世界史上の悪役令嬢

伊阪証

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アラゴンのキャサリン編

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世界史豆知識(冒頭と末尾に配置してます)
中世ヨーロッパを見てみて思うことはないだろうか。・・・首都、言われてなくない?
・・・というのも神聖ローマ帝国を筆頭に当時は巡幸王朝、権威を示しながらセルフサービス参勤交代をしていた。裁判等の役割も兼ねていたのだ。
・・・まぁお隣のフランスとかパリから動けないですし。それ見たら警戒しますよ。


ブラックフライヤーズの修道院大広間を埋め尽くす空気は、六月の湿気と廷臣たちの脂じみた熱気で淀んでいた。磨き上げられた石床には、ステンドグラスを透過した赤と青の光が斑点のように落ちている。王の座す高壇から数歩、一段低い場所に設けられた法廷席には、教皇特使であるウルジーとキャンペジオの両枢機卿が、真紅の法衣に身を包んで鎮座していた。彼らの手元で羽ペンが羊皮紙を擦る音だけが、広間の静寂を鋭く切り裂いている。
ヘンリー八世は、その巨大な体を玉座に深く沈め、苛立ちを隠そうともせずに肘掛けを指で叩いていた。彼の視線の先には、純白のドレスに身を包み、微動だにせず立つ王妃キャサリン・オブ・アラゴンの背中がある。王の喉が鳴り、湿った重苦しい声が天上の梁へと響き渡った。
「余の良心は、十五年もの間、責め苦に遭ってきた。聖書の一節、レビ記の言葉が耳を離れぬのだ。『弟が兄の妻を娶れば、それは不潔な行いであり、彼らに子はなからん』とな。余と王妃の間に男子が育たぬのは、この婚姻自体が神への冒涜であった証左に他ならない。」
王の言葉は、法廷を埋める貴族たちの間に、さざ波のような囁きを引き起こした。ヘンリーの瞳には、かつての慈愛は欠片もなく、ただ自身の欲望を正当化するための法論理を欲する飢餓感が宿っている。彼はキャンペジオ枢機卿を睨みつけ、更なる言葉を重ねた。
「教皇陛下がかつて出した免除状は、神の法そのものを歪めるものであった。余はこの過ちを正し、イングランドの平穏を取り戻さねばならぬ。この婚姻の無効を宣言せよ。それが神の、そして余の意志である。」
その瞬間、それまで石像のように沈黙を守っていたキャサリンが、ゆっくりと、だが確かな重みを持って振り返った。彼女の瞳は、廷臣たちが予想していた悲嘆や絶望ではなく、冬の海のような透き通った冷徹さを湛えている。彼女は王の前に歩み寄り、しなやかな動作で膝を折った。だが、その姿勢には服従ではなく、むしろ相手を法的な檻に追い込む狩人のような鋭利さが宿っていた。
「愛する王よ。貴方の良心が痛むというのであれば、それは一人の妻として、これ以上の悲しみはございません。ですが、神の法を論じるのであれば、言葉は正確に選ばれなければなりませんわ。」
キャサリンの声は、広間の隅々にまで染み渡るほどに澄んでいた。彼女はヘンリーの目を真っ向から見据え、薄く唇を吊り上げた。
「レビ記を引用されるのであれば、申命記の教えを忘れるべきではありません。兄が子をなさずに死んだとき、弟はその未亡人を娶り、兄の名を継ぐべし。これは神が定めた『レビラト婚』の聖なる義務ですわ。私の先夫アーサー王太子は、私を知ることなく、清らかなまま天に召されました。教皇陛下の免除状は、この矛盾を解消するためのものではなく、私と貴方の婚姻が『神の法』に合致していることを世界に証明するためのものでした。それを今さら『不潔』と呼ぶことは、当時の教皇庁の正当性を否定し、ひいては今の貴方の王権をも支える教会の権威を、自ら踏みにじることになりはしませんか。」
法廷に冷たい緊張が走った。ヘンリーの顔が怒りで赤黒く染まっていく。王が何かを言いかける前に、キャサリンは立ち上がり、懐から一通の書状を取り出した。それは黄金の封蝋で閉じられた、教皇庁の公印が押された文書であった。
