有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

文字の大きさ
60 / 104
現在_特務課

特務課_4

しおりを挟む
「殺人ですか?」
「えぇ、我孫子の魂胆はこう。アース博士が行っていた『ワクチン』の開発が完了した際に、その情報を事前に得られるように手回しし、『ワクチン』を運搬する運び屋を襲撃して『ワクチン』を自分の物にしようとした」

 そうすることで我孫子は『レシエントメンテ』に対抗する『ワクチン』を唯一持つ自分は対等になれると考えた。もし、彼に何か危険なことをしようとすれば『ワクチン』を発動させ、『レシエントメンテ』を破壊するぞ、と。

「『ワクチン』ってデータですよね? 運び屋を使うってどういうことですか?」

 反保が違和感を覚えた部分に質問する。京はその疑問は当然だ、と言わんばかりに小さく頷き、答えた。

「『レシエントメンテ』と『ワクチン』の作成と管理の仕方は特殊だったらしいの。共にネットワークに接続されていないアース博士がプロテクトを組んだパソコンで作成されていたらしいわ。万が一にでもネットワークを経由して情報を漏らさない為か誤作動を防止する為の手段か……そのどちらかだとは思う。そして、『レシエントメンテ』はアース博士の手元で『ワクチン』はコーポ松下、という場所で管理、更新されていたらしいわ」
「コーポ松下?」

 突然の聞き覚えのある単語に、有栖は思わず反応した。

「どうしたの?」
「いえ……一度捜査で関わったことがあったので。でも、今は更地ですよ?」
「どうやら前管理人が生きていた頃の話だろう。最近の管理人は全く知らなかっただろうな」

 佐倉も有栖がコーポ松下に関わったことは知っている。今は冷静だが、最初に知ったときにはそれなりに反応もしたのだろう。

「しかし、『レシエントメンテ』と『ワクチン』を二つ離して作成と管理を行っていたのは何故でしょうか?」
「当時、この件には詩島組が関わっていたらしい。『レシエントメンテ』は警察が『ワクチン』は詩島組が管理することで対等であろうとしたんだろうな。まぁ、今はその詩島組も壊滅してしまったけどな」

 反保の質問に佐倉が即答する。ある程度の疑問は佐倉と京で調べてきたのだろう。部下の質問にも答えることで、互いの認識と理解が深まっていく。

「今考えれば、サイバーフェスで詩島組がアース博士を狙ったのは『ワクチン』を失ったから『レシエントメンテ』を狙った可能姓も考えられますね」
「確かにな。まぁ、今となっては知りようのないことだ」

 詩島組は警察に引き渡された。これも誰かが裏で糸を引いていたのかもしれない、と有栖も反保も同じことを考えていた。

「それで、我孫子は運び屋を殺害し『ワクチン』を奪った。その情報を聞き出した今、ユースティティアに『ワクチン』がある、という認識で良いんですよね?」

 有栖の問いに佐倉と京は同時に大きな溜め息を吐いた。その行動と表情から彼女の問いに対してポジティブな回答が得られないことを部下の二人は嫌でも察してしまった。

「ここからが厄介なことになっているの。今、『ワクチン』がどこにあるのか解らないのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

酔っ払いの戯言

松藤 四十二
ミステリー
薫が切り盛りする小さな居酒屋の常連である佐々木は、酔った勢いに任せて機密情報を漏らす悪癖を持っていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...