TRPG企画-Ordeals of Sky/Air

伊阪証

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第一部バッドエンド「平坂異岸」

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人の身体から、部位が消える。 それは事故や暴力といった熱量のある出来事の結果ではなく、もっと静かに、内側から起こる冷たい崩壊だった。まるで元から、そこに無かったかのように。あるいは、身体が心に見切りをつけ、不要だと判断したかのように。 原因不明のその病を、人々は諦めを込めて『欠損病』と呼んだ。 強い自己不信や、埋めがたい喪失感を抱いた時。人の心が生み出す影が、その身を物理的に蝕んでゆく。 治癒法はなく、誰もが、いつか自分が消えてしまう恐怖と隣り合わせで、息を潜めるように生きていた。
宇野刹那は、看護師である。 そして、この静かに終末へ向かう世界で、おそらく唯一、欠損することがない人間だった。 なぜなら、彼女には『心』がなかったからだ。
鏡に映る自分の顔に、何の感慨も湧かない。患者の涙を見ても、自らの内には何のさざなみも立たない。他者への共感、罪悪感、良心、何かを愛おしむ気持ち。人間を人間たらしめる内的な働きそのものが、彼女の中にはプログラムされていなかった。 故に、彼女は悩まない。後悔しない。自分を疑うこともない。 その身体は、傷一つなく完璧なままだった。
彼女が働く白澤記念病院では、皮肉にも、医者こそが最も重い症状を抱えている。
刹那がカルテを運びながら、磨かれたリノリウムの廊下を進む。その向こうから、壁に片手をつき、まるで水面を滑る幽霊のように人影が近づいてきた。内科部長の白石先生。彼女の両足は膝から下がなく、常に数センチ浮遊している。完璧な診断を下せない自らの不確かさが、彼女から文字通り「地に着ける足」を奪ったのだ。 「宇野君、カルテの整理を頼む。私の考察は、どうにも地に足がついていないようでね……」 自嘲する声だけを残し、彼女は刹那の横を通り過ぎていく。刹那は完璧な角度でお辞儀をすると、その背中を一つの視覚情報として処理し、記録を完了した。
滅多に使われなくなった旧手術室の前で、腕を組んだまま石像のように佇んでいるのは、外科部長の赤染先生だった。その両手は、手首から先が存在しない。かつて神の手と謳われた彼女は、救えなかった一つの命への後悔から、自らの象徴を失った。刹那は彼女の横を、その存在に気づいていないかのように、一定のペースとリズムで歩き去る。
精神科部長の小鳥遊先生は、常に厚いヴェールで顔を隠している。患者の心に寄り添いすぎた結果、他者との境界線を見失い、彼女は「自分の顔」を失ったのだ。刹那は、彼女の診察室のドアを規則通り三回ノックし、書類の盆を差し出す。ヴェールの奥から差し出された手がそれを受け取るだけで、言葉も、視線も交わらない。
刹那は、彼女たちをただの「症例」として認識する。 白石先生の焦りも、赤染先生の絶望も、小鳥遊先生の悲しみも、彼女の心には届かない。 空っぽな硝子の瞳で、今日も完璧に業務をこなし、人間が壊れていく様をただ、記録していく。 彼女のカルテの、体温も脈拍も全てが正常な自身のページには、ただ一言、こう書かれていた。 【特記事項:心臓、機能的に正常。ただし、心(こころ)を観測できず】
________________


その日、三人の部長は一つの結論に至った。白石先生のオフィスに集まった彼女たちは、宇野刹那のカルテを囲んでいた。 「医学的に、彼女は完璧すぎる。それが異常なのよ」 壁に寄りかかりながら、白石先生が呟く。 「ああ。あの空っぽのまま、患者の死に際に立ち会わせるのは……冒涜ですらある」 動かない腕をさすりながら、赤染先生が吐き捨てるように言った。 ヴェールの奥から、小鳥遊先生が静かな声で紡ぐ。 「……心は、医療の根幹です。私たちは、それを彼女に与えなければなりません。たとえ、それが……」 言葉は途切れたが、三人の意思は固まった。 それは、それぞれの専門知識と絶望のすべてを懸けた、宇野刹那という完璧な存在を終わらせるための、悲壮な治療計画の始まりだった。
最初の治療は、白石先生が担当した。刹那は研究室に呼ばれ、あらゆる検査を受けた。fMRIの硬質な筒の中で点滅する光を見つめ、腕には無数の電極を取り付けられた。脳波、血中ホルモン、神経伝達物質。彼女の身体から引き出されたあらゆるデータは、モニター上で美しいほど完璧な正常値を示した。 「感情負荷テストを開始します。目の前の映像を見てください」 スピーカーから白石先生の声が流れる。スクリーンに映し出されたのは、親子の愛情、恋人たちの別れ、戦場の悲劇。刹那は瞬きもせず、それらを網膜に焼き付ける。彼女の脳の扁桃体は、美しい風景画を見た時と全く同じ反応しか示さなかった。 「……理解不能よ」 白石先生は、完璧な波形を描き続けるモニターを前に、自身の足元がさらに透けていくような無力感に襲われていた。
次に動いたのは、赤染先生だった。 「机上の空論は時間の無駄だ。現実を叩き込むしかない」 刹那は、救急外来の最も過酷なシフトに配置された。運び込まれてくる、血に濡れた身体。泣き叫ぶ家族。そして、手の施しようのない、静かな死。 ある夜、幼い子供が刹那の腕の中で息を引き取った。母親が泣き崩れ、父親が壁を殴る。刹那はマニュアル通りに死亡時刻を記録し、教科書通りの弔いの言葉を述べた。 「ご愁傷様です」 その声には、何の抑揚もなかった。 処置室の片隅で、赤染先生は動かない自分の手を見つめていた。その手で、目の前の少女を救いたかった。その手で、感情なく佇む刹那の頬を、張り飛ばしたかった。
最後の試みは、小鳥遊先生に委ねられた。精神科の診察室。穏やかなクラシックが流れる中、刹那は椅子に座っていた。 「刹那さん。悲しい、という気持ちは、冷たい雨に打たれるような感覚です。でも、その雨が上がるから、人は空の青さを知ることができるのです」 ヴェールの奥から、小鳥遊先生が詩を紡ぐように語りかける。美しい音楽、感動的な物語、人間の感情のサンプル。刹那はそれをすべて聞き、音声データとテキスト情報として完璧に記憶した。だが、彼女の硝子の瞳は、春の陽だまりの暖かさを知らず、冷たい雨の痛みに濡れることもなかった。 小鳥遊先生は、空っぽの器に水を注ぎ続けるような、果てしない徒労感に、ヴェールの下で静かに涙を流した。
三人の医師たちのアプローチは、すべて失敗に終わった。刹那の空虚さは、びくともしなかった。 だが、その試みは、まったくの無駄ではなかったのかもしれない。 彼女の内部に、膨大な『心』に関するサンプルデータが、ただ静かに蓄積されていった。 まだ芽吹かぬ、心の種のための、無機質な土壌として。
そして三人が諦めかけたその時、一人の患者が、この第四病棟に運び込まれてきた。
________________


その男は、静かな月の夜に運び込まれてきた。ストレッチャーの上で毛布を掛けられた彼は、まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていた。 「患者名、湊(みなと)アキオ。症例は……胸部の物理的欠損。心肺機能は、不明な原理で維持されています」 報告する救急隊員の声も、信じがたいものへの戸惑いに震えている。白石先生がライトで彼の胸元を照らし、息を呑んだ。シャツの切れ目から覗くのは、向こう側のシーツが見えるほどの、完全な空洞だった。 「……ありえない。これでは生きているはずがないわ」 その異常な症例を前に、三人の医師たちの顔に緊張が走る。 そして、この特異な患者の担当看護師として、宇野刹那が指名された。
刹那は、湊アキオの病室に入った。男は窓際のベッドで、静かに月を見ていた。刹那は彼のバイタルを計測する。体温、36.5度。脈拍、72。血圧、120の80。全てが正常値。胸に巨大な穴が空いていること以外は、健康な人間そのものだった。 刹那が淡々と数値をカルテに書き込んでいると、男がゆっくりとこちらを向いた。 「君が、担当の看護師さん?」 穏やかな声だった。刹那は無感情な瞳で彼を見返し、完璧な角度で頭を下げる。 「宇野刹那です。よろしくお願いいたします」 「ああ、よろしく。宇野さん。綺麗な名前だね」 男はそう言って、少しだけ笑った。その笑みには、他の患者たちが浮かべるような諦めも、恐怖も、絶望もなかった。刹那の内部で、データベースのどこにも分類できない表情データとして、それが記録される。
翌日、刹那は彼の胸のガーゼを交換するために、再び病室を訪れた。 露わになった彼の欠損は、痛々しいというよりも、非現実的な光景だった。がらんどうの胸の奥、本来あるべき心臓の場所には、ただ空虚な空間が広がっている。 刹那が機械的な手付きで処置を進めていると、湊がぽつりと言った。 「事故でね。妻と娘が、逝ってしまったんだ」 刹那の手が一瞬、コンマ数ミリだけ止まる。 「……」 「悲しいとか、辛いとか、そういうのを通り越して……ああ、俺の心は、あいつらと一緒に逝ったんだなって。そう思ったら、こうなってた」 彼は自分の胸の穴に、慈しむような視線を落とす。 「でもね、不思議と、怖くはないんだ。この穴があるから、あいつらが確かに俺の中にいたってことが、わかるから」 そう言って、彼は刹那を見た。そして、昨日と同じように、穏やかに笑った。
刹那は処置を終え、無言で病室を後にした。 ナースステーションに戻る廊下を、いつもと同じ歩幅、同じ速度で歩く。 だが、彼女の内部では、今まで経験したことのないシステムエラーが発生していた。 『欠損は、自己不信と喪失感からくる身体の異常である』 『故に、患者は欠損を恐怖し、忌避する』 それが、彼女のデータベースにおける絶対的な定義だった。湊アキオの言葉と、あの笑顔は、その定義に当てはまらない。 『欠損を、肯定する』 理解不能なバグ。論理回路の行き止まり。 刹那は、ナースステーションの自席に戻ると、湊アキオの電子カルテを開いた。そして、スクロールする手を止め、彼の顔写真のデータを、ただ、じっと見つめていた。 彼女の完璧な思考回路に、初めて『なぜ?』という名の、無視できないノイズが走り始めていた。
________________


その日から、宇野刹那の完璧なルーティンに、僅かな乱れが生じ始めた。 回診のルートが、必ず湊アキオの病室で終わるようになった。カルテの更新という名目で、彼女は彼のベッドサイドに立つ時間が増えていく。 最初は、データを補完するための、無機質な質問だった。 「なぜ、恐怖を感じないのですか」 「欠損を肯定する、という論理的根拠は」 湊は、その奇妙な問いにも嫌な顔一つせず、穏やかに答えた。 「怖いとか、そういうのはもう、通り越しちゃったんだよ。それよりも、あいつらを忘れてしまう方が、ずっと怖いからね」 彼は、刹那に失った家族の話をした。 娘が好きだった金木犀の、甘く澄んだ香りの話。妻が作る、少しだけ味の濃い肉じゃがの、湯気の向こうにある笑顔の話。三人で出かけた海辺で撮った、色褪せた写真の話。 それは、刹那のデータベースには存在しない、温かく、柔らかく、そして少しだけ切ない、生きた記憶の数々だった。 刹那はそれを記録しながら、かつて医師たちが提示した『感情』のサンプルデータに、湊の言葉が次々とタグ付けされていくのを感じていた。 『愛おしい』とは、金木犀の香りを思い出すことか。 『悲しい』とは、もう二度と味の濃い肉じゃがを食べられないことか。 データが、初めて意味を持つ情報へと変換されてゆく。