「王よ、貴方が婚姻の無効を訴える根拠としておられる『王室の重大案件』。私はそれを、世俗の法廷ではなく、聖なる教会法に基づき、ローマの正当な審理に委ねることを正式に要求いたします。これこそが『ユス・ゲンティウム』、すなわち万民法における正当な防衛権ですわ。」
「黙れ!ここはイングランドの地だ。余の司法権こそが絶対であるはずだ!」
ヘンリーが怒号を上げ、立ち上がった。その巨体が投じる影が、キャサリンの足元を覆う。しかし、彼女は一歩も退かなかった。彼女の手指は、羊皮紙の端を優しく、それでいて断頭台の刃を研ぐように撫でている。
「イングランドの法、コモン・ローに照らしても、王の主張には重大な欠陥がございます。もし、この婚姻が最初から無効であったとするならば、王家が私との成婚にあたってスペインから受け取った莫大な持参金、およびそれに付随する領地の収益は、いかなる名目で処理されるべきでしょうか。正当な理由なき資産の保持は、イングランドの法においても『不当利得』に該当いたします。さらに、王が教会の権威を無視して強引に離婚を成立させようとするならば、それは『プラエムニレ』、すなわち教皇の管轄権を侵害する反逆罪に他なりません。王が王自身を反逆罪で裁く・・・。そのような喜劇を、イングランドの民に見せるおつもりですか。」
ウルジー枢機卿の額から脂汗が流れ落ち、床に染みを作った。キャサリンが口にしたのは、単なる妻の嘆きではなく、王室の財政と法的正当性を根本から破壊しかねない、緻密に計算された「宣戦布告」であった。
キャサリンは、戸惑う廷臣たちの間を、王冠を戴く女王としての威厳を纏いながら歩き出した。彼女のドレスの裾が石床を擦る音は、まるで軍隊の進軍のようにも聞こえた。彼女は出口の間際で立ち止まり、背中越しにヘンリーへと言葉を投げた。
「私は、貴方の良心の守護者でありたいと願っておりました。ですが、貴方が神の法を弄び、国庫を私欲のために歪めるというのであれば、私は教会の盾となり、この国の正義を守らねばなりません。王よ、貴方の言葉が『神の声』であると証明したいのであれば、まずはその手にある略奪の意志を捨て、法廷の席に戻られることですわ。さもなくば、次に没収されるのは私の権利ではなく、貴方の王冠を支える『教会の支持』そのものになるでしょう・・・。」
キャサリンが広間を去った後、そこにはただ、重苦しい沈黙と、王の荒い呼吸だけが残された。ヘンリーは力なく玉座に座り込み、自身の指を噛み締める。彼が手中に収めたと思っていた権力という名の剣は、いつの間にかキャサリンの手によって、彼の喉元を突く刃へと作り替えられていた。
広間の外に出たキャサリンの視界には、初夏の眩い日差しに照らされたロンドンの街並みが広がっていた。彼女は小さく息を吐き、誰にも聞こえない声で呟いた。
「さて、第一の駒は動かしましたわ。次は、王の足元に広がる教会の土地、その『エシート』、すなわち土地返還の権利をどう行使すべきか。神よ、私に冷徹なる慈愛をお与えください・・・。」
彼女の瞳には、すでに次の戦場が見えていた。イングランド全土を包み込む教会のネットワーク、そしてスペイン、神聖ローマ帝国。それら全てを法という糸で操り、一人の王を孤独な法廷の囚人へと変えるための、壮大な計画が動き出していた。
修道院の回廊を歩くキャサリンの足音は、もはや一人の弱き女性のものではない。それは、歴史という名の巨大な歯車を、自らの意志で逆回転させようとする、支配者の足音であった。
雲が太陽を遮り、一瞬だけロンドンの街に冷たい影が落ちた。それは、これから始まる凄惨な権力闘争と、美しき悪役令嬢としての王妃が築き上げる、新たな教権国家の誕生を予兆しているかのようであった。
キャサリンは、自身の右腕となるべき教皇使節レジナルド・ポールの姿を求め、暗い回廊の奥へと姿を消した。彼女の手には、まだ見ぬ未来を記した法典の写しが、硬く握りしめられていた。
イングランドの夏は、例年になく冷え込もうとしていた。法と信仰が、王の欲望を食い破るための冬が、すぐそこまで迫っていたのである・・・。
