こちら、売買出来ます。またのご利用をお待ちしております。

ちょす氏

文字の大きさ
10 / 24

現実は

しおりを挟む
 大体の物語は、ハッピーエンドで終わる。
 何故かというと、そうじゃなければ娯楽として楽しめないからだ。
 俺はここに来るまでも小説や漫画をよく読んでいたが、冷静に考えたら⋯⋯ということがよくあった。

 魔王というのはそんなに弱いものなのか?
 勇者がそこまで急速に強くなる事があるのか?
 全員が全員ハッピーエンドを迎えるなんてあるのか?

 ⋯⋯まぁフィクションに言及するのは、なんつーか非常に良くないのは重々承知している。
 実際そうじゃなかったら娯楽ではなくなってしまう。
 せっかく買って気分が沈む小説や漫画を読んで喜ぶのは一部であり、大多数の人間は「買うかこんな作品」となるのが普通ではないだろうか。

 俺はこのギフトを手にして時間が経ち、まぁ1000人行かないほどの人間と取引してきた。
 "良く"も"悪く"もこの能力はバレてはいけない。
 今もこうして誰にも全容を明かしていないのは、この画面を見せるか大いに悩んだからだ。


 [名前:ハンナ32歳]
 [残り寿命:26年29日9時間1分17秒] 

 
 ⋯⋯決して俺は神ではないだろう。
 創造神というフィクションは現実となり、人に能力を与える。そんな全知全能の神様によってこうした事ができるようになっているのだから、間違いない。

 しかし、時間を操るような、まぁそんな錯覚に陥る程のギフトを得たのも事実である。

 そして俺、

 [名前:ノアエイン16歳]
 [残り寿命:1603年2日1時間6分5秒]

 理解できるだろうか?
 ざっくり言うと、俺は時間操作系の上位互換とも言うべき能力を手にしている状態だ。
 この画面が見えるだけでなく、これを様々なものに"移す"事も可能になった。正確には最近出来るようになった、だが。

 これがどういう事か分からないほど思考が回らない訳でもないだろう。
 
 [名前:ビレイユ(未発達)]
 [残り寿命:1年9日1時間30分]

 近くにあった異世界版サトウキビだ。
 これに時間を加速させて収穫することが可能だ。
 某ドラマの時間停止に近い能力なんかも使える。

 このギフトはそんな厨二病を叶えてくれる優れものだが。
 こうして、人の寿命を刈り取る事も可能で、現にこうしてまた例の女性が現れてしまう。
 
 「この間取引したばかりだと思いますが⋯⋯」
 「は、はい!分かってはいます!」

 見えないがおそらくスボンを強く握っている。
 本人が一番分かっている⋯⋯か。

 「良くも悪くも、私達は正当な取引で行っておりますのでなんともありませんから取引はいたしますが、本当によろしいのですか?この間といい、複数の取引は毒となります」
 「⋯⋯はい、お願いします」

 深々と頭を下げられても困るよ。こっちの気持ちも考えて欲しいもんだね。

 「何年に?」
 「10年です」
 「後悔はない? もう一度良く考え直したほうがいいと思うよ?」

 神懸かった能力だが、神そのものではない。
 俺自身が行使するならばデメリットはないし、メリットしかない。だがビジネスとして行うならば、正当なものだ。
 しっかりと対価として現にこんなハンナさんは普通以上の速度で老いていく。
 ここから更に十年、だ。

 「それしか方法がありません」
 「では取引するということでお間違いないですね?」
 「⋯⋯はい」

 手を翳し、念じる。
 そしてリンダを呼んで枚数確認終えてハンナさんの前に金貨が入った袋を乗せる。

 「ご確認を」
 「ありがとうございます!」
 「いえいえ。こちらは正当な対価を頂いていますから。では、またのご利用をお待ちしております」

 マスターに連れられ、ハンナさんはこの場から消えていく。

 俺は彼女の後ろ姿を見ながらふと考えに耽る。王道で贅沢な悩みだ。
 この能力は、使い方次第で人々を救うことも、破滅させる事もできる。少なくとも俺は、できる限り有効に使っているつもりだ。誰かが得をすれば、誰かが損をする。
 俺はただ、その仕組みを少し効率的にしているだけだ。

 胃痛がしていそうなリンダにアルトンが蹴りを突っ込みで入れている。

 「顔に出すぎだぞリンダ」
 「本当よ! 仕事なんだから少しは考えなさいよ」
 「いや、流石に⋯⋯」

 まぁ三人の言いたいことは分かる。
 
 「ねぇお頭? あれって本当に同一人物なんだよね?」
 「あぁ。同一人物だ」
 「あんなのって⋯⋯」

 黙って俺は彼らの反応を見ていた。彼らの困惑している姿を見て、自分の立場を思い出す。
 ハンナの寿命が減り、代わりに彼女は金を得る。単純な等価交換だ。感情を挟む余地はない。

 まぁ要するに、俺以外からすれば、神懸かった能力ではなく、寿命を刈り取っているだけなので年齢の劣化がすぐに始まる。
 第三者から見たら、それが一発で分かってしまうのだが、本人は自覚するのにかなりの時間が掛かる。

 この世界には鏡も無いしな。貴族が独占状態だから。

 「旦那は知らないのよね?」
 「⋯⋯あぁ」
 
 俺の返事に三人がなんと言えない複雑な表情を浮かべ、俯いていた。
 一方完全に慣れている俺は、そのままテーブルに並んでいるこの世界では高級な肉と野菜をムシャムシャ口にして味わう。

 「お頭は慣れてそうっすね」
 「まぁな」

 ──この世界はかなりフィクションだとしたら楽しめない。
 こういった事が今も何処かで起こっているだろう。
 現実はクソッタレということだけがハッキリと事実として突き付けられている。
 俺は今までそんな世界をフィクションとして楽しんでいたが、当事者となると話が変わってくる。
 もう俺はこの世界の住人としてここに存在している以上、情けだの可哀想だのそんな情は一瞬しか湧かない。
 俺に出来るのは一部始終をしっかりと心の中で捉え、焼き付ける事。それだけだ。

 きっと薄情者と言う奴らが出てくるだろう。
 しかしこのビジネスは縮小していても白金貨以上の価値と需要を産んでいる。
 金はどんなに汚くても、金でしかない。

 偉いやつが渡す溢れた飯も。
 貧乏人が一生懸命作った飯も。

 両方共同じ飯であるように。

 現実はクソッタレ⋯⋯そういうこった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

処理中です...