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第二話
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朝、目を開けても、耳の中の線は残っていた。線は細くなったり太くなったりして、寝床の布の擦れる音だけを拾った。布をめくる指が砂で引っかかる。爪の中に砂が入って、白い。
口を開くと乾いていた。舌の上に粉がある。唾を飲むと喉が擦れる。水筒を探す前に、膝の上を確かめる。銃はまだそこにあった。重さがある。重さのせいで、体が少しだけ前に傾く。肩紐が首に食い込む。昨日よりも強く食い込む。首の皮膚が硬くなる。
外はいつもより早く動いていた。足音が多い。足音の間隔が短い。砂が連続で鳴る。短い命令が飛ぶ。短い返事が返る。短い咳が混ざる。
「いつまで寝ている。もう空があんなに白い。さっさと表へ出ろ、遅れるぞ」
寝床から出ると、空はまだ白いままだった。熱はすでに上から来ていて、皮膚が乾く。乾いた皮膚に汗が出て、汗がすぐに消える。消えた場所が突っ張る。突っ張ったまま歩く。
大砲の方を見る。縄が増えていた。昨日より外側に一本、内側に一本。二重になって、間が狭い。縄の結び目が新しい。結び目の繊維が立っている。立っているから、誰かが夜に張り直したのが分かる。分かっても理由は分からない。理由は聞かない。聞いても返事は長くならない。
縄の近くには、昨日いなかった箱が置かれていた。木箱。角が金具で補強されている。箱の上に布。布の上に紙。紙は白い。白い紙が風で揺れないように、石が乗せられている。石が紙を押さえているのに、紙の端が波打っていた。湿っているのか、汗なのか、誰かの指の跡なのかは分からない。
古い兵士が縄の内側で座っていた。座っているのに、背中は立っている。指先が布の端を整えていた。布の端だけがいつも動く。布の下に何があるかは見えない。見ようとすると、視線が引っ張られる。引っ張られるのに、足は止まる。止まった瞬間、肩が重くなる。銃の重さが増えたみたいになる。
昨日、一緒に石を鳴らしていた子が来た。今日は石を持っていない。手が空っぽで、指が落ち着かない。指の先が自分の膝を叩く。叩く回数が一定じゃない。
もう一人の子は棒も持っていなかった。棒がない肩は軽そうに見えるのに、肩が上がっていた。首の筋が張って、顎が少し前に出ている。
「……なあ、今日もやるか。昨日みたいに石を鳴らすやつ。あの大砲が動く前にさ」 「でも、あいつが見てる。棒を持ってない方の肩、あんなに張ってるし」
返事を出す前に、上から別の声が落ちた。
「勝手に散るな。そこに固まってろ。空から見つかったら、石の陰ごと焼き払われるぞ」
言われたから、散らない。散らない代わりに、石の陰に集まる。石の陰は相変わらず影が濃い。影の線を踏まないように足を置く。踏まない癖が勝手に出る。勝手に出るのに、今日は線が遠い。遠いのに狭い。狭いと感じるのは、縄が増えたせいだった。
しばらくして、空から音が来た。昨日の細い線とは違う。太くて、遠い。遠いのに、耳の中で一箇所だけが鳴る。鳴る場所が決まっている。決まっている場所が、空の一方を指す。指すというより、そこだけが硬い。
飛行機は昨日より高い。高いと影が薄い。薄い影が地面を滑る。滑る影を追いかけようとして、首が動く。首が動くと肩紐が擦れて、皮膚が熱を持つ。熱を持つのに、指が冷える。冷える指が銃の金属に触れて、冷たさが戻る。
昨日なら数えた。今日も数えた。
一、二、三。
