【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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白波ホールディングス編

想い出(3)

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みんなすまねぇ。
キリが良すぎてあと一話伸びるわ。許して。
何でもす⋯⋯


 「はぁ⋯⋯」

 仕事が終わり、俺は駅前でコーヒー片手にある人物を待っていた。

 待って数分もしない内に高そうな低い唸るようなブレーキ音が前に止まった。

 「お疲れ様です。伊崎さん」

 パワーウインドウが開くと、フルスモークの中から石田さんの姿。

 「お疲れ様です!」

 多分こういうところは大事だろうと元気よく挨拶をすると、後部座席のドアが自動で開いた。

 「乗ってください。用件は車内で説明します」




 「お仕事お疲れ様でした」

 「あっ、石田さんこそお疲れ様です?」

 「なんで疑問系なんです?」

 「なんか変なことを言ったらマズイかなと」

 「ははは。流儀を知らない他所にそこまで求めないですよ」

 「至らない点しかないので⋯⋯」

 「こんな青年が、あんな顔でアニキに立ち向かうんですから──世の中はまだ捨てたものではないのですね」

 ミラー越しに石田さんにそう言われて、今更恥ずかしくなって頭を掻く。

 「私は、カッコイイと思いますよ」

 「あ、ありがとうございます」

 「あ、ポケットにお菓子とか入っていますから、是非食べてもらえると」

 ⋯⋯ヤクザってこんな良い人達だったん─────




 だっ!?

 「石田のアニキぃ!」
 「お疲れ様です!」
 
 あれ、昭和かな?
 部屋中モクモク煙が一生舞ってる。

 到着してすぐに案内されたのは、真壁組の本拠地、足立区にある所だった。

 お出迎えから凄まじかったが、中はもっとヤバイ。
 
 「ねぇ、太地さん~」

 わぁ~。あちこちでイチャイチャしてる人たちもいるぅ。

 俺にし、刺激が。
 ボンキュッボンのお姉さんたちが。


 ーー湊翔くん!


 「⋯⋯⋯⋯」

 白波さんも、もしかしたら。

 「大丈夫ですよ。伊崎さん」

 見透かされた石田さんに、背中を軽く叩かれ。
 見上げると、にこやかに笑ってコソコソ教えてくれる。
 
 「お名前を教えてもらった紗季さんですが、ここに派遣はされたものの、アニキは一度も手を出してはいないです。安心してください」

 「す、すみません」

 「我々のような人間には理解できない部分でもありますから。眩しくみえますよ」

 「それは、どういう事で」

 「我々のような人間に、もしまともな価値観があったとしたら、誰も家族なんて作りませんよね? 

 では、一体男の欲は誰が処理するんでしょうか?
 彼女達はその為に常駐させているんです。
 命懸けですからね、どの人間も」

 さぁ、と。石田さんはサラッと説明して奥へと向かっていく。


 歩きながら考える。
 俺は、経済的にどうにかなるレベルの人間ではない。

 現状、好きだとは言っても、身体の関係があるからそう思ってるのかもしれない。

 さっきの人達みたいに、白波さんとシたいからここまで必死になってるのかな。
 
 「着きましたよ」
 
 和室の引き戸が開くと、中には真壁さん。
 そして──

 「⋯⋯あっ、湊翔くん⋯⋯」

 白波さんも、そこには居た。
 
 「ほら、気まずい感じなのは俺も理解しているが、とりあえず入れ」

 胡座で煙草を吸う真壁さんに隣の座布団を叩いて座れと。

 一礼して入室。
 気まずいながらも真壁さんの隣に座る。

 気まずいの前に、思わずキョロキョロ一室を見渡してしまう。

 中は沢山の襖絵が描かれてあって、掛け軸もある。
 本当にドラマで見たようなヤクザの和室って感じだ。

 「気になるか?」

 キョロキョロしていると、苦笑いで突っ込まれる。

 「す、すみません」

 「まぁ初めてだろうし問題はない。ところで、今日呼んだ話だが──」

 そうだ。
 背筋を伸ばして正座で真壁さんの方へと向く。
 
 用件も何も、今日はなんの話かも知らされていない。

 「俺が関わったあとでもし、仲違いがあったら折角の俺の努力が無駄になってしまう」
 
 「⋯⋯?」

 何を言ってるんだ?

