【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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白波ホールディングス編

想い出(4)

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 みんなごめん。
苦しいの終わりや
ーーー

 ハァと吐いた白い息が夜空に消えていく。

 目の前はもう、クリスマスシーズンに向けてツリーが虹色にキラキラと街を照らしている。

 そんな中、俺は寂しくコンビニの自動扉を通って、買った流行りのアルフル1000を飲む。

 くぅ~! 残業前のこれが一番美味いや。

 結構退勤ラッシュで並んだのでスマホを立ち上げて時刻を確認。

 "2022年12月9日19時20分"

 「あともう少しか」

 紗季とのクリスマスまでもう少しか。

 
 ーーまたね!

 プリクラで撮るようなピースで別れたのが最後。
 会ったのは一昨日か。

 今日も会いに行こうかな。
 でも、仕事は終わってないし。

 はぁ。いけない!
 初彼女なんだ!

 俺と付き合ってて幸せになれるように、もっと働いてもっとお金を稼がないと!

 「資格勉強でも今からやるべきかなぁ」

 25になったばっかりだし、まだチャンスはあるだろう。
 最悪落ちても、どうにか稼げるようになれば⋯⋯!






 戻ると社内は忙しなくキーボードを叩く音がどこもかしこも聞こえてくる。

 この会社は年中忙しいとか言いふらして自慢してるようにしか思えない。

 効率的にやればいい事を脳筋みたいにやっているのがほとんどだ。

 幸い、俺の後輩である佐藤さんを含めた数人は、違うみたいだけど。

 近くを見るとほら、わざわざ要らない事を2つも3つも増やしてる。

 それで仕事をやったと思ってるなら大間違いだぜ?  
 その後怒られて俺が結局対処して行くのがオチだ。

 まぁでもとりあえず、ダメ元で──

 「堤さん」
 
 「なんだ?伊崎。このクソ忙しい時に」

 「今日、21時で上がらせてもらっても──」

 「このクソ忙しい時になんだってんだよ!!!
 さっさと仕事しろ!!」

 まぁ真っ向勝負じゃ無理か。

 「⋯⋯はぁ」
 
 「伊崎先輩、この頃残業減らそうとしてません?」

 デスクに戻ると、隣の佐藤さんが尋ねてくる。

 「最近やらないといけないことが増えましたから」

 「そうなんですか。趣味とかですか?」

 「まぁ、そうですね」

 「へぇーなるほど!ありがとうございます!」

 正直言って、堤さんは多分仕事を把握していない。
 だから俺が本来帰っても問題ない事を、理解できないのだ。

 とりあえず、後輩の手伝いでもしてっと。




 ーーヴヴヴ!ヴヴヴ!


 「先輩? スマホ鳴ってますよ?」

 「あぁ、放置でいいよ」

 どうせ公式アカウントとかのやつだろう。
 さっさと終わらせて会いに行かないと。

 そのままスマホをサイレントマナーにしてもらい、一旦放置して片付けを終わらせ──21時過ぎには外に出ていた。

 「あぁさっむ」

 と、ポケットが光った。
 俺のスマホは、通知が来ると光る設定になっているので、すぐに分かった。

 「ん?」

 取り出すと、また通知──いや、電話?
 しかも、知らん番号からだ。
 とりあえず出るか。

 と、タップしようとした⋯⋯その時。


 ーーねぇ。


 「はい?」

 信号待ちの中、突然背後から声をかけられた。
 だが、振り返っても誰もいない。

 少し先で、歩いている人しかいない。

 うっわこわ。
 遂に俺、幻聴でも聞くようになっちまったよ。

 ⋯⋯てっ、違うわ。

 ゴホン!と声を整え、タップする。

 「はい、伊崎です」

 この番号にかけて来る人間なんてほとんどいない。

 そもそも連絡先も友達の美智と、南、紗季、真壁さんと石田さんくらいなもんだ。

 『こちら、伊崎湊翔さんのお電話番号でお間違いなかったでしょうか?』

 女性の声だ。
 アナウンサーみたいなはっきりした声質。

 「あ、はい。自分が伊崎ですが、どのようなご用件でしょうか?」

 『あっ、私は東京医科大学病院救急センター看護師をしております高山と申しまして』

 


















 はっ、はっ、んはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ。

 「おい、何ぶつかってんだよ!」

 「っぁ! すみません!!」

 はぁ。はぁ、はっ、はっ!はぁっ!

 「ちょっと!」

 「すみません!急いでるので一万円で改札通ります!!」

 「えっ!?」

 はぁ!はぁ!はぁ!はぁはぁ⋯⋯


 ーーバタン!!!


 「っはぁ⋯⋯すぅ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 やっと着いたぁ。
 息ができない。
 じゃなくて、どこ!?

 「すみません! 白波紗季の彼氏です!」
 
 「あぁ、伊崎湊翔さんですかね?」

 「はいっ! それで」

 「少し落ち着いてください。今は緊急のため、診察室にて現状のお話をさせてください」

 その場で業務的なやり取りを終えて、俺は診察室へと向かい、詳しい話を聞いた。

 現在は手術中で、頭に出血があってその手術をしているらしい。

 CTでは脳に腫れがある為現在処置をしているという。

 近くのベンチに腰掛けてそのまま待っていたが、そこから担当医が現れるまでに5時間は掛かった。




 「頭部を強打しています。出血と腫れの為手術を行い、無事終了致しました」

 「な、治るんですか?」

 「現時点では不明です。
 脳波の反応が弱く、意識もない状態です」

 「手術は終わったんですよね?意識がないっていうのは⋯⋯」

 「今後の経過次第です」

 淡々と発する担当医に苛立ってはいけないが、どうしても感情が激しくなってしまう。

 いや、彼らは日常的にこうなんだろう。
 
 「ありがとうございます」

 「5分程なら、彼女さんにお会いする事を許可できますが」

 「お願いします」

 俯いていた俺を察したのだろう。
 担当医はそのまま案内してくれた。

 「こちらです」

 ピッ、ピッと無機質に響くここは集中治療室というところらしい。

 横たわって点滴⋯⋯や管みたいなのが繋がれている。
 あんなに笑って、あんなに煌めいて、あんなに──キラキラ輝いていたのに。

 微動だにしない。

 「そろそろ──」

 10秒ほど紗季を黙って見つめていたつもりだったが、もう5分が経過していた。

 「あっ、すみません」

 「経過報告などは追って連絡いたします」

 「よろしくお願いします」

 俺はただ頭を下げるしかなかった。
 その帰り、身分証を見せたのだが、紗季とは家族ではないので、色々拒否されてしまった。

 警察にも遭遇し、詳しいことはまた後日となった。
 だが、大学生くらいのグループが酔っ払って轢いた的なことは聞いた。





 何も手に付かずの一週間だった。
 仕事はもちろんやっていたが、最低限の事をこなしたらあとはやっているフリ。

 何も頭の中を巡ることはなく、飯もあまり喉を通らなかった。

 夏じゃなくてよかったと本気で思っている。

 病院からの連絡。
 早退して病院へと向かう。

 堤さんには大声で怒鳴られ、彼女がどうのとか、若いもんとか、いつもなら悪態も付けたのだが、コレばっかりは反応すら出来なかった。

 到着後、聞いたのは──

 「意識や脳波の検査で覚醒反応がありません」

 「つ、つまり⋯⋯」

 「分かりやすく言えば、植物状態です」

 鼻から深く息を吸い込む。

 「そうですか」

 「医療費に関してですが⋯⋯」

 「すみません。少し整理してからでもいいですか?」

 なぁ。

 「任意での事情聴取ありがとうございます」

 「ありがとうございます」

 「加害者の方たちは6人ほどの若者のグループでして」
 
 なぁ⋯⋯

 「証拠は車内映像で映っていましたので問題はありません。伊崎さん、コレを」

 手渡されたのは、1枚のクシャクシャな血のついた紙切れだった。

 「これは?」

 見上げて警官に尋ねる。
 
 「⋯⋯っこれは、直前まで持っていたとされている彼女さんの私物です。