三で止まる。止まるのは、音が遠いからだ。遠い音は遊びのルールに入りにくい。入りにくいのに、耳の中の線が一本になる。一本になった線が太くなる。太くなる線が、昨日の音を連れてくる。連れてきた音が胸の奥を叩く。叩かれて、呼吸が短くなる。短くなっても、足は動かない。動かないのに、膝が勝手に曲がる。曲がったまま、影に入る。影に入る動きだけは、昨日より早かった。
大砲の方で誰かが動いた。動いたのに、音はしない。音がしない動きは怖い、という言葉を出す代わりに、舌が上顎に張りつく。張りついた舌が剥がれて、口の中が鉄っぽくなる。鉄っぽくなるのは、昨日の続きみたいだった。
飛行機は通り過ぎて、戻らなかった。戻らないのに、動きは止まらない。箱の周りに人が増える。白い紙が増える。増える紙を持つ手が汗で濡れて、指が紙にくっつく。くっついた指が紙を剥がすとき、紙が少し破れそうになる。破れそうになっても、誰も声を上げない。声を上げないから、余計に目立つ。
昼前、大砲の周りの地面が掘られ始めた。掘ると言っても、深くはない。表面の砂を薄く剥ぐだけ。剥いだ砂を布に集めて、布ごと運ぶ。運ぶ人の背中が曲がらない。曲がらない背中が何人も並ぶ。
縄の外側から見ていると、石の色が一部だけ違うのが見えた。昨日は見えなかった色。昨日は砂で隠れていた色。色は濃く、乾いているのに濡れて見える。濡れて見えるだけで、匂いは届かない。匂いが届かないから、分からないまま目だけがそこに貼りつく。
貼りついた瞬間、肩が掴まれた。
「そっちを見るなと言ったはずだ。あそこの色は、お前たちが知らなくていい色だ。自分の銃だけ見ていろ」
手の力が強い。強いと骨が鳴る。鳴った音が耳の線に混ざって、線が一瞬だけ途切れる。途切れた瞬間、息が入る。息が入ると胸が痛い。痛い胸のまま、視線を外す。外した視線が自分の銃に落ちる。落ちたら、指が勝手に銃を撫でる。撫でると油の匂いが戻る。戻る匂いは、言葉より先に体を落ち着かせる。
昼の一番熱い時間、大人たちは影の下で紙を広げた。紙の上に何かの線。線が交差して、丸が描かれている。丸の上に石。石の上に指。指が線の上を滑る。滑った指が止まる。止まった場所で、誰かが頷く。頷くのに笑わない。笑わないまま、別の紙が出る。紙がめくられる音だけが続く。
十歳には、線が何かは分からない。分からない代わりに、紙が増えていくことだけが分かる。増えると、今日の終わりが遠くなる。遠くなると、遊びは始まらない。始まらないと、手が空く。空いた手が落ち着かない。落ち着かないから、石を探す。石を探しても持てない。持つと怒られる。怒られることは分かる。理由は分からない。理由は要らない。要らないのに、指が勝手に小石をつまむ。つまんだ小石を地面に置く。置くだけ。投げない。投げると怒られる。
石を三つ、一直線に置いた。一直線は、昨日の耳の線に似ていた。似ているから、気持ちが少しだけ軽くなる。軽くなるという言葉の代わりに、肩の筋肉が一瞬だけ緩む。緩んだ瞬間、耳の線がまた一本になる。一本の線が空の同じ場所を指す。指す場所が高い。高い場所は、昨日の場所と違う。違うのに、線は同じ太さだった。
夕方、また飛行機が来た。今度は一機じゃない。数が増えると音が厚くなる。厚くなる音が耳の線を押し広げる。押し広げられた線が二本になって、二本が交差する。交差した場所が勝手に決まる。決まると、喉が鳴る。鳴った喉を手で押さえる。押さえても鳴る。鳴るたびに口の中が乾く。
大砲の方が動く。動くのに、昨日みたいな声は落ちない。落ちないまま、砲身に布が掛けられる. 布が掛けられると砲が消える。消えたのに、そこにある感じだけが残る。残った感じが、耳の線と繋がる。繋がると、足が一歩だけ前に出る。前に出た足が縄の線に近づく。近づいた瞬間、また肩が掴まれた。
