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第四章_五日前

一色_4-1

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『テナント募集』
 その雑居ビルの窓には大きくそのように表示が貼り出されていた。内情を知る者にはこのビルの持ち主の悲痛な叫びのようにも思えた。
 灰色の塗装がされたビルは五階建てで今や全てのフロアが空っぽだ。立地条件としては悪くないが、それでもこのビルの歴史が風化するまでは埋まらないだろう――そのビルを見上げて、一色はそう思った。

「兵達が夢の跡……みたいなもんかな」

 一色はそのビルの周囲を徘徊するように歩く。彼は、いや、この周囲に住んでいる者ならこのビルに何があったかを知っている。

 ここは『詩島組の事務所』が存在した場所だった。
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