ヘンリー八世は、去りゆく王妃の背中を見つめながら、己の内に芽生えた正体不明の恐怖に身を震わせた。それは、自分よりも遥かに強大で、遥かに高潔な「法」という名の怪物を、自ら目覚めさせてしまったことに気付いた者の、終わりの始まりであった。


一五三一年、七月の陽光は容赦なくホワイトホールの回廊を焼き、石造りの壁からは逃げ場のない熱気が噴き出していた。王の私室へと続く重厚なオークの扉の前で、近衛兵たちが甲冑の内で脂汗を流している。室内では、ヘンリー八世が巨大な机を拳で叩きつけ、羊皮紙の束を床へと散らしていた。彼の咆哮は、開け放たれた窓からテムズ川のさざ波にまで届かんばかりであった。
「署名だ!イングランドの全聖職者、全貴族にこの『至上権への宣誓』を呑ませろ!余を教会の首長と認めぬ者は、反逆者としてロンドン塔で腐らせてくれる!」
王の側近であるトマス・クロムウェルは、冷徹な瞳を細め、散らばった書類を静かに拾い上げた。彼の指先には、常に実利と計算が宿っている。しかし、そのクロムウェルの耳に、回廊を渡る奇妙な沈黙の波が届いた。それは、王への畏怖による静寂ではなく、何かもっと冷たく、不可解な「欠落」の予感であった。
扉が不意に開かれた。先触れの声もなく、室内に現れたのはキャサリン・オブ・アラゴンであった。彼女の纏う黒い喪服のようなドレスは、夏の光を全て吸い込み、そこだけが世界の裂け目であるかのように暗い。彼女の傍らには、ローマから帰還したばかりのレジナルド・ポールが、一通の羊皮紙を捧げ持って立っていた。その羊皮紙に垂らされた緋色の封蝋には、教皇庁の巨大な獅子の紋章が刻印されている。
ヘンリーは憤怒に顔を歪め、立ち上がった。「キャサリン、何の真似だ!余は今、国家の重大な政務を執り行っている。女が立ち入る場所ではないと、何度教えれば理解するのだ!」
キャサリンは、王の怒号を春の微風のように受け流した。彼女はゆっくりとポールから羊皮紙を受け取り、それをヘンリーの目の前にある机の上へ、まるで死を宣告する花びらのように置いた。
「王よ、貴方が求めておられるのは『至上権』ではありません。それは、魂を代償にした空虚な支配ですわ。ローマから届いたこの『モニトリウム』、すなわち最終警告書をご覧なさい。教皇聖下は、貴方がアン・ブーリンとの不法な同居を続け、教会の裁判権を侵害し続けるのであれば、即刻『アナテマ』・・・破門を宣告する準備があると仰せです。」
「破門だと?」ヘンリーは鼻で笑った。「そんな紙切れ一枚で、余の軍隊が、余の法廷が止まるとでも思っているのか?イングランドの土を踏んでいるのは余だ。ローマの老いぼれではない!」
「いいえ、王よ。貴方はまだ、事の重大さを理解しておられませんわ。」キャサリンの声は、研ぎ澄まされた氷の刃のように室内の熱を奪っていった。彼女は机を指先でなぞり、ポールの顔を見やった。「レジナルド、イングランドの法において、破門者がいかなる法的地位に置かれるか、この哀れな支配者に説いて差し上げなさい。」
ポールは一歩前に出ると、落ち着いた、しかし有無を言わさぬ口調で語り始めた。「陛下、破門は単なる霊的な罰ではありません。それはイングランドの慣習法、およびカノン・ローにおいて『社会的死』を意味します。破門宣告がなされた瞬間、陛下が臣下から受けたあらゆる忠誠誓約は、神の名において無効化されるのです。」
「無効だと・・・?馬鹿な。余が王である事実に変わりはない!」
「いいえ、陛下。臣下たちは陛下のために戦う義務を失うだけでなく、陛下を助けること自体が、彼ら自身の魂を地獄へ落とす『大罪』となります。」ポールの言葉は、ヘンリーの背筋に冷たい汗を伝わせた。「陛下が発行する勅令、契約、貨幣の価値、その全てが『神の法』という裏付けを失います。誰も陛下と商売をせず、誰も陛下に食事を運ばず、誰も陛下の命令に従わない。それは、王冠を被ったまま生ける屍となることと同義なのですわ。」
