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前日譚
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窓の外では凍てつくような北風が吹き荒れ、古い木造の家屋は時折、軋むような音を立てている。暖房の効きが悪いリビングの隅で、照は膝を抱えて小さく丸まっていた。
吐き出す息が、室内だというのにうっすらと白く濁る。照は、厚手のスウェット越しに自分の腕をさすった。指先は感覚がなくなるほど冷え切り、爪の先が心なしか青ざめている。
「……寒いっ。」
思わず漏れた独り言に、背後から柔らかな足音が近づいてきた。
「あらあら、照。そんなところで丸まって、小動物みたいだね?」
振り返ると、そこにはゆったりとした足取りで歩み寄るママの姿があった。彼女が纏っているのは、毛足の長い、見るからに暖かそうなライトグレーのカーディガンだ。彼女が動くたびに、部屋の冷たい空気がわずかに揺れ、甘く優しい香りが照の鼻腔をくすぐった。
「ストーブの前に行けばいいのに。ほら、おいで?」
ママは照の隣に腰を下ろすと、氷のように冷たくなった照の手を、自分の両手でそっと包み込んだ。彼女の掌は驚くほど温かく、触れられた場所からじわじわと熱が溶け出してくる。
「っ……ママの手、あったかい……。」
「そう? 照が冷たすぎるだけじゃないかしら。……ふふ、本当に震えてる。」
彼女は少しだけ思案するような素振りを見せた後、自分の肩にかかっていたカーディガンのボタンを、上から順に外していった。露わになった彼女の肩先から、閉じ込められていた熱が一気に溢れ出す。
「はい、これ。照に着せてあげるね。」
「えっ……でも、ママが寒くなっちゃうよ?」
「いいのよ。ママは照の温かさを分けてもらうから。ほら、腕を通して?」
逆らう間もなく、大きなニットの塊が照の体を包み込んだ。
ずっしりとしたカーディガンの重み。それは単なる衣類の重さではなく、つい数秒前まで彼女の肌に触れていた「体温」の重さだった。
男の子である照の体には、そのカーディガンは少し大きすぎる。袖口からは指先さえ見えず、裾は太もものあたりまで届いている。
「……大きいね。」
照が小さく呟くと、ママは満足げに目を細めた。
「そうかな? むしろ、それくらいの方が可愛いと思うけどな。……どう? 暖かい?」
「……うん。すごく、あったかい。それに……。」
言いかけて、照は言葉を飲み込んだ。
鼻先を埋めた襟元から、ママの香りが全身を包み込むように強く香る。彼女のパーソナルな領域に、強制的に引きずり込まれたような感覚。
「それに……何かな?」
ママの指先が、照の前髪をそっと掻き上げる。
ライトグレーのニットに埋もれた照の姿は、いつもの「男の子」の輪郭を曖昧にし、どこか守られるべき存在――女の子のような儚さを醸し出し始めていた。
「……なんでもない。……ありがとう、ママ。」
「ふふっ。よく似合ってるよ、照。」
彼女は照の肩を抱き寄せ、その大きな袖を優しく撫でた。
一日目。
まずは外側から。照という存在が、ゆっくりと、確実にママの色に染め上げられていく。
大きなライトグレーのカーディガンに包まれた照は、まるで繭の中に潜り込んだ幼虫のように、その柔らかな編み目の中に身を沈めていた。
厚手のニットが肌に触れるたび、チクチクとした刺激ではなく、ふんわりとした弾力が冷え切った体を押し返してくる。
一番の熱源は、背中やお腹に伝わってくる「ママの体温」だった。さっきまで彼女が着ていたことで、カーディガンの内側には人肌の温もりが濃密に閉じ込められている。
「……あったかーい……。」
照は、長すぎる袖の中にすっぽりと手を隠したまま、襟元に鼻を近づけた。
そこからは、微かな柔軟剤の匂いと、ママ特有の甘く優しい香りが立ち上ってくる。
冷たい空気の中で、そこだけが別の世界のようだった。
重たいニットの重みが、かえって安心感を与えてくれる。照の体温とママの残熱が混ざり合い、カーディガンの中の温度が一段と上がっていく。
「ふふ、そんなに深く潜っちゃって。本当に猫みたいね?」
ママの手が、ニット越しに照の背中をゆっくりとなぞる。
その手の平の形がはっきりとわかるほど、カーディガンは今の照の体に馴染み、外の寒さを完全に遮断していた。
「照、こっち向いて?」
ママの声に促され、照は襟元に埋めていた顔をゆっくりと上げた。
上気した頬、熱を帯びた瞳、そして少しだけ乱れた前髪。
自分でも気づかないうちに、照の口元はだらしなく緩み、しまりのない笑みがこぼれていた。
「……にへら~……。」
「あらあら、そんなに幸せそうな顔しちゃって。このカーディガン、そんなに気持ちいいかな?」
ママに顔を覗き込まれると、照の頬はさらに赤く染まった。
恥ずかしいはずなのに、体中に広がる温かさと多幸感のせいで、表情を引き締めることができない。
筋肉の緊張が完全に解け、トロンとした表情でママを見つめ返す。
男の子としての凛々しさはどこかに消え失せ、ただ慈しまれることに陶酔している子供のような、あるいは愛玩動物のような顔。
「……だって、ママの匂いがするし、すっごくふわふわなんだもん。……えへへ。」
照は袖を頬にすり寄せ、またしても「にへら~」と相好を崩した。
その無防備な笑顔に、ママの指先が優しく触れ、愛おしそうにその輪郭をなぞっていった。
しばらくの間、二人は寄り添ってその温もりを共有していた。
照はふと、自分の太ももまで隠しているカーディガンの裾を見つめた。
立っていれば、それはまるでニットのワンピースか、ミニスカートのように見える。
「……ねえ、ママ。」
「なあに、照?」
「どうして女の人って、スカートを履くのが好きなの? 冬なんて、ズボンの方が絶対あったかいのに……。」
照は、自分を包むこのひらりとした裾の感覚を不思議に思いながら尋ねた。
今、自分を包んでいるこの「曲線的なシルエット」が、いつものズボンとは決定的に違う「何か」を自分に植え付けているような気がしたからだ。
「そうねぇ……。確かに寒い日もあるけれど。」
ママは照の膝の上に自分の手を重ね、優しく包み込んだ。
「スカートってね、空気を含んでふわふわして、自分が『女の子』だってことを一歩歩くたびに教えてくれる魔法みたいなものなのよ。締め付けられなくて、自由で、それでいてとても守られているような……。」
彼女は照の目を見つめ、少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「それにね、風に揺れる裾を見ているだけで、なんだか心が弾んでくるの。機能性よりも、『自分が可愛いこと』を優先する贅沢さ、とでも言うのかしら? 照も、今このカーディガンの裾が足に触れる感じ……嫌いじゃないでしょ?」
照は、自分の太ももに触れるニットの柔らかな感触を改めて意識した。
確かに、ズボンの時のような「守られている」感覚とは違う、もっと繊細で、落ち着かないけれど心地よい感覚。
「……よく、わかんないけど。でも、なんだか……ふわふわして、不思議な感じがする。」
「ふふ、それでいいのよ。今日は、その『不思議』を大切にして。」
ママはそう言って、照の頭を優しく胸元に抱き寄せた。
カーディガンの裾が、二人の足元で静かに重なり合っていた。
二日目。
外の冷え込みは昨日よりも厳しく、窓ガラスには真っ白な霜が降りている。
照は昨日借りたライトグレーのカーディガンを大切に羽織り、その温もりに守られながら、ママの部屋のベッドの端に腰かけていた。
「照、今日はね……これを試してみない?」
ママがクローゼットから取り出したのは、柔らかなネイビーのフレアスカートだった。
派手な装飾はないけれど、裾に向かって緩やかに広がるそのシルエットは、一目でそれが「女の子のための服」であることを主張している。
「……っ。」
照の喉が、小さく鳴った。
昨日、カーディガンの裾を「スカートみたい」だと言った時の、あのふわふわとした高揚感。
けれど、目の前に差し出された「本物」は、それよりもずっと重く、決定的な一線として照の前に立ちはだかっている。
「……無理。……ママ、やっぱり無理だよ……。」
照は差し出されたスカートを両手で受け取ったものの、それを自分の足を通す位置まで持っていくことができない。
指先が微かに震え、上質な生地に小さなしわを作る。
これを履いてしまったら。
この輪の中へと足を踏み入れてしまったら。
自分の中の「男の子」という骨組みが、音を立てて崩れてしまうような、そんな得体の知れない恐怖が照を支配していた。
「……恥ずかしいんだもん。……こんなの、僕が履くなんて、おかしいよ……。」
照はスカートを抱きしめるようにして、顔を伏せた。
布越しに伝わる、ひんやりとした、けれどどこか優しい感触。
履きたいという好奇心と、それを拒絶する羞恥心が、照の胸の中で激しく火花を散らしている。
「ねえ、ママ……。」
