101 / 104
現在_奉日本_3
奉日本_3
しおりを挟む
「急な話ですね……」
「すみません」
「ちょっとお待ち下さい」
奉日本は店のバックヤードに移動すると営業許可証を持って、再び戻って来た。そして、それを有栖に渡す。彼女もそれを確認した。視線で解るのは彼の名前をしっかりチェックしたことだった。そこに書かれている名前は――
『高本 彦(たかもと げん)』
裏社会での伝手を使えば、偽名による証明書を作成することは容易いことだった。
おそらく、有栖は落の元嫁の旧姓がタカモトだったことから、親族ではないか、と一抹の疑念を抱いたのだろう。これが先程話していたもう一つの可能性だろう。彼女は奉日本の過去を知らない。だから、今でも母と一緒にいると思っているのかもしれない。そうなれば、落と死ぬ直前まで関わりがあり、その関係性をより深く追求したい、と考えていたのだろう。
「ありがとうございます」
「満足しましたか?」
「とりあえずは。正直、高本さんのことを自分は詳しくは知りません。ですが、いたずらに過去を暴き、傷つけるのは捜査ではありません。今、自分が知りたいことは知り得ましたから、それで良いんです」
「なるほど」
「ですが、高本さん。もし何かの事件で自分の前に貴方が立ちはだかるなら、貴方が誰であれ――叩き潰します」
有栖の真剣な表情で放たれた言葉に、少しの沈黙が挟まった。しかし、奉日本は再び笑顔を作って、
「有栖さん、怖いですよ。そんなことはありえませんよ」
そう返した。
「すみません。では、失礼します」
「今度はお客様としてのご来店をお待ちしております」
「そうします」
有栖は笑顔を見せたあと、足早に出入口まで行き、出て行く前に一礼してから去って行った。ドアが閉まるのを見送り、奉日本は小さく呟く。
「俺も有栖さんと敵対することがないことを願っていますよ……今はね」
「すみません」
「ちょっとお待ち下さい」
奉日本は店のバックヤードに移動すると営業許可証を持って、再び戻って来た。そして、それを有栖に渡す。彼女もそれを確認した。視線で解るのは彼の名前をしっかりチェックしたことだった。そこに書かれている名前は――
『高本 彦(たかもと げん)』
裏社会での伝手を使えば、偽名による証明書を作成することは容易いことだった。
おそらく、有栖は落の元嫁の旧姓がタカモトだったことから、親族ではないか、と一抹の疑念を抱いたのだろう。これが先程話していたもう一つの可能性だろう。彼女は奉日本の過去を知らない。だから、今でも母と一緒にいると思っているのかもしれない。そうなれば、落と死ぬ直前まで関わりがあり、その関係性をより深く追求したい、と考えていたのだろう。
「ありがとうございます」
「満足しましたか?」
「とりあえずは。正直、高本さんのことを自分は詳しくは知りません。ですが、いたずらに過去を暴き、傷つけるのは捜査ではありません。今、自分が知りたいことは知り得ましたから、それで良いんです」
「なるほど」
「ですが、高本さん。もし何かの事件で自分の前に貴方が立ちはだかるなら、貴方が誰であれ――叩き潰します」
有栖の真剣な表情で放たれた言葉に、少しの沈黙が挟まった。しかし、奉日本は再び笑顔を作って、
「有栖さん、怖いですよ。そんなことはありえませんよ」
そう返した。
「すみません。では、失礼します」
「今度はお客様としてのご来店をお待ちしております」
「そうします」
有栖は笑顔を見せたあと、足早に出入口まで行き、出て行く前に一礼してから去って行った。ドアが閉まるのを見送り、奉日本は小さく呟く。
「俺も有栖さんと敵対することがないことを願っていますよ……今はね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
その人事には理由がある
凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。
そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。
社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。
そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。
その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!?
しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる