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第八章_一日前

一色_8-1

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 都会で平然を装うように建っており、風景の一部として溶け込んでいるがそれが何の目的、用途があるのか不明なビルなんてものは多くある。HALビルもその一つだった。木を隠すなら森、を体現するように都会では自分と関係のない建物に興味がない。

 ――そのことを理解しているからこそ、アース博士はこのビルを買い、天使はそれを利用しようとしたんかもな。

 そんなことを思いながら、一色はHALビルの周辺を遠目から調査していた。近くにあるカフェで窓越しに、コンビニで軽食を買ったあとに通り過ぎるときに、と様々な方法で彼もまた一般人に溶け込む。
 そんなことを行いながら、先程利用したカフェとは別のカフェのテラス席でコーヒーを飲みながら、時間が経過するのを待っていると『指定の時刻』に配送業者のトラックとバンがHALビルの前に止まった。業者の人物の一人が正面玄関のモニターホンを押し、数回の会話を行ったあとにオートロックの自動ドアが解除された。バンから数人の業者が降りてきて、トラックから荷物を取り出し、次々とビルの中に運んでいく。

 ――予定通り

 本日、この時間にHALビルにオフィスデスクやチェアなどの大型荷物が運ばれることを奉日本からの情報で聞いていた。だから、この日こそが一色の作戦を仕込むにはうってつけの日だった。荷物を運ぶ委託業者は既に奉日本が手配した架空の業者と人物にすり替わっている。その証拠に業者の一人が予め聞いていたハンドサインをテラス席に送る。
 最初の合図は潜入は問題無く成功。そして、二時間後……一色は近くにあるコンビニにいたが、そこに『仕事を終えた』業者が二回目のハンドサインを送ってくれた。

 ――作戦成功

 それを見届けると、一色は一つ息を吐く。それは一時だけ緊張から解放されたことを意味するが、ここからが勝負だ、と思うと別の緊張が彼を支配した。それを受け止めると、彼は気を引き締める。

 ――今夜、勝負や。待っとけ、天使
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