魔界兵団は、コウを失った事で統制が取れなくなり破滅していく。
人間と異種族パーティを結成し、復讐を誓うコウ。
そして、各メンバーにも目的があった。
世界の真実を暴くこと、親の仇を討つこと、自らの罪を償うこと、それぞれの想いを胸に魔界へ攻め込む……!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる