自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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国内無双編

会長

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 すみません。
 また怪文書になったら許してください(泣)
ーーー


 正月。伊崎が帰った次の日の事である。
 伊崎実家のマンションの下に、二台の高級車が同時に到着した。

 それぞれ後部座席から出てきたのは、二人の会長。

 そして運転席から出てきたのは秘書だ。

 「⋯⋯ん?」
 「⋯⋯?」
 
 二人の会長は降りてすぐ、目の前にいる相手を認識する。

 (誰だ?秘書の方は見覚えがあるのだが。私と同世代の人間でここまでの人間が居ただろうか?)

 (ん?白波の小僧ではないか。なんでここにいる?)

 それぞれの主君を見ながら、チラチラと秘書同士も困惑である。

 しかし別に喋りかけるわけでもなく、4人は同じマンションに入っていく。

 白波会長は伊崎の両親と面識がある為、部屋の番号を押して待つ。

 (ん?目的地は一緒⋯⋯?)

 諸星会長は部屋の番号を見て一気に色々察し始める。

 『はーい!』

 「伊崎様、お世話になっております。白波でございます」

 (あの小僧、伊崎くんといつの間に仲を深めていたのだ?)
 
 確かにあの土地は白波である事は理解していた。

 いや。

 その時諸星会長の中で色々な歯車が繋がる。

 ということは。
 最近出た奇跡のサバとやら。

 アレは──。

 『あら!白波会長さんですか? こんなマンションにまで足を運んでいただいて申し訳ありません』

 「いえいえ。御子息には多大な恩がありますし、今も対等な取引も続けさせていただいています」

 (何?やはりそうか!)

 くっ!一足先に伊崎くんと仲良くなっておけば!

 諸星会長の心境を知る由もない白波会長は、そのまま話し続け。

 『湊翔は家に居ませんが⋯⋯それでも構いませんでしょうか?』

 「はは、勿論です! 伊崎様のお母様お父様に新年の挨拶をしたくここまで来ましたから」
 
 『わざわざ申し訳ありませんねぇ。どうぞー!』
 
 オートロックが開き、白波会長が入っていく。

 「会長」

 扉を通ろうとしたその時、木村が呼び止める。

 「どうした?木村」

 「私も驚きなのですが⋯⋯」

 眼鏡をクイッと整え。

 「並んでいたのあの方──諸星グループの会長様では?」
  
 振り向きざま、木村の言葉を聞いた白波会長が諸星会長を上から下まで見渡す。

 「⋯⋯ははまさか。変なことを言うもんじゃないぞ?
 諸星さんはもう70だ。
 こんな私とお⋯⋯な⋯⋯」

 (あれ?)

 白波会長の目には、徐々に諸星会長の影がしっかりと映し出されていく。

 「諸星さん?」

 一瞬眉を寄せ、恐る恐る問いかける白波会長。

 「おいおい、やっと気づいたのか小僧!70だからどうした?」

 おおっと、口の端を上げて不敵に笑う諸星会長。

 「あっ⋯⋯いえっ! 明けましておめでとうございます。諸星さん」

 丁寧にお辞儀する白波会長。

 「こちらこそだ。あの時私と酒を飲んだのは随分前になるか」

 「は、はい。また近い内にでも行きましょう」

 そうガシッと堅い握手をすると。

 「ところで、伊崎くんの家に用があるのか?私もなんだが」

 瞬間。良かった雰囲気は吹っ飛ぶ。

 二人の間には強烈な嵐が巻き起こるような幻覚が秘書二人の目には映る。

 (伊崎くんと事業を始めるとなって。
 私はこれをこのままでは絶対に大きな損失になると思い、進言は既にしていたが──最初から予想はしていた展開に)
 
 (白波は既に動いていたのですか。こちらの思惑では、まだそこまで深めていなかったとばかり)

 二人の秘書は作り笑いの仮面を張りつつ、内心は燃え滾るような熱が沸々と湧き上がっていた。

 「諸星会長、伊崎くんのことをご存知で?」

 (何を今更。あからさまに私を見て"しまった"と言わんばかりの顔をしていたではないか。まだまだ40半ばだったか?この歳でも、まだ青いな)

 「あぁ。君よりも"親密"に、な?」

 (まさか。よりによって諸星に勘付かれるなんて。
 この人昔から猛獣みたいな男だったからなぁ。
 落としの名人なんて二つ名を影で言われてたくらいだ)
 
