上 下
90 / 116
第九章_ハローワールド

天使_9-4

しおりを挟む
「ふむ……」
 天使はHALビルのモニタールームで警察とユースティティアの捜査状況を把握し、操る。

 ユースティティアの隊員が警察の署員を殺害した。

 この情報と事実は二つの組織を混沌とさせた。そこに、虹河原の死体と殺害した映像を見せると疑っていた者達も静かになった。
 とはいえ、初動として何を、どうすれば良いか解らない――その判断に迷いが生じているときに、冷静に、納得できる案を提示すれば、とりあえずはそれに縋るように頼るものだ。

「まずは警察とユースティティアの両方で犯人を捜しましょう。互いに情報を共有し、捕まえた場合は隠さず伝え合いましょう。そのあとのことは、そのときに協議すれば良い」

 事実上は被害を受けた側の組織からの提案……ユースティティアも従うしかなかった。また結論を導けていないが行動はできるところが良い。『あとで』考えれば良いのだ。処置について考える時間が欲しいのだから、有り難い提案だ。

「馬鹿な奴らだ。『未来』の時間が当然のように与えられると考えている。そんな不確かなものに頼るより『現在』でどのように行動するかが大事なのに。その『現在』が『未来』を創るのに――ねぇ、一色さん」

 天使は馬鹿にしたように静かに笑い、そして、捜査網の抜け道が再びHALビルに延びていることを確認する。

「一色さん――貴方はそのことを理解している。だから、警察にも、ユースティティアにも捕まらない。『現在』である今日……私を仕留めに来てくれるでしょう?」
しおりを挟む

処理中です...