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第一章:八日前

一色_1-7

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「ただいま」
 一色は仕事を終えて帰宅した。彼が帰ったのはユースティティアの近くで借りているワンルームのマンションだ。狭いくせに夜に帰宅すると、玄関は無限の闇へと続いているように真っ暗だ。
 一色は玄関で靴を脱ぐと、壁にあるスイッチを押して電気を付ける。それでようやく闇は消えて、現実的な部屋の広さが見えてきた。

 そこからの一色の行動はテンプレートのように単調だ。
 飯を食って、風呂に入り、少しの読書。そして、決まった時間にベッドへ横になる。

 電気を消すと真っ暗になるので、暖冬色の豆球へと電灯を切り替えた。
 
 一色は暗闇、というのが嫌いだった。理由は――不安になるからだ。

 『これまで』の自分。『現在』の自分。『将来』の自分。
 様々な自分のことを考え、最後にはどうしても『過去』の自分が現実の自分を飲み込んでしまう感覚に陥る。
 その過去の自分こそが『暗闇』なのだ、と彼は理解していた。

 無駄な抵抗と解っていながら、一色は部屋に僅かな光を灯すのだった。
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