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第九章_ハローワールド

一色_9-1

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 一方で一色はビルからの逃亡に成功していた。

「はぁ……はぁ……」

 ビルから離れた場所で立ち止まると、何度も大きく呼吸を繰り返し、冷静であろうと努める。そうであろうと暗示を掛けるように、何度も、何度も自分に言い聞かせる。

 ――大丈夫、大丈夫や。

 現状の彼は心身共に疲弊していた。可能であればその身体をベッドに預けて、泥のように眠ってしまいたい。そして、朝起きて、いつも通りに仕事をして、食事をして日々を過ごす――そのことが最も尊いことのように思えた。
 しかし、彼は立ち止まるわけにはいかなかった。

 ――体制を立て直す。まだ何とかなるかもしれん。いや、何とかするんや。

 腕に抱えるショットガン。目立つので、これを持っている限りは往来を堂々と歩くことはできない。しかし、彼にとっての最後の武器である以上、手放すわけにはいかなかった。
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