 「ふっ、私より親密ですか?」

 「なんだね?その言い草は」

 「見たところ、諸星さんは伊崎さんのお母様が何を好きかあまり把握していない様子で」

 白波会長は諸星会長の手に握られた菓子折り(とてつもない高級品)チラ見すると、勝ち誇ったように口の端は釣り上げては軽く挑発した。

 「ほう?あの時の小僧が⋯⋯」

 一歩。踏み出したたった一歩だが、白波会長と木村は思わず仰け反りそうになってしまうほどの威圧感があった。

 (見た目が若くなってる。昔こんな感じだったな。一番ギラついていた時期だ)

 「良いじゃないか。なら、この俺に盗られないように精々気を付けるんだな」

 




 「えぇ~と⋯⋯」

 全く状況が掴めない湊翔の母。
 名前は静音。
 目の前に座る二人の威圧感ある男たちと後ろに控える明らかに優秀そうな秘書二人。

 「去年は何かとお世話になりました」

 まず開口を切ったのは白波会長。
 わざわざ立ち上がって静音に両手を差し伸べ、深々と頭を下げる。

 「白波会長様にそこまでして頂く事はありませんよ!」

 「いえ。我々にとっては、あれがなかったら死んだも同然だったのです。 

 今回、湊翔くんに持っていっていただいたサバも、原案は湊翔くんによるものですし、何より、品種改良を独学で完成させた天才⋯⋯というべきでしょうな。はははは!」

 (あの少年。変わったご両親かと思ったのだが、こんなに普通の母親だったのか。
 にしては普通すぎるような)

 隣で聞いている諸星会長。
 更に思考に耽る。

 (サバ。小僧がもう秘密にしなくなったということは、正々堂々勝てると思っての事か)

 「サバ、本当に美味しかったんですよ。木村さん頂きましたか?」

 「勿論です。お気遣い頂き感謝致します。湊翔くんは立派に仕事を完遂させて、我々の中でも期待の超新星です」

 「そうなんです! ですから、今年も湊翔くんの事を出来るだけ配慮しつつお力をお借りするという手前ですね、こうして挨拶に来た次第です。

 ⋯⋯我々大人としては、完敗ですが」

 「そこまで正直に仰っていただくと、逆に信用してしまいます」

 上品に笑う静音。

 「ところで⋯⋯」
 
 静音の目線は、諸星会長へ。

 「あぁ。申し遅れてしまいました。私はこういうものでして」

 (いつぶりだろう。名刺をこんな下手に出すのは。だが昔を思い出すようで胸が高鳴るな)

 「も、諸星グループ⋯⋯」

 受け取った静音の手が若干だがプルプルしている。

 「ど、どういったご用件でしょうか?」

 世間での諸星グループの評価。

 白波はずっと長年続いてきたなんとなく水といえば?という伝統ある企業。

 諸星はここ数十年でほとんどの人間が知っているレベルまで成り上がったイケイケの企業というべき評価だろう。

 若者、専門生からも人気で、給与も大企業の中でもかなり高い。

 「私は諸星グループ会長の諸星道隆と申します」

 「かっ、会長さん!?かなりお若いのですね」

 「いえいえ。私はもう老人です。来年で70になりますが、これも湊翔さんのおかげで」

 ポカンとする静音を他所に。
 チラリと白波の二人を見つめ、諸星会長はニヤリと笑う。

 (ハハハハ!やはり!反応が良い。あの二人は伊崎くんの悪魔的力をまだ理解していないな?)

 これは、伊崎くんからの"信頼"と受け取っても構わないだろう。

 去年もあんな粋にプレゼントまで貰ったのに。

 自信満々に話す諸星会長をまじまじと隣で見つめる白波会長。

 (確かに。若いなんてレベルじゃないぞ?"若返りそのもの"じゃないか)

 白波会長は年齢で言えば若く見られ、容姿もある程度気を遣っている為イケオジという部類に入るのだが、諸星会長のソレとはモノが違う。

 (伊崎くん!後でこれは問いただす必要があるぞ)

 机で隠れて見えてはいないが、白波会長の拳は嫉妬で手汗をかくほどに力強く握られていた。

 (まずいぞ。完全にノーマークだった。もう他に関わっているなんて)

 後ろで控える木村は話を聞きながら白波会長の手元を見て冷や汗をかく。

 「私達はある偶然で出会いまして、こうして短い期間ではあるのですが、私からすれば家族よりも大事な存在になりつつあります」

 (会長、興奮していらっしゃるようで)

 諸星会長の後ろで控える平野は前で熱が入ったトークをしているのを眺め、内心笑っていた。

 だが、サバの件はあまり知らなかったな。
 妻が予約したというが、少し調べた方が良さそうだな。

 「そ、そこまで⋯⋯」

 「去年の秋頃からお付き合いの方を始めさせていただきまして、まだお母様お父様にお挨拶の方をしていなかった事もありまして、未成年である事を思い出しましてな」

 「あらぁ。うちの湊翔はこんな大企業の会長様に気に入られるような子供に。確かに東大入学する為に毎日一生懸命でしたけれど」

 ((え?あの少年が?))