キャサリンが再び言葉を継いだ。彼女の瞳には、かつての夫への情愛など微塵も残っていない。そこにあるのは、冷徹な統治者としての「正義」のみであった。
「想像してごらんなさい、ヘンリー。貴方が廷臣に『水を運べ』と命じても、彼は貴方の魂に触れることを恐れて動かない。貴方が兵士に『敵を討て』と命じても、彼らは破門された将軍に従うことで神の怒りを買うことを選ばない。貴方の署名は、ただのインクの汚れに成り下がり、貴方の言葉は空気を震わせるだけの無意味な音となるのです。これこそが、私が貴方に用意した『社会的死』の檻ですわ。」
ヘンリーは言葉を失い、自身の震える手を見つめた。王という存在は、臣下が「王である」と認め、その命令に従うという合意の上に成り立つ幻想に過ぎない。その合意の根底にある「神聖なる正義」をキャサリンは今、法と信仰という二つの鍵で閉じ込めようとしていた。
「貴方が『至上権』という幻想を追えば追うほど、この檻の鉄格子は太くなりますわ。」キャサリンはさらに踏み込み、ヘンリーの耳元で囁いた。「既にイングランドの主要な修道院、および北部の諸侯には、私の名で密書を送ってあります。彼らは、教皇の破門状が公開された瞬間に、貴方への租税支払いを停止する準備を整えています。国庫は枯渇し、貴方の贅沢を支える金貨は、ただの鉛の塊となるでしょう。」
「貴様・・・、イングランドを売るつもりか!」ヘンリーがキャサリンの肩を掴もうと手を伸ばした。しかし、その手は空を切った。キャサリンが身を翻したからではない。彼女の背後に控えていた近衛兵の一人が、反射的に、そして無意識に、王の進路を遮るように一歩踏み出したからである。
室内に凍りつくような沈黙が流れた。ヘンリーはその兵士を凝視した。兵士の顔は青ざめ、ガタガタと震えていたが、その瞳には王への忠誠ではなく、目に見えぬ「神の審判」への根源的な恐怖が宿っていた。
「・・・お前、今、余を遮ったのか?」ヘンリーの声は震えていた。
兵士は答えなかった。ただ、十字を切ってうつむいただけだった。その沈黙こそが、キャサリンの狙った「権力の蒸発」の最初の兆候であった。
キャサリンは勝ち誇ることもなく、淡々とその光景を見届けていた。彼女はクロムウェルを冷たく一瞥し、再びヘンリーへと向き直った。「これが現実ですわ、ヘンリー。貴方が力で屈服させようとしている民は、王よりも先に神を、そしてその代理人たる教会の法を恐れている。貴方が教会の資産を奪おうと企てたその瞬間、教会は貴方の『存在そのもの』を奪うことに決めたのです。」
彼女はポールを伴い、優雅な所作で退室の準備を始めた。扉に向かう直前、彼女は床に散らばった『至上権への宣誓書』の一枚を、靴の先で軽く踏みつけた。
「その紙は、暖炉の火種にでもお使いなさい。少なくとも、イングランドの冬を越すための薪ほどの価値はありますわ。ああ、それから、アン・ブーリンには伝えておきなさい。破門された男の腕に抱かれることは、悪魔と契約することと同じだと。彼女がその若さを保ちたいのであれば、一刻も早くこの城から逃げ出すことをお勧めしますわ。」
キャサリンが去った後、室内の空気は重く、そして耐え難いほどに静かになった。ヘンリーは崩れ落ちるように椅子に座り、卓上の鐘を激しく鳴らした。しかし、いつもなら即座に駆け込んでくるはずの小姓たちの足音は聞こえてこなかった。回廊の向こうから聞こえるのは、ただ不気味なほどに規則正しい、キャサリンの靴音の残響だけだった。
クロムウェルは、主君の崩壊をただ黙って見つめていた。彼の知略をもってしても、この「法による魂の包囲網」を破る手立ては見つからなかった。民衆の心から「王への畏怖」を消し去り、それを「神への恐怖」に置き換えるというキャサリンの策は、一国の軍隊を動かすよりも遥かに残酷で、効率的であった。
ヘンリーは再び鐘を鳴らそうとして、その手が止まった。もし、何度鳴らしても誰も来なかったら?もし、自分が叫んでも誰も答えなかったら?その時、自分は本当に「王」なのだろうか?
