上 下
67 / 104
過去との対話_奉日本_2

奉日本_2-1

しおりを挟む
 父の名前は落 源芽(おとし げんが)、母の名前は稚治(ちはる)。俺の名前は父と母から一文字ずつ取って源治(げんじ)とつけられた。落家の長男――というよりは、一人っ子なので兄妹はいなかった。
 それは子供は一人で充分だとか、二人目が欲しかったのに授からなかった、とかではなく、おそらく母が父との子供をこれ以上は望んでいなかったのだろう。もちろん、直接聞いたわけでない。だけど、

「アンタさえいなければ、さっさと離婚して自由になれるのに」

 そのようなことを何度も言われれば、憶測の裏付けには充分だろう。
 まぁ、結果としては俺を残して消えてしまう母ではあるが、それでも俺が無力だった頃に衝動的に殺すこともなく、物心がつき身体がそこそこデカくなるまで世話をしてくれたのは彼女の中に僅かながらにも母性が存在していたから……なのかもしれない。

 父と母が結婚した経緯は知らない。そのことに疑問をもって尋ねる機会は、俺が自分の家庭環境が異常だと気づいた頃には失われてしまったから。
しおりを挟む

処理中です...