有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_奉日本_2

奉日本_2-2

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 俺の家は決して貧しくはなかったと思う。一日三食ご飯は食べていたし、年に一度は旅行に行っていたし、マンション暮らしで車も持っていた。どちらかといえば裕福な分類に属していたと思う。
 この裕福さは父が大企業に勤めているからこそだった。

「この会社で、高卒で課長まで昇進したのは俺以外いない」

 それが父の口ぐせだった気がする。実際に父は良く働いたのだろう。当時はコンプライアンスが厳しくなく、サービス残業をしてでも人よりも長く働き、媚を売るために色んな人と飲み歩いたそうだ。
 今となっては非効率で他人に依存した働き方だったのだろう。しかし、それで結果を出し、他の上の人達から可愛がられてきたのだから彼はそれが正しいのだと疑わなかった。

 父は言葉を選んで表現するならば亭主関白。選ばなければDVを当然のようにする最低で最悪のお山の大将だ。
 帰る連絡も予定も何も教えてくれないのに、帰ったときに夕食がなければ激怒し、酔って帰ってきて夕食を食べて帰ってきて用意があれば、

「不味そうな料理を食べずに済んで良かった」

 と言って笑う。どっちも気分を害するが、前者は暴力を振るわれることもあったので、母はとりあえず夕食は作ることにしていた。寧ろ、飲んで帰ってきてくれる方が早く寝てくれるので彼女としては嬉しかったはずだ。それは父が家にいる時間が苦痛の時間と同意だったから。
 早く帰ってきても、あれやこれやと文句を言い、気に食わなければ暴力を振るう。夕食を準備したのに、微温い、不味い、と言って皿や箸を投げるのは日常茶飯事だった。

「お前達は俺が働いてるから生きていける」
「その気になれば見捨てることもできる」
「お前等なんて社会に出ても路頭に迷うだけ。可哀想だから俺は見捨てないんだ」

 そんなことを父は本当に気持ちよさそうに言っていた。それは彼の自尊心を満たし、自身の優しさを押し付けていた。そこに悪意はなく、本心から俺や母が解っていないだろうから説明してあげている、というこれもまた家族間で自身が一番上にいることを自覚する為の行為だったと思う。

 家では父が一番上で、中心人物だった。父の機嫌が良ければ平和。悪ければ地獄。いつどこで誰が彼の機嫌を損ねるかは解らないし、その舵取りの仕方も解らなければ、緊急用停止のスイッチの場所も解らない。良かった機嫌が急に悪くなることはあっても、その逆はあり得ない。知識もないのに時限爆弾の処理するようなものだ。いや、そちらの方がコードを切れば止まるかもしれない希望があるだけ幾分良かったのかもしれない。
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