有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_2

有栖_2-4

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「じゃあ、自由にかかってきなさい」
 男子顧問のその言葉を合図に特別レッスンは始まった。部活が始まり、唐突に呼び出されて、空いてるスペースで組手をする。他の部員は別のメニューを団体で行うので、こちらを見る余裕はない。それなりに厳しいメニューに取り組んでいるのだから当然だ。

「はい、駄目。踏み込みが甘い!」

 男子顧問は間違いなく強かった。『私』は全力で挑んだが赤子の手をひねるように扱われる。そのような実力者の技の仕掛け方、返し方。それらを体験するだけでも学ぶことが多いように思えた。

 違和感を覚えたのは、だぶん三回目のレッスンあたりだったと思う。
 これまで立ち技中心だったのに、妙に寝技を繰り返すようになった。
 寝技も必要以上に密着されるようになった。
 従来ならば触られることのない胸や下腹部に触られることが多くなった。

 けど、それは故意ではなくて、あくまでグレー。指導の中での事故。そんなふうに男子顧問は振る舞っていた。
 気持ちは悪かったけど、悔しいとか怖いとか、そのような感情以上に覚えたものがある――無力感だ。

 寝技に持って行かれたとき、抑え込まれたとき、いやそれ以前にそのような体制になってしまう前に、『私』には防ぐ術がなかった。
 仮に打撃が有りでも男の突進力を止めることは出来ないだろうし、寝技になったらもうなにも出来なかった。

 これは練習だから、周囲に部員がいるから、まだ良い。
 仮に周囲に誰もいなかったら? 男子顧問ではなく犯罪者だったら?
『私』はここまで男女に力の差があるのか、と絶望した。
 中学生の段階でこの状況。高校、大学と歳月を重ねればそれはもっと顕著になるだろう。

『私』は無力だ。
『私』は強くなんてない。

 それが解らされたとき、『私』は柔道に集中して取り組むことが出来なくなった。
 虚無感のある状態では部活に参加するだけ、迷惑だと思うようになり――『私』は中学二年生の冬に部活を退部した。
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