窓の外では、ロンドンの街に夕闇が迫っていた。かつては王の威光を示す灯火が並んだテムズ川沿いも、心なしか暗く、沈んでいるように見えた。キャサリンが放った「破門」という名の呪縛は、イングランドという巨大な国家の血管を、音も立てずに締め上げ始めていた。
王室の財政を支える税収は途絶え、司法権は麻痺し、王の言葉は虚空へと消えていく。ヘンリー八世が夢見た絶対王政の塔は、その礎となる「信仰」をキャサリンに奪い去られたことで、音も立てずに崩落の予兆を見せていた。
「余が・・・、余こそがイングランドだ・・・。」
ヘンリーの呟きは、誰に届くこともなく、暗い室内で空しく響いた。彼の背後で、ロウソクの火が揺れ、消えた。第一章で彼が振りかざした暴力的な意志は、今やキャサリンが構築した緻密な法的迷宮の中で、出口を失い、迷い子のように震えていた。
一方、キャサリンは回廊の突き当たりで待っていたレジナルド・ポールに対し、冷たい月の光のような微笑を向けた。
「ポール、次は北部の巡礼者たちを動かしますわ。彼らには、これは略奪者から神の家を守るための『聖戦』であると確信させなさい。王が飢えれば飢えるほど、民衆は我々の慈愛を求めるようになるでしょう。」
「御意のままに、我が女王。法の刃は、すでに王の心臓に届いております・・・。」
二人の影は、暗い回廊の奥へと溶け込んでいった。イングランドの夜は更けていくが、王を救う夜明けが訪れることは、もう二度とないのかもしれない。社会的死を宣告された王が、ただの肉の塊として朽ちていくまでのカウントダウンが、静かに、しかし確実に刻まれ始めていたのである・・・。


一五三六年、十月。北イングランドの空は、まるで流された血が凝固したかのような重苦しい鉛色に閉ざされていた。冷たい風がヨークシャーの荒野を吹き抜け、枯れ草をなぎ倒していく。その風に乗って聞こえてくるのは、かつてヘンリー八世が解散を命じたはずの修道院から響く、不吉なほどに透き通った鐘の音だった。
「恩寵の巡礼」――。そう自称する数万の群衆が、ドン川の北岸を埋め尽くしていた。彼らが掲げるのは、キリストの五つの傷を刺繍した白き聖旗である。その旗が風に翻るたび、数万の喉から絞り出される祈りの声が、大気を震わせる地鳴りとなって南へと流れていった。
対岸には、王が派遣したノーフォーク公率いる追討軍が陣を敷いていた。しかし、兵士たちの手にある長槍は、寒さのせいばかりではなく、目に見えぬ恐怖によって小刻みに震えている。彼らが対峙しているのは、略奪を目的とした暴徒ではない。自分たちが幼い頃から信じ、敬ってきた「神の秩序」そのものだったからである。
ノーフォーク公は、手にした双眼鏡を握りしめ、眉間に深い皺を刻んだ。対岸の陣営の中心、ひときわ巨大な十字架が立てられた場所に、黄金の天蓋が揺れているのが見えた。そこには、王が「廃妃」と呼び、世俗から抹殺しようとした女性、キャサリン・オブ・アラゴンが座していた。
彼女は、かつての廷臣たちが知るような、忍従に耐える妻の姿ではなかった。純白の革で作られた軽装の胸当てを纏い、その上から教皇より授けられた真紅の外套を羽織っている。その姿は、イングランドを異端から救うために降臨した、古の戦う聖女そのものであった。
キャサリンは、傍らに跪く反乱軍の指導者ロバート・アスクに対し、慈愛に満ちた、しかし軍神のような威厳を湛えた眼差しを向けた。
「アスク。民の不満は、もはやパンの欠乏だけでは癒やされません。彼らが求めているのは、魂の帰る場所。そして、それを奪おうとする『暴君』からの解放ですわ。」
「王妃陛下。我ら北部の民は、陛下の御名の下に、命を捧げる覚悟でございます。王の側近たちが教会の富を奪い、我らの信仰を汚すのを、これ以上黙って見てはいられませぬ!」
アスクの声は、周囲の兵士たちに伝播し、大きな咆哮となって対岸の王軍へと叩きつけられた。キャサリンは静かに立ち上がり、岸辺の最前線へと歩み出た。彼女の手には、武器の代わりに、巨大な水晶が埋め込まれた聖体顕示台が握られていた。
対岸の王軍の兵士たちが、どよめきに包まれる。彼らは、自分たちがこれから刃を向けようとしている相手が、本物の「聖なる存在」であることを直感した。ノーフォーク公が「放て!」と叫ぼうとしたその瞬間、キャサリンの声が、奇跡のような静寂を伴って戦場に響き渡った。
