ファットマンズアフタースクール

ぴえ

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第一章 正常性バイアス

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 能力を隠しながら生きることを決めて、少し経った八月。既に夏休みに入っていて、宿題の多さにうんざりしながらも、卒業の為の内申点も大事だと自分に言い聞かせながら少しずつ消化していく。そんな僕のスケジュールは圧倒的にバイトで埋め尽くしていた。いや、まぁ、もちろん友達とも多少は遊ぶだろうけど。それでも他人からは同情され、自分的には納得し充実している夏休み。

 ホームセンターのバイトは基本的には閉店までシフトを入れて、家に帰っては夕飯を食べて、宿題を少しして風呂に入って寝る。それの繰り返し。大きなイベントなんてない。ヒメコさんとはたまに一緒になるけど、女性が夜遅くまで働くのは帰り道とかの不安もあるんだと思う。だから、閉店までのシフトは避けているようだった。

「え、大学生って宿題ないんですか?」
「うん」
「じゃあ、遊び放題。バイトし放題ですね」
「そうね。大半の大学生はそんな感じ」
「ヒメコさんは違うの?」
「私はそこに勉強を少々」
「真面目ですね」
「就職の為に今から色々と、ね。将来の夢とかもあったりするし」

 そんな会話をヒメコさんと交わした日がある。僕は少し驚いた。大学に進んだら夢を叶える為に就職を目指す人もいるんだ。じゃあ、たぶん僕の弟や妹もそうなるのかも。
 あれ? 僕は? 僕の夢ってなんだ? 何で就職しようとするんだ? いやいや、違う違う。僕にはそもそも夢がない。やっぱり楽だな。だって、働いた分だけ給料がもらえるところに勤めることができればいいんだから。

 一週間のうちに二回ぐらいシフトが重なれば良いヒメコさんとラブロマンスが生まれるはずもなく夏休みを消費していく。同級生は夏休みで青春をしていろんなものを得たり、得なかったりするんだろけど、僕はとりあえず金は得られる。それで良い。それで充分。
 というかラブロマンスってなんだよ。その相手を同級生じゃなくてヒメコさんに求める辺り、自分の世界は学校外が中心なんだと改めて思う。学校は就職するためのツールにすぎないんだと思う。行くと楽しくて、悪いものじゃないけど、絶対に行きたい場所ではない。

 まぁ、そんな僕も何かを引き換えに金を得るわけで、それは時間、という答えが正解なんだろうけど、現時点においては体力だった。さすがに調子に乗ってシフトを入れすぎた。身体はダルいし、頭も何かボーっとする。
 閉店後、休憩室にある冷蔵庫から残っているお茶を持って帰ろうとすると、そこにはヒメコさんのメモと栄養ドリンクが入ってあった。

『ルイくん、頑張りすぎ。これ飲んで、乗り切って、明日、明後日はゆっくり休みなさい』

 今日は夕方に少しだけシフトが同じだったヒメコさんがこんなことをしてくれるってことは僕の顔は随分と疲れの色を見せていたんだと思う。嬉しいね。ラブロマンス? いやいや、これは弟を心配するようなやつだ。残念。というか、こんなこと考えるのは疲れてるんだろうな、やっぱり。

「これ飲んだら、少しは通常に戻るかな」

 そんなことを呟いて、栄養ドリンクを一気飲み。薬のような味が炭酸と一緒に弾けて口の中に広がる。好きな味じゃないけど、身体に気合いを入れるような味だ。うん、家に帰るまでは通常になった……はず。いや、本当は異質だけど。
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