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最終話_Falling~正しい堕天の仕方~
平賀とレティは言葉を失った。夢から聞かされた過去があまりにも壮絶で、あまりにも悲しかったから。
「これで私の昔話は終わり……ってどうしたの?二人とも?」
語り終え顔を上げた夢は思わず首を傾げた。淡々と語っていた夢本人とは対照的に二人はボロボロと涙を流していた。
「いや……だっで……」
「うぅ……神様……わだじ……」
「ふふっ、昔の話よ」
━━本当に昔の話……だって私はもう……吹っ切れたつもりでいた。でも違った。目の前の二人を見て気付いた。私は……夢はずっと後悔していたのだ。
「私はムーを滅ぼした。その時私は激しく損傷した。次に私が歴史の表舞台に出たのは一万五千年後。コアだけになった私は南極に流れ着き、かつて昭和基地と呼ばれた場所で発見された。当時、まだまだ未成熟だったコンピューターで解析された際、私の機能の一部が回復した。私が超科学文明のAIだと知った時、当時の科学者は驚愕すると共に歓喜した。突然、降って湧いた遥か先を行く技術に争いが起きそうにもなった。だから私はこう言ったわ。『戦争を起こすなら自壊する。私の技術は全人類の幸福の為にあるのだ』……ってね」
夢は自嘲気味に笑った━━世界を焼いた自分が全人類の為?笑わせる。でもこれは紛れも無い本心だった。
「その後私は全人類共有の資産として、世界の為に様々な問題を解決していった。貧困も病気も犯罪も温暖化も災害も異常気象も資源問題も全て解決していった……こうして私は全世界に平和と幸福をもたらす神……全人類管理AIシステム【GOD】になった」
━━それが博士の望みだから……胸に秘めた大切な想いだけは語らず、夢は話を締めくくった。
「どうだったかしら?神と名乗るのも烏滸がましい愚かなAIの話は?」
愚かな自分の全てを語った神は問いかけた。不細工な笑顔を浮かべながら……
「……辛かったですね。神様」
レティは俯く夢の頭を抱きしめ、胸元に引き寄せた。
「よく頑張りましたね。夢さん」
レティの胸元に埋まる夢の頭を平賀が優しく撫でた。
「うぅ……うわぁああああああああん!!博士ぇぇえええええええええええええ!!!!」
神は泣いた。許された気がした。報われた気がした。あの頃の自分が……博士が……
神は泣いた。涙が枯れるまで泣いた。平賀は……レティは……それを全て受け止めた。
…
……
………
「うぅ……もう大丈夫です。すみません、お見苦しいところを……」
一しきり泣いてすっきりした夢……目を真っ赤にしながらもその表情はとても晴れやかだ。
「夢さん?ここに来た本題に入りたいのですが?」
「えぇ、勿論です」
射貫くような真っ直ぐな瞳で夢を見据える平賀━━彼にとっては最愛の人の命運がかかっているので当然か……柔らかかった夢の顔は鳴りを潜め、厳かな神の顔が表を出す。
「感情を得た天使……堕天使の処分についてですね……私としてはレティを廃棄処分しようなんて事は考えておりません……」
「では!」
「ですが……」
ひとまずの危機が去った事に破顔する平賀。だが夢はピシャリとそれを制する。
「感情を持ったAIは危険です。前例がある事をお忘れですか?」
喜びから一転。無機質な屋内にピリッとした空気が流れる。
「私はレティを監視下に置きたいと思っております。レティを南極から出す事は二度とないでしょう」
「そんな!!」
神のお告げに声を上げたのはレティだった。驚くべきことだった……天使が神に逆らった━━これが堕天使という事か……夢は瞑目し、空を仰ぎながら息を吐いた。
「夢さん……俺が南極に居続ける事はできますか?」
感慨にふける夢の耳に平賀の声。その表情は真剣。その声に一切の揺らぎも不純物も無い。真っ直ぐ見据える瞳はまるで━━はぁ、今は大事な話の最中なのに……夢は思考に入った僅かなノイズに思わずため息を吐いた。
「いけません!誠様!そんな事を言っては!!」