 調査の結果チケットだと判明しています。
 映像には、青信号で渡る彼女さんがスキップしているような素振りを──」

 「お兄さん」

 「あっ、はい?」

 「俺って過去に罪とかって犯しました?」

 なぁ。

 「ぜ、前科などは付いていませんが」

 「何かやってるでしょ?俺」

 なぁ。

 「え?い、いやっ、特別なことは何も──」






















 「じゃなきゃおかしいよーっ。
 俺⋯⋯真面目に生きてきたんですよ。
 俺何かしました? 
 誰かに迷惑掛けましたっけ?
 あぁ、小さい頃貧乏だったから他人に臭いのを撒き散らしたからですか?
 それとも俺みたいな人間は存在してるだけで迷惑なんですかね?
 貶されて感情が湧いたのが罪なんですかね?
 そうですよね?
 喋ったから駄目なんですかね?
 息したから駄目なんですよね?
 恋しちゃったから行けないんですよね?
 劣等感抱いたから駄目なんですよね?

 じゃなかったから前世で大罪人だったんですかね?
 なんでこうなるんですかね、
 
 俺──誰かに何かしました?」

 なぁ。




 「後見人申請が通りましたよ!」

 合鍵で家に入って、通帳を見つける。
 
 「⋯⋯ん?」

 封筒があった。
 中は同じ通帳っぽい。

 開封。すると。


 "未来の貯金!絶対結婚する!♡"
 "南ちゃんの好物はカステラとプリン!"


 「⋯⋯⋯⋯」

 なぁ。



 「さぁ!今日も──会社に社訓通り!実直に!
 積み上げていこう!」

 そうだ。
 俺がこんなに暗くたってしょうがない。

 「外回りしてきます」

 「おっ!元気がいいな!頼むぞ!」

 積み上げていこう。

 「1件取って来ました!」

 「おっ! さすがエース!!」

 積み上げていこう。

 「1日1時間の読書。習慣はすべてを変える⋯⋯か」

 積み上げていこう。

 「伊崎先輩読書とか偉いですね」

 「ん? あぁ、読書はいいらしいんだ」

 実直に。笑顔が大事だと本に書かれてたから、いい事なのだろう。

 「週7でジムとか伊崎先輩やばいですね~!」

 「習慣が良いらしいんだ」

 実直に。

 「昼はサラリーマン?それで夜は警備?大丈夫?」
 
 「はい! 体力には自信があります!」

 積み上げないと。

 起きたら自炊して、南のご飯を作って、読書して、仕事して、お見舞いに行って、ジムに行って。

 毎日やる。
 実直に。積み上げないと。

 「なぁ紗季、今日さ⋯⋯」
 「今日は後輩がポカしてさ」
 「紗季が帰ってきてもいいように、今ある返済額増やしたんだ。だから、いつ帰ってきても大丈夫だから」
 「今日ちょっと肌の調子いいんじゃない?」
 「毎日見飽きないよ」
 




















 「お兄ちゃん?」

 「⋯⋯ん?」
 
 「隈、凄いよ」

 「あはは。大丈夫だよ」

 毎日やる。笑っていこう。

 「先輩、だ、大丈夫ですか? 隈凄いんですから寝たほうが」

 「大丈夫だよ。それに、今読書の時間だから寝るわけには行かない」

 「そ、そうなんですね」

 資格の勉強も始めないとな。
 紗季が帰ってきてただのサラリーマンじゃあカッコがつかない。

 「紗季、ただいま。もう世間は夏だよ」
 「そういえばさ、あの芸能人──」
 
 帰ってきてもいいように。
 出来る事を、毎日やる。
 実直に。
 積み上げていこう。

 




















 「お、お兄ちゃん」

 「⋯⋯ん?」

 「だ、大丈夫? 今なんの話してるの?」

 「ん?あれ?なんの話してたっけ?ちょっと忘れちゃったかも」
 
 毎日やる。
 毎日。

 「伊崎、明日は忙しいんだ。そんな彼女──」

 "今、なんて言った?"