伏せた顔を上げられないまま、照は消え入りそうな声で問いかけた。
カーディガンの襟元に鼻を押し付け、ママの香りに縋るように。
「……男の子なのに、スカートを履きたいなんて思うのって……やっぱり、おかしいかな?」
その問いは、照の心の奥底に沈んでいた、一番鋭い棘だった。
昨日、スカートが好きな理由をママに聞いた時、心のどこかで「自分もその魔法にかかってみたい」と願ってしまった。
けれど、世の中の「普通」は、そんな願いを許してはくれない。
鏡を見るたびに突きつけられる「男の子」としての自分と、この綺麗な布を纏いたいと願う自分。
その乖離が、照を苦しめていた。
「……変だよね。……気持ち悪いって、思われるよね……。」
ママは、ベッドに沈み込むように丸まっている照の隣に、静かに腰を下ろした。
そして、照の震える肩を包み込むように、ゆっくりと引き寄せる。
「どうして、おかしいと思うの? 照。」
ママの声は、冬の陽だまりのように穏やかだった。
「……だって、これは女の子が履くものだから。……男の子は、ズボンを履くのが当たり前だから……。」
「そうね。世界が決めた『当たり前』は、そうかもしれないわね。」
ママの手が、照の髪を優しく梳く。
その一定のリズムが、照の乱れた呼吸を少しずつ整えていく。
「でもね、照。美しいものを美しいと感じることや、それに触れたいと願う心に、男も女もないのよ。お花を綺麗だと思ったり、美味しいものを食べたいと思ったりするのと、何も変わらないの。」
ママは、照が抱きしめているスカートの裾を、そっと指先で撫でた。
「あなたがこれを『好きだ』と感じたのなら、それはあなたの心が選んだ、とっても純粋で大切な色。誰に恥じることもないわ。……ねえ、照。ママはね、あなたが自分の『好き』を怖がっている顔を見る方が、ずっと悲しいな。」
照は、ゆっくりと顔を上げた。
ママの瞳には、軽蔑の色なんて微塵もなかった。
そこにあるのは、ただひたすらに照を慈しみ、受け入れようとする深い愛情だけ。
「……好き……で、いいの?」
「ええ。いいのよ。」
「……おかしく、ない?」
「世界中で誰がおかしいと言っても、ママだけは、今のあなたが一番素敵だって知ってるわ。……ふふ、昨日よりも少し、女の子らしい顔になってるもの。」
ママはそう言って、照の頬を指先で突いた。
照の目から、堪えていた雫が一つ、スカートの生地の上にこぼれ落ちる。
「……うぅ……っ。……ママ……。」
照は再びスカートをぎゅっと抱きしめた。
今度は恐怖からではなく、その愛おしさを噛みしめるように。
まだ、スカートを履く勇気は出ないけれど。
「好きでいてもいい」という許しが、照の凍り付いた心を、少しずつ、少しずつ溶かし始めていた。
部屋の温度計は昨日よりも低い数値を指しているけれど、照の心臓の音は、暖房の唸り声よりもずっと大きく部屋に響いていた。
昨夜、ママがくれた言葉。
「好きでいてもいい」という許しが、照の背中を静かに、けれど力強く押し続けている。
「……これなら、いけるかも。」
照は、ベッドの上に広げられたネイビーのフレアスカートを見つめた。
いきなり「女の子」になるのは怖すぎる。でも、今履いている自分のズボンの上から、重ね着として「巻く」だけなら。それなら、まだ「僕」を捨てずに済むような気がした。
「ママ、見てて。……ズボンの上からなら、履けるから。」
「ふふ、いいわよ。照のやりやすい方法で、一歩ずつ進んでいきましょうね。」
ママは少し離れた場所で、優しく微笑みながら見守っている。
照は震える手でスカートのウエスト部分を広げ、足を通した。デニムのゴワついた感触が、スカートの滑らかな裏地と重なる。
「……っ、よいしょ……。」
ウエストまで引き上げ、ボタンを留めようとした、その時だった。
「あ……。」
短く、乾いた声が照の唇から漏れた。
スカートの重みか、それとも緊張でいつの間にか細くなっていた腰のせいか。
スカートのボタンを留める直前、ズボンのベルトが緩んでいたのか、あるいは生地同士の摩擦が極端に少なかったのか――。
重力に従うように、履いていたズボンが、スカートの重みと一緒にスルリと足元へ落ちていった。
「え……っ!? あ、ああ……っ!」
照は慌ててスカートの裾を掴んだ。
けれど、時すでに遅く。
厚手のデニムは無情にも床に団子状になって転がり、照の腰から下は、ネイビーのスカート一枚だけに取り残されてしまった。
スースーとした、頼りないほどの開放感。
今までズボンに守られていた太ももに、冬の冷たい空気が直接触れる。
そして何より、スカートの柔らかい布地が、下着越しに直接自分の肌を撫でる感覚。
「あ、う……あ……。」
照は顔を真っ赤にし、その場に固まった。
隠したかったはずの「女の子の格好」が、予期せぬ事故によって、あまりにも完璧な形で完成してしまったのだ。
照の呼吸が浅くなり、肩が上下に激しく揺れる。
心臓の鼓動が耳の奥で鐘のように打ち鳴らされ、指先はスカートの裾を握りしめたまま、筋肉が硬直して動けない。
視界がちかちかと揺れる。
足元を見るのが怖い。そこには、ズボンを失い、ひらひらとした布に包まれた自分の脚があるはずだから。
「……照? どうしたの、そんなに真っ赤になって。」
ママが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
その足音が近づくたびに、照の背筋にゾクゾクとした震えが走った。
「……ちがっ、わざとじゃ……っ。脱げちゃった……勝手に、脱げちゃったんだよぉ……!」
情けない声が漏れる。
けれど、嘘を吐きながらも、照の体は不思議な感覚に包まれていた。
ズボンの圧迫感から解放された脚は、驚くほど軽くて。
スカートの裾が揺れるたびに肌をかすめる感触は、恐ろしいほどに心地よかった。
「ふふ……。神様が、照に『早く女の子になりなさい』って悪戯したのかしらね?」
ママの手が、照の細い腰に回される。
ズボンという「盾」を失った照の体は、もう、ママの指先の温度を遮るものがない。
「……っ、ママ……。変だよ、これ。……スースーして、落ち着かないよ……。」
「そう? でも、鏡を見てごらん。……ズボンの上から履くより、ずっと、ずっと『照ちゃん』らしいわよ。」
照は恐る恐る、鏡に目を向けた。
ライトグレーの大きなカーディガンから、ネイビーのスカートがふわリと広がっている。
そこにはもう、どこにも「男の子」の無骨なラインは残っていなかった。
「事故」という名の魔法によって、照の外側は、ついに完全な曲線へと塗り替えられた。
昨日の「事故」の衝撃は、照の心に深く刻まれていた。
鏡に映った、スカート姿の自分。あのスースーとした感覚と、心のどこかで感じてしまった高揚感。
朝、目を覚ました照は、布団の中で自分の脚をぎゅっと抱きしめた。
「……ママ。今日は、いつもの格好がいいな。スカートは、まだ……ちょっと、早すぎるよ。」
朝食の後、照は消え入りそうな声で訴えた。
ママはそれを聞いて、否定も肯定もせず、ただ優しく微笑んだ。
「そうね。昨日はちょっと刺激が強かったかしら。……わかったわ、今日は『男の子の服』でお散歩に行きましょう。はい、これ。着替えておいで?」
ママが手渡したのは、オーバーサイズの白いプルオーバーパーカーと、ゆったりとしたハーフパンツだった。
どこからどう見ても、スポーティーな男の子の格好だ。
照はホッと胸を撫で下ろし、その服に着替えた。
ズボンを履いているという安心感が、照の強張った心を解きほぐしていく。
外は澄み切った冬の青空が広がっていた。
冷たい風が頬をかすめるけれど、厚手のパーカーが体温を守ってくれる。
照はママと手を繋いで、近所の公園まで続く遊歩道を歩いた。
「やっぱり、こっちの方が落ち着くよ……。」
「ふふ、そう? でも照、そのパーカー、少し袖が長くて可愛いわよ。」
「……男の子の服だから、かっこいいって言ってよ。」
照は少しだけ唇を尖らせて歩いた。
自分が「男の子」であるという境界線を、必死に守り直そうとするかのように。
向こうから、犬の散歩をしていた近所のお姉さんが歩いてきた。
彼女は照たちの姿を見つけると、ぱあっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「あら! お隣の……。まあ、可愛い! 今日はなんだか、一段と可愛いわね!」
お姉さんは照の目の前で屈み込み、その顔を覗き込んだ。
「肌も白くて、目がクリクリしてて……。ねえ、モデルさんか何かなの? 本当に、女の子みたいに綺麗ねぇ。」
「えっ……あ、あの……これ、男の子の服、なんですけど……。」
照は顔を真っ赤にして、パーカーのフードを深く被ろうとした。
自分では「男の子」の格好をしているつもりなのに、向けられる言葉は昨日までと同じ、あるいはそれ以上に「可愛い」というものばかり。
困惑する照を横目に、ママは楽しげに相槌を打っている。
