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第二部バッドエンド「認知的不協和」
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あの日、自分の心臓は半分を差し出した。
彼女の身を守る為に。
ほんの少し、迷っただけだ。
彼女に一秒でも多く注目されたかった、それだけだ。
自分に心得はない、心しかない。
無様と笑ってくれ、長生きなんて出来ないのだから。
自分には野望がある、夢がある。
それ即ち、商社マンである。
数学と社会を磨き、英語も伸ばす。
経済学部を目指し、そこでマーケティングにも手を出し、営業能力を身に付ける。そして、その果てに旅をする。
具体的な物、それぞれに目的や指針を用意して試している所だ。
・・・だが、それを許さないある欠点がある。
「義一!起きているか!?」
その教師は怒りをぶつけているのではない、心配を催しているのだ。
・・・自分は、心臓が酷く脆い。気温、エネルギー量、血圧・・・様々な状況で心停止とまでは行かずとも身体が酸素不足になる。貧血と同じ仕組みで悪化し、即座に酸欠になるのだ。
それを支えるのが・・・。
青空星奈、告白され過ぎる女、回転寿司が如く捌いていく見事な手腕の女だ。・・・そして、自分が馬鹿な事をしているから生きていた女だ。
「・・・大丈夫?」
「・・・ああ。」
誰かに心臓の鼓動を押し当ててもらい、生き延びる。
半分が潰れた心臓に一番相性が良いのは彼女だ。誰でも出来るは出来るが、彼女との相性は別格だ。
この心臓は脆い、だが、彼女さえいれば多少の距離は問題無い。
家に帰れば家族の心臓を借り、生き延びる。
不便だが、星奈が死ななくて良かった。
私は、青空星奈。昔から人に好かれた。
ある時、それが理由で銃により撃たれた筈だった。
殺意が篭もりすぎた高速弾は、彼では受け止め切れずに私の心臓に刺さった。
しかし、浅かったから多少傷があるだけで、別の心臓に交換して事なきを得た。
・・・その時、研究者に依頼され、手術費用の免除の代わりに特殊な心臓を渡すと契約した。・・・最初は何の為か分からなかったが、すぐに彼の心臓が半分無くなり、それを支える為に私がいると把握した。私ではなく、彼の為だ。彼には合わなかったらしいが・・・その辺は考えなかった。一緒にいる理由になるから、運命めいた何かだと信じた。
・・・ずっと接触している内に、一時期は一緒に寝たし、一緒にお風呂に入った。
優しいけど無謀、普通優しい人は自分にも甘いから物足りないけど、彼は違う。
私の気分の善し悪しを問わず、受け止めては、脆い心臓を必死に動かして、同じ様に振舞ってくれる。
可愛いのに、上に立っている様な感じがする。
まぁ、取り敢えず私が彼が好きだという事に変わりはない。それはあの日からではない、一緒に居たからかもしれない。・・・分からないけど。
その心臓は、煌めく様に鼓動する。
波が通り過ぎる様に上から下へ、跳ねる様に。
ゆっくりとしているのに、激しさを宿す。
彼に愛はあるが、恋を向けてはいない。自然の摂理を砕く様な、証明し難いあの感情ではない。
それが不思議だった。
溜息は安堵の印、そして、それと同時に、自分にとっての春風であった。
邪神に関してを調べる本が急速に増えた。それも大半が表に出ず、しかし本棚一つを占領しているから多いと言って差し支えない。ホラーコーナーが増えた様なものだ、先ず小中高が一括りになった特殊な図書室、一つ分も大した数ではない。
夜の陽射しが遠くより届く。自分は背後で寝惚けた星奈ではなく、不思議と彼女と同じ気配を宿す女に声を掛けた。
星奈に似ている様で違う。見覚えはないが、目を逸らせない。怯えではない、美貌に惚れそうだった。
「・・・ねぇ・・・って。」
星奈は迷いと直進から入れ替わり、逆の事をぶつけようと近寄る。
一悶着は置いておき、去った後に話し出す。
「あの女、多分邪神という奴じゃないか?」
「え?じゃあなんで?というか昔からそういうの信じるタイプだよね。」
「こんな身体だぞ、信じない訳がない。」
騎士と姫、そして妖怪の話。
「人魚はセイレーンを由来とする空想上の生物だ。」
「それがどうかしたの?」
「ギリシャで始まったこれだが、自分はその背景をフェニキア人への憧れか、船上で精神的に堪えた人間が編み出した妄想だと推測する。」
「・・・妄想が脈々と続いてるね。」
「人間は海路の強さを証明する象徴だと言える訳だ。しかしベルゼブブという悪魔を異邦の神バアルを侮辱する為に作り上げた様に、あの時代のあの場所はあまりにの侮辱が多かった。邪神になるのが人を発端にしたものであるなら、この邪神はきっと露悪的なものになるだろうと思う。」
「(さっきの子にそう感じたのかな・・・。)」
「それは人の責任であり、人の咎だ。」
それはつまり、人の手でどうにか出来る範囲の問題であると。
「もし、この馬鹿みたいな話が事実だったら、君は僕についてきてくれるか?」
悪しきは愚か故、また、その善悪は一般的価値観と同じものではない。悪とは、その後の人類がそれ以上に賢く、倫理的であった時に正しき一般となる。
「着いて行かなきゃダメでしょ?悪いとも嫌だとも思ってないから安心しなさいな。」
その歴史は無い、だから自分の選択は読めやしない。
・・・そして、自分はその一つの本を持ち帰らずに記憶に刻んだ。
・・・この心臓を治し、彼女を解放出来る本についてだ。
この学校で一番人気の教師といえば、若手ながらも世界史主任を務める渥美佐一・・・という人物だ。
ある悩める女生徒は言った。
「昔、道徳の授業で納得出来ない事がありました。」
と、それに対して彼はこう答えた。
「納得出来なかったなら、それは予想通りも結果だ。」
「どうしてですか?」
「その問題を君が技術的に解決する可能性があるからだ。例えば電車の席を譲る話なら、『こうすればもっと席の数を増やせる・こう作れば電車のサイズを増やせる』と、君は納得せず、その問題が起きない様にするだろう。そうすれば、人は悩まなくなり、一々教育しなくても良くなる。」
「私なんかに?」
「設計者は一人でもいれば十分だ、今いる小中学生から一人でもこれを行えば良い、それが最終的に全国に及ぶ・・・これが道徳の授業の本質だ。」
理屈に則り、納得出来る理由を教える。
世の中は正しくないが、彼が支持しているなら正しい。そう考えて後を追う人も少なくない。
それは同じ教師とは限らない。
「研究職になっちゃった人も多い、後輩作りの背中を押してやりたいのさ。」
「は?他に女がいるんですか?」
「違いますー!大体居るわけねぇだろ俺に。」
「先生はなんか・・・配偶者の愚痴言われてるのが似合いますよ。」
「貴様ー!多数派筆頭がよー!!」
・・・と、人気な理由がよく分かる。
普段はこんな理屈的なのに、自殺を止める時は有り得ない程口下手になって・・・それでも気を引いて防げる。
優秀でもあるが、それ以上に愛される。
不思議な人なのだ。
この頃、海の向こうで内乱や戦争が起き、転校した生徒が増えた。かなり多い影響で名前も覚え切れていない。学校が学校だからだろう。全世界7%だし。
結局、邪神とは何か。
スタンダードに考えるなら、人類の道徳観が生み出した正に負の産物だろう。
しかしそれではつまらないと思い、別の答えを出した。
それが邪神=妖怪説である。
邪神は見ると発狂するが、一部なら問題ないらしい。その一部として見ているのが妖怪だという仮説だ。眷属等もその様な特徴が一致している。・・・よって邪神は丁寧に隠されたものであると言える。
「・・・妖怪も観測されている範囲で言えば、地上が圧倒的に多く、同時に動物に類似、或いはその派生の傾向にある。」
取り敢えず探すなら海より山、山中他界と言うし、乗馬の上手いイタコ芸人も定期的に成分補給をしているそうだ。
「山だ!山に行くぞ!」
「ヤダ。センスの無いデートじゃないんだからさ。」
「じゃあ妥協して今日は喫茶店に留めよう。」
「どういう基準でそれ選んでるのねぇ。」
「そういう心理学的な効果があるからやっただけだ。」
「どうして濁すの?」
「数少ないアドバンテージを譲ったらお前は絶対に使いこなすという確信があるだけだ。」
・・・少し悩む、邪神の存在について・・・。
思い返してみれば、自分のではなく彼女の心臓が変えられた、これは恐らく拒絶反応を考慮したものだ。何故自分には別の心臓を埋め込んだ、何故生かした、そして、なぜ戻さないのか。自分の心臓は変えられないのか?不便極まりない。彼女と一緒という恩恵があるから文句は無いが、文句を抜いたら疑問は多い。
神話は二種類存在する、多神か単神か、後者が人間的な傾向が強く、つまり分かりやすいし身近だ、そして国境内での揉め事に強い。前者は各地に神がいて、それが統一されて出来上がる・・・国境を越えた状態に強い。その為災害の数や、土地の品質だけで大きく変わる。
それをグローバリゼーションに持ち込むなら、邪神は信仰の集まる・・・災害の地に集結する。
廃神社もそれなりに多く、邪神の住処に最適だ。
それだと思っていたが、神すらも食らい迷わせる妖怪がいるという話を聞いた。・・・妖怪は邪神を防ぐ為に残されたのではないか?とも思う。
取り敢えず、日本国内は怪しい。邪神は強大な力があるが、信仰に縛られる存在も多い。
何より、多分他国だったら邪神だとか言ったら普通に火炎放射器とか持ち込まれるだろう。
「・・・仮に邪神がいるとしたら、その心臓が狙われる可能性が高い。」
「確かにね。宗教の信者を揃えるには最適な力だ。」
彼等は知らない、有名な邪神も、無名の邪神もこの世界には存在する。その中で見れるのは知名度の高さがある一握りだけ・・・未知に備える事は出来ない。
「・・・喫茶店と山は、それぞれ監視の目を掻い潜るのに最適だった。」
「まさに攻殻機動隊って感じね、客全員を協力者にして阻止する。」
「よし、全員情報を提出しろ。」
・・・山であれば機械的仕掛けが難しく、喫茶店にはそんな金は無い。その為他校から奢る事を条件に図書館の情報を収拾、自分達の箇所だけ異様な事を確かにした。これは彼女の交友関係あってこそだ。
「やはり異常だった、恐らく学校内に邪神がいる。」
「学校内の予算資料のシュレッダー後の資料から探したよ。あの本は全てカウントされてなかった。」
「外部組織への通報だ、出来るなら公安や連邦捜査局が良い。」
「それなら電子決済はどう?」
「電子決済?」
