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現在_我孫子

我孫子_4

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「はぁ? そんなわけ……」

 我孫子の表情には少々の焦りが見えた。彼の中でも佐倉が言ったことに心当たりがあるのだろう。

「否定するのは自由にしてくれていい。だが、こっちも筋が通っている話をさせてもらう。それを聞いて、まだ否定したいのなら聞いてやる」
「……続けろ」
「警察が『今のこの状況を作らせた』のは何故か? それは簡単だ。ユースティティア内に反抗的な組織があるかを確認し、そいつら――つまり、俺達の存在を炙り出したいからだ。その為にお前は使われている。、現時点で、今も警察の掌の上で踊っているわけだ。相手はいつでも握り潰せるから笑っているだろうな」
「なるほどな。確かにそうかもしれない。だがよ、潰されるなら勝手に潰されてろ。俺は巻き込まれない」
「自信があるのは結構だが、お前は無事では済まない。『今のこの状況を作らせた』ことで、一つの検証が済んでしまっているからな」
「どういうことだ?」
「今回、この聴取はお前も合意して来た。このような聴取は何日も、下手すれば何ヶ月も拘束されることが解っていながらだ」
「それがどうした?」
「お前も馬鹿なことをしたな。お前が警察に対して持っている策は、『お前を拘束し外部との連絡を遮断してしまえば発動するものではない』、とお前自身が証明してしまった。警察はお前を下手に拘束してしまえば、その策が発動してしまう恐れがあったから、それが出来なかった。もちろん、消すこともな」
「…………」

 我孫子は沈黙していたが、明らかに動揺し震えていた。自身の自尊心を守り、主張する為の行為が裏目に出てしまったことに、今更気づいたのだろう。彼がもう少し冷静なら気づけたはずだが、それを欠いた。このデータベース改ざんの内容はそれを死守することも、改めて主張する場も彼にとって重要だったのだろう。警察に協力してでも得たかったほどに。

「つまり、俺達はお前を解放すれば、警察は確実にお前を確保する。罪はいくらでも作れるんだからな。仮にお前の死が、策の発動条件なら殺さずに一生拘束することだった可能だろう。まぁ、お前が自身の命を条件にするとは考えにくいが」
「くそ、くそ、くそ……」

我孫子は唾を机に撒き散らし、佐倉の発言を肯定するかのうように喚く。そこに彼は本題を切り出した。

「さて、我孫子。ここからが本題だ。お前を助けてやれるかもしれない……いや、お前が助かる方法が一つだけある。聞くか?」
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