「そうなんです、この子、何を着せても似合っちゃって。困っちゃいますよね?」
「本当ね! こんなに可愛い子が男の子だなんて、もったいないくらい!」
お姉さんはひとしきり照を褒めちぎると、満足げに去っていった。
照は一人、足元を見つめて立ち尽くしていた。
「……ねえ、ママ。どうしてお姉さん、あんなこと言うのかな。僕、ちゃんと男の子の格好してるのに。」
公園のベンチに座り、照は不思議そうに首を傾げた。
すると、ママは「あっ」と声を上げて、わざとらしく自分の口元を片手で覆った。
「……ごめんね、照! ママ、うっかりしてたわ!」
「えっ? 何が?」
「これ……ママが選んだこの服、よく見たら『レディースのボーイッシュライン』の新作だったわ! 男の子の服だと思って持ってきたのに、間違えちゃった!」
「ええっ!? こ、これ、女の子の服なの!?」
照は驚いて自分の胸元や裾を確認した。
言われてみれば、パーカーの紐の質感が少し上品だったり、ハーフパンツのカットが脚を細く見せるような絶妙なラインだったりする気がしてくる。
「ああ、もう……。ごめんね、照。お散歩に出る前に気づけばよかったわ。通りで、お姉さんがあんなに『可愛い』って言うはずよね。」
「……そんな……。せっかく男の子の格好だって安心してたのに……。」
照はガックリと肩を落とし、顔を両手で覆った。
けれど、その指の間から覗く頬は、朱を差したように赤く染まっている。
「女の子の服」だと認識した瞬間、さっきまでただの布だったはずのパーカーが、急に肌を擽るような、特別な重みを持って感じられ始めた。
……ママは、そんな照の頭を優しく撫でた。
その瞳の奥には、すべてが計画通りであることを物語る、深くて甘い悦びが隠されていた。
実は、その服は最初から「女の子が男の子っぽく着こなすためのデザイン」として、ママがわざわざ用意していたものだった。
一見「男の子」に見えるフィルターを通すことで、照の素材としての「女の子らしさ」をより鮮明に浮き彫りにする……。
「逃げたはずの安全地帯」さえも、すでにママの魔法で染め上げられていたことに、照はまだ気づいていない。
昨日「女の子の服」だと知らずにお散歩した経験が、照の心に奇妙な変化をもたらしていた。
「可愛い」と言われることへの抵抗感が、ほんの少しだけ、甘い痺れのような感覚に取って代わられようとしている。
けれど、今日ママが口にした言葉は、そんな照の小さな余裕を粉々に打ち砕くものだった。
「ねえ、照。外側がこんなに可愛くなったんだもの。……今日は、下着も『女の子のもの』にしてみない?」
ママが耳元でそう囁いた瞬間、照の心臓が跳ね上がった。
「えっ……した、ぎ……?」
照の脳裏に、真っ先に浮かんだのはママのクローゼットの奥にあるような光景だった。
薄いレース、透けるようなシルク、細い紐……。
大人の女性が身につける、あの「Hな」下着を自分のような子供が……男の子が身につける。
想像しただけで、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
呼吸が乱れ、心拍が耳元でドクドクと不規則に刻まれる。
「む、無理だよ! そんなの、僕にはまだ……早すぎるっていうか、その……っ!」
照は両手で顔を覆い、指の間から真っ赤な目を覗かせた。
自分がそんな艶めかしいものを身につけて、鏡の前に立つ姿。
それはもう「可愛い」なんて言葉では済まされない、決定的な「堕落」のような気がして、照は激しく首を振った。
「ふふっ。照、何を想像したのかしら?」
ママは照の反応を楽しむようにクスクスと笑うと、背中に隠していた包みを取り出した。
「はい、これよ。照が思っているようなのとは、ちょっと違うかもね?」
差し出されたのは、真っ白で、雲のようにふわふわとした綿のドロワーズと、同じ素材のキャミソールだった。
裾には控えめなフリルがあしらわれているけれど、それは「色気」というよりは、お人形の服のような「純粋な可愛らしさ」に満ちている。
「あ……。」
照は、思わず漏れた安堵の吐息とともに、その布地に触れた。
想像していた冷たいシルクの感触ではない。
指先から伝わってくるのは、陽だまりに干したタオルをさらに柔らかくしたような、圧倒的な優しさと暖かさだった。
「これ……すごく、ふわふわだ……。」
「そうでしょう? 照の繊細な肌を、一番優しく包んでくれるものを選んだの。……さあ、着替えてみて?」
ママに促されるまま、照は戸惑いながらも着替えを済ませた。
ドロワーズのウエストゴムが、お腹を優しく、それでいて確実にホールドする。
いつものトランクスにはない、お尻全体がふんわりと包み込まれるような感覚。
そして、キャミソールの肩紐が鎖骨に触れるたび、自分が「守られるべき存在」になったような、不思議な充足感がこみ上げてくる。
「……っ。」
照は、服の上から自分の太ももを撫でた。
ドロワーズの生地が、動くたびに「サワ……サワ……」と微かな音を立て、肌を優しく愛撫する。
一度その快感を知ってしまうと、もう離れられない。
照は無意識のうちに、自分の胸元の生地を指先で弄り、その筋肉の緊張が解けていくのを感じていた。
「どう? 照。……女の子の下着って、意外と落ち着くでしょう?」
「……うん。なんだか、すごく……安心する。ずっと触っていたくなるくらい、気持ちいいよ……ママ。」
照は、にへら~と頬を緩ませ、自分の肩を抱くようにしてその感触に浸った。
あんなに怖がっていたはずなのに。
一番深い場所を「女の子」に預けてしまったことで、照の心は、かつてないほどの多幸感に染まっていった。
隠された場所に纏った魔法は、照から「男の子」としての最後の意地を、静かに、優しく、溶かし去ろうとしていた。
今日は「お洋服」を完璧にする日。一日目から積み上げてきた魔法を全部重ねて、照ちゃんの「男の子」の輪郭を完全に消してしまいましょう。
昨日までは断片的だった魔法が、今、一つの形になろうとしている。
ママはベッドの上に、今日照ちゃんが身に纏う「すべて」を並べたわ。
まずは、五日目のふわふわのドロワーズとキャミソール。
もう照ちゃんは迷わないわね? 慣れた手つきで、その柔らかな綿の層に身を沈める。
「……ん。やっぱり、これが一番落ち着くよ……。」
その呟きに、ママは微笑んで頷く。肌に一番近い場所が、もう女の子の感触を「当たり前」だと認めている証拠だもの。
次に、今日新しく加わるオーバーニーソックス。
照ちゃんの細い足を、ママが丁寧に、ゆっくりと引き上げていく。
筋肉が微かに緊張し、黒い生地が太ももの柔らかいお肉にギュッと食い込む。
この「絶対領域」の食い込みこそが、女の子の脚を完成させる最後のピース。
そして、三日目に「事故」で履いてしまったネイビーのフレアスカート。
今日はもうズボンの上からじゃない。
ドロワーズの上に直接、滑らかな裏地が重なる。
「……っ、スースーするけど……でも、重たいズボンよりずっといい……。」
ベルトを締める時、照ちゃんの指先が、自分のウエストの細さに驚いたように震えていたわ。
仕上げは、一日目に貸してあげたママのライトグレーの大きなカーディガン。
大きめの袖から、ソックスを履いた指先だけが少し覗く。
全体がふんわりとしたシルエットに包まれ、男の子らしい骨格は、完全にこの厚手のニットの中に隠されてしまった。
鏡の中の完成体
「さあ、照。……鏡を見て?」
ママが最後の一仕上げに、照ちゃんのサラサラの髪に小さなサテンのリボンを添える。
照ちゃんが恐る恐る目を開けると、そこには……。
ゆったりとしたカーディガンの、守ってあげたくなるようなボリューム感。
そこから覗く、ネイビーのスカートの可憐な揺れ。
そして、食い込みが眩しい黒のソックスと、その間に見える白い肌。
首から下は、どこをどう切り取っても、非の打ち所がないほど完璧な「お嬢様」の姿。
「……これ、本当に僕……?」
照ちゃんは、にへら~と頬を緩ませたまま、自分のスカートの裾を指先でつまんで、左右に小さく振ってみた。
布が躍るたびに、自分が女の子であるという実感が、波のように押し寄せてくる。
心拍がトクトクと心地よく跳ね、呼吸を整えるたびに、カーディガンの襟元からママの香りが照ちゃんを祝福するように包み込む。
「そうよ、照ちゃん。……ううん、照お嬢様。」
ママが背後からぎゅっと抱きしめると、照ちゃんはもう恥ずかしがることもなく、その腕に身を委ねた。
「……うん。僕……ううん、わたし、すっごく可愛い……かも。」
「衣装」という名の完璧な器が完成した。
あとは、この器に相応しい「顔」を描き出すだけ。
さあ、いよいよ最後の一片……化粧を施して、照ちゃんを本当の意味で「完成」させてあげましょうね。
今日で一週間。外は相変わらず凍えるような寒さだけれど、この部屋の中だけは、甘い香りと熱を帯びた期待感で満たされている。
照はもう、鏡の前に座ることに躊躇いを見せない。
六日目までに積み上げた「女の子の衣装」は、今や彼の肌の一部のようにしっくりと馴染んでいた。