「イングランドの息子たちよ!貴方たちの魂に問いかけなさい。貴方たちが仕えるべきは、一時の情欲に溺れ、神との契約を破りし男か、それとも千年の時を超えて貴方たちを見守り続ける、不変の法か。」
キャサリンは聖体顕示台を高く掲げた。雲の切れ間から、鋭い陽光がその水晶を撃ち抜き、戦場全体を眩い後光で包み込んだ。
「私は、ローマ教皇聖下より、この戦いを『十字軍』として承認する公印を授かりました。この瞬間、私と共に歩む者は、全ての罪を赦され、神の兵士となるでしょう。逆に、神の家を壊し、聖なる資産を奪おうとする者に与する者は、その魂に永遠の呪いを受けることになりますわ。選ぶのです。王の銀貨か、それとも天上の救いか。」
その言葉が終わらぬうちに、驚くべき光景が広がった。王軍の最前列にいた兵士の一人が、音を立てて長槍を捨て、その場に跪いたのである。
「お、俺は地獄へは行きたくない・・・!王妃陛下、お許しを!」
一人の脱落は、瞬く間に壊滅的な連鎖を引き起こした。次々と兵士たちが武器を投げ出し、川の流れを無視して、対岸のキャサリンの元へと泳ぎ、あるいは走り出した。ノーフォーク公が抜刀し、逃げようとする兵士を斬り伏せようとしたが、彼の腕を掴んだのは、自身の副官であった。
「公爵閣下、もう無理です。兵たちは、王ではなく『神』を敵に回すことを拒んでいます・・・。」
ノーフォーク公は、絶望に目を剥いた。眼前で、イングランド最強を誇った王軍が、一滴の血も流さぬまま、キャサリンという名の磁石に吸い寄せられるように霧散していく。
キャサリンは、川を渡ってきた兵士たち一人一人の頭に優しく手を置き、祝福を与えていった。その指先が触れるたび、荒くれ者たちが子供のように涙を流し、彼女を「我らの救い主」と呼んで崇めた。
「アスク、見なさい。これが信仰の力です。ヘンリーが金で買った忠誠は、神の一瞥によって、これほどまで脆く崩れ去る。次は、この波をロンドンへと運びますわ。」
キャサリンの瞳には、すでにホワイトホールの崩壊が映っていた。彼女は、神聖ローマ帝国から派遣された密使に向き直り、簡潔に告げた。
「皇帝陛下に伝えなさい。イングランドの『内乱』は終わりました。これより始まるのは、神罰の執行です。フランドルの艦隊をドーバーへ。王の逃げ道を、海からも陸からも、完全に封鎖なさい。」
数日後、ロンドンの王宮には、世にも恐ろしい報告がもたらされた。北部の反乱軍は十万に膨れ上がり、王の派遣した軍勢はほぼ無傷で寝返ったという事実。そして何より、キャサリンが「異端殲滅」を旗印に、神聖ローマ皇帝と軍事同盟を結んだという知らせである。
ヘンリー八世は、アン・ブーリンが恐怖に震えて縋り付くのを、無情に振り払った。彼の周囲には、もはやクロムウェル以外に、言葉を交わす廷臣さえ残っていなかった。窓の外では、かつて自分を称賛した市民たちが、キャサリンの肖像を掲げて「真の王妃を!」と叫んでいる。
「余の国だ・・・。ここは余の国のはずだ・・・!」
ヘンリーは、壁に掛けられた自身の肖像画を引き裂き、床に転がった。かつての威厳に満ちた肉体は、今や恐怖という毒に侵され、見窄らしく縮こまっている。彼が築き上げようとした新しきイングランドは、キャサリンが招き寄せた「古き神の怒り」によって、その根底から食い破られようとしていた。
キャサリンは、ヨークの街を凱旋しながら、静かに聖書を閉じた。彼女が求めていたのは、復讐ではない。王という名の傲慢な男を、法と信仰の檻の中に永遠に閉じ込め、二度と神の秩序を乱させぬこと。
「ヘンリー、貴方は私を『枯れた果実』と呼びましたわね。ですが、その果実から溢れ出したのは、貴方の野望を焼き尽くす、神の怒りの葡萄酒でした。さあ、最後の審判の時間を始めましょうか・・・。」
キャサリンの背後では、十万の軍勢が、まるで一つの巨大な生き物のように、規則正しい足音を立てて南進を開始していた。その足音は、イングランドの歴史を刻んできた古い時計の針を、力強く、そして残酷に巻き戻していく音でもあった。
雪が、降り始めた。十月の北イングランドに降る、早すぎる白雪。それは、王の罪を覆い隠すための慈悲ではなく、これから始まる冷徹な統治の幕開けを象徴する、死の白装束であった。