「電子決済のプロフィールは滅多に見られないし、そこに『予算から不明な書籍による反政治的活動を進め、脱税疑惑がある。』と書き込んでニトログリセリンの材料を大量に買い、調査の過程で気付かせる。」
「・・・よし、それで行く。」
彼等二人は動き出した、学校を暗に告発し、邪神に対抗する勢力を作る。そして、数日間は薬局と花火製造業者の元を回り続ける事になった。
この学校の生徒会長と言えば誰か・・・恐らく、名前を聞けば『あぁ、コイツだな』と分かる。
平等院暁音、自分の腹違いの姉であり、父の浮気相手の子である自分とは違う・・・が、嫌ったりはせず、寧ろ申し訳ないと思って優しくされる。
星奈と暁音は異常に仲が悪い、どちらも世界史・日本史に強く、全国の順位で争っている位だが・・・先ず、支持も違えば意見も違う、ディベートが修羅場になる。淡々としないのだ。その余波で自分は血が回り過ぎて吐いたりする。
もう一つ言うと、自分の姓は坂、坂義一である。
実は、生徒会長以外にも勢力はある。第三勢力の代表こそ青空星奈だが、第二勢力・・・言うなれば野党勢力として存在するのがこの高飛車。
「失礼。」
「よろしくてよ、義一。」
「誰?」
「扇谷僥倖、自分と星奈の雇用主だ。」
もし星奈がいなければ彼女に恋していたであろう。言わずもがな、彼女は善人、特技は確定申告、嫌いなものは請求書、計算速度や情報のエキスパートである。
「金持ちとしても有名だな。」
「え?どこの?」
「多分知ってる、B2Bの中でも最大手、建築、自動車、電子機器に半導体、そして原子力発電所を手掛ける『綴屋技研』の・・・。」
「社長?」
「いや、中間管理職。」
「言い方が微妙なだけでもっと凄いのよね!?」
「本人がネタにしてる位だからな。」
彼女は特殊な体質で、血液型による拒絶反応が起きない上で、免疫はしっかりと機能している。また、心臓の25%は彼女のものらしいが、あまり覚えがないから気にするなと言う・・・人格としては、かなり善性の塊みたいな人間だ。
「・・・まぁ、色々紹介してくれてありがと。」
「だってさ、照れるのが他人依存だから全然変わらないね。頑張って探してね。」
「(コイツ結構畜生だな。)」
さて、最近はいつの間にか入ってきた生徒が多い、というのも宗教系な上規模も大きく、移籍する事もまちまち。
その移籍の理由が、邪神に関わっていた。
・・・というのも、開祖の一人は過去に邪神との接触を繰り返し、撃退を成功させ、その手法としてフィリピン爆竹を広めた。
その中でも注目すべきはノーデンス、知名度が高く、救助された事もあったと。
仮にあるならば今の所接触すべきはノーデンスやヴォルヴァドスといった人側の邪神である。
「このノーデンスというのは割と有名らしいな。」
「ケルト神話の系譜だね、邪神扱いな事が衝撃だけど。」
「フィリピン爆竹からしたらどの神にせよ邪道なんだろう。」
ノーデンスを探すにしても、いるだろうか。
「噛んでいそうなのがニャルラトホテプだとして、ノーデンスはどう関与するか次第だ。」
例えばドリームランズに関してで協力している可能性もあれば、敵対しつつ関与しない方針か、ただ一つ言えるのは、ノーデンスは教師側で、ニャルラトホテプは生徒側、その方が都合が良いと判断する筈だ。
正気かどうかが問われる中で、渥美佐一が信頼され過ぎるが故に教師は信用が下がり、掌握が難しい。混沌の為に隅々まで動かすか、守る為に最低限スムーズに動くか。互いが互いを牽制出来る立場になるべく別々の役職とその相性に合わせた配置になった筈だ。
「星奈、経験則的には?」
「目星はあるけど多分そっちの方が信頼出来る。」
「・・・そうか。」
上に立てていない、つい最近加わった人物か、人格が入れ替わった様な人物。化身という概念の影響で既に人が紛れ込んでいる可能性もある。
物語は止まる様に動き出す。
詰まるからこそ面白い。
「ただいま、姉さん。」
姉は、病床に伏している。
姉の名は坂無二。
自分の心臓が半分消し飛んだのは幸運だった。
彼女は十五歳年の差があり、親が蒸発して以来働き続け・・・その結果、意識も壊れている。
「・・・。」
自分は平等院が許せない、姉を見捨て、姉を壊す経済システムを作り、姉を見捨てる政治システムを作った。
暁音を下ろし、そこからボロを出すまで暁音を人質にする。そして邪神の一連の責任を押し付け、あの父親を殺す。
その為に心臓は必要だ、星奈は巻き込みたくない。
自分は彼女の手に加えて、自治体は見逃していると記録し、終わらせる準備を済ませていた。
そして、その中であるものを手に入れた。
核の血、原子力に汚染されてなお生存する血である・・・正確には、クトゥグアの血。自分には分からない。原子力で完全に危険物となった物質である。そしてこれは彼が敵対する神性を消す為に作り、ニャルラトホテプはこれを危険視し逃げた。
正確には「耐えれるが他者を巻き込み過ぎる」
その為抑制が出来る状態で戻る必要がある。
そして、一つ答えを提示しておこう。
無二は邪神に呪われ、石化している。
解呪方法は無い。しかし生きている。
石化と言っても石灰の様に、白く結晶の様になっている。
そして、心当たりはある。
その邪神を、人はガタノソアと呼ぶ。
日の元に世界を探る。その日は赤く眩しい。
「人を見た目で判断するな」
この言葉には裏がある。
この言葉の全文は「人を見た目で判断するならその人間の特性や特徴を全て抽出、そして外見から推定出来ない要素を挙動から判断し、その上で判断して構わないと支持出来る理由を満たせた場合、漸く判断して良い。」
人は善性を扱える程優秀な個体が滅多に出現しない。また、善性は悪を許す心も必要で、正義ではない。
そして、今や悪は増えた。
今やイングランドではでは人口15%の知力と嘗て産業革命の時代で従事していた労働者が同じという話がある。そしてこの本は知力に欠ける人間にとっては忌まわしきものであり、その結果メディアを用いた袋叩きとなった。その為この本は外国人作家のものなのだが、英訳されていない。
他の欧州で行って例外になるのは妥協してスペインとスイス、オランダにベルギー位か、少なくともイギリスを真似た罵倒をする割には本質を何か理解していないフランスとドイツには無理だ。唯一確実な例外はベラルーシか。
悪だ、悪夢だ。
人は邪神へと落ちれる。
他生物の恐怖の象徴だが、懐けば恩恵があることもあれば、惨殺される事も、出来るだけ苦しまず殺す事も、剰え食らう為にそうする事もある。
人は邪神と言って十分な素養がある。
人は邪神と罵って足りる要素がある。
そして、その上で「人を見た目で判断するな」
つまり、最終的に悪しかいなくなる。
人は見た目で判断した所で無意味になる。
それなら悪と分かっている上で、最低限法を守ったり、多少騒ぎを起こす程度の外見の良い人間の方が良い。故に、ルッキズムは人間の社会的性格であろう。
まぁどちらにせよハズレくじは入っている。
これが生徒会長として危惧している事だ。
自分は全てを支配出来る訳ではない、あくまで民主政である。
・・・だから、義一を守らなければいけない。
・・・だから義一を助けなければいけない。
あの父親は、浮気という問題があったから捨てたのではない、彼が男だったから、そして秀でた外見にならないから捨てた。
そして私は、彼を助ける。
彼を助ける事が一番の救いだ。
人の命の不平等は、良心によって是正される。
資本主義は確かに人を豊かにしたが、国別、国内の格差を見ずに言っただけのまやかしである。
人は知性が貧弱だったが為に共産主義を扱えず、人は知性が脆弱だったが為に資本主義で世界を壊した。
その結果が、確かな存在である邪神の利用だった。
邪神を利用し、人は神の勢力争いによる資本主義・共産主義の理想を実現する。
そこに平等性も光もない。確実に破綻する生の中で、彼等は選択を強いられる。
友利恒星は観察を続けた。
人の遺伝子は何一つ変わっていない・・・それは昔からの出来事だったのだろう。
「邪神の争いを地球という特殊な環境下で行う。」
酸素が大量に存在し、生命数が圧倒的に多く、個体値を何度も調整・ランダム生成する事で強固にしていく。神よりもサイクルが早い。
・・・ならば、邪神の価値は地球上で証明する、人類という第三者を用いて争う。
正直、コピペなら分かるがそれ以外は分からない。
「だが、俺自身はそれを認めていない。」
彼は、実力不足の己を信じなかった。
信頼を築き、安定させてから腐敗する様に仕向ける。
世界はそうやって進んでいる。
金持ちが世界を支配する方法。
それはあらゆる場所にひそませる事だ。
遺伝による対処、それでも突然変異には対抗出来ない。その場合は買収するか、買収出来ないなら情報量と実力差、或いは殺害によって超える。
学校という信用を積み重ねた施設を、人類は否定出来ない。
学術論文という人が積み上げた叡智が既に腐敗していたとしても、人類は戻れない。
腐敗と効率化は同時に進み、王朝交代も政権交代も、一から作り直す事はない。
だが、妖怪が存在するからこそ、自分は思う。
「これは人間の亡霊ではないか。」
そして、その正体は・・・。
人類の情報化媒体、そしてそれに基いた精神的圧迫。
その目的に気付いた時、認知的不協和の苦しみに襲われた。
彼はその正体を知った、そして、笑わなかった。
ニャルラトホテプがあの学校に戻れる条件は二つだ、外部の人間が調査で侵入した場合、クトゥグアは関与を控えるだろう。その為侵入が可能になる。
次に他の邪神が攻撃行動を起こしていない場合。邪神の暴走は周囲を巻き込みやすい。自分が制御下から外れた場合計画が破綻する。
どんな混沌も、秩序が無ければ意味が無い。
その中で、一通の連絡が届く。
生徒会長が重体と聞き、有無を言わず戻る。
彼女は不味い、彼女はこの学校の資金源の一人、邪神の関しての拡散を行ったのもその資金あってこそ。
自分は複合的に邪神を利用する事でロケット発射台を奪い、アザトースに到達する。・・・それにおいては、クトゥグアが邪魔になり過ぎるのだ。
確実に生徒は狂気に当てられ、着々と危険な状態にある。信仰と恩恵による精神強化は難しい。信仰を下手に広めれば感知され、広めなければ制御は出来ない。
信仰は死んでも継続する。死んだという事実は変わらず「その人間が死んだという体」で信仰され、死が確定する。
信仰は、嘗て宿った人の性質も混ざり、次の人へ託される。
生贄、信仰を支える生贄・・・そして。
生き続ける贄、それを人は生贄と呼ぶ。
神の一部として、或いは、神の利用として。
時代は巡る、神は巡る。
さて、そこで質問しよう。
人に身体がなく、情報がその根だとすれば・・・人は何は死をどう受け止める?
ある病院に、宇野刹那という医者がいた。若く、優秀。だが、それに匹敵するもう一人の医者がいた。言うほど老齢ではないが、他国で軍事病院にいた人物らしいが・・・。
取り敢えず、言えるのはどちらも出自が不明であるという事だ。
「・・・昔の事か。」
「そうです、心臓の一件。軍事兵器を民間に投入し観察するという検証に関してです。」
「アレは色々怪しい話だった。だから私がここに入れられたのもその影響だろう。」
「十億程度、誤魔化す金が動くとしても?」
「違う、利益ではない。損失を回避する為に十億を支払っただけだ。」
「・・・坂側に問題があったと?」
「間違いない、あの患者こそ狙いだったのさ。そして結果は成功、彼女は心臓を活用し、彼は生きながらえた。・・・そうだな、彼女をずっと傍に置くことで、センサーにして・・・。軍事従事者として戦略的に有り得ると思うのはその線だ。」
彼を狙う、彼を生かす。それにより事実上の封印を可能とする。
「この国では一人あたりの生涯収入は一億と少しだそうだ。そして、今までは十二人程度の生贄を年に必要とした。」
それなら、十億程度は安いものだ。安定した環境と研究施設でそれを使える。法的制約はあるが扱ってるものの影響で表に出る事はない。
「・・・私に託した方が利益になる、その程度の考えだろうよ。」
説得がし易い、合理的な方法だ。それ以上の事は可能だが、自分は自分の研究データ、いわば最も利益に近いものを探しただけだ。
「・・・お前、邪神だろう。人間側みたいだが。」
「産んだ側だ、全て辿れば私に辿り着く。」
「じゃあなんでこんな事を?」
「人が急激に減った、邪神として足りる程度の状態になってから急激にだ。記憶を強引に改竄しつつ、溶け込んで今に至る。念の為監視役を数年配置し入れ替えただけだ。」
「・・・ならいいか。」
邪神の在り方はどうだ、その生き方はどうだ。
そのレベルの話ではない、彼を実験動物として扱ってる問題無いか、人間と邪神が混ざった存在をどう扱うべきか。彼は人間か邪神か。証明する方法は無い、そして、それを今後説明する事もまた不可能だ。
「人の命を無意味に踏み潰して生きれるのだとしたら、私はその人類を見捨てる。それに意味があるか、許される余地があるか・・・邪神に仇なすならば私も同じ様に仇で返す。」
仕方ない故にそれは当然だ。殺されるべくして殺される。
「邪神側だろ、来たのは。」
「大半はそうだ、だから救済措置だけは用意している。」
「なら手は抜いてもいいか。」
「人間が滅んだ時は私が立て直せるが、一つ警告するなら私は原初しか覚えていない。進化の過程で間違いなく同じ姿にならないだろう。」
「・・・救済措置だな、誰も救えない所が特に救済措置に似ている。」
「・・・これはあくまで人類への救済措置で、邪神が増長して支配された場合は別の惑星で実行する。端末で行ってはいるがほぼ手作業だからキツいんだ。」
「そこら辺の山を自分が掘り返したとか言いそうだな。」
「やった事はある・・・というか、やらないと氷河期の様なバランスによる抑制から倫理観や経済維持の為というシフトが出来なくなってしまう。」
「それしか救済措置が無い・・・つまり人類はほぼ死滅か。手間もコストも流石に重すぎる。」
「もう98%はもう持ってかれた。まぁ、逆に幸運だな。生き残りが増えて破綻するよりかは。」
「ちなみにそれは、邪神無しで超えれる問題か?」
「無理だ、邪神の力が無ければ抑えれない。そして、人類の異変次第である神格が目覚め、宇宙ごと終了する可能性が高い。」
「・・・それに解決方法はあるのか?」
「ある、だが、その為に人口が減った事は伏せた方が良い。」
自分の家族は少なくとも死んだか、結構だ。家族ごと犠牲になった連中に比べれば幸運だ。
「異質な人間だ。」
「合理的なだけだ、情に流され過ぎな連中を比較対象にされてもな。」
「人の心を忘れてない所は良いと思うぜ、私としては。」
「こう見えてギャンブル中毒でね、リスキーな賭けの為の心構えだよ。」
人の意地か、神の仕掛けか。直線に並んだ希望はどこで止まるか、動き始めるは人の意地、一本線を手繰り、その糸は切れぬ様に紡がれ、糸を辿る医者は糸の先を目指す。
不協和音はバックではなく、ブレーキである。ヒトは感情にブレーキが無い。上がったり下がったりを続けるが、それを強制的に中断し、一時記憶を事実上のリセット状態にし、判断を難しくする。
糸を動かさない事で維持し、リスキー・シフトを停止させる。
彼の心臓を変えたのは、邪神を食い止める為だった。
心臓を託せ、命を差し出せ、人類ならば有効に使える。狂った世界を止められる。
「私は義一が大嫌いだった。」
その心臓は、いつの間にか差し出されていた。
母親が奪った、そう思っていた。でも。
「貴方の心臓は脆く、いつか死ぬ筈のものだった。」
扇谷僥倖はその心臓を思い出す。自分は邪神に心臓を差し出した。彼が邪神でないのは、強制的に人間だと認識させるべく、私の心臓を埋め込んだからだ。
生贄の対価、喜ぶべき祝福がそこには残る。
私は義一という人間の憎悪と復讐心から信じてしまった、その愚か・疎かがやがて仇になる。
「・・・貴方なら、私の間違えを正しく出来る。私はそう信じています。」
思い留まり、踏み留まり、その心臓は残された。偶然か、仕掛けか、聞くことは無かった。
「私がその為に少しでも長生きしたと、貴方だけでも理解して欲しい。」
宿るは邪神の残滓、そしてそれに邪魔をする彼女の幻影。
自分は、彼女から離れられる様になっていた。
それは同時に、邪神となった事も兼ねていた。
いや、正確には、最初から邪神であった。
信仰が溜まっていた。集まってしまった。
壁越しで着替える星奈を他所に、録音を再生する。
・・・あの事件は、お前を狙った事件だ。そして、抑制と遅延に成功した。
正体は分からない、邪神である事しか分からない、だが、死ぬべきというのは事実だ。
苦渋の決断だ、悔しさ一つ無いが、苦しいのだけは事実だ。
星奈は、どうなる。
星奈は、生きれるか。
星奈を・・・守れるか。
分からない、だが、彼女の着替えが遅い内に、全て決めてしまおう。
もうきっと粗方死んだ、ならば、残りは守るだけだ。この暴虐には多少疑問があるが、仕方ないだろう。
しかし、一つだけ分かった。
クトゥグアは、守れなかった命を傍観した。
教師陣はやめろと言ったが、意地を張って殺される馬鹿な子がいたのだ。
愚かな選択だが、悪しき選択ではない。
「・・・君は、いや、人間では・・・ないか。」
その手を取るまでもなく、一つ告げた。
「ショゴス・ロード、君は坂義一という人間に会いに行け。彼の封印を紐解けば、きっと君の望む結果になるだろう。」
・・・その言葉を聞いて、すぐに彼は動き出した。
「・・・君は、その選択をするか。」
・・・与えられた選択は少ない、だが、自分は人類を壊す事選択肢に加えた。・・・つまり、殺す覚悟をした。
監視カメラの接続は完全に消えた、邪神が集まる中、人は徐々に狂気が迫っている。
人間は、生かすことだけでなく、殺す事も経済化してしまった生き物だ。その片鱗自体はあった。生物は死骸を分解し、再利用するというシステムだ。土葬や火葬もその経験則の一つだろう。
分かりやすいシステムで言うなら生命に関与した保険。病気の症状や病院での状態や治療の度合い、生死に関与して金を受け取れる。以後の生涯の収入を失う対価として治療費と収入を補填される。
経済規模の拡大により、人一人の死はさして重いものではなくなった、仕事の穴埋めや、新たな雇用によって経済効果が発生するのは当然、試験でも無駄な数が減り、予備を減らし、資源消費を減らしつつ実際の経済は既に動いている。
それは同時に、平等に戻す為に経済が発展する。苦痛の解消や負担の軽減で保険の金も消費しなければならない。
そして、どこかで人は気付く。
多少殺して問題無いなら、それの方が儲かるだろう、と。
その結果、人は殺される。
・・・邪神を相手取った時、人の命の燃焼を利用して燃やした時・・・それは生物として褒め称えるべきだろうか。
デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。
簡単に言えば、神様が登場してご都合展開で片付けられる。よくある話だ。賢くはないが、王道ではある。
しかし、彼はそれを人の手で用意した。彼自身は人ではないが、人を逸脱しない程度に仕組みを利用し、自分を完遂して・・・。
轟音と共に暁音が飛んできた。
「・・・。」
助けるつもりは無かったが、受け止めてしまった。
だが、自分が自分の正体に気付いた以上、彼女は生かさなければいけない。自分が生かされようと殺されようと構わない・・・彼女なら、どうにか出来る。
そう、拾い上げた。
もう自分は上手く笑えない、現実を忘れて、光を背けて、眩しい目の前を見る事はない。
嫌だ、嫌な光だ。
目を閉ざしたあの日から、段々色褪せる世界を見ていなかった。
誰一人色を塗ってはくれなかった。
もう色を見る事はない。
自分にとって、色は数字上の相性でしかない。
ヒトは本質がコンピュータと共通した機械でしかない。
・・・そして、消耗に気を落とすのだ。
疲れて笑えない、そんな日々だった。
・・・人は複雑な動きをしない、単純な行動原理に複雑なものが宿る事はあるだろうが、単純な計画でなければ基本的に破綻する。
暁音を背負って歩き、保健室まで辿り着く。
「・・・もう少しだ、僥倖が繋いだ命を無駄にさせない・・・。」
立って歩いて、そして、録音を聞き続ける。星奈はいない、一人で立てた。
方法は至ってシンプル、本の通りに人を口説き、自分の信仰の足しにした。
保健室に赴くまでは長い道程を渡る、その果てに命を切らすとしても、意地で渡り続ける。
我等はどこかで間違えた、だが、間違いに気付ける事はあっても、直す事は出来ないだろう。
「園田、お前はどちらだ。」
「・・・それを考える必要がある事なのか?」
「悪いな、こんな事になるとは思わなかった。」
「いや、ここまで事態を収束出来る一手を打たれるとは思わなかったさ。どうせ同じ考えなのだ、その通りに進めるつもりだよ。」
「・・・だが、知りたい事も多い。邪神なのは分かるが、それ以上は知らんのだ。」
「ガタノソア、それがお前の正しき名だ。これで満足か?」
「何故彼女の心臓を変えた?自分が邪神で、捉える為なのは分かる。」
「あの日彼女が心臓を変えたのは、お前が部分的に心臓周りだけを石化させたからだ。お前ではダメだった。だが、結果としては一番マシな状態だった。」
「・・・。」
「・・・何より、その中身の人間とやらが余程大事らしい。・・・ああ、違う、そうじゃない。」
人間に不慣れな彼は、発言を訂正する。
「全ての人間が大事だから、そう努力する。切り捨てて終わらせない、切り捨てる事は未来における損失も多い、リスキーではあるが、楽観的で希望的だ。嫌いじゃない。」
・・・誰かが、大切に思った。
・・・誰かが、有意義に思った。
それは個人では生存の為に捨ててしまう選択だが、社会においては違う。
誰かが背中を押してくれるなら、誰かがその手を掴める。社会は欠陥以上の恩恵がある、有象無象と見捨てた誰かは、無数の手として救いに及ぶ。
「・・・感銘を受けて英雄的行為に及ぶ位なら、意地で生きるべきだ。」
しかし、その「意地」を支える正気は日ごとに削られていった。
学園の空気は静かに濁り、笑い声や雑踏の中にも狂気が混じり込む。
神格の影響は、もはや外から訪れるものではなく、人の心に割り振られる割合そのものを食い潰すように広がっていた。正気は残り火のように小さくなり、取り戻すことは叶わない。教師は研究のために自ら狂気へ沈み、生徒は信仰を数字のように比較して勝敗を決める。誰もが自分を正気だと信じていたが、既に「正気」という概念自体が瓦解しつつあった。神格は縮小していた──巨大な力として顕れるのではなく、細切れの断片が日常に常駐し、人々の思考を僅かずつ侵食する。教室の隅、廊下の影、黒板に映る落書き。誰も見たくない「異形」がそこにあり、しかし見てもなお「異常」と呼ぶ者はいなかった。もはや、とても正気でいられる状況ではなかった。
邪神を揃えて人を作り上げた時、それは人であろうか、邪神であろうか。
いいや、若しくは。
人は、邪神を材料に作り上げた封印の集合体なのではないか?