「さあ、照。……今日が最後の一片よ。」
ママがドレッサーの引き出しを開けると、色とりどりのパレットや、柔らかな毛先のブラシが並んでいた。
照は背筋を伸ばし、大きなカーディガンの袖の中に指先を隠しながら、じっと自分を見つめるママの瞳を跳ね返した。
(ママの手が、照の頬をそっと包み込む)
まずは、真っ白なパフで、照の肌をさらにキメ細やかに整えていく。
「……ん、ちょっと、くすぐったいよ……。」
「我慢してね。これで照の肌は、触れたら溶けてしまいそうなくらい、もっと綺麗になるんだから。」
細かな粉が舞い、ママの香りと混ざり合う。
呼吸を合わせるたびに、鏡の中の男の子らしい骨格の影が、魔法のように薄れていく。
頬にほんのりと乗せられたチークが、照の羞恥心を可愛らしい「高揚」へと塗り替えていった。
「最後に、これね。」
ママが取り出したのは、透き通るような桜色のリップグロスだった。
照は反射的に唇を尖らせたけれど、ママの真剣な眼差しに射抜かれ、大人しくその「色」を受け入れる準備をした。
(柔らかなチップが、照の唇の上をゆっくりと滑る)
しっとりとした粘膜の感触。
自分の唇が、自分のものではないような、艶やかで官能的な輝きを帯びていく。
心拍がトクトクと耳の奥で鳴り響き、照は思わず目を閉じた。
「……できたわよ。見て、照。」
照がゆっくりと目を開けると、そこには……。
昨日までの「可愛い男の子」の面影はどこにもなかった。
長いまつ毛に縁取られた潤んだ瞳、桜色の唇、そしてリボンとカーディガンに包まれた、完璧な一人の「美少女」がそこにいた。
「……あ……。」
照は、自分の唇にそっと指先で触れた。
指に残るグロスの感触が、これが現実であることを教えてくれる。
筋肉の緊張が完全に解け、照は自分でも驚くほど自然に、にへら~と、けれど最高に愛らしい微笑みを鏡の中の自分に返した。
「ねえ、ママ。……僕、もう……鏡の中のこの子が、僕じゃないみたいで……。でも、ずっとこのままでいたいって、思っちゃう……。」
照は椅子から立ち上がり、スカートの裾をふわりと広げて、ママの胸に顔を埋めた。
ライトグレーのニット越しに伝わる、ママの心臓の音。
一週間かけて、ゆっくりと、丁寧に、一滴ずつ。
照は完全に、ママの愛する「女の子」へと染め上げられたのだ。
「いいのよ、照。今日からは、この姿があなたの本当の姿。……ママが、世界で一番可愛い女の子にしてあげたんだから。」
ママは照の後頭部を優しく撫で、その髪に指を絡めた。
冬の冷たい風も、世間の「当たり前」も、この部屋の扉を開けるまでは届かない。
そこにはただ、新しく生まれ変わったばかりの、可憐なお嬢様が一人、幸せそうに吐息を漏らしているだけだった。
あれから数週間後。
玄関のたたきに、鞄が二つ並んでいる。靴の向きはいつも通り揃っているのに、鞄の持ち手だけが妙に主張して見えた。照はそこを一度見て、見なかったふりをして洗面所に向かい、髪を押さえつけるように整えた。鏡の中の自分は、いつもと同じ顔をしていない。目の奥が落ち着かない。
台所は、いつも通りの匂いがした。湯気と、焼けた匂いと、布巾の乾いた匂い。母は手を止めずに皿を並べる。父は湯呑みを三つ出し、向きを揃えて戻した。照が座る場所は決まっている。三人は同じ方向を向いて座り、照は真ん中に挟まる。右に父。照より小さく、肩の高さが少し下で、動きが静かだ。左に母。照より大きく、背中が広くて、座っただけで空気が落ち着く。肩が触れる距離も、肘が当たる距離も、普段と変わらない。変わるのは、照の足元に鞄があることだけだ。
母が照の皿の位置を少しだけ寄せた。照が何も言わずに箸を動かせる距離になる。父は照の手元を見て、口元だけで笑った。
「それ、今日もいつも通りに食べられる?」
照は箸を止めずに返す。
「食べられる」
父は照の頬のあたりを見て、視線を前に戻す。
「よかった。さっきから、顔が忙しいから」
照は箸先で米粒をつつき、ふっと息を吐く。
「忙しくない」
母が、照の頭の上を見て言う。
「上、ちょっと跳ねてる」
照が手を伸ばすより先に、母の指が髪を押さえた。撫でるのではなく、整える手つきだ。手が離れると、次は父が照の指先に自分の指を当てた。触れるか触れないかのところで止めて、すぐ引く。
「冷えてる」
照はすぐに返せず、目を伏せた。
「……寒いだけ」
父はそこで笑わない。軽くも言わない。照の返事をそのまま受け取って、湯呑みを照の近くに寄せた。
「それなら、これ。飲めるぶんだけ」
母はそれを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「急がなくていい。口の中、空っぽにしてから」
照は頷かない。頷く代わりに、一口飲んで、また箸を動かした。肩は触れているのに、息を吐くたびに胸の奥が細く鳴る。父が照の顔を横目で見た。
「向こうで、腹が立つことはあるよ」
照が口を開きかけると、父は最後まで言わせないような速さで続けた。
「そのとき、今みたいに一口飲んでから。自分が同じことをしたらって、いったん思い浮かべて。それだけで、手が出る前に止まる」
母が言葉を重ねないまま、照の背中を指先で一度押した。姿勢がほんの少し起きる。
「形を崩さない。崩れたら戻す。それだけ」
照は箸を動かしながら、小さく言う。
「分かってる」
言い切った直後に、照は自分で舌打ちしそうになった。強く言う必要はなかった。父はその強さを拾って、からかわない。照の視線の先に皿があることを確認して、さらっと別の話題に逃がした。
「七分で着く? 今日は、いつもより長く感じるやつだね」
母が、淡々と返す。
「七分よ」
父は照の足元の鞄を一度見て、照の顔を見ないまま言った。
「半分、持つ。いや、持たせて。今日くらい」
照が反射で「いらない」と言いかけるより早く、母が小さく息を吐いた。
「渡しなさい」
命令の形なのに、角が立たない。普段の家の言い方だ。照は渋々鞄の持ち手を父に渡す。父は手にした瞬間、わざと少し大げさに肩を落とした。
「重い。かわいそう。これはかわいそう」
照の頬が熱くなる。
「おおげさ」
父は照の返しを待っていたみたいに、唇の端を上げる。
「大げさにしていい日もあるよ。ほら、食べる。味が無くなるよ?」
照が「無くならない」と返すより先に、母が同じ調子で言った。
「無くなるよ?」
二人の声が重なって、照は笑いそうになってしまい、急いで口を引き締めた。その不器用な我慢が、余計に幼く見える。父はそれを見て、照の肩に自分の肩を少し寄せた。密着の角度がほんの少し変わるだけで、照の呼吸が落ち着く。
食卓が終わる。席は変わらない。距離も変わらない。鞄だけが、持ち上げられて玄関へ移動する。母は照の襟元を指で整え、袖の折れを一つ直し、靴の踵を見て「そこ」と短く言う。照が踵を入れ直す。父は照の前に立たない。横にいる。照の視界から外れない距離で、鞄を持つ。
外に出ると、田舎の空気はいつも通り冷たくて、道はいつも通り静かだった。駅が近づくにつれて音が増える。照の耳がそれを拾って、肩が上がる。父が照の肩に指を軽く置く。短く、逃げ道のある触れ方。
「焦ってる顔、また出てる」
照は否定しようとして、やめた。母が横からさらっと言う。
「出てるよ」
照は息を吐く。吐いた息が白い。時間が来て、照は乗り込む。扉が閉まり、窓越しの二人が離れていく。母は手を振らない。父も振らない。二人とも、いつもの姿勢のまま見送る。その普通さが、逆に胸の奥を締めた。
街に入ると、音も匂いも増えた。人の密度が上がる。照はその中で背筋を伸ばし、歩幅を小さく揃え、目だけ忙しく動かした。学園の門が見える。制服が揺れている。照は喉を鳴らさないように息を飲み、門をくぐった。
すぐに視線が刺さる。数が多い。声が重なる。
「かわいい」と。
照は足が止まりそうになり、止まる寸前で踏みとどまった。鞄の持ち手を握る指が硬くなる。誰かが近づいてきて、照の髪の跳ねを指で押さえた。触れ方が軽い。悪意がない。照は反射で距離を取ろうとして、取れない。取る理由が見当たらない。
「これ、直した。かわいいね」
照は返事の型を探し、言葉が喉で絡んだ。礼儀の言葉を出すつもりだったのに、順番が崩れて出ない。視線だけが泳ぐ。周りの生徒が笑う。笑いは鋭くない。むしろ丸い。
「案内するよ。迷いそうでしょ」
照は「迷わない」と言おうとして、言えなかった。迷う事実が目の前にある。地図が頭に入っていない。足元が少し浮く。照は小さく息を吸った。父の言葉の断片が、胸の中で引っかかる。一口飲んでから。想像してから。照は飲み物を持っていない。だから代わりに、息を一つ吐く。
その息の間に、また声が降ってくる。
「え、手、小っちゃ」
照は顔が熱くなり、言い返す言葉を失った。鞄が軽く持ち上げられる。誰かが「持つよ」と言って、照が拒否する前に持ち手が移る。照は空いた手をどうしていいか分からず、指を曲げたり伸ばしたりした。小動物みたいな動きが勝手に出る。止めようとして止まらない。