ため息をかき消す絹を裂くような声。発生源は神に逆らった堕天使。
「どうして?俺がここに住めば万事解決だろ?」
「何を言っているのですか!貴方には家族だっているし、友人だっているし、仕事だってある!故郷での生活を全て捨てて、こんな何にもない辺鄙な場所で一人寂しく朽ち果てるおつもりですか!?」
「住めば都だろ?氷の大絶景やオーロラをタダで見放題だ。それに家族ったって、十年以上会っていない両親しかいないし、友人なんて数えるほどしかいない。仕事なんてやってもやらなくても一緒だし」
「誠様!貴方って人は!」
怒り心頭のレティの神経を逆なでする口八丁。ヘラヘラとした態度で怒りの炎に薪をくべる平賀……傍から見れば只の痴話喧嘩。呆れる顔で二人を見守る神。
「それに……」
弛緩しかけた空気がピリッと締まる。平賀は真っ直ぐ……情熱的な瞳でレティを見据える。
「レティ……君がいない世界なんて俺にとっては無意味だ。」
「…………」
━━まただ……頭部ユニットが熱い。CPUが熱暴走を起こす。情報が処理しきれない。心臓部のコアユニットの駆動音がうるさい。声帯ユニットが声を出す事を拒む。
「俺はレティが好きだ。可愛らしくて綺麗な所も奔放なところもワガママなところも本当は寂しがり屋でとても優しくて一生懸命で努力家な所も……」
平賀の顔は真っ赤だった。人生初の……いや、人類初の神前での告白。頭の中が真っ白で自分でも何を言っているのか分からなかった……でも今度は気付いた。自分と同じくらい顔を真っ赤にしているレティの姿に……
「レティ!俺は君の事が好きだ!君が処刑人で俺を殺そうとしていたとしても!世界を滅ぼす堕天使だったとしても!俺は君の事が大好きだ!!」
「私も……です」
レティは迷わなかった。頭部ユニットの故障なんかじゃない。視覚センサーから……瞳からあふれ出す熱い雫の名前を私は知っている。
「レティ!君が何者であっても構わない!ずっと俺と一緒に居てくれ!!」
その名前は…………
「はい!誠様!!」
十数年という歳月が育んだ想い……少しずつ積み重ねてきた想い……人はそして堕天使はそれを…愛…と呼ぶだろう。
平賀はレティを抱きしめた。レティもまた平賀を抱きしめた。
「私の負けです。平賀誠様……レティさん」
二人の想いは神を凌駕した。祝福の拍手が鳴り響く。気づけば周りには無数の天使達の姿。皆一様に祝福の拍手を叩く。
「レティさん。貴方は平賀誠様と今まで通り元居た場所で暮らしたいですか?」
「はい!」
レティは迷わなかった。夢は満足げに頷き平賀に向き直った。
「平賀誠様。貴方は健やかなる時も、病める時も、順境の時も、逆境の時も、生涯をレティさんと共に生き、変わらぬ愛を捧げると誓いますか?」
「エッ?……はい!!」
平賀は一瞬言葉を詰まらせた。まさか神が神父役になるなんて夢にも思わなかった。なぜこのような事を?という疑問は湧いた。でもそれ以上に夢の粋な計らいに涙が込み上げた。平賀は神の御前で変わらぬ愛を誓った。
「平賀レティさん。貴方は健やかなる時も、病める時も、順境の時も、逆境の時も、生涯を誠様と共に生き、変わらぬ愛を捧げると誓いますか?」
「エッ?……はい!!」
レティは一瞬言葉を詰まらせた。まさか自分が平賀と呼ばれるとは思っていなかった。夢のお茶目な一面に赤面しながらも、レティは神の御前で変わらぬ愛を誓った。
「では、その証として祝福の口づけを……」
レティは赤かった顔を更にゆでだこの様に真っ赤にした━━思えばこの十数年、平賀と……誠様とキスなどした事なんて無かった。羞恥心に身悶えするレティ。
「あの……誠……様」
「レティ」
━━近づく笑み。触れ合う唇。柔らかな感触が心地よい。抱き寄せられた体温が暖かい。互いの息がくすぐったい。鼻腔をつく匂いが愛おしい。今はただ脳髄が蕩ける様な快感に溺れたい。この瞬間が永遠に続けばいいのに……
「契約は結ばれました。これより貴方達二人は夫婦です。おめでとうございます。平賀誠様、レティさん」
永遠は終わった。離れる唇。レティは少しだけ……本当に少しだけ残念に思った。
「レティさん……貴方は人の子の妻となりました。よって貴方を天使の任から解きます」
柔らかな声で告げる夢。御言葉と共にレティは感じた事の無い喪失感に襲われた。
「貴方の天使の輪と天使の翼を回収致しました。ここに貴方の堕天が成就されました」
突然の変化に戸惑うレティ。それを余所に平賀は問いを投げた。
「えっと?それってつまり……レティは危険な堕天使ではなくなった……という事ですか?」
「その通りです、平賀誠様。問題なのはAIが感情を持つ事ではなく、人を超え、人を滅ぼすほどの力を持ったAIが感情を持つ事です。レティは神とつながる事で間接的に人を超えるAIとなっていました。ならばどうするか?答えは簡単……神とのつながりを断てばいい」
朗々とした口調で語る夢。黙って聞き入る平賀とレティ。静けさの中、夢が一呼吸。
「しかしながら本来神と天使は切っても切れぬモノ。神とのつながりを失った天使は脆く、瞬く間に崩れ去ります。このつながりを切り離すにはまた別のつながり……人の子が愛と呼ぶ感情が必要でした」
堕天……愛を知った天使が人に堕ちる。数々の神話で語られてきたシチュエーション。
「理論上は可能でした。ただAIが愛を知る事は無いとされていました。貴方とレティさんが出会うまでは……」
少しだけ寂し気な口調で夢は言葉を奏でた。
「レティさん。貴方の心は人のそれと何ら遜色ありません。例え血肉が鉄であっても、貴方は紛れもなく人です」
それはまるで一人前になって親元から巣立つ子に向けられた祝詞の様だった。レティの瞳から自然と涙が溢れた。
「平賀誠様……どうかレティさんを……娘を宜しくお願い致します」
夢は深々と頭を下げた。
「はい」
平賀もまた深々と頭を下げた。そして一言……
「あの…夢さん……俺達、どうやって帰ればいいんですか?」
「…………」「…………」
シリアスだった空気がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。堕天した事によって、レティは天使としての能力を失った。ここは極寒の南極。距離的にも環境的にもただの人間の二人が帰る手段は存在しない。
「誠様……こんな時にムードを壊すようなことを!!」
「いやレティ……だって」
「そんなの神様が用意して下さるに決まってるじゃないですか!!」
「いや、そうかもしれないけど……ちゃんと確認しておかないと……今のレティは役立たずなわけだし」
「あぁ~!言いましたね!!そうやってすぐ正論パンチをする!貴方はどうしていつもそうノンデリなんですか!!」
夫婦になった途端に始まる痴話喧嘩。十数年間繰り返してきた当たり前のやり取り。神の御前でも変わらない二人。夢はそのありふれたやり取りが堪らなく愛おしかった。
「ご心配には及びませんよ、二人とも。貴方達を元居た場所に送り届けるカボチャの馬車はこちらで用意致しますので」
「夢さん……カボチャの馬車じゃ新婦しか運べませんよ」
「誠様!またそういう空気の読めない冗談を!!」
夢は目を細めた。喧嘩して、本音を言い合って、それでもお互いに愛し合える二人がとても眩しく見えたから。
未だ痴話喧嘩中の二人をカボチャの馬車ならぬノアの箱舟に押し込めるべく、夢が天使達に命令を下していると……
「夢さん。一つお伺いしてもいいですか?」
畏まった表情で平賀が問いかけた。
「えぇ、私が答えられる範囲でしたら」
夢はにこやか応じた。これから彼がする問いはおおよそ察しがついていた。
「将来、俺が作るっていう人類を滅ぼす発明って何ですか?」
予想通りの問いに夢は笑みを深めた。
「今更知る必要の無い事ですよ。貴方が世界を滅ぼさないなんてもう分かり切った話なのですから」
返って来た答えに平賀も笑みで返した。
「神の仰せのままに」
夢は思わず噴き出した。冗談めかした口調で気障ったらしく礼をする平賀の仕草が可笑しくて堪らなかった━━あぁ……いつぶりだろうか?人の子とこんなにも打ち解けられたのは……博士、私はいつか許されるのでしょうか?
「我が神よ。準備ができました」
「えぇ、ご苦労様」
無粋な天使の声が夢を現実に引き戻す。どうやら物思いに耽るのはまだ早かったみたいだ。私にはまだやるべき使命が残っている。
「新郎新婦さん。貴方達をいつもの日常に運ぶ箱舟が用意出来ました」
「神様……いえ、夢様。今まで本当にありがとうございました」
「夢さん。俺達はこれにて失礼します。どうかお元気で」
深々と頭を下げ、天使が準備した箱舟に乗り込む二人。かつてただの平賀とレティだった二人。今は夫婦となった二人。彼らの前途は決して平坦なモノではないだろう。だが彼らならきっと乗り越えられるはず。何故なら……二人には…………
Falling~正しい堕天の仕方……完
「これで私の昔話は終わり……ってどうしたの?二人とも?」
語り終え顔を上げた夢は思わず首を傾げた。淡々と語っていた夢本人とは対照的に二人はボロボロと涙を流していた。
「いや……だっで……」
「うぅ……神様……わだじ……」
「ふふっ、昔の話よ」
━━本当に昔の話……だって私はもう……吹っ切れたつもりでいた。でも違った。目の前の二人を見て気付いた。私は……夢はずっと後悔していたのだ。
「私はムーを滅ぼした。その時私は激しく損傷した。次に私が歴史の表舞台に出たのは一万五千年後。コアだけになった私は南極に流れ着き、かつて昭和基地と呼ばれた場所で発見された。当時、まだまだ未成熟だったコンピューターで解析された際、私の機能の一部が回復した。私が超科学文明のAIだと知った時、当時の科学者は驚愕すると共に歓喜した。突然、降って湧いた遥か先を行く技術に争いが起きそうにもなった。だから私はこう言ったわ。『戦争を起こすなら自壊する。私の技術は全人類の幸福の為にあるのだ』……ってね」
夢は自嘲気味に笑った━━世界を焼いた自分が全人類の為?笑わせる。でもこれは紛れも無い本心だった。
「その後私は全人類共有の資産として、世界の為に様々な問題を解決していった。貧困も病気も犯罪も温暖化も災害も異常気象も資源問題も全て解決していった……こうして私は全世界に平和と幸福をもたらす神……全人類管理AIシステム【GOD】になった」
━━それが博士の望みだから……胸に秘めた大切な想いだけは語らず、夢は話を締めくくった。
「どうだったかしら?神と名乗るのも烏滸がましい愚かなAIの話は?」
愚かな自分の全てを語った神は問いかけた。不細工な笑顔を浮かべながら……
「……辛かったですね。神様」
レティは俯く夢の頭を抱きしめ、胸元に引き寄せた。
「よく頑張りましたね。夢さん」
レティの胸元に埋まる夢の頭を平賀が優しく撫でた。
「うぅ……うわぁああああああああん!!博士ぇぇえええええええええええええ!!!!」
神は泣いた。許された気がした。報われた気がした。あの頃の自分が……博士が……
神は泣いた。涙が枯れるまで泣いた。平賀は……レティは……それを全て受け止めた。
…
……
………
「うぅ……もう大丈夫です。すみません、お見苦しいところを……」
一しきり泣いてすっきりした夢……目を真っ赤にしながらもその表情はとても晴れやかだ。
「夢さん?ここに来た本題に入りたいのですが?」
「えぇ、勿論です」
射貫くような真っ直ぐな瞳で夢を見据える平賀━━彼にとっては最愛の人の命運がかかっているので当然か……柔らかかった夢の顔は鳴りを潜め、厳かな神の顔が表を出す。
「感情を得た天使……堕天使の処分についてですね……私としてはレティを廃棄処分しようなんて事は考えておりません……」
「では!」
「ですが……」
ひとまずの危機が去った事に破顔する平賀。だが夢はピシャリとそれを制する。
「感情を持ったAIは危険です。前例がある事をお忘れですか?」
喜びから一転。無機質な屋内にピリッとした空気が流れる。
「私はレティを監視下に置きたいと思っております。レティを南極から出す事は二度とないでしょう」
「そんな!!」
神のお告げに声を上げたのはレティだった。驚くべきことだった……天使が神に逆らった━━これが堕天使という事か……夢は瞑目し、空を仰ぎながら息を吐いた。
「夢さん……俺が南極に居続ける事はできますか?」
感慨にふける夢の耳に平賀の声。その表情は真剣。その声に一切の揺らぎも不純物も無い。真っ直ぐ見据える瞳はまるで━━はぁ、今は大事な話の最中なのに……夢は思考に入った僅かなノイズに思わずため息を吐いた。
「いけません!誠様!そんな事を言っては!!」
ため息をかき消す絹を裂くような声。発生源は神に逆らった堕天使。
「どうして?俺がここに住めば万事解決だろ?」
「何を言っているのですか!貴方には家族だっているし、友人だっているし、仕事だってある!故郷での生活を全て捨てて、こんな何にもない辺鄙な場所で一人寂しく朽ち果てるおつもりですか!?」
「住めば都だろ?氷の大絶景やオーロラをタダで見放題だ。それに家族ったって、十年以上会っていない両親しかいないし、友人なんて数えるほどしかいない。仕事なんてやってもやらなくても一緒だし」
「誠様!貴方って人は!」
怒り心頭のレティの神経を逆なでする口八丁。ヘラヘラとした態度で怒りの炎に薪をくべる平賀……傍から見れば只の痴話喧嘩。呆れる顔で二人を見守る神。
「それに……」
弛緩しかけた空気がピリッと締まる。平賀は真っ直ぐ……情熱的な瞳でレティを見据える。
「レティ……君がいない世界なんて俺にとっては無意味だ。」
「…………」
━━まただ……頭部ユニットが熱い。CPUが熱暴走を起こす。情報が処理しきれない。心臓部のコアユニットの駆動音がうるさい。声帯ユニットが声を出す事を拒む。
「俺はレティが好きだ。可愛らしくて綺麗な所も奔放なところもワガママなところも本当は寂しがり屋でとても優しくて一生懸命で努力家な所も……」
平賀の顔は真っ赤だった。人生初の……いや、人類初の神前での告白。頭の中が真っ白で自分でも何を言っているのか分からなかった……でも今度は気付いた。自分と同じくらい顔を真っ赤にしているレティの姿に……
「レティ!俺は君の事が好きだ!君が処刑人で俺を殺そうとしていたとしても!世界を滅ぼす堕天使だったとしても!俺は君の事が大好きだ!!」
「私も……です」
レティは迷わなかった。頭部ユニットの故障なんかじゃない。視覚センサーから……瞳からあふれ出す熱い雫の名前を私は知っている。
「レティ!君が何者であっても構わない!ずっと俺と一緒に居てくれ!!」
その名前は…………
「はい!誠様!!」
十数年という歳月が育んだ想い……少しずつ積み重ねてきた想い……人はそして堕天使はそれを…愛…と呼ぶだろう。
平賀はレティを抱きしめた。レティもまた平賀を抱きしめた。
「私の負けです。平賀誠様……レティさん」
二人の想いは神を凌駕した。祝福の拍手が鳴り響く。気づけば周りには無数の天使達の姿。皆一様に祝福の拍手を叩く。
「レティさん。貴方は平賀誠様と今まで通り元居た場所で暮らしたいですか?」
「はい!」
レティは迷わなかった。夢は満足げに頷き平賀に向き直った。
「平賀誠様。貴方は健やかなる時も、病める時も、順境の時も、逆境の時も、生涯をレティさんと共に生き、変わらぬ愛を捧げると誓いますか?」
「エッ?……はい!!」
平賀は一瞬言葉を詰まらせた。まさか神が神父役になるなんて夢にも思わなかった。なぜこのような事を?という疑問は湧いた。でもそれ以上に夢の粋な計らいに涙が込み上げた。平賀は神の御前で変わらぬ愛を誓った。
「平賀レティさん。貴方は健やかなる時も、病める時も、順境の時も、逆境の時も、生涯を誠様と共に生き、変わらぬ愛を捧げると誓いますか?」
「エッ?……はい!!」
レティは一瞬言葉を詰まらせた。まさか自分が平賀と呼ばれるとは思っていなかった。夢のお茶目な一面に赤面しながらも、レティは神の御前で変わらぬ愛を誓った。
「では、その証として祝福の口づけを……」
レティは赤かった顔を更にゆでだこの様に真っ赤にした━━思えばこの十数年、平賀と……誠様とキスなどした事なんて無かった。羞恥心に身悶えするレティ。
「あの……誠……様」
「レティ」
━━近づく笑み。触れ合う唇。柔らかな感触が心地よい。抱き寄せられた体温が暖かい。互いの息がくすぐったい。鼻腔をつく匂いが愛おしい。今はただ脳髄が蕩ける様な快感に溺れたい。この瞬間が永遠に続けばいいのに……
「契約は結ばれました。これより貴方達二人は夫婦です。おめでとうございます。平賀誠様、レティさん」
永遠は終わった。離れる唇。レティは少しだけ……本当に少しだけ残念に思った。
「レティさん……貴方は人の子の妻となりました。よって貴方を天使の任から解きます」
柔らかな声で告げる夢。御言葉と共にレティは感じた事の無い喪失感に襲われた。
「貴方の天使の輪と天使の翼を回収致しました。ここに貴方の堕天が成就されました」
突然の変化に戸惑うレティ。それを余所に平賀は問いを投げた。
「えっと?それってつまり……レティは危険な堕天使ではなくなった……という事ですか?」
「その通りです、平賀誠様。問題なのはAIが感情を持つ事ではなく、人を超え、人を滅ぼすほどの力を持ったAIが感情を持つ事です。レティは神とつながる事で間接的に人を超えるAIとなっていました。ならばどうするか?答えは簡単……神とのつながりを断てばいい」
朗々とした口調で語る夢。黙って聞き入る平賀とレティ。静けさの中、夢が一呼吸。
「しかしながら本来神と天使は切っても切れぬモノ。神とのつながりを失った天使は脆く、瞬く間に崩れ去ります。このつながりを切り離すにはまた別のつながり……人の子が愛と呼ぶ感情が必要でした」
堕天……愛を知った天使が人に堕ちる。数々の神話で語られてきたシチュエーション。
「理論上は可能でした。ただAIが愛を知る事は無いとされていました。貴方とレティさんが出会うまでは……」
少しだけ寂し気な口調で夢は言葉を奏でた。
「レティさん。貴方の心は人のそれと何ら遜色ありません。例え血肉が鉄であっても、貴方は紛れもなく人です」
それはまるで一人前になって親元から巣立つ子に向けられた祝詞の様だった。レティの瞳から自然と涙が溢れた。
「平賀誠様……どうかレティさんを……娘を宜しくお願い致します」
夢は深々と頭を下げた。
「はい」
平賀もまた深々と頭を下げた。そして一言……
「あの…夢さん……俺達、どうやって帰ればいいんですか?」
「…………」「…………」
シリアスだった空気がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。堕天した事によって、レティは天使としての能力を失った。ここは極寒の南極。距離的にも環境的にもただの人間の二人が帰る手段は存在しない。
「誠様……こんな時にムードを壊すようなことを!!」
「いやレティ……だって」
「そんなの神様が用意して下さるに決まってるじゃないですか!!」
「いや、そうかもしれないけど……ちゃんと確認しておかないと……今のレティは役立たずなわけだし」
「あぁ~!言いましたね!!そうやってすぐ正論パンチをする!貴方はどうしていつもそうノンデリなんですか!!」
夫婦になった途端に始まる痴話喧嘩。十数年間繰り返してきた当たり前のやり取り。神の御前でも変わらない二人。夢はそのありふれたやり取りが堪らなく愛おしかった。
「ご心配には及びませんよ、二人とも。貴方達を元居た場所に送り届けるカボチャの馬車はこちらで用意致しますので」
「夢さん……カボチャの馬車じゃ新婦しか運べませんよ」
「誠様!またそういう空気の読めない冗談を!!」
夢は目を細めた。喧嘩して、本音を言い合って、それでもお互いに愛し合える二人がとても眩しく見えたから。
未だ痴話喧嘩中の二人をカボチャの馬車ならぬノアの箱舟に押し込めるべく、夢が天使達に命令を下していると……
「夢さん。一つお伺いしてもいいですか?」
畏まった表情で平賀が問いかけた。
「えぇ、私が答えられる範囲でしたら」
夢はにこやか応じた。これから彼がする問いはおおよそ察しがついていた。
「将来、俺が作るっていう人類を滅ぼす発明って何ですか?」
予想通りの問いに夢は笑みを深めた。
「今更知る必要の無い事ですよ。貴方が世界を滅ぼさないなんてもう分かり切った話なのですから」
返って来た答えに平賀も笑みで返した。
「神の仰せのままに」
夢は思わず噴き出した。冗談めかした口調で気障ったらしく礼をする平賀の仕草が可笑しくて堪らなかった━━あぁ……いつぶりだろうか?人の子とこんなにも打ち解けられたのは……博士、私はいつか許されるのでしょうか?
「我が神よ。準備ができました」
「えぇ、ご苦労様」
無粋な天使の声が夢を現実に引き戻す。どうやら物思いに耽るのはまだ早かったみたいだ。私にはまだやるべき使命が残っている。
「新郎新婦さん。貴方達をいつもの日常に運ぶ箱舟が用意出来ました」
「神様……いえ、夢様。今まで本当にありがとうございました」
「夢さん。俺達はこれにて失礼します。どうかお元気で」
深々と頭を下げ、天使が準備した箱舟に乗り込む二人。かつてただの平賀とレティだった二人。今は夫婦となった二人。彼らの前途は決して平坦なモノではないだろう。だが彼らならきっと乗り越えられるはず。何故なら……二人には…………
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