「下がれ。縄が増えたのが見えないのか。ここから先は、もうお前たちの居場所じゃないんだ」
下がる。下がると縄が遠くなる。遠くなると、線が細くなる。細くなっても消えない。消えない線が、空の影だけを拾う。拾った影が地面を横切る。横切る影が、石の陰を通る。通った瞬間、子供二人が同時に伏せた。伏せるのが早い。早いのに、誰も笑わない。笑いは出ない。笑いが出る形をしていない。
空が遠ざかっていく頃、大人たちは縄をもう一本増やした。縄が増える音はしない。結び目が締まる音もほとんどしない。音がしない代わりに、縄の位置が変わって、通れる場所が減った。減ったのに、誰も何も言わない。言わないまま、歩く線が固定される。固定されると、足が勝手にその線を覚える。覚えるのは遊びのときと同じ。違うのは、線の外に出ると肩を掴まれること。
夜、寝床に戻ると、耳の線は太くなった。太くなると、近い音と遠い音の境目がずれる。ずれた境目のせいで、遠い足音が近くに聞こえる。近くに聞こえるのに、幕の外には誰もいない。いないのに、喉がまた鳴る。鳴った喉を押さえる。押さえた手が汗で湿る。湿った手が銃の金属に触れて、冷たさが戻る。冷たさが戻ると、指が勝手に握る。握ると、爪が食い込む。食い込んだ痛みで、指がそこにあることだけが確かになる。
布の向こうで、金属音がした。小さい音。小さいのに、耳の線がそこへ寄る。寄った線が一本になって、また空の方へ伸びる。空は見えない。見えないのに、線は伸びる。伸びる線の先に昨日の影がある気がする。
寝床の横で、石のない手が動いた。昨日の子が寝返りを打っただけだった。寝返りの布擦れが、耳の線を揺らす。揺らした線が一瞬だけ薄くなる。薄くなった瞬間、呼吸が入る。入った呼吸が短い。短い呼吸が続く。続く呼吸の間に、口が勝手に動く。声にはならない。声にならないまま、唇が乾いて割れる。割れたところに舌が当たって、痛みが出る。痛みが出ても、目は閉じる。
今日も終わった。終わったのに、耳の中はまだ昼のままだった。
口を開くと乾いていた。舌の上に粉がある。唾を飲むと喉が擦れる。水筒を探す前に、膝の上を確かめる。銃はまだそこにあった。重さがある。重さのせいで、体が少しだけ前に傾く。肩紐が首に食い込む。昨日よりも強く食い込む。首の皮膚が硬くなる。
外はいつもより早く動いていた。足音が多い。足音の間隔が短い。砂が連続で鳴る。短い命令が飛ぶ。短い返事が返る。短い咳が混ざる。
「いつまで寝ている。もう空があんなに白い。さっさと表へ出ろ、遅れるぞ」
寝床から出ると、空はまだ白いままだった。熱はすでに上から来ていて、皮膚が乾く。乾いた皮膚に汗が出て、汗がすぐに消える。消えた場所が突っ張る。突っ張ったまま歩く。
大砲の方を見る。縄が増えていた。昨日より外側に一本、内側に一本。二重になって、間が狭い。縄の結び目が新しい。結び目の繊維が立っている。立っているから、誰かが夜に張り直したのが分かる。分かっても理由は分からない。理由は聞かない。聞いても返事は長くならない。
縄の近くには、昨日いなかった箱が置かれていた。木箱。角が金具で補強されている。箱の上に布。布の上に紙。紙は白い。白い紙が風で揺れないように、石が乗せられている。石が紙を押さえているのに、紙の端が波打っていた。湿っているのか、汗なのか、誰かの指の跡なのかは分からない。
古い兵士が縄の内側で座っていた。座っているのに、背中は立っている。指先が布の端を整えていた。布の端だけがいつも動く。布の下に何があるかは見えない。見ようとすると、視線が引っ張られる。引っ張られるのに、足は止まる。止まった瞬間、肩が重くなる。銃の重さが増えたみたいになる。
