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ちょす氏

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現実は

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 大体の物語は、ハッピーエンドで終わる。
 何故かというと、そうじゃなければ娯楽として楽しめないからだ。
 俺はここに来るまでも小説や漫画をよく読んでいたが、冷静に考えたら⋯⋯ということがよくあった。

 魔王というのはそんなに弱いものなのか?
 勇者がそこまで急速に強くなる事があるのか?
 全員が全員ハッピーエンドを迎えるなんてあるのか?

 ⋯⋯まぁフィクションに言及するのは、なんつーか非常に良くないのは重々承知している。
 実際そうじゃなかったら娯楽ではなくなってしまう。
 せっかく買って気分が沈む小説や漫画を読んで喜ぶのは一部であり、大多数の人間は「買うかこんな作品」となるのが普通ではないだろうか。

 俺はこのギフトを手にして時間が経ち、まぁ1000人行かないほどの人間と取引してきた。
 "良く"も"悪く"もこの能力はバレてはいけない。
 今もこうして誰にも全容を明かしていないのは、この画面を見せるか大いに悩んだからだ。


 [名前:ハンナ32歳]
 [残り寿命:26年29日9時間1分17秒] 

 
 ⋯⋯決して俺は神ではないだろう。
 創造神というフィクションは現実となり、人に能力を与える。そんな全知全能の神様によってこうした事ができるようになっているのだから、間違いない。

 しかし、時間を操るような、まぁそんな錯覚に陥る程のギフトを得たのも事実である。

 そして俺、

 [名前:ノアエイン16歳]
 [残り寿命:1603年2日1時間6分5秒]

 理解できるだろうか?
 ざっくり言うと、俺は時間操作系の上位互換とも言うべき能力を手にしている状態だ。
 この画面が見えるだけでなく、これを様々なものに"移す"事も可能になった。正確には最近出来るようになった、だが。

 これがどういう事か分からないほど思考が回らない訳でもないだろう。
 
 [名前:ビレイユ(未発達)]
 [残り寿命:1年9日1時間30分]

 近くにあった異世界版サトウキビだ。
 これに時間を加速させて収穫することが可能だ。
 某ドラマの時間停止に近い能力なんかも使える。

 このギフトはそんな厨二病を叶えてくれる優れものだが。
 こうして、人の寿命を刈り取る事も可能で、現にこうしてまた例の女性が現れてしまう。
 
 「この間取引したばかりだと思いますが⋯⋯」
 「は、はい!分かってはいます!」

 見えないがおそらくスボンを強く握っている。
 本人が一番分かっている⋯⋯か。

 「良くも悪くも、私達は正当な取引で行っておりますのでなんともありませんから取引はいたしますが、本当によろしいのですか?この間といい、複数の取引は毒となります」
 「⋯⋯はい、お願いします」

 深々と頭を下げられても困るよ。こっちの気持ちも考えて欲しいもんだね。

 「何年に?」
 「10年です」
 「後悔はない? もう一度良く考え直したほうがいいと思うよ?」

 神懸かった能力だが、神そのものではない。
 俺自身が行使するならばデメリットはないし、メリットしかない。だがビジネスとして行うならば、正当なものだ。
 しっかりと対価として現にこんなハンナさんは普通以上の速度で老いていく。
 ここから更に十年、だ。

 「それしか方法がありません」
 「では取引するということでお間違いないですね?」
 「⋯⋯はい」

 手を翳し、念じる。
 そしてリンダを呼んで枚数確認終えてハンナさんの前に金貨が入った袋を乗せる。

 「ご確認を」
 「ありがとうございます!」
 「いえいえ。こちらは正当な対価を頂いていますから。では、またのご利用をお待ちしております」

 マスターに連れられ、ハンナさんはこの場から消えていく。

 俺は彼女の後ろ姿を見ながらふと考えに耽る。王道で贅沢な悩みだ。
 この能力は、使い方次第で人々を救うことも、破滅させる事もできる。少なくとも俺は、できる限り有効に使っているつもりだ。誰かが得をすれば、誰かが損をする。
 俺はただ、その仕組みを少し効率的にしているだけだ。

 胃痛がしていそうなリンダにアルトンが蹴りを突っ込みで入れている。

 「顔に出すぎだぞリンダ」
 「本当よ! 仕事なんだから少しは考えなさいよ」
 「いや、流石に⋯⋯」

 まぁ三人の言いたいことは分かる。
 
 「ねぇお頭? あれって本当に同一人物なんだよね?」
 「あぁ。同一人物だ」
 「あんなのって⋯⋯」

 黙って俺は彼らの反応を見ていた。彼らの困惑している姿を見て、自分の立場を思い出す。
 ハンナの寿命が減り、代わりに彼女は金を得る。単純な等価交換だ。感情を挟む余地はない。

 まぁ要するに、俺以外からすれば、神懸かった能力ではなく、寿命を刈り取っているだけなので年齢の劣化がすぐに始まる。
 第三者から見たら、それが一発で分かってしまうのだが、本人は自覚するのにかなりの時間が掛かる。

 この世界には鏡も無いしな。貴族が独占状態だから。

 「旦那は知らないのよね?」
 「⋯⋯あぁ」
 
 俺の返事に三人がなんと言えない複雑な表情を浮かべ、俯いていた。
 一方完全に慣れている俺は、そのままテーブルに並んでいるこの世界では高級な肉と野菜をムシャムシャ口にして味わう。

 「お頭は慣れてそうっすね」
 「まぁな」

 ──この世界はかなりフィクションだとしたら楽しめない。
 こういった事が今も何処かで起こっているだろう。
 現実はクソッタレということだけがハッキリと事実として突き付けられている。
 俺は今までそんな世界をフィクションとして楽しんでいたが、当事者となると話が変わってくる。
 もう俺はこの世界の住人としてここに存在している以上、情けだの可哀想だのそんな情は一瞬しか湧かない。
 俺に出来るのは一部始終をしっかりと心の中で捉え、焼き付ける事。それだけだ。

 きっと薄情者と言う奴らが出てくるだろう。
 しかしこのビジネスは縮小していても白金貨以上の価値と需要を産んでいる。
 金はどんなに汚くても、金でしかない。

 偉いやつが渡す溢れた飯も。
 貧乏人が一生懸命作った飯も。

 両方共同じ飯であるように。

 現実はクソッタレ⋯⋯そういうこった。
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