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第九章_ハローワールド

一色_9-2

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 ビルから逃亡した一色が出来ることは限られていた。いや、限定的にされた、という表現が正しいのかもしれない。
 河川敷の橋の下でホームレスに紛れて僅かな仮眠をとり、ビルの合間で隠れるように過ごす。スマホは有栖と過去の警察の同僚からの大量の着信が届いた時点で捨てた。GPSで場所を探られる可能性があるからだ。

 ――俺が虹河原を殺害したことをリークしたか。

 天使の行動は冷静で狡猾で確実だ。自身で一色を追い詰めるのではない、警察の署員を殺害した……その情報があれば警察とユースティティアが一色を探し、追い詰めてくれる。捜査網を把握すれば一色の逃亡経路を推察することも難しくはない。捜査網に関しては、警察からは自然と教えて貰え、ユースティティアからは我孫子を経由して入手しているはずだろう。

 ――ホンマに恐ろしい奴やで。全部はアイツの思うがまま、掌の上や。

 乾いた笑いが零れた。この先に待ち受けることを想像すれば、彼に希望はなかった。それ故に、一瞬ではあるがユースティティアに捕まり、保護される考えが浮かぶ。

 ――ここまで来て、甘ったれた考えをすんなよ。先に延ばせば、未来が閉じてまう。俺が生き残るには……今日、天使を仕留めるしかないんや。

 崩れそうな決意をゆっくり、ゆっくり手を添えるように固めていく。そして、天に向かって呟く。

「天使、お前のことや。最後は確実な結果が欲しいんやろ? 警察に捕まっても、ユースティティアに保護されても、その先を誰かに頼るわけないよな? 最後は俺を直接――」
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