VSingerS【バーチャルシンガーズ】~俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

黄昏湖畔

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第四章_過去を悟る少女、未来に謡うVシンガー

第二十一話_おばさん

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「詩織ちゃ~ん!ご飯よ~!」

 夕暮れ時。出水家の大掃除で疲労困憊の薄井の耳に老婆の優しい声。
 この声は……以前病院であった未来の祖母中島朱音

「おばさん……ありが……とう」

 薄井と同じく疲労困憊の詩織が息を切らしながら返事。
 朱音は唖然としていた。
 詩織のただならない様子と……

「詩織ちゃん……これをあなたが……」

 有史以来初めてゴミが片付いた出水家の玄関に。

「……こんばんは。お久しぶりです、中島さん」

 驚きでフリーズする朱音に、薄井がフラフラしながら挨拶。

「……あっ!薄井さん……でしたっけ?ごめんなさい、あり得ない光景が広がっていたモノでつい」
「おばさん、ひどい」
「そうよね。詩織ちゃんが一人でお掃除なんてできるわけないよね」
「おばさん!ますますひどい!」

 しわだらけのニコニコ笑顔でナチュラル失礼な事を口走る朱音。
 これには普段ダウナーな詩織も声を張り上げる。

「中島さん……一番の功労者は彼ですよ」
⦅初めまして。金剛寺要です⦆

 薄井に紹介を受け、要が丁寧に頭を下げる。

「あらあら、あなたが要さん?」

 一方、紹介を受けた朱音は困惑顔。

「あの、失礼ですが詩織さんからはなんと?」

 薄井は頬を引きつらせながら問いかける。
 なんとなく予想はついていたが……

「ごめんなさい。詩織ちゃんからは真昼野ステラの中の人で優しくて、歌が上手で、ピアノも弾ける人と……」
「……ご心中察します」

 薄井はため息を一つ。
 要という名前は男女共用。
 金剛寺要という名前を聞いて、真昼野ステラの中身だと知れば、十中八九女性だと思うだろう。
 大柄な男という一番重要な情報を忘れる辺り、流石のポンコツだと呆れるばかり。

「あの……朱音さん」
「分かっていますよ」

 恐る恐る発した薄井の言葉にしわくちゃの顔がニコリと笑う。

「ねぇ?今のどういう意味」

 詩織が会話の内容が分からず困惑する。

⦅わたしがステラというのは内緒って事です。詩織さんもお願いしますね⦆
「う……うん」

 要が笑顔で圧力をかける。
 詩織が首を縦にブンブン振りながら従順に頷く。
 大掃除に一件で要を絶対に逆らってはいけない人間だと認識したようだ。

「せっかくですから、夕飯をご一緒にどうですか?未来ちゃんもきっと喜びます」
「いいんですか?男二人がいきなり押しかけても」
「ご心配なく。ご飯なら沢山用意しています。詩織ちゃんの朝ごはんが無くなるだけで」
「おばさん!ひどい!」

 ニコニコと毒を吐くおばさんに詩織が涙目で抗議する。
 その反応が可笑しかったのか、朱音はクスクスと笑う。

「冗談よ。それより早く行きましょう。未来ちゃんがお腹を空かせて待ってるから」

 ニコニコ笑顔をそのままに、朱音がゆっくりとした足取りで三人に背を向ける。

「薄井さん、要さん。よかったらゆっくりしていってね。詩織ちゃんも今日はウチに泊まっていきなさい。きっと掃除したばかりの部屋は埃っぽいでしょうから」
「うん……ありがとう」

 いつものダウナーな声で詩織が応える。
 薄井はこのやり取りに違和感を覚えた。
 朱音は詩織を本当の娘の様に慈しんでいた。
 詩織にとってもそれは同様の様で、朱音を本当の母の様に慕っていた。
 では……本当の両親は?

 自分と詩織はあくまでもファンと推しでたまたま知人になっただけ。
 これ以上の深入りは不適切だと分かっている。
 だが放っておくのも良くない気がする。

 ファンは推しに似るという言葉がある。
 隣で神妙な表情を浮かべるお人好しかなめを眺めながら、薄井自身はどう動くべきか考えあぐねるのであった。
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