有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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 奉日本は髪に隠れた右目のこめかみをさする。痛みは無いが、未だにデコボコした肌は自然治癒では決して治らない。今の医療技術では治すことは容易いだろう。だが、それをしなかった。
 当然、髪で右目を隠しているので客から何故、と聞かれることはある。

「昔、怪我した跡が残ってて恥ずかしいから」
「おしゃれのつもりです」

 そんな言葉で流してきた。

 奉日本にとってこれは戒めだ。
 肉親でも信じられないのに、赤の他人を信じてはならない――それを忘れない為。
 父の暴力を受ける日々で身についた人の感情の機微を読み取ること。それを利用して彼は多くの情報を集めて、安全を確保してきた。

 ――今、俺は複雑に入り組んだ問題の渦中にいる。それは間違いない

 一昔前の彼ならば逃げ出していただろう。非力な彼は肉弾戦なんてできない。だから、情報を集め、危険な場所には近づかなければ良い。そうやって立ち回って来た。

 ――そう近づかないければ良い。離れれば良い。ですが、それでは得られないものもある。自身の力で得る完璧な安全と貴重な出会い、とか。

 奉日本は今では情報収集の中でそれに伴う周囲の変化を楽しむ余裕も出来ていた。そして、それがより顕著になったのは一人の女性に出会ったからだろう。

 店のドアがゆっくりと開き、その女性が入ってくる。奉日本は笑顔で彼女を出迎えた。

「いらっしゃいませ、有栖さん」
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