現実を示す光は、もう既に無い。
残されたのは歪んだ学園の景色だった。講義は崩れ、教師は書物の陰に籠り、信仰を数値化した生徒たちは互いを測り合う。小さく切り分けられた神格は廊下に、教室に、机の影に潜み、人間の正気をわずかずつ削り取っていった。笑う者はいても、それが正気による笑みかは誰にも分からなかった。希望は散り、狂気が日常の規則となり、学園は正気を忘れたまま動き続ける。
それでも、坂義一は諦めない。
「・・・いや、邪神の性質はキッチリ利用させてもらう。」
坂義一は性質を読んで覚え、実行する。
「・・・園田、頼めるか。」
「・・・そうか、お前はそうするのか。」
「彼女に手を下される位なら、だ。」
その言葉は軽い虚勢ではなかった。星奈を守るためなら、自分一人を犠牲にすることに迷いはない。邪神であろうと人間であろうと、その境界が崩れた今でも、彼にとって確かな現実はただ一人の女の存在だった。誰に忘れられても構わない、世界に刻まれなくても構わない、彼女の心臓を守る為に自分の心臓を差し出す──それだけが義一の選んだ答えだった。
「・・・自分もそうしたのだから、止められる訳が無い。」
彼女のしたことを、自分でし返すしかない。恩返しとして、彼女が差し出した分だけを自らも差し出す——その痛みでしか償えないのなら、躊躇はしない。彼女が与えた救いを同じ形で返すこと、それが自分の残された義務であり答えだった。
「その存在を否定する、坂義一含めて、ガタノソアを消去し、保存したままトラブルの全てを消失させる。・・・あくまで応急処置だ、電子記録や紙媒体含めて物的証拠は残る。変わり過ぎると悪影響が多過ぎるからな。」
「・・・それでいい、彼女の為に痕跡を残したい。」
「・・・それがどうかは知らないが、私ならばもっと上手くやれるだろうな。」
「・・・見せれたら、是非見せてくれ。」
「運んでいってやる、全てが終わったら・・・時間ごとな。」
その言葉が届いた直後、義一は静かに連れ去られた。監視映像は途切れ、出入り記録は抹消され、彼の存在を示す物証は次々と消えていった。教室の隅に残された血の跡はすぐに拭われ、彼の机は誰かの手で整理され、名札は消えた。外部に伝播した情報は回収され、事件は「処理」されていった。学校側は公式に説明を用意し、騒ぎは沈静化したが、誰もが心のどこかでその空白を感じ続けた。
言葉にしてしまった瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。思い出せないのに、確かにそこに誰かがいた感覚だけが残っている。名を呼べないのに、涙だけが込み上げる。
「・・・あれ、義一君は?」
「・・・義一君って、何だっけ。」
「多分人名だけど・・・知らないなぁ。」
・・・平等の天秤は傾き出した。
これだけ痕跡があれば人は気付けるだろう。
「・・・間に合った。」
自分は彼女の手を取った。
その心臓は脆く、もう動かないが、そっと当ててやればまた動き出す。
「悪いな・・・記憶の改竄は任せていたから君だけは助けたかった。」
「あの子はいいのか、君の敬虔な信者は。」
「生贄を途絶えさせてくれた功労者・・・悪いとは思っているさ。」
「酷いな、お前。」
「返す言葉もない。」
「・・・信仰はまとまらない、神はいつも異なる。」
それは考えが相容れないから、他に同じ神を信仰しているのが不快だと突き放す事もある。
しかし、邪神の排除は無理だ、人間の改善も無理だ。ならばせめて共生の道を選ぶ。
「・・・間違えたさ、何度も。」
「・・・あとは、ひっそり去るだけだ。」
そう意識は消えていった。
何か重い音がして、繋いだ手は空振った。
ショゴス・ロードは笑わなかった。笑う余裕も、笑う意味も既に消えている。
彼の眼は深く、そこに映るのは消えた名と薄れた鼓動だけだった。義一は「死んだ」のではない。ただ、世界が彼を忘れ、信仰が剥がれ、存在の輪郭が溶けかけている。呼び名も記録もない場所で、彼は薄く息をする──それだけが残された証だった。
「ならば、受け入れよう。」
ショゴス・ロードは低く囁き、義一のそのかすれた生を抱き留めた。触れた瞬間、義一の虚ろな心臓は冷たく震え、何かが吸い上げられるように光が零れた。信仰の粒子、名付けられた記憶の欠片、誰かが彼に向けた一度の視線が、ショゴスの掌の中で粉塵の様に滲んでいく。
だがそれは救済ではなかった。
ショゴス・ロードは受け入れたその「余り」を、人に還す代わりに、別のかたちで返した。義一の痕跡──その肉体の蒼白、鼓動の残響、忘却の香りを引き裂き、学園の隅々へと撒き散らすように展開したのだ。廊下の石、黒板の擦れ、体育倉庫の錆へと、彼の残影が触手のように伸びていく。
触れたものは逆に固まった。
それは直線的な石化ではない。触れた瞬間に「存在の輪郭」が押し固められ、内側から息を奪われるようにして結晶化する。声帯は砂粒に変わり、瞳は磨耗したガラスのように曇り、指先は石の節になる。まるで時間が凍結する前に、存在そのものが「保存」されるかのように。
学園はたちまち小さな石像の森になった。
人々は動かないわけではないが、その動きはぎこちなく、不自然で、まるで誰かが糸を引いている操り人形のようだった。正気が薄れていくのではない。正気はその場で圧縮され、余剰は切り取られ、粗野な形で石化という形に閉じ込められていった。
ショゴス・ロードは黙ってそれを見下ろした。義一の余白は学園のあらゆる場所に残り、その断片が人々の思考を引き裂いて回る。義一は、そこで完全に消え去ったわけではない。彼は生存しながら、名を奪われ、分割され、学園の構造そのものに埋め込まれていった。
生きているのに、誰も彼を「知る」ことはできない。あるいは知ってはならない。そうして、学園は静かに、しかし確実に、義一という存在を核とした新しい固まりへと変わっていった。
目が見えない、耳が聞こえない、鼻では呼吸が出来ず、口で舐めては触って前に進む。
機械に巻き込まれる、触れた感触は鋭く深く刺さる。
酸に溶かされる、隙間から痛みが押し寄せる。
再び圧縮され、人間の原型は留めていなかった。
誰も知らなかった、そして、学校は密かにマークされた。
仮称:坂義一拉致監禁惨殺隠蔽事件。
これが全校生徒・教師含む内の犯行により隠蔽と殺害事件であり、最終的に学校は解体される筈だった。完璧過ぎる隠蔽だが、死体だけは残っていた。殺害理由はテロ計画の暴露・・・恐らく内通者というよりは離反者だが・・・その為、同様に離反を起こした青空星奈を確保したいものの・・・消息不明となっている。
しかし、民間人の被害が甚大になると考えた結果、こちらは数人の協力者を配置した。
先ず、ハカリ・アマノ、彼は神性を宿し、人類として顕現した以上神を殺せるか試したい、と言いつつ基本傍観すると約束、潜入した。
次に田蔵コウボウ、未来予知に近い力を有している。本人曰く時間遡行らしい。外部の人間だが今はそれでも十分だ。
また、今後も成員を逐次投入、内部からの破壊を刊行する。
ヴォルヴァドスは彼に力を貸している。邪神を殺し、人類を侵略から守る力・・・それを人として振るう。それがハカリだ。
そしてコウボウ、彼は運勝負で完全に勝ち切り、思考を読み取れば平衡感覚を壊される。彼は邪神の手を借りた実力者らしい。
ハカリの方が信用出来るが、抑制出来る様に互いに存在を教えない状態にする。それが良い。
そしてハカリは、学校につくなり芸術を描いた。
芸術によって、彼は秘密を握った。
既に情報は調べきった、生き残るか生き残らないかはお前達次第であると。
遺体はあまりにも悲惨だった。ミンチならまだ良かった。煮凝りならまだ良かった。大半を欠損し、程度のサイズがほぼ均一で、ピンク色の塊になっていて、PCR検査で照合した、いや、それ以外では照合出来る程残っていなかった。
人間は150cm程度として計算しても20万立方cmはある、だが、この塊は5万立方センチメートルもない。その上で、ハカリは言っていた。
「これで全てだ、欠損した箇所は無い。髪の毛すら周到に溶かし、水分も全て消して、工場機械に入れたのさ。それでも繋がっている辺り、やはり邪神だったらしい。」
邪神の中でも数人は既に殺されたらしい。
青空は砕け、闇の奈落が広がる。
「彼はきっと、その光の届かない水底を見せずに、」
「やり方だけは覚えている、今は苦手な笑顔で、目を瞑り、笑ってくれるのだろう。」
「そこに光は届かないだろう。光に面と向かう事はないだろう。」
あの心臓は、静かに動く。
もううるさくなる事はない。
静かに、静かに響き続ける。
彼女の苦しみは共有され、近くにいるだけで苦痛になると遠ざけられた。
美しさは疲弊して尚残る。
そして心臓は完成した。あの邪神の封じ込めに成功した。
太陽が消えた中、夜の内に書き換える。
「いあ、いあふぉうまるはうと・・・。」
その中で、人が暗くならない様に、恒星を灯す。
「・・・お前も、彼女を置いていくのか。」
出力は調整出来た。失敗して数国程度沈んだり燃えたりしたがそれは置いておこう。太陽が一時的に消失・・・邪神が襲来した事を確認した。
「・・・待ってろ、今探してやる。」
しかし、居なくなったこと自体は分かるがそれ以外は分からない。自分はそれを察してでも
アレは無駄に陽の光を目に宿し続けた。
空の上を見上げる・・・否、上の空なのだ。
人は絶望する度に空を青い事ばかり理解してしまうのだ。
星奈は彼の手に届かず、無意味に動き続ける心臓を長め続ける。
血も涙も通っている、死んだ人間を見て。
思い出せない、親交が無い。
分からない。
しかし、それに似た誰かが居た。
「ここか?ここだよな。今日からなのに迷い過ぎてもう夜に差し掛かってしまった。」
自分に様々なやり方を教え、使える様になるまで共に居た彼と。
「・・・おや、君は誰だ?関係者なら嬉しい。」
手を握られた時、逃がさないという意地、話さないという勇気があった。
「田蔵コウボウ、上司に言われて転勤して来た。」
彼は彼女に触れて・・・理解した・・・知らないのに、誰かが生きていると執着する。それによって生かされているのだ。
「未練があるのさ、きっと。」
かくして騎士と姫の物語は続く。
そして邪神は花開く。
花が落ちる時は美しいのに、
人が落ちる様は凄惨だ。
その上で、人になる事を選んだのだ。
生も死も辛いものにしてでも、その道程を知る為に。
その共鳴は静かになった、それを人は不快と思う。鈍いだけならそうはならない・・・コンロで何度も火を起こす様に、正しくついていない。
火を燃やす為に薪を入れるのではなく、火を炙っている様なものだ。
そして、彼は最初からいないものになった。
この世界に彼の居場所はなかった。
彼の居場所等無かった。
いや、作らなかった、ないものにした。それは現実ですらも対象であった。
だから不幸だけが残ったものの、不思議と世界は回り続ける。
・・・さぁ、物語は終わりだ。
以下は田蔵の報告書である。
『私はある時違和感を持ったのでここに書き記す。』そう始まった文書は続く。
先ず、近所の病院である人物が亡くなったが理由が不明だった。正確に言えば生きていた理由が分からず、死んだ理由自体は分かっていたが何が起きたかはさっぱりだった。
そして、零丁という人物はその事に関して過剰反応を示したそうだ。
青空星奈という人物だが、外見の割には気が弱く、記憶がごっそり欠落しているのが原因だった。名前を言うと齟齬が生じるのか、会話が上手く成立しない。その為別称を追加し
生徒会長は一気に体調を崩し、拍子抜けする様に変わった。餓死寸前だったが、持ち直したらしい。しかし、精神的に摩耗してからは求心力が下がっている。
友利という人物は前からそうだったが、見掛けるが減ったらしい。渥美の一件はかなり話題となったが、どうやら研究に没頭し始めたらしい。多分彼が一番マトモな人物だ。
・・・自分が時間を戻し、現実では二ヶ月、自分自身は五年間留まった。試行錯誤の内に他にも時間遡行者がいるという事に気付いた。目的が一致しているのか支援する人物もいたが、大半が敵だ。
一人心当たりがある、遡行と共に消えたが、存在すると何かと便利な人物が確認された。
しかし、時間を戻しても彼を見つけられなかった。坂義一・・・という虚構的人物。会ったことすらないが、彼は信用出来そうだ。恐らく見つからない様に姿を隠し、その結果様々なトラブルが起きた。解決出来るのは自分だけかもしれない。
問題は大体瓜田に集まるなら、そこまで難しい話じゃない。彼女を起点にこの学校を解明する。依頼主はやたら美女だった、なんというか、瓜田と同じ・・・同性からイヤミを言われるシンデレラタイプだ。彼女は同じ外見の土塊という人物を探せと言っていた。姉妹だろうか、そっちの方の詳細は不明だが、実力は確からしい。
そういえば、だ。
人は人の中身を見ると驚き、嫌悪する生き物だったな。
それは死への嫌悪ではなく、邪神への恐怖が背景なのではないか?
・・・そう、自分は思うのだ。
あの邪道な神達は、何の為に生きているのか。
邪神を内臓化し、生かして残しつつ人体を通して増やし・・・そして、アザトースに気付かれない様にする。
人類は、痛みや残酷さではなく恐怖でそれを見ていたのではないか?