三人の医師たちは、その微細な変化に気づいていた。 「彼女の行動ログだ。湊氏の病室への滞在時間が、ここ数日、異常に増えている」 白石先生は、モニターのグラフを指し示し、信じられないものを見る目で呟いた。 「先日、彼女が湊氏のベッドサイドにいるのを見た。あの横顔には……影があった。今まで、彼女には色がなかったというのに」 赤染先生は、動かない自分の手を握りしめながら言った。 小鳥遊先生は、ヴェールの奥から、静かに窓の外を見つめていた。 「……私たちの計画は失敗しました。ですが、あるいは……。今は、見守りましょう。彼女の内側で、何かが生まれようとしているのを」
刹那の内側で、確かに何かが生まれようとしていた。湊の話を聞くたび、胸のあたり、心臓があるはずの場所に、名付けようのない疼きが走る。それは痛みではない。カルテに記録できない、未知の感覚。 鏡に映る自分の顔が、時折、自分のものではないように見えた。眉間に寄せられた、わずかな皺。それが『困惑』という表情データに近いことを、彼女は理解した。 湊の身体は、穏やかな日差しの中で、少しずつ希薄になっていっていた。話す声はかすれ、肌の透明感が増していく。 彼の存在が失われていくことに比例して、刹那の中の疼きは強くなっていく。 それはやがて、一つの明確な形を取り始めた。
『この情報源を、失いたくない』
それはまだ、心と呼ぶにはあまりに拙く、原始的な欲求だった。 だが、がらんどうだった器に注がれた、最初の、そしてあまりに熱い一滴だった。 宇野刹那が、『人間』になるための、最後の一歩が踏み出されようとしていた。
________________


その日は、空が燃えるような夕焼けに染まっていた。 湊アキオの呼吸は、もうほとんど聞こえないほど弱々しくなっていた。彼の身体は、夕陽の光を透かし、向こう側の壁の色をぼんやりと映している。 刹那は、彼のベッドの横で、ただじっと座っていた。マニュアルにはない、完全に彼女自身の意志による行動だった。 湊が、ゆっくりと目を開ける。その瞳は、もはや刹那の顔を正確には捉えていないようだった。 「……ああ、宇野さんか」 かろうじて紡がれた声は、風の音のようだった。 「そこに、いてくれたんだな……」 「……はい」 刹那の口から、初めて、業務以外の返事がこぼれた。 湊の口元に、最後の笑みが浮かぶ。 「なんだ……。君も、ちゃんと……心があるじゃないか。……笑った顔、見せてくれよ……」 その言葉の意味を、刹那はまだ理解できなかった。だが、彼女は無意識に、湊のかすかに動いた指先に、自分の手を伸ばしていた。 刹那の指が、湊の指に触れた、その瞬間。 湊アキオの身体は、夕陽の光に溶けるように、きらきらと輝く無数の粒子となって、静かに霧散した。 彼の温もりだけを、指先に残して。
がらんどうの病室。空になったベッド。 刹那は、自分の指先に残った微かな温もりを、ただ見つめていた。 次の瞬間、彼女の内部で、堰き止められていた情報の奔流が、堰を切った。
金木犀の香りを思い出すことが『愛慕』。 二度と食べられない肉じゃがを思うことが『悲嘆』。 救えなかった命の重さが『後悔』。 湊が遺してくれた温もりが『喜悦』。 そして、彼がもういないという絶対的な事実が『絶望』。
医師たちが与えようとして失敗し、湊がその命と引き換えに遺していったもの。 『心』が、宇野刹那の中に、ついに産声を上げた。 彼女の頬を、一筋の熱い雫が伝う。 それが『涙』だと認識した時、彼女は初めて人間になった。
そして、人間になった彼女は、この世界の絶対的な法則に、初めて囚われた。