キャサリンは、馬上で一度だけ振り返り、遠く南に位置するロンドンを見つめた。その瞳には、かつての夫への情愛も、かつての生活への未練も、もはや塵一つ残っていなかった。そこにあるのは、ただ、歴史という名の広大な大地を支配しようとする、絶対的な「意志」の光だけであった。
イングランドの冬は、まだ始まったばかりである。しかし、王権という名の太陽が沈み、教権という名の冷たい月が昇るその時、この国は、全く別の生き物へと変貌を遂げようとしていたのである・・・。


一五三六年の冬は、ロンドンの街を真っ白な死装束で包み込んでいた。テムズ川は黒く淀み、浮氷がぶつかり合う鈍い音だけが、静まり返ったウェストミンスターを支配している。かつて栄華を極めたホワイトホール宮殿の広間には、もはや贅沢な祝宴の残り香もなく、ただ冷え切った石の冷気と、消えかかった蜜蝋の饐えた臭いだけが漂っていた。
ヘンリー八世は、広大な玉座の間に一人、うずくまっていた。彼の巨体は、数ヶ月の間に見る影もなく衰え、贅肉は皮肉なほどに垂れ下がっている。かつて太陽の如く輝いていた黄金の髪は白く混じり、瞳には狂気と絶望が交互に明滅していた。彼の側には、もはや一人の給仕も、一人の友もいない。
重厚な扉が、軋んだ音を立てて開かれた。一歩、また一歩と、迷いのない足音が冷たい石床を叩く。現れたのは、かつてこの場所で王に離婚を突きつけられた、キャサリン・オブ・アラゴンであった。彼女の纏う純白の法衣は、背後に控えるレジナルド・ポールが掲げる十字架と共に、この世ならぬ神々しさを放っている。
「ヘンリー。貴方の時間は、この雪と共に溶けて消えましたわ。」
キャサリンの声は、感情を排した鐘の音のように響いた。ヘンリーは顔を上げ、掠れた声で笑った。
「キャサリン・・・、また余を笑いに来たのか?この余を、イングランドの王を、汚れた廃妃が裁くというのか!」
ヘンリーが立ち上がろうとしたが、その足に力は入らず、無様に床へと膝をついた。キャサリンはその姿を憐れむことさえせず、ただ手にした一通の羊皮紙を静かに広げた。
「王、という言葉を軽々しく口になさらないで。貴方はもはや、この地の土を一寸たりとも所有してはいないのですから。これは、教皇庁と神聖ローマ皇帝、そしてイングランドの全教区が連名で発行した『最終没収宣告書』ですわ。」
キャサリンの指先が、羊皮紙に記された「エシート」という単語を指し示した。
「『エシート』、すなわち土地返還。貴方が犯した数々の異端罪、および教会資産の略奪行為により、王室に与えられていた全直轄地の正当性は失われました。法的には、貴方は今日この瞬間をもって、イングランドという巨大な財産の正当な管理人としての資格を剥奪されたのですわ。土地は、その真の所有者である『神』と、その代行者である『教会』へと還ります。」
「貴様・・・、そんな法理が通るものか!余は神から直接王冠を授かったのだ!」
ヘンリーの叫びは、虚空に響くだけだった。ポールが一歩前に出て、静かに法典を紐解いた。
「陛下、王権神授を説くのであれば、その前提となる『神への忠誠』を忘れてはなりません。自ら神の法を破り、婚姻の誓いを踏みにじった者に、神がその領地を委ね続ける道理はございません。貴方の血筋は、異端という毒によって汚染されました。『コラプション・オブ・ブラッド』。貴方がアン・ブーリンとの間になした、あるいはなそうとした不浄な末裔には、イングランドの土を継ぐ権利は永久に失われたのです。」
ポールの言葉は、ヘンリーの最後の希望を無情に切り裂いた。ヘンリーは、自分の足元にある床が、自分の物ではないという事実、自分を取り巻く空気さえもが、もはや自分の支配下にはないという事実に、底知れぬ恐怖を覚えた。
「没収した王室の財産は、すでに私が組織した『聖女基金』へと移管されました。これまで貴方が武器や贅沢品に費やしてきた金貨は、全て教会の教育と医療、そして民衆の生活を守るための糧となりますわ。」
キャサリンは一歩、王に近づいた。彼女の影が、ヘンリーの震える体を完全に覆い隠す。
「ヘンリー、貴方の愛したアン・ブーリンは、すでに昨夜、ロンドン塔の冷たい地下牢へと移されました。彼女を待つのは、王妃としての冠ではなく、異端者としての、あるいは王権を騙った簒奪者としての審判です。貴方が彼女に与えた全ての輝きは、法の裁きによって霧散するでしょう。」
「キャサリン・・・、許してくれ。余が悪かった。お前を、お前こそがイングランドの真の光だ!もう一度、余を愛してくれ・・・!」