昨日、一緒に石を鳴らしていた子が来た。今日は石を持っていない。手が空っぽで、指が落ち着かない。指の先が自分の膝を叩く。叩く回数が一定じゃない。
もう一人の子は棒も持っていなかった。棒がない肩は軽そうに見えるのに、肩が上がっていた。首の筋が張って、顎が少し前に出ている。
「……なあ、今日もやるか。昨日みたいに石を鳴らすやつ。あの大砲が動く前にさ」 「でも、あいつが見てる。棒を持ってない方の肩、あんなに張ってるし」
返事を出す前に、上から別の声が落ちた。
「勝手に散るな。そこに固まってろ。空から見つかったら、石の陰ごと焼き払われるぞ」
言われたから、散らない。散らない代わりに、石の陰に集まる。石の陰は相変わらず影が濃い。影の線を踏まないように足を置く。踏まない癖が勝手に出る。勝手に出るのに、今日は線が遠い。遠いのに狭い。狭いと感じるのは、縄が増えたせいだった。
しばらくして、空から音が来た。昨日の細い線とは違う。太くて、遠い。遠いのに、耳の中で一箇所だけが鳴る。鳴る場所が決まっている。決まっている場所が、空の一方を指す。指すというより、そこだけが硬い。
飛行機は昨日より高い。高いと影が薄い。薄い影が地面を滑る。滑る影を追いかけようとして、首が動く。首が動くと肩紐が擦れて、皮膚が熱を持つ。熱を持つのに、指が冷える。冷える指が銃の金属に触れて、冷たさが戻る。
昨日なら数えた。今日も数えた。
一、二、三。
三で止まる。止まるのは、音が遠いからだ。遠い音は遊びのルールに入りにくい。入りにくいのに、耳の中の線が一本になる。一本になった線が太くなる。太くなる線が、昨日の音を連れてくる。連れてきた音が胸の奥を叩く。叩かれて、呼吸が短くなる。短くなっても、足は動かない。動かないのに、膝が勝手に曲がる。曲がったまま、影に入る。影に入る動きだけは、昨日より早かった。
大砲の方で誰かが動いた。動いたのに、音はしない。音がしない動きは怖い、という言葉を出す代わりに、舌が上顎に張りつく。張りついた舌が剥がれて、口の中が鉄っぽくなる。鉄っぽくなるのは、昨日の続きみたいだった。
飛行機は通り過ぎて、戻らなかった。戻らないのに、動きは止まらない。箱の周りに人が増える。白い紙が増える。増える紙を持つ手が汗で濡れて、指が紙にくっつく。くっついた指が紙を剥がすとき、紙が少し破れそうになる。破れそうになっても、誰も声を上げない。声を上げないから、余計に目立つ。
昼前、大砲の周りの地面が掘られ始めた。掘ると言っても、深くはない。表面の砂を薄く剥ぐだけ。剥いだ砂を布に集めて、布ごと運ぶ。運ぶ人の背中が曲がらない。曲がらない背中が何人も並ぶ。
縄の外側から見ていると、石の色が一部だけ違うのが見えた。昨日は見えなかった色。昨日は砂で隠れていた色。色は濃く、乾いているのに濡れて見える。濡れて見えるだけで、匂いは届かない。匂いが届かないから、分からないまま目だけがそこに貼りつく。
貼りついた瞬間、肩が掴まれた。
「そっちを見るなと言ったはずだ。あそこの色は、お前たちが知らなくていい色だ。自分の銃だけ見ていろ」
手の力が強い。強いと骨が鳴る。鳴った音が耳の線に混ざって、線が一瞬だけ途切れる。途切れた瞬間、息が入る。息が入ると胸が痛い。痛い胸のまま、視線を外す。外した視線が自分の銃に落ちる。落ちたら、指が勝手に銃を撫でる。撫でると油の匂いが戻る。戻る匂いは、言葉より先に体を落ち着かせる。
昼の一番熱い時間、大人たちは影の下で紙を広げた。紙の上に何かの線。線が交差して、丸が描かれている。丸の上に石。石の上に指。指が線の上を滑る。滑った指が止まる。止まった場所で、誰かが頷く。頷くのに笑わない。笑わないまま、別の紙が出る。紙がめくられる音だけが続く。