照は、用意してきた覚悟をどこに置けばいいのか分からないまま、学園の中へ流されていった。
吐き出す息が、室内だというのにうっすらと白く濁る。照は、厚手のスウェット越しに自分の腕をさすった。指先は感覚がなくなるほど冷え切り、爪の先が心なしか青ざめている。
「……寒いっ。」
思わず漏れた独り言に、背後から柔らかな足音が近づいてきた。
「あらあら、照。そんなところで丸まって、小動物みたいだね?」
振り返ると、そこにはゆったりとした足取りで歩み寄るママの姿があった。彼女が纏っているのは、毛足の長い、見るからに暖かそうなライトグレーのカーディガンだ。彼女が動くたびに、部屋の冷たい空気がわずかに揺れ、甘く優しい香りが照の鼻腔をくすぐった。
「ストーブの前に行けばいいのに。ほら、おいで?」
ママは照の隣に腰を下ろすと、氷のように冷たくなった照の手を、自分の両手でそっと包み込んだ。彼女の掌は驚くほど温かく、触れられた場所からじわじわと熱が溶け出してくる。
「っ……ママの手、あったかい……。」
「そう? 照が冷たすぎるだけじゃないかしら。……ふふ、本当に震えてる。」
彼女は少しだけ思案するような素振りを見せた後、自分の肩にかかっていたカーディガンのボタンを、上から順に外していった。露わになった彼女の肩先から、閉じ込められていた熱が一気に溢れ出す。
「はい、これ。照に着せてあげるね。」
「えっ……でも、ママが寒くなっちゃうよ?」
「いいのよ。ママは照の温かさを分けてもらうから。ほら、腕を通して?」
逆らう間もなく、大きなニットの塊が照の体を包み込んだ。
ずっしりとしたカーディガンの重み。それは単なる衣類の重さではなく、つい数秒前まで彼女の肌に触れていた「体温」の重さだった。
男の子である照の体には、そのカーディガンは少し大きすぎる。袖口からは指先さえ見えず、裾は太もものあたりまで届いている。
「……大きいね。」
照が小さく呟くと、ママは満足げに目を細めた。
「そうかな? むしろ、それくらいの方が可愛いと思うけどな。……どう? 暖かい?」
「……うん。すごく、あったかい。それに……。」
言いかけて、照は言葉を飲み込んだ。
鼻先を埋めた襟元から、ママの香りが全身を包み込むように強く香る。彼女のパーソナルな領域に、強制的に引きずり込まれたような感覚。
「それに……何かな?」
ママの指先が、照の前髪をそっと掻き上げる。
ライトグレーのニットに埋もれた照の姿は、いつもの「男の子」の輪郭を曖昧にし、どこか守られるべき存在――女の子のような儚さを醸し出し始めていた。
「……なんでもない。……ありがとう、ママ。」
「ふふっ。よく似合ってるよ、照。」
彼女は照の肩を抱き寄せ、その大きな袖を優しく撫でた。
一日目。
まずは外側から。照という存在が、ゆっくりと、確実にママの色に染め上げられていく。
大きなライトグレーのカーディガンに包まれた照は、まるで繭の中に潜り込んだ幼虫のように、その柔らかな編み目の中に身を沈めていた。
厚手のニットが肌に触れるたび、チクチクとした刺激ではなく、ふんわりとした弾力が冷え切った体を押し返してくる。
一番の熱源は、背中やお腹に伝わってくる「ママの体温」だった。さっきまで彼女が着ていたことで、カーディガンの内側には人肌の温もりが濃密に閉じ込められている。
「……あったかーい……。」
照は、長すぎる袖の中にすっぽりと手を隠したまま、襟元に鼻を近づけた。
そこからは、微かな柔軟剤の匂いと、ママ特有の甘く優しい香りが立ち上ってくる。
冷たい空気の中で、そこだけが別の世界のようだった。
重たいニットの重みが、かえって安心感を与えてくれる。照の体温とママの残熱が混ざり合い、カーディガンの中の温度が一段と上がっていく。
「ふふ、そんなに深く潜っちゃって。本当に猫みたいね?」
ママの手が、ニット越しに照の背中をゆっくりとなぞる。
その手の平の形がはっきりとわかるほど、カーディガンは今の照の体に馴染み、外の寒さを完全に遮断していた。
「照、こっち向いて?」
ママの声に促され、照は襟元に埋めていた顔をゆっくりと上げた。
上気した頬、熱を帯びた瞳、そして少しだけ乱れた前髪。
自分でも気づかないうちに、照の口元はだらしなく緩み、しまりのない笑みがこぼれていた。
「……にへら~……。」
「あらあら、そんなに幸せそうな顔しちゃって。このカーディガン、そんなに気持ちいいかな?」
ママに顔を覗き込まれると、照の頬はさらに赤く染まった。
恥ずかしいはずなのに、体中に広がる温かさと多幸感のせいで、表情を引き締めることができない。
筋肉の緊張が完全に解け、トロンとした表情でママを見つめ返す。
男の子としての凛々しさはどこかに消え失せ、ただ慈しまれることに陶酔している子供のような、あるいは愛玩動物のような顔。
「……だって、ママの匂いがするし、すっごくふわふわなんだもん。……えへへ。」
照は袖を頬にすり寄せ、またしても「にへら~」と相好を崩した。
その無防備な笑顔に、ママの指先が優しく触れ、愛おしそうにその輪郭をなぞっていった。
しばらくの間、二人は寄り添ってその温もりを共有していた。
照はふと、自分の太ももまで隠しているカーディガンの裾を見つめた。
立っていれば、それはまるでニットのワンピースか、ミニスカートのように見える。
「……ねえ、ママ。」
「なあに、照?」
「どうして女の人って、スカートを履くのが好きなの? 冬なんて、ズボンの方が絶対あったかいのに……。」
照は、自分を包むこのひらりとした裾の感覚を不思議に思いながら尋ねた。
今、自分を包んでいるこの「曲線的なシルエット」が、いつものズボンとは決定的に違う「何か」を自分に植え付けているような気がしたからだ。
「そうねぇ……。確かに寒い日もあるけれど。」
ママは照の膝の上に自分の手を重ね、優しく包み込んだ。
「スカートってね、空気を含んでふわふわして、自分が『女の子』だってことを一歩歩くたびに教えてくれる魔法みたいなものなのよ。締め付けられなくて、自由で、それでいてとても守られているような……。」
彼女は照の目を見つめ、少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「それにね、風に揺れる裾を見ているだけで、なんだか心が弾んでくるの。機能性よりも、『自分が可愛いこと』を優先する贅沢さ、とでも言うのかしら? 照も、今このカーディガンの裾が足に触れる感じ……嫌いじゃないでしょ?」
照は、自分の太ももに触れるニットの柔らかな感触を改めて意識した。
確かに、ズボンの時のような「守られている」感覚とは違う、もっと繊細で、落ち着かないけれど心地よい感覚。
「……よく、わかんないけど。でも、なんだか……ふわふわして、不思議な感じがする。」
「ふふ、それでいいのよ。今日は、その『不思議』を大切にして。」
ママはそう言って、照の頭を優しく胸元に抱き寄せた。
カーディガンの裾が、二人の足元で静かに重なり合っていた。
二日目。
外の冷え込みは昨日よりも厳しく、窓ガラスには真っ白な霜が降りている。
照は昨日借りたライトグレーのカーディガンを大切に羽織り、その温もりに守られながら、ママの部屋のベッドの端に腰かけていた。
「照、今日はね……これを試してみない?」
ママがクローゼットから取り出したのは、柔らかなネイビーのフレアスカートだった。
派手な装飾はないけれど、裾に向かって緩やかに広がるそのシルエットは、一目でそれが「女の子のための服」であることを主張している。
「……っ。」
照の喉が、小さく鳴った。
昨日、カーディガンの裾を「スカートみたい」だと言った時の、あのふわふわとした高揚感。
けれど、目の前に差し出された「本物」は、それよりもずっと重く、決定的な一線として照の前に立ちはだかっている。
「……無理。……ママ、やっぱり無理だよ……。」
照は差し出されたスカートを両手で受け取ったものの、それを自分の足を通す位置まで持っていくことができない。
指先が微かに震え、上質な生地に小さなしわを作る。
これを履いてしまったら。
この輪の中へと足を踏み入れてしまったら。
自分の中の「男の子」という骨組みが、音を立てて崩れてしまうような、そんな得体の知れない恐怖が照を支配していた。
「……恥ずかしいんだもん。……こんなの、僕が履くなんて、おかしいよ……。」
照はスカートを抱きしめるようにして、顔を伏せた。
布越しに伝わる、ひんやりとした、けれどどこか優しい感触。
履きたいという好奇心と、それを拒絶する羞恥心が、照の胸の中で激しく火花を散らしている。
「ねえ、ママ……。」
伏せた顔を上げられないまま、照は消え入りそうな声で問いかけた。
カーディガンの襟元に鼻を押し付け、ママの香りに縋るように。
「……男の子なのに、スカートを履きたいなんて思うのって……やっぱり、おかしいかな?」