神は都合良く仕掛けられた。時間は都合良く仕組まれた。
その背後の犠牲を誰にも知られる事はなく。
見事な舞台装置であったのだろう。
有象無象の区別無く、神は邪悪を駆逐した。
メカニカルに生死を与えられ、破滅させられたのだ。
デウス・エクス・マキナ、ご都合主義の展開だ。
都合良く悪が滅び、善が生き残り、必要な人材と残し、やがて消えた。
彼女の身を守る為に。
ほんの少し、迷っただけだ。
彼女に一秒でも多く注目されたかった、それだけだ。
自分に心得はない、心しかない。
無様と笑ってくれ、長生きなんて出来ないのだから。
自分には野望がある、夢がある。
それ即ち、商社マンである。
数学と社会を磨き、英語も伸ばす。
経済学部を目指し、そこでマーケティングにも手を出し、営業能力を身に付ける。そして、その果てに旅をする。
具体的な物、それぞれに目的や指針を用意して試している所だ。
・・・だが、それを許さないある欠点がある。
「義一!起きているか!?」
その教師は怒りをぶつけているのではない、心配を催しているのだ。
・・・自分は、心臓が酷く脆い。気温、エネルギー量、血圧・・・様々な状況で心停止とまでは行かずとも身体が酸素不足になる。貧血と同じ仕組みで悪化し、即座に酸欠になるのだ。
それを支えるのが・・・。
青空星奈、告白され過ぎる女、回転寿司が如く捌いていく見事な手腕の女だ。・・・そして、自分が馬鹿な事をしているから生きていた女だ。
「・・・大丈夫?」
「・・・ああ。」
誰かに心臓の鼓動を押し当ててもらい、生き延びる。
半分が潰れた心臓に一番相性が良いのは彼女だ。誰でも出来るは出来るが、彼女との相性は別格だ。
この心臓は脆い、だが、彼女さえいれば多少の距離は問題無い。
家に帰れば家族の心臓を借り、生き延びる。
不便だが、星奈が死ななくて良かった。
私は、青空星奈。昔から人に好かれた。
ある時、それが理由で銃により撃たれた筈だった。
殺意が篭もりすぎた高速弾は、彼では受け止め切れずに私の心臓に刺さった。
しかし、浅かったから多少傷があるだけで、別の心臓に交換して事なきを得た。
・・・その時、研究者に依頼され、手術費用の免除の代わりに特殊な心臓を渡すと契約した。・・・最初は何の為か分からなかったが、すぐに彼の心臓が半分無くなり、それを支える為に私がいると把握した。私ではなく、彼の為だ。彼には合わなかったらしいが・・・その辺は考えなかった。一緒にいる理由になるから、運命めいた何かだと信じた。
・・・ずっと接触している内に、一時期は一緒に寝たし、一緒にお風呂に入った。
優しいけど無謀、普通優しい人は自分にも甘いから物足りないけど、彼は違う。
私の気分の善し悪しを問わず、受け止めては、脆い心臓を必死に動かして、同じ様に振舞ってくれる。
可愛いのに、上に立っている様な感じがする。
まぁ、取り敢えず私が彼が好きだという事に変わりはない。それはあの日からではない、一緒に居たからかもしれない。・・・分からないけど。
その心臓は、煌めく様に鼓動する。
波が通り過ぎる様に上から下へ、跳ねる様に。
ゆっくりとしているのに、激しさを宿す。
彼に愛はあるが、恋を向けてはいない。自然の摂理を砕く様な、証明し難いあの感情ではない。
それが不思議だった。
溜息は安堵の印、そして、それと同時に、自分にとっての春風であった。
邪神に関してを調べる本が急速に増えた。それも大半が表に出ず、しかし本棚一つを占領しているから多いと言って差し支えない。ホラーコーナーが増えた様なものだ、先ず小中高が一括りになった特殊な図書室、一つ分も大した数ではない。
夜の陽射しが遠くより届く。自分は背後で寝惚けた星奈ではなく、不思議と彼女と同じ気配を宿す女に声を掛けた。
星奈に似ている様で違う。見覚えはないが、目を逸らせない。怯えではない、美貌に惚れそうだった。
「・・・ねぇ・・・って。」
星奈は迷いと直進から入れ替わり、逆の事をぶつけようと近寄る。
一悶着は置いておき、去った後に話し出す。
「あの女、多分邪神という奴じゃないか?」
「え?じゃあなんで?というか昔からそういうの信じるタイプだよね。」
「こんな身体だぞ、信じない訳がない。」
騎士と姫、そして妖怪の話。
「人魚はセイレーンを由来とする空想上の生物だ。」
「それがどうかしたの?」
「ギリシャで始まったこれだが、自分はその背景をフェニキア人への憧れか、船上で精神的に堪えた人間が編み出した妄想だと推測する。」
「・・・妄想が脈々と続いてるね。」
「人間は海路の強さを証明する象徴だと言える訳だ。しかしベルゼブブという悪魔を異邦の神バアルを侮辱する為に作り上げた様に、あの時代のあの場所はあまりにの侮辱が多かった。邪神になるのが人を発端にしたものであるなら、この邪神はきっと露悪的なものになるだろうと思う。」
「(さっきの子にそう感じたのかな・・・。)」
「それは人の責任であり、人の咎だ。」
それはつまり、人の手でどうにか出来る範囲の問題であると。
「もし、この馬鹿みたいな話が事実だったら、君は僕についてきてくれるか?」
悪しきは愚か故、また、その善悪は一般的価値観と同じものではない。悪とは、その後の人類がそれ以上に賢く、倫理的であった時に正しき一般となる。
「着いて行かなきゃダメでしょ?悪いとも嫌だとも思ってないから安心しなさいな。」
その歴史は無い、だから自分の選択は読めやしない。
・・・そして、自分はその一つの本を持ち帰らずに記憶に刻んだ。
・・・この心臓を治し、彼女を解放出来る本についてだ。
この学校で一番人気の教師といえば、若手ながらも世界史主任を務める渥美佐一・・・という人物だ。
ある悩める女生徒は言った。
「昔、道徳の授業で納得出来ない事がありました。」
と、それに対して彼はこう答えた。
「納得出来なかったなら、それは予想通りも結果だ。」
「どうしてですか?」
「その問題を君が技術的に解決する可能性があるからだ。例えば電車の席を譲る話なら、『こうすればもっと席の数を増やせる・こう作れば電車のサイズを増やせる』と、君は納得せず、その問題が起きない様にするだろう。そうすれば、人は悩まなくなり、一々教育しなくても良くなる。」
「私なんかに?」
「設計者は一人でもいれば十分だ、今いる小中学生から一人でもこれを行えば良い、それが最終的に全国に及ぶ・・・これが道徳の授業の本質だ。」
理屈に則り、納得出来る理由を教える。
世の中は正しくないが、彼が支持しているなら正しい。そう考えて後を追う人も少なくない。
それは同じ教師とは限らない。
「研究職になっちゃった人も多い、後輩作りの背中を押してやりたいのさ。」
「は?他に女がいるんですか?」
「違いますー!大体居るわけねぇだろ俺に。」
「先生はなんか・・・配偶者の愚痴言われてるのが似合いますよ。」
「貴様ー!多数派筆頭がよー!!」
・・・と、人気な理由がよく分かる。
普段はこんな理屈的なのに、自殺を止める時は有り得ない程口下手になって・・・それでも気を引いて防げる。
優秀でもあるが、それ以上に愛される。
不思議な人なのだ。
この頃、海の向こうで内乱や戦争が起き、転校した生徒が増えた。かなり多い影響で名前も覚え切れていない。学校が学校だからだろう。全世界7%だし。
結局、邪神とは何か。
スタンダードに考えるなら、人類の道徳観が生み出した正に負の産物だろう。
しかしそれではつまらないと思い、別の答えを出した。
それが邪神=妖怪説である。
邪神は見ると発狂するが、一部なら問題ないらしい。その一部として見ているのが妖怪だという仮説だ。眷属等もその様な特徴が一致している。・・・よって邪神は丁寧に隠されたものであると言える。
「・・・妖怪も観測されている範囲で言えば、地上が圧倒的に多く、同時に動物に類似、或いはその派生の傾向にある。」
取り敢えず探すなら海より山、山中他界と言うし、乗馬の上手いイタコ芸人も定期的に成分補給をしているそうだ。
「山だ!山に行くぞ!」
「ヤダ。センスの無いデートじゃないんだからさ。」
「じゃあ妥協して今日は喫茶店に留めよう。」
「どういう基準でそれ選んでるのねぇ。」
「そういう心理学的な効果があるからやっただけだ。」
「どうして濁すの?」
「数少ないアドバンテージを譲ったらお前は絶対に使いこなすという確信があるだけだ。」
・・・少し悩む、邪神の存在について・・・。
思い返してみれば、自分のではなく彼女の心臓が変えられた、これは恐らく拒絶反応を考慮したものだ。何故自分には別の心臓を埋め込んだ、何故生かした、そして、なぜ戻さないのか。自分の心臓は変えられないのか?不便極まりない。彼女と一緒という恩恵があるから文句は無いが、文句を抜いたら疑問は多い。
神話は二種類存在する、多神か単神か、後者が人間的な傾向が強く、つまり分かりやすいし身近だ、そして国境内での揉め事に強い。前者は各地に神がいて、それが統一されて出来上がる・・・国境を越えた状態に強い。その為災害の数や、土地の品質だけで大きく変わる。
それをグローバリゼーションに持ち込むなら、邪神は信仰の集まる・・・災害の地に集結する。
廃神社もそれなりに多く、邪神の住処に最適だ。
それだと思っていたが、神すらも食らい迷わせる妖怪がいるという話を聞いた。・・・妖怪は邪神を防ぐ為に残されたのではないか?とも思う。
取り敢えず、日本国内は怪しい。邪神は強大な力があるが、信仰に縛られる存在も多い。
何より、多分他国だったら邪神だとか言ったら普通に火炎放射器とか持ち込まれるだろう。
「・・・仮に邪神がいるとしたら、その心臓が狙われる可能性が高い。」
「確かにね。宗教の信者を揃えるには最適な力だ。」
彼等は知らない、有名な邪神も、無名の邪神もこの世界には存在する。その中で見れるのは知名度の高さがある一握りだけ・・・未知に備える事は出来ない。
「・・・喫茶店と山は、それぞれ監視の目を掻い潜るのに最適だった。」
「まさに攻殻機動隊って感じね、客全員を協力者にして阻止する。」
「よし、全員情報を提出しろ。」
・・・山であれば機械的仕掛けが難しく、喫茶店にはそんな金は無い。その為他校から奢る事を条件に図書館の情報を収拾、自分達の箇所だけ異様な事を確かにした。これは彼女の交友関係あってこそだ。
「やはり異常だった、恐らく学校内に邪神がいる。」
「学校内の予算資料のシュレッダー後の資料から探したよ。あの本は全てカウントされてなかった。」
「外部組織への通報だ、出来るなら公安や連邦捜査局が良い。」
「それなら電子決済はどう?」
「電子決済?」
