19 / 60
第二章:作戦通り
ユースティティア_2-4
しおりを挟む
時計の針が二十一時を指す十五分前、京が運転する車は天使が取引を行うビルの近くに駐車した。車の運転は部下がするもの、という暗黙の了解はあるが、それも今日は当てはまらない。前線に乗り込む有栖と反保を少しでも疲れさせない、という京の配慮だった。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
助手席に座る有栖と後部座席に座る反保が同時にそう言うと、京は精一杯の笑顔を作って応える。そして、
「では、最後の確認をするわ。まずは有栖さんと反保くんはビルに入って、私は後方から支援を――」
彼女が話し始めてすぐに車の助手席側のウィンドウがノックされた。駐車禁止の場所ではないが付近をパトロールしていた警察か、とも思い、幸先の悪さを感じていたのだが、有栖の顔を見て一般的な考えから異常事態への対象へと切り替えた。助手席の彼女の目は鋭く、何かに警戒しているからだ。
車内の空気がぴん、と張りつめていく。
「窓を開けても大丈夫?」
「……どんな状況になっても対処します。反保もすぐに動けるようにしておいて」
「はい」
有栖と反保がシートベルトを外す。一方で京も助手席側にいる相手の姿を見たかったが有栖の背中越しでは上手く確認できなかった。
有栖が右手の親指と人差し指で丸を作ると、京は静かに頷き、ウィンドウを下げた。
「お待ちしておりました」
「お待ちしておりました」
重なりすぎて、一つに聞こえる声。少し前かがみになり、ウィンドウから顔を出したのはスーツを着た双子の青年だった。警察の服装ではない彼等を見ても警戒を緩めない、いや、一層強くした三人に双子は話を続けた。
「天使さまがお待ちしております」
「天使さまがお待ちしております」
聞きたくなかった名前を耳に届き、車内の空気が不穏で淀んだ。
「招かざる客のつもりが招かれてますね」
反保がその空気の中、勇気を持って言葉にした。
「一番あり得ないと考えていた状況ですね、京さん」
有栖が続くと京がため息混じりに返す。
「事実は小説より奇なり、というけど本当なのね」
「リアリティショーでも笑えませんよ」
雑談を交わすことで、不穏は薄れ全員が通常さを取り戻すことに努めていた。
「想定していなかった事態ではありません。反保、いくよ」
「はい。京さんはここで待機ですね」
「えぇ、佐倉さんに連絡するわ」
全員が視線を合わせ、頷くと同時に少し緩めた気を引き締める。そして、有栖と反保は車から出ると、
「案内してもらえる? 天使のところまで」
有栖が双子を睨めつけて、そう言った。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
助手席に座る有栖と後部座席に座る反保が同時にそう言うと、京は精一杯の笑顔を作って応える。そして、
「では、最後の確認をするわ。まずは有栖さんと反保くんはビルに入って、私は後方から支援を――」
彼女が話し始めてすぐに車の助手席側のウィンドウがノックされた。駐車禁止の場所ではないが付近をパトロールしていた警察か、とも思い、幸先の悪さを感じていたのだが、有栖の顔を見て一般的な考えから異常事態への対象へと切り替えた。助手席の彼女の目は鋭く、何かに警戒しているからだ。
車内の空気がぴん、と張りつめていく。
「窓を開けても大丈夫?」
「……どんな状況になっても対処します。反保もすぐに動けるようにしておいて」
「はい」
有栖と反保がシートベルトを外す。一方で京も助手席側にいる相手の姿を見たかったが有栖の背中越しでは上手く確認できなかった。
有栖が右手の親指と人差し指で丸を作ると、京は静かに頷き、ウィンドウを下げた。
「お待ちしておりました」
「お待ちしておりました」
重なりすぎて、一つに聞こえる声。少し前かがみになり、ウィンドウから顔を出したのはスーツを着た双子の青年だった。警察の服装ではない彼等を見ても警戒を緩めない、いや、一層強くした三人に双子は話を続けた。
「天使さまがお待ちしております」
「天使さまがお待ちしております」
聞きたくなかった名前を耳に届き、車内の空気が不穏で淀んだ。
「招かざる客のつもりが招かれてますね」
反保がその空気の中、勇気を持って言葉にした。
「一番あり得ないと考えていた状況ですね、京さん」
有栖が続くと京がため息混じりに返す。
「事実は小説より奇なり、というけど本当なのね」
「リアリティショーでも笑えませんよ」
雑談を交わすことで、不穏は薄れ全員が通常さを取り戻すことに努めていた。
「想定していなかった事態ではありません。反保、いくよ」
「はい。京さんはここで待機ですね」
「えぇ、佐倉さんに連絡するわ」
全員が視線を合わせ、頷くと同時に少し緩めた気を引き締める。そして、有栖と反保は車から出ると、
「案内してもらえる? 天使のところまで」
有栖が双子を睨めつけて、そう言った。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる