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第二章_小悪魔シンガーと母子の絆
第十話_要のお節介、薄井の苦悩
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要は鼻息を荒くしていた。
真昼野ステラ休業一週間目の昼下がり。
白い息を吐きながら、要が足早に向かったのは久しぶりのスターヌーンスタジオ。
彼の目的は真昼野ステラとしての活動を解禁する事。
それから……
⦅薄井さん!ちょっといいですか!!⦆
「…………」
⦅薄井さん!!⦆
「……あぁ、ごめん。要君おはよう」
要は気勢を削がれた。
薄井から覇気が感じられない。
返事はあれど上の空。
初めて会った時のような死んだ魚の目をした彼に要は息を詰まらせた。
「……金剛寺か?お前どうしてここに?」
要がいつもと違う薄井の様子に戸惑っていたところに桜井の声。
⦅桜井さん……⦆
「あぁ、その腑抜けの事か?」
おずおずと問いかける要に肩をすくめながら応じる桜井。
「事情は知らん。お前が休業に入った次の日当たりからそんな感じだ」
⦅もしかして……わたしのせい?⦆
「……それはない」
不安そうに眉をへの字にする要。
沈んだ様子の要に隠そうともせずため息を漏らす桜井。
「こいつはいつもそんな感じだ。決して自分の内面を語らない。何か問題が起こっても自力で何とかする。今回もそうするんだろう」
⦅そう……ですか……⦆
桜井の吐き捨てるようなセリフに要は不満顔を浮かべた。
要は善良で親切でお節介な気質の持ち主だ。
薄井と出会った時も最初にきっかけを作ったのは彼のお節介。
そんな彼だからこそ薄井の事が心配になるし、我関せずの桜井に不満を持つ。
⦅わたし達に出来る事があればいいんですけど⦆
要の呟きに今度は桜井が顔をしかめた。
「余計なお節介だ。こいつはこれでも三十一のいいおっさんだ。相談したいなら自分で勝手にしてくるだろう」
「随分冷てぇ言い方だな、おい……」
「うるさい、構って欲しいなら余所でやれ。鬱陶しい」
要と桜井のやり取りに横槍を入れる薄井。
自分の話を真横でされれば物申したくもなるだろう。
だが、その言葉にはやはり覇気が無い。
そんな彼に対しても桜井は辛辣な態度を崩さない。
「ここ一週間、陰鬱な空気に晒されている僕の身にもなれ。気が滅入ってカビが生えそうだ」
「そりゃ、悪うござんしたね」
⦅……結局何があったんですか?⦆
二人の無遠慮なやり取りに気後れしながらも疑問を口にする要。
その言葉に呼応して、薄井が要の方へ向き直る。
「要君。言っておくけど、休業期間は短縮しないからな」
そして涼しい顔ではぐらかす。
その様子に要はムッとした。
⦅薄井さん!今の話、聞いてました!⦆
「あぁ、聞いてたよ」
憤慨する要。
それでもいけしゃあしゃあとした態度を崩さない薄井。
薄井はコミュ障で卑屈でビビりだ。
この男が対面で怒られて引かないのはレアケースだ。
「これはプライベートの話だ。俺は仕事にプライベートを持ち込む気は無い」
ぴしゃりと拒絶の意思を示す薄井。
これは半分嘘だろうと要は思った。
薄井の中に公私を分けるとか、プロ意識とか、そんな崇高な思想は存在しない。
彼が言っている仕事とは推し事。
彼は生粋のVオタだ。
推しに対して自分語りをするような迷惑な思考は持ち合わせていない。
推しに認知して貰いたがるのは半人前。
それで迷惑を掛けたなら半人前以前のアンチ。
自分を消しつつ推しを応援してようやく一人前。
応援の過程で認知されるのは……
まぁ仕方がないくらいのマインド。
それが以前彼が話していた持論だ。
だが……
⦅そうですか!分かりました!それならこっちにだって考えがあります!!⦆
それは要に対しては逆効果だった。
さっきも言ったが彼は優しいお節介焼きだ。
困っている人が目の前に居たら放っておけない。
しけた面の人間を放置できるほど彼は寛容ではなかった。
⦅実は今日、悩みを聞いてもらおうと思って来たんです⦆
「ん?悩み?」
⦅えぇ……⦆
お悩み相談。
推しの一大事に薄井が身を乗り出す。
⦅でも薄井さんには話しません!⦆
「えっ!?」
そっぽを向く要……
棘のある言葉に凍り付く薄井。
⦅だってそうでしょう!薄井さんはわたしに悩みを話してくれない!わたし達の信頼関係なんてそんなものなんですよね!!⦆
「…………」
要は薄井に背を向けた。
要は心底憤慨していた。
要は薄井に相談した欲しかった。
要は……薄井の力になりたかった━━
━━薄井は言葉を失った。
要の性質を知っているからこそ、言葉が見つからなかった。
「要君?」
⦅失礼します!薄井社長!!⦆
大股で部屋を出る要。
引き留めようと手を伸ばす薄井。
隣からは桜井のどデカいため息。
「薄井……金剛寺の事情は僕が聞いておく。少し頭を冷やせ」
「……すまん」
要を追って電動車椅子を走らせる桜井。
昔の桜井はこんなにお節介ではなかった。
おそらく要の影響だろう。
遠ざかる駆動音を聞きながら、陰キャな友人の好ましい変化にため息を一つ。
「はぁ~~……どうすりゃよかったんだろうな」
そして変われない自分に毒を吐く。
他人に悩みを相談したところで厄介事が増えるだけ。
今までの人生で学んだ真理の一つだと思っていたのに……
結果として問題が増えた上に推しを怒らせてしまった。
「はぁ~~~~~~、マジで死にてぇ~~~~~」
顔面蒼白で鬱になる薄井。
何がいけなかったのかが分からない。
論理的には間違っていなかったはず……
そんな無意味は思考に囚われ、陰鬱な気持ちを深める薄井だった。
真昼野ステラ休業一週間目の昼下がり。
白い息を吐きながら、要が足早に向かったのは久しぶりのスターヌーンスタジオ。
彼の目的は真昼野ステラとしての活動を解禁する事。
それから……
⦅薄井さん!ちょっといいですか!!⦆
「…………」
⦅薄井さん!!⦆
「……あぁ、ごめん。要君おはよう」
要は気勢を削がれた。
薄井から覇気が感じられない。
返事はあれど上の空。
初めて会った時のような死んだ魚の目をした彼に要は息を詰まらせた。
「……金剛寺か?お前どうしてここに?」
要がいつもと違う薄井の様子に戸惑っていたところに桜井の声。
⦅桜井さん……⦆
「あぁ、その腑抜けの事か?」
おずおずと問いかける要に肩をすくめながら応じる桜井。
「事情は知らん。お前が休業に入った次の日当たりからそんな感じだ」
⦅もしかして……わたしのせい?⦆
「……それはない」
不安そうに眉をへの字にする要。
沈んだ様子の要に隠そうともせずため息を漏らす桜井。
「こいつはいつもそんな感じだ。決して自分の内面を語らない。何か問題が起こっても自力で何とかする。今回もそうするんだろう」
⦅そう……ですか……⦆
桜井の吐き捨てるようなセリフに要は不満顔を浮かべた。
要は善良で親切でお節介な気質の持ち主だ。
薄井と出会った時も最初にきっかけを作ったのは彼のお節介。
そんな彼だからこそ薄井の事が心配になるし、我関せずの桜井に不満を持つ。
⦅わたし達に出来る事があればいいんですけど⦆
要の呟きに今度は桜井が顔をしかめた。
「余計なお節介だ。こいつはこれでも三十一のいいおっさんだ。相談したいなら自分で勝手にしてくるだろう」
「随分冷てぇ言い方だな、おい……」
「うるさい、構って欲しいなら余所でやれ。鬱陶しい」
要と桜井のやり取りに横槍を入れる薄井。
自分の話を真横でされれば物申したくもなるだろう。
だが、その言葉にはやはり覇気が無い。
そんな彼に対しても桜井は辛辣な態度を崩さない。
「ここ一週間、陰鬱な空気に晒されている僕の身にもなれ。気が滅入ってカビが生えそうだ」
「そりゃ、悪うござんしたね」
⦅……結局何があったんですか?⦆
二人の無遠慮なやり取りに気後れしながらも疑問を口にする要。
その言葉に呼応して、薄井が要の方へ向き直る。
「要君。言っておくけど、休業期間は短縮しないからな」
そして涼しい顔ではぐらかす。
その様子に要はムッとした。
⦅薄井さん!今の話、聞いてました!⦆
「あぁ、聞いてたよ」
憤慨する要。
それでもいけしゃあしゃあとした態度を崩さない薄井。
薄井はコミュ障で卑屈でビビりだ。
この男が対面で怒られて引かないのはレアケースだ。
「これはプライベートの話だ。俺は仕事にプライベートを持ち込む気は無い」
ぴしゃりと拒絶の意思を示す薄井。
これは半分嘘だろうと要は思った。
薄井の中に公私を分けるとか、プロ意識とか、そんな崇高な思想は存在しない。
彼が言っている仕事とは推し事。
彼は生粋のVオタだ。
推しに対して自分語りをするような迷惑な思考は持ち合わせていない。
推しに認知して貰いたがるのは半人前。
それで迷惑を掛けたなら半人前以前のアンチ。
自分を消しつつ推しを応援してようやく一人前。
応援の過程で認知されるのは……
まぁ仕方がないくらいのマインド。
それが以前彼が話していた持論だ。
だが……
⦅そうですか!分かりました!それならこっちにだって考えがあります!!⦆
それは要に対しては逆効果だった。
さっきも言ったが彼は優しいお節介焼きだ。
困っている人が目の前に居たら放っておけない。
しけた面の人間を放置できるほど彼は寛容ではなかった。
⦅実は今日、悩みを聞いてもらおうと思って来たんです⦆
「ん?悩み?」
⦅えぇ……⦆
お悩み相談。
推しの一大事に薄井が身を乗り出す。
⦅でも薄井さんには話しません!⦆
「えっ!?」
そっぽを向く要……
棘のある言葉に凍り付く薄井。
⦅だってそうでしょう!薄井さんはわたしに悩みを話してくれない!わたし達の信頼関係なんてそんなものなんですよね!!⦆
「…………」
要は薄井に背を向けた。
要は心底憤慨していた。
要は薄井に相談した欲しかった。
要は……薄井の力になりたかった━━
━━薄井は言葉を失った。
要の性質を知っているからこそ、言葉が見つからなかった。
「要君?」
⦅失礼します!薄井社長!!⦆
大股で部屋を出る要。
引き留めようと手を伸ばす薄井。
隣からは桜井のどデカいため息。
「薄井……金剛寺の事情は僕が聞いておく。少し頭を冷やせ」
「……すまん」
要を追って電動車椅子を走らせる桜井。
昔の桜井はこんなにお節介ではなかった。
おそらく要の影響だろう。
遠ざかる駆動音を聞きながら、陰キャな友人の好ましい変化にため息を一つ。
「はぁ~~……どうすりゃよかったんだろうな」
そして変われない自分に毒を吐く。
他人に悩みを相談したところで厄介事が増えるだけ。
今までの人生で学んだ真理の一つだと思っていたのに……
結果として問題が増えた上に推しを怒らせてしまった。
「はぁ~~~~~~、マジで死にてぇ~~~~~」
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論理的には間違っていなかったはず……
そんな無意味は思考に囚われ、陰鬱な気持ちを深める薄井だった。
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