 「だから、伊崎。お前の話はこっちには伝達済みだ」

 「⋯⋯っ」

 なんて恥ずかしい⋯⋯っ。
 でも、あとでなんかあってからじゃあ確かに遅い。

 顔を覆いたい!
 逃げ出したい!
 25歳の人間が乗り込んでやらかしたなんて話。

 まぁその判断は間違ってはない⋯⋯けど。

 「⋯⋯⋯⋯」

 白波さんを見ると、無言で視線を逸らされた。
 あ──。

 だ、ダメージが。
 
 「二人とも聞け」

 俺と白波さんの雰囲気を理解しながらも、酒をグイッと喉越して注目を集めた。

 「あれからお前の殴りかかった男の所へと"挨拶"に行った」

 「⋯⋯っ、」

 「俺達は遠回りな会話はしない。率直に言おう──」

 少し唇をほころばせ。

 「真壁組の力で返済額を五千万まで減らした。それで今後縛られる事はない。

 自由もある。これからは──」

 その声の前に。俺はそれまでの空気などどうでも良くなり。

 「良かった!!」

 「⋯⋯ッ、」
 「⋯⋯ふんっ」

 気まずそうにしているら白波さんと、鼻で笑って酒を飲む真壁さん。

 「白波さん、良かった!」

 「あっ、」

 動揺している白波さん。

 だけど、俺はそんな事よりも、最後が見えず、暗闇の中をひたすらに走り続けることが無くなったことに嬉しさを感じていた。

 「さ、飯を食おう」







 それからご飯を頂いて、何度も何度も頭を下げてお礼を言いまくる。

 真壁さんは何でもない顔をしていたが、多分、相当な要求があったに違いない。

 だから、自分にできる事は何でもすると言って、夕方。

 「⋯⋯⋯⋯」
 「⋯⋯⋯⋯」

 真壁さんに駅まで送ってもらった後。
 俺は白波さんと静かなあの場所で向かい合っていた。

 長い沈黙が続いた。
 それを破ったのは、俺。

 「よかった」

 「う、うん」

 表情が気まずそうだ。
 そりゃあそうか。

 「あ、あの、湊翔くん」

 「ん?」

 「わ、私のこと──汚い女って思わないの?」

 「汚い? どういう事?」

 「あ、あんな所見て、それでも──っ」

 言い切る前に、震えている体を抱きしめた。
 がっちり。何処へにも行かないように。

 「正直苦しかった。けど──」

 でも。

 「紗季さんが無事なら、それで良い」

 白波さんの身体が今までにないくらい震えている。
 俺の抱きしめるのを受け入れるように、背中には柔らかい手の感触が返ってきた。

 「好き」

 「⋯⋯え?」

 「ずっと言いたかった⋯⋯っ!湊翔くんが好きっ!
 でも、でも──ぅぅぅぅぁっ」

 そのまま泣きだしてしまった。
 仕方ないだろう。
 彼女の闇は数年で終わるか怪しいくらいの時間なのだから。

 「今までごめんねっ!ごめんねぇっ! 沢山迷惑をかけたからぁっ!」

 絶叫にも近い悲鳴。 
 俺は、その時間を行為もせずに黙って背中をさすった。

 


























 *


  「早く着きすぎたかな」

 6月上旬。 
 もう世間は暑さでどうにかなりそうなくらいのものだった。

 「そーくん!!!」

 「どぅわっ!!」

 猪ばりの衝撃。
 咄嗟だが受け止めると、"彼女"がいる。

 「ねぇ⋯⋯まだ30分前だよ?」

 お互い、服装をバチバチに決めすぎて、ある意味浮いている。

 だが、俺達には関係ない。

 「行こう!」

 「うんっ!」

 あれから付き合い始めてもう3ヶ月。
 まだ誕生日は来ていないが、今年で25だ。

 最高の誕生日を迎えられそうだ。

 「見て! この魚さん!」

 「魚さんって⋯⋯」

 正直、紗季には悪いが。

 魚とかショーとか、そんなものはただの情報としてしか入ってこず、ただ彼女と一緒に水族館に来た事が嬉しくて、それでどころではなかった。

 「みてみて!ここの水族館のマスコットキャラクターだって!」

 「えー可愛いじゃん!」

 「そーくん被ってこのカチューシャ」

 「⋯⋯え?」

 ーーカシャッ。

 「可愛いー!」

 「ちょっ、撮んなしっ!! 黒歴史をこの歳になって生み出すな!」

 「あははははっ!!」

 会話が止むことはなかった。
 ずーっと喋り続け、遅れた恋愛初心者の二人は巡る。

 「終わっちゃったね」

 「あっ、帰りにカラオケ行かない?」

 「えっ!いいじゃん!! でも、そーくん歌えるの?」
 
 「あまり俺を舐めないでもらいたいね」


 『隣のドットロードットーロー!』


 「なんでビブリの曲を歌うの⋯⋯っっおっかし」

 ガキの時に金なんてなかったから流行りも知らんからだ!!

 「子供の時にだけ~!!」

 そうして俺達は毎日を過ごす。
 
 「うわー綺麗!」

 花火大会に行って、夏祭りに行った。
 紗季の浴衣を目に収め、一緒に射的をやって、金魚すくいもした。

 打ち上がる花火の中で、我慢出来ずにキスしてしまった事もあった。

 バカップルと揶揄されてしまうし、公共の場だとも理解してる。

 だが、そんな事を考えられる程、恋愛というのはこんなにも人を変えてしまうものだということだ。

 「もう10月か」

 「そうだねぇ」

 今度はイルミネーションに行こうと話していた。 
 だが。

 「紗季」

 もう、既に冬の格好をしている少し先を歩く紗季を呼び止める。

 「どうしたの?⋯⋯痛っ!」

 軽くデコピンしてやる。

 「もうっ、どうしたの?」

 「こ、これ」

 封筒を手渡す。
 中はデイズニーのチケットだ。

 「⋯⋯そーくん。そーくんっっ!!」

 太陽みたいに笑っては、そのまま飛び込んでくる。

 「行こう!デイズニー!!やったー!」

 彼女の記憶に行った記憶がないそうだ。
 この数ヶ月、彼女の記憶に想い出を多く残したかった。

 「行こう!いつ行く!?」

 「有給取らなきゃねぇ⋯⋯」

 「じゃあ、12月! 12月に行こう!!」

 「うん」

 少し先だが、クリスマスシーズンに行くことが決まった。
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