十歳には、線が何かは分からない。分からない代わりに、紙が増えていくことだけが分かる。増えると、今日の終わりが遠くなる。遠くなると、遊びは始まらない。始まらないと、手が空く。空いた手が落ち着かない。落ち着かないから、石を探す。石を探しても持てない。持つと怒られる。怒られることは分かる。理由は分からない。理由は要らない。要らないのに、指が勝手に小石をつまむ。つまんだ小石を地面に置く。置くだけ。投げない。投げると怒られる。
石を三つ、一直線に置いた。一直線は、昨日の耳の線に似ていた。似ているから、気持ちが少しだけ軽くなる。軽くなるという言葉の代わりに、肩の筋肉が一瞬だけ緩む。緩んだ瞬間、耳の線がまた一本になる。一本の線が空の同じ場所を指す。指す場所が高い。高い場所は、昨日の場所と違う。違うのに、線は同じ太さだった。
夕方、また飛行機が来た。今度は一機じゃない。数が増えると音が厚くなる。厚くなる音が耳の線を押し広げる。押し広げられた線が二本になって、二本が交差する。交差した場所が勝手に決まる。決まると、喉が鳴る。鳴った喉を手で押さえる。押さえても鳴る。鳴るたびに口の中が乾く。
大砲の方が動く。動くのに、昨日みたいな声は落ちない。落ちないまま、砲身に布が掛けられる. 布が掛けられると砲が消える。消えたのに、そこにある感じだけが残る。残った感じが、耳の線と繋がる。繋がると、足が一歩だけ前に出る。前に出た足が縄の線に近づく。近づいた瞬間、また肩が掴まれた。
「下がれ。縄が増えたのが見えないのか。ここから先は、もうお前たちの居場所じゃないんだ」
下がる。下がると縄が遠くなる。遠くなると、線が細くなる。細くなっても消えない。消えない線が、空の影だけを拾う。拾った影が地面を横切る。横切る影が、石の陰を通る。通った瞬間、子供二人が同時に伏せた。伏せるのが早い。早いのに、誰も笑わない。笑いは出ない。笑いが出る形をしていない。
空が遠ざかっていく頃、大人たちは縄をもう一本増やした。縄が増える音はしない。結び目が締まる音もほとんどしない。音がしない代わりに、縄の位置が変わって、通れる場所が減った。減ったのに、誰も何も言わない。言わないまま、歩く線が固定される。固定されると、足が勝手にその線を覚える。覚えるのは遊びのときと同じ。違うのは、線の外に出ると肩を掴まれること。
夜、寝床に戻ると、耳の線は太くなった。太くなると、近い音と遠い音の境目がずれる。ずれた境目のせいで、遠い足音が近くに聞こえる。近くに聞こえるのに、幕の外には誰もいない。いないのに、喉がまた鳴る。鳴った喉を押さえる。押さえた手が汗で湿る。湿った手が銃の金属に触れて、冷たさが戻る。冷たさが戻ると、指が勝手に握る。握ると、爪が食い込む。食い込んだ痛みで、指がそこにあることだけが確かになる。
布の向こうで、金属音がした。小さい音。小さいのに、耳の線がそこへ寄る。寄った線が一本になって、また空の方へ伸びる。空は見えない。見えないのに、線は伸びる。伸びる線の先に昨日の影がある気がする。
寝床の横で、石のない手が動いた。昨日の子が寝返りを打っただけだった。寝返りの布擦れが、耳の線を揺らす。揺らした線が一瞬だけ薄くなる。薄くなった瞬間、呼吸が入る。入った呼吸が短い。短い呼吸が続く。続く呼吸の間に、口が勝手に動く。声にはならない。声にならないまま、唇が乾いて割れる。割れたところに舌が当たって、痛みが出る。痛みが出ても、目は閉じる。
今日も終わった。終わったのに、耳の中はまだ昼のままだった。
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