その問いは、照の心の奥底に沈んでいた、一番鋭い棘だった。
昨日、スカートが好きな理由をママに聞いた時、心のどこかで「自分もその魔法にかかってみたい」と願ってしまった。
けれど、世の中の「普通」は、そんな願いを許してはくれない。
鏡を見るたびに突きつけられる「男の子」としての自分と、この綺麗な布を纏いたいと願う自分。
その乖離が、照を苦しめていた。
「……変だよね。……気持ち悪いって、思われるよね……。」
ママは、ベッドに沈み込むように丸まっている照の隣に、静かに腰を下ろした。
そして、照の震える肩を包み込むように、ゆっくりと引き寄せる。
「どうして、おかしいと思うの? 照。」
ママの声は、冬の陽だまりのように穏やかだった。
「……だって、これは女の子が履くものだから。……男の子は、ズボンを履くのが当たり前だから……。」
「そうね。世界が決めた『当たり前』は、そうかもしれないわね。」
ママの手が、照の髪を優しく梳く。
その一定のリズムが、照の乱れた呼吸を少しずつ整えていく。
「でもね、照。美しいものを美しいと感じることや、それに触れたいと願う心に、男も女もないのよ。お花を綺麗だと思ったり、美味しいものを食べたいと思ったりするのと、何も変わらないの。」
ママは、照が抱きしめているスカートの裾を、そっと指先で撫でた。
「あなたがこれを『好きだ』と感じたのなら、それはあなたの心が選んだ、とっても純粋で大切な色。誰に恥じることもないわ。……ねえ、照。ママはね、あなたが自分の『好き』を怖がっている顔を見る方が、ずっと悲しいな。」
照は、ゆっくりと顔を上げた。
ママの瞳には、軽蔑の色なんて微塵もなかった。
そこにあるのは、ただひたすらに照を慈しみ、受け入れようとする深い愛情だけ。
「……好き……で、いいの?」
「ええ。いいのよ。」
「……おかしく、ない?」
「世界中で誰がおかしいと言っても、ママだけは、今のあなたが一番素敵だって知ってるわ。……ふふ、昨日よりも少し、女の子らしい顔になってるもの。」
ママはそう言って、照の頬を指先で突いた。
照の目から、堪えていた雫が一つ、スカートの生地の上にこぼれ落ちる。
「……うぅ……っ。……ママ……。」
照は再びスカートをぎゅっと抱きしめた。
今度は恐怖からではなく、その愛おしさを噛みしめるように。
まだ、スカートを履く勇気は出ないけれど。
「好きでいてもいい」という許しが、照の凍り付いた心を、少しずつ、少しずつ溶かし始めていた。
部屋の温度計は昨日よりも低い数値を指しているけれど、照の心臓の音は、暖房の唸り声よりもずっと大きく部屋に響いていた。
昨夜、ママがくれた言葉。
「好きでいてもいい」という許しが、照の背中を静かに、けれど力強く押し続けている。
「……これなら、いけるかも。」
照は、ベッドの上に広げられたネイビーのフレアスカートを見つめた。
いきなり「女の子」になるのは怖すぎる。でも、今履いている自分のズボンの上から、重ね着として「巻く」だけなら。それなら、まだ「僕」を捨てずに済むような気がした。
「ママ、見てて。……ズボンの上からなら、履けるから。」
「ふふ、いいわよ。照のやりやすい方法で、一歩ずつ進んでいきましょうね。」
ママは少し離れた場所で、優しく微笑みながら見守っている。
照は震える手でスカートのウエスト部分を広げ、足を通した。デニムのゴワついた感触が、スカートの滑らかな裏地と重なる。
「……っ、よいしょ……。」
ウエストまで引き上げ、ボタンを留めようとした、その時だった。
「あ……。」
短く、乾いた声が照の唇から漏れた。
スカートの重みか、それとも緊張でいつの間にか細くなっていた腰のせいか。
スカートのボタンを留める直前、ズボンのベルトが緩んでいたのか、あるいは生地同士の摩擦が極端に少なかったのか――。
重力に従うように、履いていたズボンが、スカートの重みと一緒にスルリと足元へ落ちていった。
「え……っ!? あ、ああ……っ!」
照は慌ててスカートの裾を掴んだ。
けれど、時すでに遅く。
厚手のデニムは無情にも床に団子状になって転がり、照の腰から下は、ネイビーのスカート一枚だけに取り残されてしまった。
スースーとした、頼りないほどの開放感。
今までズボンに守られていた太ももに、冬の冷たい空気が直接触れる。
そして何より、スカートの柔らかい布地が、下着越しに直接自分の肌を撫でる感覚。
「あ、う……あ……。」
照は顔を真っ赤にし、その場に固まった。
隠したかったはずの「女の子の格好」が、予期せぬ事故によって、あまりにも完璧な形で完成してしまったのだ。
照の呼吸が浅くなり、肩が上下に激しく揺れる。
心臓の鼓動が耳の奥で鐘のように打ち鳴らされ、指先はスカートの裾を握りしめたまま、筋肉が硬直して動けない。
視界がちかちかと揺れる。
足元を見るのが怖い。そこには、ズボンを失い、ひらひらとした布に包まれた自分の脚があるはずだから。
「……照? どうしたの、そんなに真っ赤になって。」
ママが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
その足音が近づくたびに、照の背筋にゾクゾクとした震えが走った。
「……ちがっ、わざとじゃ……っ。脱げちゃった……勝手に、脱げちゃったんだよぉ……!」
情けない声が漏れる。
けれど、嘘を吐きながらも、照の体は不思議な感覚に包まれていた。
ズボンの圧迫感から解放された脚は、驚くほど軽くて。
スカートの裾が揺れるたびに肌をかすめる感触は、恐ろしいほどに心地よかった。
「ふふ……。神様が、照に『早く女の子になりなさい』って悪戯したのかしらね?」
ママの手が、照の細い腰に回される。
ズボンという「盾」を失った照の体は、もう、ママの指先の温度を遮るものがない。
「……っ、ママ……。変だよ、これ。……スースーして、落ち着かないよ……。」
「そう? でも、鏡を見てごらん。……ズボンの上から履くより、ずっと、ずっと『照ちゃん』らしいわよ。」
照は恐る恐る、鏡に目を向けた。
ライトグレーの大きなカーディガンから、ネイビーのスカートがふわリと広がっている。
そこにはもう、どこにも「男の子」の無骨なラインは残っていなかった。
「事故」という名の魔法によって、照の外側は、ついに完全な曲線へと塗り替えられた。
昨日の「事故」の衝撃は、照の心に深く刻まれていた。
鏡に映った、スカート姿の自分。あのスースーとした感覚と、心のどこかで感じてしまった高揚感。
朝、目を覚ました照は、布団の中で自分の脚をぎゅっと抱きしめた。
「……ママ。今日は、いつもの格好がいいな。スカートは、まだ……ちょっと、早すぎるよ。」
朝食の後、照は消え入りそうな声で訴えた。
ママはそれを聞いて、否定も肯定もせず、ただ優しく微笑んだ。
「そうね。昨日はちょっと刺激が強かったかしら。……わかったわ、今日は『男の子の服』でお散歩に行きましょう。はい、これ。着替えておいで?」
ママが手渡したのは、オーバーサイズの白いプルオーバーパーカーと、ゆったりとしたハーフパンツだった。
どこからどう見ても、スポーティーな男の子の格好だ。
照はホッと胸を撫で下ろし、その服に着替えた。
ズボンを履いているという安心感が、照の強張った心を解きほぐしていく。
外は澄み切った冬の青空が広がっていた。
冷たい風が頬をかすめるけれど、厚手のパーカーが体温を守ってくれる。
照はママと手を繋いで、近所の公園まで続く遊歩道を歩いた。
「やっぱり、こっちの方が落ち着くよ……。」
「ふふ、そう? でも照、そのパーカー、少し袖が長くて可愛いわよ。」
「……男の子の服だから、かっこいいって言ってよ。」
照は少しだけ唇を尖らせて歩いた。
自分が「男の子」であるという境界線を、必死に守り直そうとするかのように。
向こうから、犬の散歩をしていた近所のお姉さんが歩いてきた。
彼女は照たちの姿を見つけると、ぱあっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「あら! お隣の……。まあ、可愛い! 今日はなんだか、一段と可愛いわね!」
お姉さんは照の目の前で屈み込み、その顔を覗き込んだ。
「肌も白くて、目がクリクリしてて……。ねえ、モデルさんか何かなの? 本当に、女の子みたいに綺麗ねぇ。」
「えっ……あ、あの……これ、男の子の服、なんですけど……。」
照は顔を真っ赤にして、パーカーのフードを深く被ろうとした。
自分では「男の子」の格好をしているつもりなのに、向けられる言葉は昨日までと同じ、あるいはそれ以上に「可愛い」というものばかり。
困惑する照を横目に、ママは楽しげに相槌を打っている。
「そうなんです、この子、何を着せても似合っちゃって。困っちゃいますよね?」
「本当ね! こんなに可愛い子が男の子だなんて、もったいないくらい!」
お姉さんはひとしきり照を褒めちぎると、満足げに去っていった。
照は一人、足元を見つめて立ち尽くしていた。
