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第一章

配信サービス開始(有料)〈2〉

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[メインシナリオ:灯台下暗し]

とにかく生き残ってください

難易度D
制限時間5日
報酬チュートリアル分、450GC
失敗時--死亡
逃走時--魂の処分


「え、詠視⋯⋯これってなんだよ?夢だよな?」

動揺しまくる雄大の肩に手を回す詠視。

「大丈夫だ。まず落ち着こう」
「お、お前なんでそんな落ち着いてんだよ」

正気を失いそうになりながら一拍置いてそう話す雄大。

「大丈夫、大丈夫だ。とりあえず水飲めよ」

 詠視がリュックの中からペットボトルの水を手渡す。それを受け取った雄大が一瞬で飲み干した。
 あまりに一瞬で飲み干したのを、驚きを隠せずに大きく見開いた瞳で見つめる詠視。

「は、はや」

気の抜けた声でそう一言雄大に言うと、気付けば人が変わったように落ち着いている。

「ありがとう詠視。とりあえず──」

雄大が目の前に見えるウインドウを再度読み直す。

「灯台下暗し⋯⋯ってことわざだよな?」

「まぁそうだよな」と詠視が当たり前だよなと鼻で軽く笑ってウインドウを見続ける。

だが──そんなゆっくりとした時間はとうに終わっている。レプリアがいなくなった講義室の中は完全にパニック会場と化していた。

『おい!さっきのはなんだったんだよ!』
『とにかく、これに書いてある生き残れって⋯⋯どういう事だよ』

一人の学生が怒りで唇を震わせながら拳を握り、複数の学生の言葉で講義室は静寂に包まれる。

'灯台下暗し'

余韻を残すように詠視が吐息混じりに呟く。

本当に知っているなら、現実と創作が交わったこの世界で、俺は答えを知っている。だが、そんな何千もあった話を俺がしっかり覚えているはずがない。

だが、ある程度なら記憶がある。この最初のメインシナリオの目的は一つ。

もう確定だと思うから断定する。
その上でまず話さなければならないのは、このレプリア率いるGalatube運営とその背後にいる存在との関係性の話だ。

チャンネルがオープンとあったさっきの表示は、まずリスナーを呼び込む為に最初は過激な事をするという手法をレプリア達は取る。

そうして視聴率を取ると、その背後にいる運営の力によってレプリア達は存在レベルと力が与えられる。

だから、レプリア達はわざわざ下等種族である俺達人類に対しても敬語や下から目線で話したりする。

しっかりとしたメリットがレプリア達にあるからな。

そしてこの最初のシナリオは、俺達をふるいに掛けるのが目的だ。現実でも面白くもないいらん奴はすぐに10秒スキップで飛ばすだろ?それと一緒で、面白くない⋯⋯まぁ配信を盛り上げる為に不要となる使えない人間をふるいに掛けて、やられ役として考えれば必要な犠牲ってやつだ。

とにかく、最初のふるいはかなり面倒くさい。

最初のシナリオ──それはゾンビパニックだから。


「ね、ねぇ」

女子大生の一人が、恐怖で心が抜けた声で発した。全員がそれに気付いて耳を傾ける。

「なんだよ?急げって。何に生き残るかなんて分かんねぇけど、とりあえず武器くらい持っといた方がいいだろ?」

そう男子学生の一人が、講義室一番後ろにある突っ張り棒を無理やり外して右手持って自身の肩へ乗せる。その絵はまさに不良が武器を持っているという絵面だ。

「雄大」

たった二文字だが、雄大が真剣な目つきで聞くくらいにはマジトーンの詠視。

「どうした?」
「とにかく──走るぞ」
「は?なんだよ突然。生き残るにはまず武器だろ?佐々木の言う通りだろ?」

顎で佐々木という先程の男を指す。だが詠視はお構い無しに足を動かす。

「待てって詠視」

'雄大、お前が言うことはごもっともだ'
だが、お前は知らないだろう。この変わった世界は──想像の10倍以上は地獄な世界感だということを。

「急げ、手遅れになる前に」
「皆で協力するのが早いだろ?」
「そんな事は分かってる」

「はぁ?」と理解出来ないと雄大の目には困惑という心情が読み取れる。

そう。分かってる。協力──。皆でどうにか結託して助け合おう⋯⋯それが出来たらどれだけ幸せだったか。

「行くぞ!雄大!」
「本気で言ってんのかよ!?」

突然走り出す二人の影を全員が不思議そうに見つめる。

「待ちなさい!」

ここぞとばかりに貫禄を表に出しながら二人に対して怒鳴る教授。

「なんですか?」
「君!さっさと席に戻りなさい!どうせお遊び──」
「その死体を見てもそう同じことを言えるんですか?」

詠視の冷静な一言を聞いて、教授は見たくもない死体をチラッと見下ろす。

「これは助言⋯⋯になるのかな。生き残れというこのシナリオ──武器で対抗出来るなんて思わないほうが良いです」
「なんだ?君は何か知っているのか!?だったら答えなさい!」
「そんな事が出来たらこんなこと言う訳無いじゃないですか!」

教授の話を遮って怒鳴り返す詠視。

そう。この変わった世界で、一番厄介なのは──時代が遥か昔に戻ったと錯覚するような殺伐とした空気や状況だ。

情報を出してはならない。情報が最大の武器。

主人公と物語から導き出されたこの世界での生き抜く方法だ。

俺は主人公じゃないし、誰だってハーレムを気付きたいとか、チート能力を貰って無双したいとか、色々な願望や欲望があるだろう?もう俺の思う通りなら、この時点で誰かに情報を与えるならそれ相応の対価を貰わないとただこちらが損をするだけ。

冷たく、冷酷な行動に見えるかもしれない。だが、現実が非情なのは薄々皆は気付いているだろう?

作者の言葉だ。

ーーー私達人間は、生まれてからずっと不平等であり、格差があります。そして、不平等はあって然るべきモノなのです。
 
ーーーなぜ?そう思いますよね?平等が良いだろうと。ですがどうでしょう?平等という言葉は、いつも弱者が言ってきた言葉ではないでしょうか?
 強者、または上の立場にいる者と言っても構いませんが、私が見てきた中でそんな事を言っている者を見たことがありません。

ーーー何もしない弱者が努力もせず、ただ平等を望む⋯⋯それって本当に平等なのでしょうか?私は違うと思います。平等じゃないと弱者が満足出来ず、妬みや嫉み、その他にあるだろう感情が弱者を無意識に痛めつけるのです。そうやって普通の人間達が勝手に暴走するんです。
そんな生物なのですよ、人間という種族は。

ーーーいいですか?皆さん。忘れないでください。何かを望むならば、それに値する対価を。それが、我々人間が人間としてブレない方法です。

「雄大、行くぞ」
「お、おい⋯⋯詠視」

キャラが変わったかと思いながら雄大はそう溜息混じりに呟いてそのまま扉を開けて走り出した詠視と雄大だった。

つづく
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