「電子決済のプロフィールは滅多に見られないし、そこに『予算から不明な書籍による反政治的活動を進め、脱税疑惑がある。』と書き込んでニトログリセリンの材料を大量に買い、調査の過程で気付かせる。」
「・・・よし、それで行く。」
彼等二人は動き出した、学校を暗に告発し、邪神に対抗する勢力を作る。そして、数日間は薬局と花火製造業者の元を回り続ける事になった。
この学校の生徒会長と言えば誰か・・・恐らく、名前を聞けば『あぁ、コイツだな』と分かる。
平等院暁音、自分の腹違いの姉であり、父の浮気相手の子である自分とは違う・・・が、嫌ったりはせず、寧ろ申し訳ないと思って優しくされる。
星奈と暁音は異常に仲が悪い、どちらも世界史・日本史に強く、全国の順位で争っている位だが・・・先ず、支持も違えば意見も違う、ディベートが修羅場になる。淡々としないのだ。その余波で自分は血が回り過ぎて吐いたりする。
もう一つ言うと、自分の姓は坂、坂義一である。
実は、生徒会長以外にも勢力はある。第三勢力の代表こそ青空星奈だが、第二勢力・・・言うなれば野党勢力として存在するのがこの高飛車。
「失礼。」
「よろしくてよ、義一。」
「誰?」
「扇谷僥倖、自分と星奈の雇用主だ。」
もし星奈がいなければ彼女に恋していたであろう。言わずもがな、彼女は善人、特技は確定申告、嫌いなものは請求書、計算速度や情報のエキスパートである。
「金持ちとしても有名だな。」
「え?どこの?」
「多分知ってる、B2Bの中でも最大手、建築、自動車、電子機器に半導体、そして原子力発電所を手掛ける『綴屋技研』の・・・。」
「社長?」
「いや、中間管理職。」
「言い方が微妙なだけでもっと凄いのよね!?」
「本人がネタにしてる位だからな。」
彼女は特殊な体質で、血液型による拒絶反応が起きない上で、免疫はしっかりと機能している。また、心臓の25%は彼女のものらしいが、あまり覚えがないから気にするなと言う・・・人格としては、かなり善性の塊みたいな人間だ。
「・・・まぁ、色々紹介してくれてありがと。」
「だってさ、照れるのが他人依存だから全然変わらないね。頑張って探してね。」
「(コイツ結構畜生だな。)」
さて、最近はいつの間にか入ってきた生徒が多い、というのも宗教系な上規模も大きく、移籍する事もまちまち。
その移籍の理由が、邪神に関わっていた。
・・・というのも、開祖の一人は過去に邪神との接触を繰り返し、撃退を成功させ、その手法としてフィリピン爆竹を広めた。
その中でも注目すべきはノーデンス、知名度が高く、救助された事もあったと。
仮にあるならば今の所接触すべきはノーデンスやヴォルヴァドスといった人側の邪神である。
「このノーデンスというのは割と有名らしいな。」
「ケルト神話の系譜だね、邪神扱いな事が衝撃だけど。」
「フィリピン爆竹からしたらどの神にせよ邪道なんだろう。」
ノーデンスを探すにしても、いるだろうか。
「噛んでいそうなのがニャルラトホテプだとして、ノーデンスはどう関与するか次第だ。」
例えばドリームランズに関してで協力している可能性もあれば、敵対しつつ関与しない方針か、ただ一つ言えるのは、ノーデンスは教師側で、ニャルラトホテプは生徒側、その方が都合が良いと判断する筈だ。
正気かどうかが問われる中で、渥美佐一が信頼され過ぎるが故に教師は信用が下がり、掌握が難しい。混沌の為に隅々まで動かすか、守る為に最低限スムーズに動くか。互いが互いを牽制出来る立場になるべく別々の役職とその相性に合わせた配置になった筈だ。
「星奈、経験則的には?」
「目星はあるけど多分そっちの方が信頼出来る。」
「・・・そうか。」
上に立てていない、つい最近加わった人物か、人格が入れ替わった様な人物。化身という概念の影響で既に人が紛れ込んでいる可能性もある。
物語は止まる様に動き出す。
詰まるからこそ面白い。
「ただいま、姉さん。」
姉は、病床に伏している。
姉の名は坂無二。
自分の心臓が半分消し飛んだのは幸運だった。
彼女は十五歳年の差があり、親が蒸発して以来働き続け・・・その結果、意識も壊れている。
「・・・。」
自分は平等院が許せない、姉を見捨て、姉を壊す経済システムを作り、姉を見捨てる政治システムを作った。
暁音を下ろし、そこからボロを出すまで暁音を人質にする。そして邪神の一連の責任を押し付け、あの父親を殺す。
その為に心臓は必要だ、星奈は巻き込みたくない。
自分は彼女の手に加えて、自治体は見逃していると記録し、終わらせる準備を済ませていた。
そして、その中であるものを手に入れた。
核の血、原子力に汚染されてなお生存する血である・・・正確には、クトゥグアの血。自分には分からない。原子力で完全に危険物となった物質である。そしてこれは彼が敵対する神性を消す為に作り、ニャルラトホテプはこれを危険視し逃げた。
正確には「耐えれるが他者を巻き込み過ぎる」
その為抑制が出来る状態で戻る必要がある。
そして、一つ答えを提示しておこう。
無二は邪神に呪われ、石化している。
解呪方法は無い。しかし生きている。
石化と言っても石灰の様に、白く結晶の様になっている。
そして、心当たりはある。
その邪神を、人はガタノソアと呼ぶ。
日の元に世界を探る。その日は赤く眩しい。
「人を見た目で判断するな」
この言葉には裏がある。
この言葉の全文は「人を見た目で判断するならその人間の特性や特徴を全て抽出、そして外見から推定出来ない要素を挙動から判断し、その上で判断して構わないと支持出来る理由を満たせた場合、漸く判断して良い。」
人は善性を扱える程優秀な個体が滅多に出現しない。また、善性は悪を許す心も必要で、正義ではない。
そして、今や悪は増えた。
今やイングランドではでは人口15%の知力と嘗て産業革命の時代で従事していた労働者が同じという話がある。そしてこの本は知力に欠ける人間にとっては忌まわしきものであり、その結果メディアを用いた袋叩きとなった。その為この本は外国人作家のものなのだが、英訳されていない。
他の欧州で行って例外になるのは妥協してスペインとスイス、オランダにベルギー位か、少なくともイギリスを真似た罵倒をする割には本質を何か理解していないフランスとドイツには無理だ。唯一確実な例外はベラルーシか。
悪だ、悪夢だ。
人は邪神へと落ちれる。
他生物の恐怖の象徴だが、懐けば恩恵があることもあれば、惨殺される事も、出来るだけ苦しまず殺す事も、剰え食らう為にそうする事もある。
人は邪神と言って十分な素養がある。
人は邪神と罵って足りる要素がある。
そして、その上で「人を見た目で判断するな」
つまり、最終的に悪しかいなくなる。
人は見た目で判断した所で無意味になる。
それなら悪と分かっている上で、最低限法を守ったり、多少騒ぎを起こす程度の外見の良い人間の方が良い。故に、ルッキズムは人間の社会的性格であろう。
まぁどちらにせよハズレくじは入っている。
これが生徒会長として危惧している事だ。
自分は全てを支配出来る訳ではない、あくまで民主政である。
・・・だから、義一を守らなければいけない。
・・・だから義一を助けなければいけない。
あの父親は、浮気という問題があったから捨てたのではない、彼が男だったから、そして秀でた外見にならないから捨てた。
そして私は、彼を助ける。
彼を助ける事が一番の救いだ。
人の命の不平等は、良心によって是正される。
資本主義は確かに人を豊かにしたが、国別、国内の格差を見ずに言っただけのまやかしである。
人は知性が貧弱だったが為に共産主義を扱えず、人は知性が脆弱だったが為に資本主義で世界を壊した。
その結果が、確かな存在である邪神の利用だった。
邪神を利用し、人は神の勢力争いによる資本主義・共産主義の理想を実現する。
そこに平等性も光もない。確実に破綻する生の中で、彼等は選択を強いられる。
友利恒星は観察を続けた。
人の遺伝子は何一つ変わっていない・・・それは昔からの出来事だったのだろう。
「邪神の争いを地球という特殊な環境下で行う。」
酸素が大量に存在し、生命数が圧倒的に多く、個体値を何度も調整・ランダム生成する事で強固にしていく。神よりもサイクルが早い。
・・・ならば、邪神の価値は地球上で証明する、人類という第三者を用いて争う。
正直、コピペなら分かるがそれ以外は分からない。
「だが、俺自身はそれを認めていない。」
彼は、実力不足の己を信じなかった。
信頼を築き、安定させてから腐敗する様に仕向ける。
世界はそうやって進んでいる。
金持ちが世界を支配する方法。
それはあらゆる場所にひそませる事だ。
遺伝による対処、それでも突然変異には対抗出来ない。その場合は買収するか、買収出来ないなら情報量と実力差、或いは殺害によって超える。
学校という信用を積み重ねた施設を、人類は否定出来ない。
学術論文という人が積み上げた叡智が既に腐敗していたとしても、人類は戻れない。
腐敗と効率化は同時に進み、王朝交代も政権交代も、一から作り直す事はない。
だが、妖怪が存在するからこそ、自分は思う。
「これは人間の亡霊ではないか。」
そして、その正体は・・・。
人類の情報化媒体、そしてそれに基いた精神的圧迫。
その目的に気付いた時、認知的不協和の苦しみに襲われた。
彼はその正体を知った、そして、笑わなかった。
ニャルラトホテプがあの学校に戻れる条件は二つだ、外部の人間が調査で侵入した場合、クトゥグアは関与を控えるだろう。その為侵入が可能になる。
次に他の邪神が攻撃行動を起こしていない場合。邪神の暴走は周囲を巻き込みやすい。自分が制御下から外れた場合計画が破綻する。
どんな混沌も、秩序が無ければ意味が無い。
その中で、一通の連絡が届く。
生徒会長が重体と聞き、有無を言わず戻る。
彼女は不味い、彼女はこの学校の資金源の一人、邪神の関しての拡散を行ったのもその資金あってこそ。
自分は複合的に邪神を利用する事でロケット発射台を奪い、アザトースに到達する。・・・それにおいては、クトゥグアが邪魔になり過ぎるのだ。
確実に生徒は狂気に当てられ、着々と危険な状態にある。信仰と恩恵による精神強化は難しい。信仰を下手に広めれば感知され、広めなければ制御は出来ない。
信仰は死んでも継続する。死んだという事実は変わらず「その人間が死んだという体」で信仰され、死が確定する。
信仰は、嘗て宿った人の性質も混ざり、次の人へ託される。
生贄、信仰を支える生贄・・・そして。
生き続ける贄、それを人は生贄と呼ぶ。
神の一部として、或いは、神の利用として。
時代は巡る、神は巡る。
さて、そこで質問しよう。
人に身体がなく、情報がその根だとすれば・・・人は何は死をどう受け止める?