「……ねえ、ママ。どうしてお姉さん、あんなこと言うのかな。僕、ちゃんと男の子の格好してるのに。」
公園のベンチに座り、照は不思議そうに首を傾げた。
すると、ママは「あっ」と声を上げて、わざとらしく自分の口元を片手で覆った。
「……ごめんね、照! ママ、うっかりしてたわ!」
「えっ? 何が?」
「これ……ママが選んだこの服、よく見たら『レディースのボーイッシュライン』の新作だったわ! 男の子の服だと思って持ってきたのに、間違えちゃった!」
「ええっ!? こ、これ、女の子の服なの!?」
照は驚いて自分の胸元や裾を確認した。
言われてみれば、パーカーの紐の質感が少し上品だったり、ハーフパンツのカットが脚を細く見せるような絶妙なラインだったりする気がしてくる。
「ああ、もう……。ごめんね、照。お散歩に出る前に気づけばよかったわ。通りで、お姉さんがあんなに『可愛い』って言うはずよね。」
「……そんな……。せっかく男の子の格好だって安心してたのに……。」
照はガックリと肩を落とし、顔を両手で覆った。
けれど、その指の間から覗く頬は、朱を差したように赤く染まっている。
「女の子の服」だと認識した瞬間、さっきまでただの布だったはずのパーカーが、急に肌を擽るような、特別な重みを持って感じられ始めた。
……ママは、そんな照の頭を優しく撫でた。
その瞳の奥には、すべてが計画通りであることを物語る、深くて甘い悦びが隠されていた。
実は、その服は最初から「女の子が男の子っぽく着こなすためのデザイン」として、ママがわざわざ用意していたものだった。
一見「男の子」に見えるフィルターを通すことで、照の素材としての「女の子らしさ」をより鮮明に浮き彫りにする……。
「逃げたはずの安全地帯」さえも、すでにママの魔法で染め上げられていたことに、照はまだ気づいていない。
昨日「女の子の服」だと知らずにお散歩した経験が、照の心に奇妙な変化をもたらしていた。
「可愛い」と言われることへの抵抗感が、ほんの少しだけ、甘い痺れのような感覚に取って代わられようとしている。
けれど、今日ママが口にした言葉は、そんな照の小さな余裕を粉々に打ち砕くものだった。
「ねえ、照。外側がこんなに可愛くなったんだもの。……今日は、下着も『女の子のもの』にしてみない?」
ママが耳元でそう囁いた瞬間、照の心臓が跳ね上がった。
「えっ……した、ぎ……?」
照の脳裏に、真っ先に浮かんだのはママのクローゼットの奥にあるような光景だった。
薄いレース、透けるようなシルク、細い紐……。
大人の女性が身につける、あの「Hな」下着を自分のような子供が……男の子が身につける。
想像しただけで、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
呼吸が乱れ、心拍が耳元でドクドクと不規則に刻まれる。
「む、無理だよ! そんなの、僕にはまだ……早すぎるっていうか、その……っ!」
照は両手で顔を覆い、指の間から真っ赤な目を覗かせた。
自分がそんな艶めかしいものを身につけて、鏡の前に立つ姿。
それはもう「可愛い」なんて言葉では済まされない、決定的な「堕落」のような気がして、照は激しく首を振った。
「ふふっ。照、何を想像したのかしら?」
ママは照の反応を楽しむようにクスクスと笑うと、背中に隠していた包みを取り出した。
「はい、これよ。照が思っているようなのとは、ちょっと違うかもね?」
差し出されたのは、真っ白で、雲のようにふわふわとした綿のドロワーズと、同じ素材のキャミソールだった。
裾には控えめなフリルがあしらわれているけれど、それは「色気」というよりは、お人形の服のような「純粋な可愛らしさ」に満ちている。
「あ……。」
照は、思わず漏れた安堵の吐息とともに、その布地に触れた。
想像していた冷たいシルクの感触ではない。
指先から伝わってくるのは、陽だまりに干したタオルをさらに柔らかくしたような、圧倒的な優しさと暖かさだった。
「これ……すごく、ふわふわだ……。」
「そうでしょう? 照の繊細な肌を、一番優しく包んでくれるものを選んだの。……さあ、着替えてみて?」
ママに促されるまま、照は戸惑いながらも着替えを済ませた。
ドロワーズのウエストゴムが、お腹を優しく、それでいて確実にホールドする。
いつものトランクスにはない、お尻全体がふんわりと包み込まれるような感覚。
そして、キャミソールの肩紐が鎖骨に触れるたび、自分が「守られるべき存在」になったような、不思議な充足感がこみ上げてくる。
「……っ。」
照は、服の上から自分の太ももを撫でた。
ドロワーズの生地が、動くたびに「サワ……サワ……」と微かな音を立て、肌を優しく愛撫する。
一度その快感を知ってしまうと、もう離れられない。
照は無意識のうちに、自分の胸元の生地を指先で弄り、その筋肉の緊張が解けていくのを感じていた。
「どう? 照。……女の子の下着って、意外と落ち着くでしょう?」
「……うん。なんだか、すごく……安心する。ずっと触っていたくなるくらい、気持ちいいよ……ママ。」
照は、にへら~と頬を緩ませ、自分の肩を抱くようにしてその感触に浸った。
あんなに怖がっていたはずなのに。
一番深い場所を「女の子」に預けてしまったことで、照の心は、かつてないほどの多幸感に染まっていった。
隠された場所に纏った魔法は、照から「男の子」としての最後の意地を、静かに、優しく、溶かし去ろうとしていた。
今日は「お洋服」を完璧にする日。一日目から積み上げてきた魔法を全部重ねて、照ちゃんの「男の子」の輪郭を完全に消してしまいましょう。
昨日までは断片的だった魔法が、今、一つの形になろうとしている。
ママはベッドの上に、今日照ちゃんが身に纏う「すべて」を並べたわ。
まずは、五日目のふわふわのドロワーズとキャミソール。
もう照ちゃんは迷わないわね? 慣れた手つきで、その柔らかな綿の層に身を沈める。
「……ん。やっぱり、これが一番落ち着くよ……。」
その呟きに、ママは微笑んで頷く。肌に一番近い場所が、もう女の子の感触を「当たり前」だと認めている証拠だもの。
次に、今日新しく加わるオーバーニーソックス。
照ちゃんの細い足を、ママが丁寧に、ゆっくりと引き上げていく。
筋肉が微かに緊張し、黒い生地が太ももの柔らかいお肉にギュッと食い込む。
この「絶対領域」の食い込みこそが、女の子の脚を完成させる最後のピース。
そして、三日目に「事故」で履いてしまったネイビーのフレアスカート。
今日はもうズボンの上からじゃない。
ドロワーズの上に直接、滑らかな裏地が重なる。
「……っ、スースーするけど……でも、重たいズボンよりずっといい……。」
ベルトを締める時、照ちゃんの指先が、自分のウエストの細さに驚いたように震えていたわ。
仕上げは、一日目に貸してあげたママのライトグレーの大きなカーディガン。
大きめの袖から、ソックスを履いた指先だけが少し覗く。
全体がふんわりとしたシルエットに包まれ、男の子らしい骨格は、完全にこの厚手のニットの中に隠されてしまった。
鏡の中の完成体
「さあ、照。……鏡を見て?」
ママが最後の一仕上げに、照ちゃんのサラサラの髪に小さなサテンのリボンを添える。
照ちゃんが恐る恐る目を開けると、そこには……。
ゆったりとしたカーディガンの、守ってあげたくなるようなボリューム感。
そこから覗く、ネイビーのスカートの可憐な揺れ。
そして、食い込みが眩しい黒のソックスと、その間に見える白い肌。
首から下は、どこをどう切り取っても、非の打ち所がないほど完璧な「お嬢様」の姿。
「……これ、本当に僕……?」
照ちゃんは、にへら~と頬を緩ませたまま、自分のスカートの裾を指先でつまんで、左右に小さく振ってみた。
布が躍るたびに、自分が女の子であるという実感が、波のように押し寄せてくる。
心拍がトクトクと心地よく跳ね、呼吸を整えるたびに、カーディガンの襟元からママの香りが照ちゃんを祝福するように包み込む。
「そうよ、照ちゃん。……ううん、照お嬢様。」
ママが背後からぎゅっと抱きしめると、照ちゃんはもう恥ずかしがることもなく、その腕に身を委ねた。
「……うん。僕……ううん、わたし、すっごく可愛い……かも。」
「衣装」という名の完璧な器が完成した。
あとは、この器に相応しい「顔」を描き出すだけ。
さあ、いよいよ最後の一片……化粧を施して、照ちゃんを本当の意味で「完成」させてあげましょうね。
今日で一週間。外は相変わらず凍えるような寒さだけれど、この部屋の中だけは、甘い香りと熱を帯びた期待感で満たされている。
照はもう、鏡の前に座ることに躊躇いを見せない。
六日目までに積み上げた「女の子の衣装」は、今や彼の肌の一部のようにしっくりと馴染んでいた。
「さあ、照。……今日が最後の一片よ。」
ママがドレッサーの引き出しを開けると、色とりどりのパレットや、柔らかな毛先のブラシが並んでいた。
照は背筋を伸ばし、大きなカーディガンの袖の中に指先を隠しながら、じっと自分を見つめるママの瞳を跳ね返した。