ヘンリーは、キャサリンのドレスの裾に縋り付いた。かつて世界を震撼させた覇王の姿は、そこにはなかった。ただ、一人の惨めな男が、失ったものの大きさに怯えているだけだった。
キャサリンは、その手を静かに、しかし断固として振り払った。彼女の瞳には、かつてヘンリーに向けた情愛の残滓すら見当たらなかった。
「私が愛したのは、イングランドという国の正義であり、神の法を守るべき王の矜持でしたわ。ですが、貴方はそれら全てを捨て去った。今の貴方に残されているのは、ただの肉体という名の牢獄だけですわ。貴方はこれから死ぬまで、この宮殿の一室で、自身が壊そうとした法によって守られ、そして監視されながら生きるのです。」
キャサリンは、腰に下げていた王妃の印章を取り出し、それをヘンリーの目の前で床に落とした。
「さようなら、ヘンリー。貴方の王冠は、今日祭壇へと捧げられ、二度と誰の頭上にも載ることはありません。イングランドは、王の欲望に振り回される国ではなく、神の法という不変の真理によって統治される『聖女の国』として生まれ変わるのですわ。」
キャサリンが背を向け、広間を出ようとしたとき、ヘンリーは最後の力を振り絞って叫んだ。
「キャサリン!お前は、お前は本当にこれで幸せなのか!神の名を語り、夫を廃し、国を奪って、お前の心には何が残るのだ!」
キャサリンは立ち止まり、一度だけ横顔を見せた。その表情は、冬の月光のように冷たく、しかし何処か清々しいまでの静謐さを湛えていた。
「幸せ、という言葉は、貴方のような感情の奴隷が使うものですわ。私の中に残っているのは、ただ一つ。神から託された秩序を、元の形に戻したという確信だけです。」
彼女はそれ以上、一言も発することなく去っていった。重厚な扉が閉まり、ヘンリーは再び暗闇の中に残された。彼が必死に掴もうとした「至上権」という名の幻影は、キャサリンという名の現実によって、粉々に砕け散っていた。
窓の外では、雪がさらに激しさを増していた。その白さは、イングランドという国の血塗られた過去を全て塗り潰し、キャサリンが築き上げようとする、純白で冷徹な新世界を祝福しているかのようだった。
宮殿の庭では、教会の鐘が、王の死ではなく「王権の終焉」を告げるために鳴り響いていた。その音は、イングランド全土の民に届き、彼らが長らく忘れていた「正義」の到来を予感させた。
ヘンリー八世は、暗い広間で一人、二度と開くことのない扉を見つめていた。彼の周囲には、もはや影すら残っていなかった。彼は、法という名の透明な檻に閉じ込められた、世界で最も孤独な囚人となったのである。
一方、キャサリンは、ウェストミンスター寺院の祭壇の前に立っていた。彼女の頭上には、王冠ではなく、教会の正当性を示す光の輪が差しているように見えた。彼女は静かに目を閉じ、これからの長い統治への祈りを捧げた。
歴史は、彼女を「悪役」と呼ぶかもしれない。あるいは、「聖女」と呼ぶかもしれない。だが、そんな呼び名に彼女は興味を持たなかった。彼女が成し遂げたのは、ただ、歴史という名の広大な海を、法という名の確かな舵で、正しき方向へ導いただけなのだから。
イングランドの長い冬は、終わりを告げようとしていた。だが、それは春の訪れを意味するものではない。キャサリン・オブ・アラゴンという名の、永遠の氷の統治が、今ここに始まったのである・・・。
彼女の手の中にある法典のページが、風に吹かれてめくれた。そこには、王のいなくなった国で、神と法だけが輝き続ける、冷徹で美しい未来が記されていた。


世界史豆知識
ノルマン朝の開祖といえばウィリアム一世
で、ノルマンディーはノルウェーの由来。
ウィリアムはフランスにも進出、家臣として貴族として認められる。
しかし当時フランス語にWにあたる発音及び文字がなく、その代わりにGを置いてギョームにしたのだ。スペルで比較するとこんな感じ。
William/Guillaume
イタリア語だとグリエルモ、スペイン語だとギジェルモとフランス語と同じラテン語系はこうなっている。
その為フランス語で書かれたオペラである「ウィリアム・テル」は本来「ギョーム・テル」になるのだ。
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