ある病院に、宇野刹那という医者がいた。若く、優秀。だが、それに匹敵するもう一人の医者がいた。言うほど老齢ではないが、他国で軍事病院にいた人物らしいが・・・。
取り敢えず、言えるのはどちらも出自が不明であるという事だ。
「・・・昔の事か。」
「そうです、心臓の一件。軍事兵器を民間に投入し観察するという検証に関してです。」
「アレは色々怪しい話だった。だから私がここに入れられたのもその影響だろう。」
「十億程度、誤魔化す金が動くとしても?」
「違う、利益ではない。損失を回避する為に十億を支払っただけだ。」
「・・・坂側に問題があったと?」
「間違いない、あの患者こそ狙いだったのさ。そして結果は成功、彼女は心臓を活用し、彼は生きながらえた。・・・そうだな、彼女をずっと傍に置くことで、センサーにして・・・。軍事従事者として戦略的に有り得ると思うのはその線だ。」
彼を狙う、彼を生かす。それにより事実上の封印を可能とする。
「この国では一人あたりの生涯収入は一億と少しだそうだ。そして、今までは十二人程度の生贄を年に必要とした。」
それなら、十億程度は安いものだ。安定した環境と研究施設でそれを使える。法的制約はあるが扱ってるものの影響で表に出る事はない。
「・・・私に託した方が利益になる、その程度の考えだろうよ。」
説得がし易い、合理的な方法だ。それ以上の事は可能だが、自分は自分の研究データ、いわば最も利益に近いものを探しただけだ。
「・・・お前、邪神だろう。人間側みたいだが。」
「産んだ側だ、全て辿れば私に辿り着く。」
「じゃあなんでこんな事を?」
「人が急激に減った、邪神として足りる程度の状態になってから急激にだ。記憶を強引に改竄しつつ、溶け込んで今に至る。念の為監視役を数年配置し入れ替えただけだ。」
「・・・ならいいか。」
邪神の在り方はどうだ、その生き方はどうだ。
そのレベルの話ではない、彼を実験動物として扱ってる問題無いか、人間と邪神が混ざった存在をどう扱うべきか。彼は人間か邪神か。証明する方法は無い、そして、それを今後説明する事もまた不可能だ。
「人の命を無意味に踏み潰して生きれるのだとしたら、私はその人類を見捨てる。それに意味があるか、許される余地があるか・・・邪神に仇なすならば私も同じ様に仇で返す。」
仕方ない故にそれは当然だ。殺されるべくして殺される。
「邪神側だろ、来たのは。」
「大半はそうだ、だから救済措置だけは用意している。」
「なら手は抜いてもいいか。」
「人間が滅んだ時は私が立て直せるが、一つ警告するなら私は原初しか覚えていない。進化の過程で間違いなく同じ姿にならないだろう。」
「・・・救済措置だな、誰も救えない所が特に救済措置に似ている。」
「・・・これはあくまで人類への救済措置で、邪神が増長して支配された場合は別の惑星で実行する。端末で行ってはいるがほぼ手作業だからキツいんだ。」
「そこら辺の山を自分が掘り返したとか言いそうだな。」
「やった事はある・・・というか、やらないと氷河期の様なバランスによる抑制から倫理観や経済維持の為というシフトが出来なくなってしまう。」
「それしか救済措置が無い・・・つまり人類はほぼ死滅か。手間もコストも流石に重すぎる。」
「もう98%はもう持ってかれた。まぁ、逆に幸運だな。生き残りが増えて破綻するよりかは。」
「ちなみにそれは、邪神無しで超えれる問題か?」
「無理だ、邪神の力が無ければ抑えれない。そして、人類の異変次第である神格が目覚め、宇宙ごと終了する可能性が高い。」
「・・・それに解決方法はあるのか?」
「ある、だが、その為に人口が減った事は伏せた方が良い。」
自分の家族は少なくとも死んだか、結構だ。家族ごと犠牲になった連中に比べれば幸運だ。
「異質な人間だ。」
「合理的なだけだ、情に流され過ぎな連中を比較対象にされてもな。」
「人の心を忘れてない所は良いと思うぜ、私としては。」
「こう見えてギャンブル中毒でね、リスキーな賭けの為の心構えだよ。」
人の意地か、神の仕掛けか。直線に並んだ希望はどこで止まるか、動き始めるは人の意地、一本線を手繰り、その糸は切れぬ様に紡がれ、糸を辿る医者は糸の先を目指す。
不協和音はバックではなく、ブレーキである。ヒトは感情にブレーキが無い。上がったり下がったりを続けるが、それを強制的に中断し、一時記憶を事実上のリセット状態にし、判断を難しくする。
糸を動かさない事で維持し、リスキー・シフトを停止させる。
彼の心臓を変えたのは、邪神を食い止める為だった。
心臓を託せ、命を差し出せ、人類ならば有効に使える。狂った世界を止められる。
「私は義一が大嫌いだった。」
その心臓は、いつの間にか差し出されていた。
母親が奪った、そう思っていた。でも。
「貴方の心臓は脆く、いつか死ぬ筈のものだった。」
扇谷僥倖はその心臓を思い出す。自分は邪神に心臓を差し出した。彼が邪神でないのは、強制的に人間だと認識させるべく、私の心臓を埋め込んだからだ。
生贄の対価、喜ぶべき祝福がそこには残る。
私は義一という人間の憎悪と復讐心から信じてしまった、その愚か・疎かがやがて仇になる。
「・・・貴方なら、私の間違えを正しく出来る。私はそう信じています。」
思い留まり、踏み留まり、その心臓は残された。偶然か、仕掛けか、聞くことは無かった。
「私がその為に少しでも長生きしたと、貴方だけでも理解して欲しい。」
宿るは邪神の残滓、そしてそれに邪魔をする彼女の幻影。
自分は、彼女から離れられる様になっていた。
それは同時に、邪神となった事も兼ねていた。
いや、正確には、最初から邪神であった。
信仰が溜まっていた。集まってしまった。
壁越しで着替える星奈を他所に、録音を再生する。
・・・あの事件は、お前を狙った事件だ。そして、抑制と遅延に成功した。
正体は分からない、邪神である事しか分からない、だが、死ぬべきというのは事実だ。
苦渋の決断だ、悔しさ一つ無いが、苦しいのだけは事実だ。
星奈は、どうなる。
星奈は、生きれるか。
星奈を・・・守れるか。
分からない、だが、彼女の着替えが遅い内に、全て決めてしまおう。
もうきっと粗方死んだ、ならば、残りは守るだけだ。この暴虐には多少疑問があるが、仕方ないだろう。
しかし、一つだけ分かった。
クトゥグアは、守れなかった命を傍観した。
教師陣はやめろと言ったが、意地を張って殺される馬鹿な子がいたのだ。
愚かな選択だが、悪しき選択ではない。
「・・・君は、いや、人間では・・・ないか。」
その手を取るまでもなく、一つ告げた。
「ショゴス・ロード、君は坂義一という人間に会いに行け。彼の封印を紐解けば、きっと君の望む結果になるだろう。」
・・・その言葉を聞いて、すぐに彼は動き出した。
「・・・君は、その選択をするか。」
・・・与えられた選択は少ない、だが、自分は人類を壊す事選択肢に加えた。・・・つまり、殺す覚悟をした。
監視カメラの接続は完全に消えた、邪神が集まる中、人は徐々に狂気が迫っている。
人間は、生かすことだけでなく、殺す事も経済化してしまった生き物だ。その片鱗自体はあった。生物は死骸を分解し、再利用するというシステムだ。土葬や火葬もその経験則の一つだろう。
分かりやすいシステムで言うなら生命に関与した保険。病気の症状や病院での状態や治療の度合い、生死に関与して金を受け取れる。以後の生涯の収入を失う対価として治療費と収入を補填される。
経済規模の拡大により、人一人の死はさして重いものではなくなった、仕事の穴埋めや、新たな雇用によって経済効果が発生するのは当然、試験でも無駄な数が減り、予備を減らし、資源消費を減らしつつ実際の経済は既に動いている。
それは同時に、平等に戻す為に経済が発展する。苦痛の解消や負担の軽減で保険の金も消費しなければならない。
そして、どこかで人は気付く。
多少殺して問題無いなら、それの方が儲かるだろう、と。
その結果、人は殺される。
・・・邪神を相手取った時、人の命の燃焼を利用して燃やした時・・・それは生物として褒め称えるべきだろうか。
デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。
簡単に言えば、神様が登場してご都合展開で片付けられる。よくある話だ。賢くはないが、王道ではある。
しかし、彼はそれを人の手で用意した。彼自身は人ではないが、人を逸脱しない程度に仕組みを利用し、自分を完遂して・・・。
轟音と共に暁音が飛んできた。
「・・・。」
助けるつもりは無かったが、受け止めてしまった。
だが、自分が自分の正体に気付いた以上、彼女は生かさなければいけない。自分が生かされようと殺されようと構わない・・・彼女なら、どうにか出来る。
そう、拾い上げた。
もう自分は上手く笑えない、現実を忘れて、光を背けて、眩しい目の前を見る事はない。
嫌だ、嫌な光だ。
目を閉ざしたあの日から、段々色褪せる世界を見ていなかった。
誰一人色を塗ってはくれなかった。
もう色を見る事はない。
自分にとって、色は数字上の相性でしかない。
ヒトは本質がコンピュータと共通した機械でしかない。
・・・そして、消耗に気を落とすのだ。
疲れて笑えない、そんな日々だった。
・・・人は複雑な動きをしない、単純な行動原理に複雑なものが宿る事はあるだろうが、単純な計画でなければ基本的に破綻する。
暁音を背負って歩き、保健室まで辿り着く。
「・・・もう少しだ、僥倖が繋いだ命を無駄にさせない・・・。」
立って歩いて、そして、録音を聞き続ける。星奈はいない、一人で立てた。
方法は至ってシンプル、本の通りに人を口説き、自分の信仰の足しにした。
保健室に赴くまでは長い道程を渡る、その果てに命を切らすとしても、意地で渡り続ける。
我等はどこかで間違えた、だが、間違いに気付ける事はあっても、直す事は出来ないだろう。
「園田、お前はどちらだ。」
「・・・それを考える必要がある事なのか?」
「悪いな、こんな事になるとは思わなかった。」
「いや、ここまで事態を収束出来る一手を打たれるとは思わなかったさ。どうせ同じ考えなのだ、その通りに進めるつもりだよ。」
「・・・だが、知りたい事も多い。邪神なのは分かるが、それ以上は知らんのだ。」
「ガタノソア、それがお前の正しき名だ。これで満足か?」
「何故彼女の心臓を変えた?自分が邪神で、捉える為なのは分かる。」
「あの日彼女が心臓を変えたのは、お前が部分的に心臓周りだけを石化させたからだ。お前ではダメだった。だが、結果としては一番マシな状態だった。」
「・・・。」
「・・・何より、その中身の人間とやらが余程大事らしい。・・・ああ、違う、そうじゃない。」
人間に不慣れな彼は、発言を訂正する。
「全ての人間が大事だから、そう努力する。切り捨てて終わらせない、切り捨てる事は未来における損失も多い、リスキーではあるが、楽観的で希望的だ。嫌いじゃない。」
・・・誰かが、大切に思った。
・・・誰かが、有意義に思った。
それは個人では生存の為に捨ててしまう選択だが、社会においては違う。
誰かが背中を押してくれるなら、誰かがその手を掴める。社会は欠陥以上の恩恵がある、有象無象と見捨てた誰かは、無数の手として救いに及ぶ。
「・・・感銘を受けて英雄的行為に及ぶ位なら、意地で生きるべきだ。」
しかし、その「意地」を支える正気は日ごとに削られていった。
学園の空気は静かに濁り、笑い声や雑踏の中にも狂気が混じり込む。
神格の影響は、もはや外から訪れるものではなく、人の心に割り振られる割合そのものを食い潰すように広がっていた。正気は残り火のように小さくなり、取り戻すことは叶わない。教師は研究のために自ら狂気へ沈み、生徒は信仰を数字のように比較して勝敗を決める。誰もが自分を正気だと信じていたが、既に「正気」という概念自体が瓦解しつつあった。神格は縮小していた──巨大な力として顕れるのではなく、細切れの断片が日常に常駐し、人々の思考を僅かずつ侵食する。教室の隅、廊下の影、黒板に映る落書き。誰も見たくない「異形」がそこにあり、しかし見てもなお「異常」と呼ぶ者はいなかった。もはや、とても正気でいられる状況ではなかった。
邪神を揃えて人を作り上げた時、それは人であろうか、邪神であろうか。
いいや、若しくは。
人は、邪神を材料に作り上げた封印の集合体なのではないか?