(ママの手が、照の頬をそっと包み込む)
まずは、真っ白なパフで、照の肌をさらにキメ細やかに整えていく。
「……ん、ちょっと、くすぐったいよ……。」
「我慢してね。これで照の肌は、触れたら溶けてしまいそうなくらい、もっと綺麗になるんだから。」
細かな粉が舞い、ママの香りと混ざり合う。
呼吸を合わせるたびに、鏡の中の男の子らしい骨格の影が、魔法のように薄れていく。
頬にほんのりと乗せられたチークが、照の羞恥心を可愛らしい「高揚」へと塗り替えていった。
「最後に、これね。」
ママが取り出したのは、透き通るような桜色のリップグロスだった。
照は反射的に唇を尖らせたけれど、ママの真剣な眼差しに射抜かれ、大人しくその「色」を受け入れる準備をした。
(柔らかなチップが、照の唇の上をゆっくりと滑る)
しっとりとした粘膜の感触。
自分の唇が、自分のものではないような、艶やかで官能的な輝きを帯びていく。
心拍がトクトクと耳の奥で鳴り響き、照は思わず目を閉じた。
「……できたわよ。見て、照。」
照がゆっくりと目を開けると、そこには……。
昨日までの「可愛い男の子」の面影はどこにもなかった。
長いまつ毛に縁取られた潤んだ瞳、桜色の唇、そしてリボンとカーディガンに包まれた、完璧な一人の「美少女」がそこにいた。
「……あ……。」
照は、自分の唇にそっと指先で触れた。
指に残るグロスの感触が、これが現実であることを教えてくれる。
筋肉の緊張が完全に解け、照は自分でも驚くほど自然に、にへら~と、けれど最高に愛らしい微笑みを鏡の中の自分に返した。
「ねえ、ママ。……僕、もう……鏡の中のこの子が、僕じゃないみたいで……。でも、ずっとこのままでいたいって、思っちゃう……。」
照は椅子から立ち上がり、スカートの裾をふわりと広げて、ママの胸に顔を埋めた。
ライトグレーのニット越しに伝わる、ママの心臓の音。
一週間かけて、ゆっくりと、丁寧に、一滴ずつ。
照は完全に、ママの愛する「女の子」へと染め上げられたのだ。
「いいのよ、照。今日からは、この姿があなたの本当の姿。……ママが、世界で一番可愛い女の子にしてあげたんだから。」
ママは照の後頭部を優しく撫で、その髪に指を絡めた。
冬の冷たい風も、世間の「当たり前」も、この部屋の扉を開けるまでは届かない。
そこにはただ、新しく生まれ変わったばかりの、可憐なお嬢様が一人、幸せそうに吐息を漏らしているだけだった。
あれから数週間後。
玄関のたたきに、鞄が二つ並んでいる。靴の向きはいつも通り揃っているのに、鞄の持ち手だけが妙に主張して見えた。照はそこを一度見て、見なかったふりをして洗面所に向かい、髪を押さえつけるように整えた。鏡の中の自分は、いつもと同じ顔をしていない。目の奥が落ち着かない。
台所は、いつも通りの匂いがした。湯気と、焼けた匂いと、布巾の乾いた匂い。母は手を止めずに皿を並べる。父は湯呑みを三つ出し、向きを揃えて戻した。照が座る場所は決まっている。三人は同じ方向を向いて座り、照は真ん中に挟まる。右に父。照より小さく、肩の高さが少し下で、動きが静かだ。左に母。照より大きく、背中が広くて、座っただけで空気が落ち着く。肩が触れる距離も、肘が当たる距離も、普段と変わらない。変わるのは、照の足元に鞄があることだけだ。
母が照の皿の位置を少しだけ寄せた。照が何も言わずに箸を動かせる距離になる。父は照の手元を見て、口元だけで笑った。
「それ、今日もいつも通りに食べられる?」
照は箸を止めずに返す。
「食べられる」
父は照の頬のあたりを見て、視線を前に戻す。
「よかった。さっきから、顔が忙しいから」
照は箸先で米粒をつつき、ふっと息を吐く。
「忙しくない」
母が、照の頭の上を見て言う。
「上、ちょっと跳ねてる」
照が手を伸ばすより先に、母の指が髪を押さえた。撫でるのではなく、整える手つきだ。手が離れると、次は父が照の指先に自分の指を当てた。触れるか触れないかのところで止めて、すぐ引く。
「冷えてる」
照はすぐに返せず、目を伏せた。
「……寒いだけ」
父はそこで笑わない。軽くも言わない。照の返事をそのまま受け取って、湯呑みを照の近くに寄せた。
「それなら、これ。飲めるぶんだけ」
母はそれを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「急がなくていい。口の中、空っぽにしてから」
照は頷かない。頷く代わりに、一口飲んで、また箸を動かした。肩は触れているのに、息を吐くたびに胸の奥が細く鳴る。父が照の顔を横目で見た。
「向こうで、腹が立つことはあるよ」
照が口を開きかけると、父は最後まで言わせないような速さで続けた。
「そのとき、今みたいに一口飲んでから。自分が同じことをしたらって、いったん思い浮かべて。それだけで、手が出る前に止まる」
母が言葉を重ねないまま、照の背中を指先で一度押した。姿勢がほんの少し起きる。
「形を崩さない。崩れたら戻す。それだけ」
照は箸を動かしながら、小さく言う。
「分かってる」
言い切った直後に、照は自分で舌打ちしそうになった。強く言う必要はなかった。父はその強さを拾って、からかわない。照の視線の先に皿があることを確認して、さらっと別の話題に逃がした。
「七分で着く? 今日は、いつもより長く感じるやつだね」
母が、淡々と返す。
「七分よ」
父は照の足元の鞄を一度見て、照の顔を見ないまま言った。
「半分、持つ。いや、持たせて。今日くらい」
照が反射で「いらない」と言いかけるより早く、母が小さく息を吐いた。
「渡しなさい」
命令の形なのに、角が立たない。普段の家の言い方だ。照は渋々鞄の持ち手を父に渡す。父は手にした瞬間、わざと少し大げさに肩を落とした。
「重い。かわいそう。これはかわいそう」
照の頬が熱くなる。
「おおげさ」
父は照の返しを待っていたみたいに、唇の端を上げる。
「大げさにしていい日もあるよ。ほら、食べる。味が無くなるよ?」
照が「無くならない」と返すより先に、母が同じ調子で言った。
「無くなるよ?」
二人の声が重なって、照は笑いそうになってしまい、急いで口を引き締めた。その不器用な我慢が、余計に幼く見える。父はそれを見て、照の肩に自分の肩を少し寄せた。密着の角度がほんの少し変わるだけで、照の呼吸が落ち着く。
食卓が終わる。席は変わらない。距離も変わらない。鞄だけが、持ち上げられて玄関へ移動する。母は照の襟元を指で整え、袖の折れを一つ直し、靴の踵を見て「そこ」と短く言う。照が踵を入れ直す。父は照の前に立たない。横にいる。照の視界から外れない距離で、鞄を持つ。
外に出ると、田舎の空気はいつも通り冷たくて、道はいつも通り静かだった。駅が近づくにつれて音が増える。照の耳がそれを拾って、肩が上がる。父が照の肩に指を軽く置く。短く、逃げ道のある触れ方。
「焦ってる顔、また出てる」
照は否定しようとして、やめた。母が横からさらっと言う。
「出てるよ」
照は息を吐く。吐いた息が白い。時間が来て、照は乗り込む。扉が閉まり、窓越しの二人が離れていく。母は手を振らない。父も振らない。二人とも、いつもの姿勢のまま見送る。その普通さが、逆に胸の奥を締めた。
街に入ると、音も匂いも増えた。人の密度が上がる。照はその中で背筋を伸ばし、歩幅を小さく揃え、目だけ忙しく動かした。学園の門が見える。制服が揺れている。照は喉を鳴らさないように息を飲み、門をくぐった。
すぐに視線が刺さる。数が多い。声が重なる。
「かわいい」と。
照は足が止まりそうになり、止まる寸前で踏みとどまった。鞄の持ち手を握る指が硬くなる。誰かが近づいてきて、照の髪の跳ねを指で押さえた。触れ方が軽い。悪意がない。照は反射で距離を取ろうとして、取れない。取る理由が見当たらない。
「これ、直した。かわいいね」
照は返事の型を探し、言葉が喉で絡んだ。礼儀の言葉を出すつもりだったのに、順番が崩れて出ない。視線だけが泳ぐ。周りの生徒が笑う。笑いは鋭くない。むしろ丸い。
「案内するよ。迷いそうでしょ」
照は「迷わない」と言おうとして、言えなかった。迷う事実が目の前にある。地図が頭に入っていない。足元が少し浮く。照は小さく息を吸った。父の言葉の断片が、胸の中で引っかかる。一口飲んでから。想像してから。照は飲み物を持っていない。だから代わりに、息を一つ吐く。
その息の間に、また声が降ってくる。
「え、手、小っちゃ」
照は顔が熱くなり、言い返す言葉を失った。鞄が軽く持ち上げられる。誰かが「持つよ」と言って、照が拒否する前に持ち手が移る。照は空いた手をどうしていいか分からず、指を曲げたり伸ばしたりした。小動物みたいな動きが勝手に出る。止めようとして止まらない。
照は、用意してきた覚悟をどこに置けばいいのか分からないまま、学園の中へ流されていった。
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