 「ど、どうした伊崎⋯⋯わ、わるい。成績いいしな!あはっ!悪かった悪かった」

 実直に。

 「今日さ──会社で」

 起きて、飯を作って、出社して、読書して、筋トレして、お見舞いに行って、働いて、お見舞いに行って、、空いた時間で読書して、働いて、飯を作って、出社して、お見舞いに行って、勉強して、読書してら働いてあれ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯























 「い、伊崎先輩、なんでパジャマで出社してるんで、ですか」
 
 ⋯⋯⋯⋯あれ?
 
 下を見ると、確かにパジャマだ。

 「あ、すみません」

 「おい!伊崎!!」

 「ちょっと堤さん!!」

 理由は分からないけど、胸ぐらを掴まれる。
 
 「社会人としてこれはなんだ!!大体なんだ!彼女が入院したくらいで─────」

 
 ーーねぇ、そーくん!!


 「すみません」

 「え?」

 「俺か悪いんですよね?
 俺がノルマ達成してるのに俺が悪いんですよね?
 何を治せばいいんですか?
 顔ですか?
 時間の使い方ですか?
 習慣でしたっけ?
 食事でしたっけ?
 仕事のやり方が駄目なんでしたっけ?
 だから彼女が起きないんですかね?
 何が足りないんだろう?
 読書量なのかな?
 仕事量なのかな?
 筋トレの量が足りないのかな?
 返済額なのかな?
 あっ、そうだすみません、すみません」

 「あっ⋯⋯あ⋯⋯わ、悪い伊崎⋯⋯有給つ、使えよ」





 外が真っ暗だ。
 綺麗だなぁ。紗季とどこ行こうかなぁ。
 
 そう思っていると。
 ふとこぼれた。

 ──疲れたなぁ。

 横断歩道。
 その先には、綺麗な魚が見える。
 あぁ、綺麗だなぁ。

 紗季が喜ぶ。
 と、勝手に足が進む。
 
 
 ーーねぇ。


 「紗季?」

 プー!!!

 「うわっ!」

 反射で後ろに倒れて、尻餅をつく。

 「ったくあぶねーだろ!!」

 横断歩道の信号は赤だった。
 ゆっくりと立ち上がって、綺麗な夜空を見上げる。

 そうすると、段々、段々身体が震えていくのがわかった。

 あぁ⋯⋯会いたいな。
 
 「いつ、起きるんだよ」














 ーーーダァァァァアン!!!!!


 突然、落雷の音とと共に俺の意識はそこでふっと元に戻った。

 なんだ?何があった?
 
 見れば、辺りはまるで誰かが刀で斬り裂いたように血が壁を、床を汚している。

 そして隣で聞いていた大和田組長の頭部は無残に転がってて、ソファには泣き別れた身体が倒れている。

 「ゔぅァァァァァァァァ!!!! 
 ぁぁぁぉっ!!!!ば、バケモノぉぉぉぉ!!!」

 右を見ると、そこには泣き叫び、ジリジリ尻餅をつきながら後ろへ後ろへと逃げて行っている神代が居た。
 
 んー。状況が分からないが、推測するなら──多分。

 「──ん」

 一歩歩くと、そこで、ふっと光景が浮かんだ。 
 綺麗な魚が泳ぐ場所で、誰かが俺に何かを言っている。

 
 ーーね、ねぇ!もし、もしだよ?私達、全部終わったら──


 なるほど。やっと状況が掴めた。
 神代に少しずつ歩み寄りながら俺は上から見下ろし。

 「いかん。力が一瞬入ってしまったようだ」























 ーー結婚しようね!そーくん!
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