現実を示す光は、もう既に無い。
残されたのは歪んだ学園の景色だった。講義は崩れ、教師は書物の陰に籠り、信仰を数値化した生徒たちは互いを測り合う。小さく切り分けられた神格は廊下に、教室に、机の影に潜み、人間の正気をわずかずつ削り取っていった。笑う者はいても、それが正気による笑みかは誰にも分からなかった。希望は散り、狂気が日常の規則となり、学園は正気を忘れたまま動き続ける。
それでも、坂義一は諦めない。
「・・・いや、邪神の性質はキッチリ利用させてもらう。」
坂義一は性質を読んで覚え、実行する。
「・・・園田、頼めるか。」
「・・・そうか、お前はそうするのか。」
「彼女に手を下される位なら、だ。」
その言葉は軽い虚勢ではなかった。星奈を守るためなら、自分一人を犠牲にすることに迷いはない。邪神であろうと人間であろうと、その境界が崩れた今でも、彼にとって確かな現実はただ一人の女の存在だった。誰に忘れられても構わない、世界に刻まれなくても構わない、彼女の心臓を守る為に自分の心臓を差し出す──それだけが義一の選んだ答えだった。
「・・・自分もそうしたのだから、止められる訳が無い。」
彼女のしたことを、自分でし返すしかない。恩返しとして、彼女が差し出した分だけを自らも差し出す——その痛みでしか償えないのなら、躊躇はしない。彼女が与えた救いを同じ形で返すこと、それが自分の残された義務であり答えだった。
「その存在を否定する、坂義一含めて、ガタノソアを消去し、保存したままトラブルの全てを消失させる。・・・あくまで応急処置だ、電子記録や紙媒体含めて物的証拠は残る。変わり過ぎると悪影響が多過ぎるからな。」
「・・・それでいい、彼女の為に痕跡を残したい。」
「・・・それがどうかは知らないが、私ならばもっと上手くやれるだろうな。」
「・・・見せれたら、是非見せてくれ。」
「運んでいってやる、全てが終わったら・・・時間ごとな。」
その言葉が届いた直後、義一は静かに連れ去られた。監視映像は途切れ、出入り記録は抹消され、彼の存在を示す物証は次々と消えていった。教室の隅に残された血の跡はすぐに拭われ、彼の机は誰かの手で整理され、名札は消えた。外部に伝播した情報は回収され、事件は「処理」されていった。学校側は公式に説明を用意し、騒ぎは沈静化したが、誰もが心のどこかでその空白を感じ続けた。
言葉にしてしまった瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。思い出せないのに、確かにそこに誰かがいた感覚だけが残っている。名を呼べないのに、涙だけが込み上げる。
「・・・あれ、義一君は?」
「・・・義一君って、何だっけ。」
「多分人名だけど・・・知らないなぁ。」
・・・平等の天秤は傾き出した。
これだけ痕跡があれば人は気付けるだろう。
「・・・間に合った。」
自分は彼女の手を取った。
その心臓は脆く、もう動かないが、そっと当ててやればまた動き出す。
「悪いな・・・記憶の改竄は任せていたから君だけは助けたかった。」
「あの子はいいのか、君の敬虔な信者は。」
「生贄を途絶えさせてくれた功労者・・・悪いとは思っているさ。」
「酷いな、お前。」
「返す言葉もない。」
「・・・信仰はまとまらない、神はいつも異なる。」
それは考えが相容れないから、他に同じ神を信仰しているのが不快だと突き放す事もある。
しかし、邪神の排除は無理だ、人間の改善も無理だ。ならばせめて共生の道を選ぶ。
「・・・間違えたさ、何度も。」
「・・・あとは、ひっそり去るだけだ。」
そう意識は消えていった。
何か重い音がして、繋いだ手は空振った。
ショゴス・ロードは笑わなかった。笑う余裕も、笑う意味も既に消えている。
彼の眼は深く、そこに映るのは消えた名と薄れた鼓動だけだった。義一は「死んだ」のではない。ただ、世界が彼を忘れ、信仰が剥がれ、存在の輪郭が溶けかけている。呼び名も記録もない場所で、彼は薄く息をする──それだけが残された証だった。
「ならば、受け入れよう。」
ショゴス・ロードは低く囁き、義一のそのかすれた生を抱き留めた。触れた瞬間、義一の虚ろな心臓は冷たく震え、何かが吸い上げられるように光が零れた。信仰の粒子、名付けられた記憶の欠片、誰かが彼に向けた一度の視線が、ショゴスの掌の中で粉塵の様に滲んでいく。
だがそれは救済ではなかった。
ショゴス・ロードは受け入れたその「余り」を、人に還す代わりに、別のかたちで返した。義一の痕跡──その肉体の蒼白、鼓動の残響、忘却の香りを引き裂き、学園の隅々へと撒き散らすように展開したのだ。廊下の石、黒板の擦れ、体育倉庫の錆へと、彼の残影が触手のように伸びていく。
触れたものは逆に固まった。
それは直線的な石化ではない。触れた瞬間に「存在の輪郭」が押し固められ、内側から息を奪われるようにして結晶化する。声帯は砂粒に変わり、瞳は磨耗したガラスのように曇り、指先は石の節になる。まるで時間が凍結する前に、存在そのものが「保存」されるかのように。
学園はたちまち小さな石像の森になった。
人々は動かないわけではないが、その動きはぎこちなく、不自然で、まるで誰かが糸を引いている操り人形のようだった。正気が薄れていくのではない。正気はその場で圧縮され、余剰は切り取られ、粗野な形で石化という形に閉じ込められていった。
ショゴス・ロードは黙ってそれを見下ろした。義一の余白は学園のあらゆる場所に残り、その断片が人々の思考を引き裂いて回る。義一は、そこで完全に消え去ったわけではない。彼は生存しながら、名を奪われ、分割され、学園の構造そのものに埋め込まれていった。
生きているのに、誰も彼を「知る」ことはできない。あるいは知ってはならない。そうして、学園は静かに、しかし確実に、義一という存在を核とした新しい固まりへと変わっていった。
目が見えない、耳が聞こえない、鼻では呼吸が出来ず、口で舐めては触って前に進む。
機械に巻き込まれる、触れた感触は鋭く深く刺さる。
酸に溶かされる、隙間から痛みが押し寄せる。
再び圧縮され、人間の原型は留めていなかった。
誰も知らなかった、そして、学校は密かにマークされた。
仮称:坂義一拉致監禁惨殺隠蔽事件。
これが全校生徒・教師含む内の犯行により隠蔽と殺害事件であり、最終的に学校は解体される筈だった。完璧過ぎる隠蔽だが、死体だけは残っていた。殺害理由はテロ計画の暴露・・・恐らく内通者というよりは離反者だが・・・その為、同様に離反を起こした青空星奈を確保したいものの・・・消息不明となっている。
しかし、民間人の被害が甚大になると考えた結果、こちらは数人の協力者を配置した。
先ず、ハカリ・アマノ、彼は神性を宿し、人類として顕現した以上神を殺せるか試したい、と言いつつ基本傍観すると約束、潜入した。
次に田蔵コウボウ、未来予知に近い力を有している。本人曰く時間遡行らしい。外部の人間だが今はそれでも十分だ。
また、今後も成員を逐次投入、内部からの破壊を刊行する。
ヴォルヴァドスは彼に力を貸している。邪神を殺し、人類を侵略から守る力・・・それを人として振るう。それがハカリだ。
そしてコウボウ、彼は運勝負で完全に勝ち切り、思考を読み取れば平衡感覚を壊される。彼は邪神の手を借りた実力者らしい。
ハカリの方が信用出来るが、抑制出来る様に互いに存在を教えない状態にする。それが良い。
そしてハカリは、学校につくなり芸術を描いた。
芸術によって、彼は秘密を握った。
既に情報は調べきった、生き残るか生き残らないかはお前達次第であると。
遺体はあまりにも悲惨だった。ミンチならまだ良かった。煮凝りならまだ良かった。大半を欠損し、程度のサイズがほぼ均一で、ピンク色の塊になっていて、PCR検査で照合した、いや、それ以外では照合出来る程残っていなかった。
人間は150cm程度として計算しても20万立方cmはある、だが、この塊は5万立方センチメートルもない。その上で、ハカリは言っていた。
「これで全てだ、欠損した箇所は無い。髪の毛すら周到に溶かし、水分も全て消して、工場機械に入れたのさ。それでも繋がっている辺り、やはり邪神だったらしい。」
邪神の中でも数人は既に殺されたらしい。
青空は砕け、闇の奈落が広がる。
「彼はきっと、その光の届かない水底を見せずに、」
「やり方だけは覚えている、今は苦手な笑顔で、目を瞑り、笑ってくれるのだろう。」
「そこに光は届かないだろう。光に面と向かう事はないだろう。」
あの心臓は、静かに動く。
もううるさくなる事はない。
静かに、静かに響き続ける。
彼女の苦しみは共有され、近くにいるだけで苦痛になると遠ざけられた。
美しさは疲弊して尚残る。
そして心臓は完成した。あの邪神の封じ込めに成功した。
太陽が消えた中、夜の内に書き換える。
「いあ、いあふぉうまるはうと・・・。」
その中で、人が暗くならない様に、恒星を灯す。
「・・・お前も、彼女を置いていくのか。」
出力は調整出来た。失敗して数国程度沈んだり燃えたりしたがそれは置いておこう。太陽が一時的に消失・・・邪神が襲来した事を確認した。
「・・・待ってろ、今探してやる。」
しかし、居なくなったこと自体は分かるがそれ以外は分からない。自分はそれを察してでも
アレは無駄に陽の光を目に宿し続けた。
空の上を見上げる・・・否、上の空なのだ。
人は絶望する度に空を青い事ばかり理解してしまうのだ。
星奈は彼の手に届かず、無意味に動き続ける心臓を長め続ける。
血も涙も通っている、死んだ人間を見て。
思い出せない、親交が無い。
分からない。
しかし、それに似た誰かが居た。
「ここか?ここだよな。今日からなのに迷い過ぎてもう夜に差し掛かってしまった。」
自分に様々なやり方を教え、使える様になるまで共に居た彼と。
「・・・おや、君は誰だ?関係者なら嬉しい。」
手を握られた時、逃がさないという意地、話さないという勇気があった。
「田蔵コウボウ、上司に言われて転勤して来た。」
彼は彼女に触れて・・・理解した・・・知らないのに、誰かが生きていると執着する。それによって生かされているのだ。
「未練があるのさ、きっと。」
かくして騎士と姫の物語は続く。
そして邪神は花開く。
花が落ちる時は美しいのに、
人が落ちる様は凄惨だ。
その上で、人になる事を選んだのだ。
生も死も辛いものにしてでも、その道程を知る為に。
その共鳴は静かになった、それを人は不快と思う。鈍いだけならそうはならない・・・コンロで何度も火を起こす様に、正しくついていない。
火を燃やす為に薪を入れるのではなく、火を炙っている様なものだ。
そして、彼は最初からいないものになった。
この世界に彼の居場所はなかった。
彼の居場所等無かった。
いや、作らなかった、ないものにした。それは現実ですらも対象であった。
だから不幸だけが残ったものの、不思議と世界は回り続ける。
・・・さぁ、物語は終わりだ。
以下は田蔵の報告書である。
『私はある時違和感を持ったのでここに書き記す。』そう始まった文書は続く。
先ず、近所の病院である人物が亡くなったが理由が不明だった。正確に言えば生きていた理由が分からず、死んだ理由自体は分かっていたが何が起きたかはさっぱりだった。
そして、零丁という人物はその事に関して過剰反応を示したそうだ。
青空星奈という人物だが、外見の割には気が弱く、記憶がごっそり欠落しているのが原因だった。名前を言うと齟齬が生じるのか、会話が上手く成立しない。その為別称を追加し
生徒会長は一気に体調を崩し、拍子抜けする様に変わった。餓死寸前だったが、持ち直したらしい。しかし、精神的に摩耗してからは求心力が下がっている。
友利という人物は前からそうだったが、見掛けるが減ったらしい。渥美の一件はかなり話題となったが、どうやら研究に没頭し始めたらしい。多分彼が一番マトモな人物だ。
・・・自分が時間を戻し、現実では二ヶ月、自分自身は五年間留まった。試行錯誤の内に他にも時間遡行者がいるという事に気付いた。目的が一致しているのか支援する人物もいたが、大半が敵だ。
一人心当たりがある、遡行と共に消えたが、存在すると何かと便利な人物が確認された。
しかし、時間を戻しても彼を見つけられなかった。坂義一・・・という虚構的人物。会ったことすらないが、彼は信用出来そうだ。恐らく見つからない様に姿を隠し、その結果様々なトラブルが起きた。解決出来るのは自分だけかもしれない。
問題は大体瓜田に集まるなら、そこまで難しい話じゃない。彼女を起点にこの学校を解明する。依頼主はやたら美女だった、なんというか、瓜田と同じ・・・同性からイヤミを言われるシンデレラタイプだ。彼女は同じ外見の土塊という人物を探せと言っていた。姉妹だろうか、そっちの方の詳細は不明だが、実力は確からしい。
そういえば、だ。
人は人の中身を見ると驚き、嫌悪する生き物だったな。
それは死への嫌悪ではなく、邪神への恐怖が背景なのではないか?
・・・そう、自分は思うのだ。
あの邪道な神達は、何の為に生きているのか。
邪神を内臓化し、生かして残しつつ人体を通して増やし・・・そして、アザトースに気付かれない様にする。
人類は、痛みや残酷さではなく恐怖でそれを見ていたのではないか?
神は都合良く仕掛けられた。時間は都合良く仕組まれた。
その背後の犠牲を誰にも知られる事はなく。
見事な舞台装置であったのだろう。
有象無象の区別無く、神は邪悪を駆逐した。
メカニカルに生死を与えられ、破滅させられたのだ。
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都合良く悪が滅び、善が生き残り、必要な人材と残し、やがて消えた。
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