ひたり、と。 胸のあたりに、氷を当てられたような冷感が走る。 刹那は、自分の胸元を見た。白いナース服の、心臓があるあたりが、まるで黒い染料を垂らしたかのように、内側から空虚な色に侵食されていく。 窓ガラスに映る自分の姿。 そこには、湊と同じように、胸にぽっかりと穴が空き始めた、絶望した顔の女が立っていた。 初めて感じる、痛み。初めて感じる、恐怖。そして初めて感じる、自分が失われていくという、絶対的な喪失感。
「……宇野君!」 白石先生の悲鳴のような声が、遠くに聞こえる。 なすすべもなく立ち尽くす三人の医師たちを前に、刹那は、自らの胸に空いた穴に、そっと手を当てた。 痛い。怖い。悲しい。苦しい。 けれど、その穴の奥には、確かに湊アキオが遺してくれた温もりが宿っていた。 『この穴があるから、あいつらが確かにいたってことが、わかるから』 男の言葉の意味を、彼女は今、自らの身体で理解した。
宇野刹那は、ゆっくりと顔を上げた。 その頬を涙で濡らしながら、彼女は、生まれて初めて、微笑んだ。 それは、痛みと悲しみと、そしてどうしようもないほどの愛しさに満ちた、あまりにも美しい、人間の笑顔だった。
________________


数日後。白澤記念病院は、以前と何も変わらない、静かな絶望に満ちていた。 ただ、宇野刹那という看護師が、いなくなった。
内科部長室。白石先生、赤染先生、小鳥遊先生の三人は、言葉もなく窓の外を眺めていた。机の上には、一枚のカルテが置かれている。宇野刹那の、最後の記録。 最初に沈黙を破ったのは、白石先生だった。 「……彼女の最後のバイタルデータよ。心拍、呼吸、血圧……あらゆる数値が、感情の昂ぶりを示す、極めて『人間的』な乱れを見せていたわ。そして欠損が始まり、生命活動が停止した。医学的に言えば、それだけ。でも……」 彼女は、自身の透けた足元を見つめる。 「私たちの理論では、最後まで、彼女の『心』そのものは観測できなかった。観測できないものが、彼女を人間にし、そして殺した……。私たちの医学は、なんて無力なのかしら」
「無力、か。違うな」 赤染先生が、吐き捨てるように言った。動かない腕を、もう一方の手で強く握りしめる。 「我々は、傲慢だったんだ。空っぽの器に、無理やり『心』なんてものを注ぎ込もうとした。それが正しいことだと信じて。結果がこれだ。我々は治療と称して、ただ一つの完璧な存在を、この世界の法則で裁ける、不完全な人間に引きずり下ろしただけだ。……我々は、彼女を殺したんだよ」
重い沈黙が、部屋を支配する。 やがて、ヴェールの奥から、小鳥遊先生の静かな、しかし凛とした声が響いた。 「いいえ、違います」 二人の視線が、彼女に集まる。 「彼女は、殺されたのではありません。……彼女は、初めて自分の意志で、人間になることを選んだのです。そして、人間として、その生を全うした。たとえ、それがほんの数分間のことであったとしても」 彼女は、二人の顔をまっすぐに見つめる。 「私たちは、彼女の最後の顔を見たでしょう? あの笑顔を。あれは、絶望の顔ではなかった。痛みの中で、それでも何かを得た、充足の顔でした。……彼女は、壊れたから死んだのではありません。完成したから、死んだのです」
その言葉に、誰も反論できなかった。 彼女は、がらんどうだったからこそ完璧だった。 そして、心を得て愛を知ったからこそ、人間として完成し、そして壊れた。 それが、宇野刹那という症例の、あまりにも皮肉で、美しい結末だった。
白石先生は、刹那のカルテを手に取ると、万年筆で最後の記録を書き加えた。 それは医学用語ではない、ただ一言。
【症例名:宇野刹那】 【経過:―――人間となる】
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