 それぞれの初対面を思い出し、そんな奴だったかと内心真面目に天井を見つめる二人の会長。

 「湊翔くんは素晴らしい頭脳と能力をお持ちで。
 正直今すぐうちで永久に席を置いて我々を率いて欲しいくらいですよ、ハッハハハ!」

 「諸星グループのようなところでうちの息子がそこまでの評価を」

 「勿論ですとも! 個人的には今すぐ多大な投資をしたいのですがね。客観的にみても本人にとっても、あまりよく見えないのは重々承知の上ですから、一先ずは一緒に気持ちと言葉を交わしていくことが一番だと思っております」

 ハキハキと喋る諸星会長に静音は口元を隠してこれまた上品に笑った。

 「熱意が凄く伝わってきます。
 うちの息子は幸せ者です」

 (複雑ではあるが、二重の意味で必要であることに変わりはない)

 私の人生としても、ビジネスとしても。

 そうしてその後も10分程会話が繰り広げられた。

 主に二人の会長が恋人を欲しているようなトークだった。

 湊翔の良いところばかりを持ち上げながら、両親に自分たちをアピールしていく。

 そんな重圧でしかないやり取りを終えた二人の会長は、互いの車の前で最後に見合った。

 (小僧、相手を間違えるなよ?私の目が黒い内は好きにはさせんぞ)

 (あまり時間はない。諸星さんがあそこまで露骨に媚びてるということは、伊崎くんは初対面の時に言ってたとおり──もう他の人間も知ってる可能性が高い)

 「諸星さん、今後も手解きの方──よろしくお願いいたします」

 「ハハハ、何を言う。親密さはそっちの方が高いのだろう?まぁ礼儀として受け取っておく」

 会長が乗り込む。
 2つの車はそれぞれ別の方向へと進んでいく。

 「木村、サバの方は順調だな?」
 
 「勿論です」

 「伊崎くんと進めている鰻の方もどんどん進めてくれ」

 「承知しました」

 白波は現在からの進行を進め。

 「あの小僧、あれでは戦争をしようと言っているの変わらん!

 だが私はああいう若造が大好きだ!平野!」

 「あはは。ただ、会長の仰る通り、戦争になるかもしれません」

 ミラー越しに見つめ合う二人。

 「やはりか?」

 「はい。我々はあの悪魔じみた力を享受してるだけに過ぎません。その報酬として金銭や人という物を送り込んでいるに過ぎず、何か繋がりがあるわけでもないということが一番の問題です」

 (そう。そこが私としても一番引っかかりだな)

 「だな。血縁なんかよりそっちが急務だな」

 「⋯⋯はい!」

 「というより、伊崎くんはどこまで関わっているんだ?あの様子を見た限り、まだ私と小僧だけのようだが」

 「だといいんですが」

 「これで他にも関わっていたら──文字通り未成年の一人を巡って大の大人が権力振りかざしてどう引き込もうとするかの応酬だぞ」

 「間違いありません」

 小さく笑う諸星会長と言葉に苦笑いで返す平野。

 「伊崎くんは佐藤と数人の女を気に入っているようだな?平野が受け取った情報は?」

 「はい。他にも新人の永井、ちょくちょく風呂で身体を洗う担当らしい本田を気に入っています。

 どの女性からの報告も、悪いものはなくむしろ歓迎だと。

 しかも、一人一人としっかり対話も行っていて、関係は良好だと。

 ただエロガキ過ぎて笑ってしまうとほとんどの女性が」

 「本当あの少年は──文字通りただエロガキだな!」

 「間違いありません。今のところ日本で一番幸せなんじゃないかと思います」

 「女に全部やらせてるのか。我々は世界を駆けめぐってそんな生活を手にしたのは40手前だったのに」

 感慨深そうに窓の外を見る諸星会長。

 「時代は良いものです」

 「どうだ?今20人近くの人材を送り込んでいるが」

 「会長、おそらくフルで活用されています。まだいるかと」

 「女⋯⋯しかしな。あまり酷使させると碌な事にならんからなぁ」

 「ですね」

 「娘か」

 「計算だとそれが最も早い決断になるとかと」

 杏華か。家から出たがらず、男をあまり好まんのが欠点なんだが。

 「少し梨奈に連絡をとれ。話をしようと」

 「承知しました」

 諸星は次への攻撃を。

 ⋯⋯伊崎の知らぬところで、既に波紋は広がりつつあった。
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